「反射が消えていた患者さんの膝蓋腱反射が、数週間後に3+まで亢進していた」——この所見をどう解釈するかは病態によって正反対の意味を持つ。腱反射が低下する病態の回復期に反射が亢進することは実際にあるが、脊髄ショックの反射復帰とギラン・バレー症候群(GBS)・とくにAMAN(急性運動軸索型ニューロパチー)の反射亢進では、臨床的な意味づけがまったく異なる。本稿ではベッドサイドでの判別軸「痙性の有無」と、反射亢進を理由にGBSの治療を遅らせてはならない根拠を、PubMed収載の一次文献に基づいて整理する。
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目次
キーメッセージ
①反射低下病態の回復期に反射が亢進することは実際にある。ただし臨床像は2型に分かれ、ベッドサイドでは「痙性があるかどうか」で区別される。
②GBS(とくにAMAN)の反射亢進は回復期限定の現象ではなく、多くは進行期から見られる。反射亢進を理由にGBSの治療を遅らせてはならない。
③反射の拡大・左右差・クローヌス・Babinski徴候・痙性が揃うときは「回復期だから」で片づけず、中枢病変の合併や混合病態を疑い直す。
結論: 回復期に反射は亢進しうる。判別軸は「痙性の有無」
腱反射が消失・低下していた患者の反射が経過中に亢進すること自体は、複数の病態で観察される現象である。しかし臨床的な意味は病態によって異なる。
| 所見 | 脊髄ショック解除後 | GBS/AMAN |
|---|---|---|
| 痙性・クローヌス・Babinski | 伴う | 痙性は生じない3(クローヌス・Babinskiは6.7%とまれ) |
| 分布 | 損傷レベル以下に対称性 | 全般性90.7%、半数で反射の拡大を伴う3 |
| 示唆される機序 | 上位運動ニューロン徴候の表面化(教科書的記述) | 脊髄運動ニューロンの過興奮が示唆される3 |
この2つは機序が完全に解明され切り分けられているわけではないが、ベッドサイドで実用的な判別軸は「痙性を伴うかどうか」である。
脊髄ショック:消失→復帰→亢進は「回復」ではない
急性脊髄障害では、急性期に損傷レベル以下の反射が消失し、時間経過とともに反射が戻り、やがて亢進する経過をたどるとされる。これは本来の意味での「回復」ではなく、上位運動ニューロン徴候の表面化であり、痙性・クローヌス・Babinski徴候を伴う点が末梢性病態との決定的な違いになる。脊髄ショックについては4相からなるモデルが提唱されている1。各相の詳細は原著を参照されたい。
脊髄ショック解除後に揃う所見は、痙性・クローヌス・Babinski徴候であり、損傷レベル以下に対称性に出現する。これらが揃っていれば、反射亢進を安易に「回復」と誤認しないための手がかりになる。
ギラン・バレー症候群(とくにAMAN)の反射亢進
GBSの診断基準では反射消失・低下が必須項目とされる一方5、実臨床では反射が亢進する例が報告されている。
日本の連続54例:7例(13%)が回復早期に反射亢進
Kuwabaraらは日本人GBS連続54例を経時的にレビューし、7例(13%)が回復早期に他分節への反射の拡大を伴う反射亢進を呈したと報告した。うち1例は急性進行期からすでに反射亢進を認めていた。7例のうち6例がAMAN、7例全例が抗GM1抗体陽性であった。反射亢進はAIDPよりAMANに多く(6/23 vs 1/18)、抗GM1抗体陽性群に多かった(7/26 vs 0/28)。反射亢進例は非亢進例よりピーク時の障害度が軽かった2。
系統的レビュー44例+1例が示すこと
Unciniらのシステマティックレビューでは、十分に詳細な反射亢進を伴うGBS44例に自験1例を加えて検討している。地理的には日本が73.3%を占め、先行感染は下痢56%が上気道感染22.2%より多かった。電気診断はAMAN56% vs AIDP4.4%、抗ガングリオシド抗体陽性は89.7%であった。反射亢進は全般性が90.7%、半数で反射の拡大を伴っていた3。
「回復期限定」ではない——86.7%は進行期から
