針筋電図検査の実践ガイド:ALSとミオパチーの鑑別診断
1. 機器の設定
フィルター設定
針筋電図では筋電位の周波数帯域に合わせたフィルタ設定が重要です。一般的に低周波カット(ハイパス)約10 Hz、高周波カット(ローパス)約10 kHzに設定します1,2。この帯域により、ゆっくりしたベースライン揺れを除去しつつ、筋電位の高速成分を十分記録できます。バイキング機器ではデフォルトでこの範囲が推奨されており、必要に応じて調整可能です。
ゲイン(感度)設定
筋電図波形の大きさに合わせて増幅度を設定します。自発放電(微小電位)の検出時には感度を高めに(例:50–100 µV/div程度)、運動単位電位(MUAP)の解析時には中程度(例:200–500 µV/div)に設定することが多いです1。例えば筆者の経験では、安静時の微小な線維電位を拾う際は100 µV/div、収縮時のMUAP評価では500 µV/divを初期設定とし、波形の大きさに応じて適宜変更します1。大きすぎる波形で飽和する場合は感度を下げ、小さすぎて見えにくい場合は上げて調整します。
スイープ速度(時間軸)
時間軸は筋電図波形の形状を判断する上で重要です。通常10 msec/div(1目盛10ミリ秒)程度から開始し1、これにより画面全体で約100 msecの波形を表示できます。これで大半のMUAPの持続時間(5~15 msec程度)を十分観察できます。必要に応じて時間軸は拡大・縮小可能で、例えば単一波形の詳細を見る際は5 msec/divに速く、複雑な干渉波全体を捉える際は20 msec/divに遅く設定するなど柔軟に調整します。
ノイズ低減のための設定調整
環境ノイズや機器ノイズを最小化する設定も不可欠です。まず機器の接地(グラウンド)を正しく行い、患者にも基準電極(アース電極)を適切に装着して、50/60 Hzの商用電源ノイズを軽減します2。照明は蛍光灯より白熱灯が望ましく、ディマー(調光器)は使用しないなど、検査室環境で電源周波数のスパイクノイズを減らす工夫が有効です2。
バイキング装置には交流障害除去のためのハムノッチフィルタ機能も備わっており、周囲機器の電源を落としてもノイズが残る場合には50 Hz(日本)または60 Hz(地域の周波数)のノッチフィルタを適宜利用します3。ただしノッチフィルタは筋電図信号成分も一部削る可能性があるため、可能な限り環境要因の除去で対処し、最終手段として用いるのが望ましいです3。
その他、ケーブルを短くまとめる・シールド線を使用することで空間ノイズのアンテナ効果を減らし2、低周波ノイズが目立つ場合は下限周波数を20~30 Hz程度に上げてベースラインの揺れを抑えるなどの調整も行います。ただしフィルタを上げすぎると実際の筋電図信号(特に持続時間の長い電位)が減弱するため、観察したい所見に応じてバランスを取ります。
2. 手技の手順
患者の準備
体位調整とリラックス
検査する筋肉が十分に弛緩でき、かつ刺入しやすい体位を整えます。患者には可能な限り楽な姿勢をとってもらい、検査筋が安静に保てるようクッションやタオルで支えると良いでしょう4。例えば上肢の検査では肘掛けや枕で腕を支え、下肢では膝下にクッションを入れ軽度屈曲位にすると筋が弛緩しやすくなります4。
室温も適切に保ち、寒さによる震え(筋緊張亢進)が起きないようにします。検査前に筋電図の手技について簡単に説明し、不必要な力が入らないよう深呼吸や脱力の練習を促すと、検査中の協力が得やすくなります。
皮膚の消毒
針電極を刺入する部位の皮膚をアルコール綿などで消毒します。感染予防のための基本手技であり、特に筋電図針は深部まで刺入するため清潔操作を徹底します。アルコールは十分乾かしてから刺入します(湿った状態だと刺入時にしみて痛みが増す可能性があります)。
使い捨てのディスポーザブル針電極を使用することで、患者間の感染リスクを下げ清潔性を確保します2。近年は滅菌済みディスポ針の使用が標準的であり、再利用針に比べ切れ味が保たれ痛みも軽減されます2。
適切な針電極挿入法
電極は記録したい筋の筋腹に刺入します。筋繊維の走行に対して垂直または斜め45度程度の角度で、一素子につき複数回の進入は避け、素早く刺入するのがコツです(ゆっくり刺すと痛みが増すため)。刺入時、患者には「少しチクっとします」と声かけしリラックスを促します。
刺入直後に電極を安定させ、必要以上に動かさないようにします(不要な電極の動きは痛みとアーティファクトの原因になります)。モノポーラ電極を用いる場合は別途参照電極を近傍の皮下(筋腱付近など)に貼付します。一方