重要な点として、この反射亢進は回復期限定の現象ではない。同レビューでは86.7%が早期の進行期からすでに反射亢進を呈しており、数週で消失するか、最長18か月持続した例もあった3。Kuwabaraらの報告(回復早期が主)とUnciniらの報告(進行期からが多い)は一見矛盾するようだが、両者を併記することがGBSの反射亢進を正しく理解するうえで必要である。
痙性は一度も生じなかった——ベッドサイドの判別軸
Unciniらのレビューでは、痙性は一度も生じなかった(spasticity never developed)とされ、足クローヌス・Babinski徴候の報告は6.7%とまれであった。電気生理学的には、ヒラメ筋H反射最大振幅/CMAP最大振幅比が高いことが脊髄運動ニューロンの過興奮を示唆し、中枢伝導時間の延長は皮質脊髄路の関与を示唆するとされたが、MRIで構造的損傷が証明された例はない3。AMANでは腱反射が比較的保たれるか、むしろ亢進しうるとする総説もこれを裏づける4。GBS診断・管理の実務ガイダンスでも、経過中に正常あるいは亢進した反射が観察されうると記載されている5。
反射亢進を理由に治療を遅らせない
Unciniらの結論として、反射亢進はGBSの診断と矛盾しない。同レビューでは53.3%が最悪期でも介助なく歩行可能で、四肢筋力低下例の92.9%が6か月以内に介助なしで歩行可能となり、人工呼吸を要した例・死亡例はなかった3。反射亢進を見たときの次の一手は、軸索型GBSを疑い抗ガングリオシド抗体を提出することであり、反射亢進を理由に治療開始を遅らせてはならない。
脳卒中の弛緩期→痙性期——日常で最もよく見る「低下から亢進」
脳卒中後の運動麻痺では、弛緩期から痙性期へ移行する経過が一般に知られており、日常診療で最もよく目にする「低下から亢進」である。片麻痺後の運動機能回復を記述した古典的研究もある7。
前向き観察研究では、脳卒中後103例を追跡し、24.5%が脳卒中後2週以内に筋緊張(modified Ashworth Scale)の亢進を来したと報告されている8。この数値は腱反射そのものではなく筋緊張の指標であることに注意が必要であり、「反射が亢進した割合」として読み替えるべきではない。
「回復期だから」で済ませてはいけない5所見
反射の拡大・左右差・クローヌス・Babinski徴候・痙性が揃うときは、「回復期だから反射が出てきた」で片づけず、頸髄症・胸髄病変・脳病変の合併、あるいは中枢と末梢が混在する病態を疑い直す余地がある。
その代表例がBickerstaff脳幹脳炎(BBE)である。62例の検討では、意識障害74%、Babinski徴候40%、血清抗GQ1b IgG抗体陽性66%に加え、弛緩性・対称性の四肢麻痺の合併が60%にみられた。剖検が行われた1例では脳幹に炎症性変化が確認され、電気診断は末梢の運動軸索変性を示唆し、軸索型GBSとのオーバーラップと考えられた6。BBEは中枢病態でありながら弛緩性四肢麻痺とBabinski徴候・反射亢進が同一患者に同居しうる実例であり、「純粋な末梢病態でも反射が亢進する」根拠として引用すべきではない点に注意する。BBEを含む中枢病態の詳細はBickerstaff脳幹脳炎を扱った記事も参照されたい。
末梢神経障害としてのGBS・AMANの鑑別を考えるうえでは、上位・下位運動ニューロン徴候が同居する疾患としてALSの診療を整理したALSの記事や、歩行の異常パターンから神経疾患を鑑別する視点をまとめた歩行パターンの鑑別を扱った記事も併せて確認すると理解が深まる。末梢神経障害の評価という観点では、末梢神経合併症のリスク管理を扱った糖尿病フットケアの記事も参考になる。
診察手技の落とし穴——検者依存と増強法
腱反射の評価には手技上の限界がある。腱反射は主観的なグレーディングに基づく定性的評価であり、検者間信頼性が限られることが報告されている9。反射の左右差・分節差を評価する際は、同一検者・同一手技で比較することが望ましい。
また、腱反射もH反射もJendrassik手技(増強法)で増強されるが、その機序は不明のままであるとされている。錘内筋活性化の関与、シナプス前抑制の解除、運動ニューロンへの直接促通のいずれについても否定的な結果が示されている10。増強法によって引き出された反射を、そのまま「亢進」と読み替えないよう注意が必要である。
よくある質問
Q. 反射が消えていた患者で反射が亢進してきた。回復のサインか?
A. 病態による。脊髄ショックからの反射復帰・亢進は「回復」ではなく上位運動ニューロン徴候の表面化とされる。GBS/AMANの反射亢進は脊髄運動ニューロンの過興奮が示唆されており3、痙性を伴わない。
Q. GBSで反射が亢進することがあるのか。診断基準では低下・消失のはずでは?
A. ある。反射消失・低下は診断の必須基準だが5、日本の連続54例では7例(13%)が回復早期に反射亢進を示し、6例がAMAN・7例全例が抗GM1抗体陽性であった2。系統的レビューではAMAN56% vs AIDP4.4%、抗ガングリオシド抗体陽性89.7%であった3。
Q. GBSの反射亢進は「回復期」の現象なのか?
A. 回復期限定ではない。系統的レビューでは86.7%が早期の進行期から反射亢進を呈し、数週で消失するか最長18か月持続した3。回復早期が主とするKuwabaraらの報告と併記して理解する必要がある2。
Q. 脊髄ショックとGBSの反射亢進をベッドサイドでどう見分けるか?
A. 痙性の有無で見分ける。脊髄ショック解除後は痙性・クローヌス・Babinski徴候を伴う。GBSでは痙性は生じず、足クローヌス・Babinski徴候の報告は6.7%とまれである3。
Q. 「回復期だから」で済ませてはいけないのはどんなときか?
A. 反射の拡大・左右差・クローヌス・Babinski徴候・痙性が揃うときである。頸髄症・胸髄病変・脳病変の合併、Bickerstaff脳幹脳炎のような中枢+末梢の混合病態を疑い直す6。腱反射は検者間信頼性が限られるため9、増強法で出した反射を亢進と読まないことも重要である10。
監修:今村久司(京都大学医学部卒・京都大学医学博士/脳神経内科専門医・指導医/総合内科専門医・指導医)
執筆・調査:医知創造ラボ(2026年9月4日、PubMed一次文献10件を著者・誌名・年・巻号まで逆引き照合済み)
※ 本記事は医療従事者向けの医学情報解説であり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。
参考文献
- Ditunno JF, et al. Spinal shock revisited: a four-phase model. Spinal Cord. 2004. 42(7):383-95. doi:10.1038/sj.sc.3101603
- Kuwabara S, et al. Hyperreflexia in Guillain-Barré syndrome: relation with acute motor axonal neuropathy and anti-GM1 antibody. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1999. 67(2):180-4. doi:10.1136/jnnp.67.2.180
- Uncini A, et al. Hyper-reflexia in Guillain-Barré syndrome: systematic review. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2020. 91(3):278-284. doi:10.1136/jnnp-2019-321890
- Kuwabara S, et al. Axonal Guillain-Barré syndrome: concepts and controversies. Lancet Neurol. 2013. 12(12):1180-8. doi:10.1016/S1474-4422(13)70215-1
- Leonhard SE, et al. Diagnosis and management of Guillain-Barré syndrome in ten steps. Nat Rev Neurol. 2019. 15(11):671-683. doi:10.1038/s41582-019-0250-9
- Odaka M, et al. Bickerstaff's brainstem encephalitis: clinical features of 62 cases and a subgroup associated with Guillain-Barré syndrome. Brain. 2003. 126(Pt 10):2279-90. doi:10.1093/brain/awg233
- TWITCHELL TE, et al. The restoration of motor function following hemiplegia in man. Brain. 1951. 74(4):443-80. doi:10.1093/brain/74.4.443
- Wissel J, et al. Early development of spasticity following stroke: a prospective, observational trial. J Neurol. 2010. 257(7):1067-72. doi:10.1007/s00415-010-5463-1
- Marshall GL, et al. Deep tendon reflexes: a study of quantitative methods. J Spinal Cord Med. 2002. 25(2):94-9. doi:10.1080/10790268.2002.11753608
- Gregory JE, et al. An investigation into mechanisms of reflex reinforcement by the Jendrassik manoeuvre. Exp Brain Res. 2001. 138(3):366-74. doi:10.1007/s002210100707
※本記事は医療従事者向けの情報提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。実際の診療は各施設のガイドライン・専門医の判断に従ってください。



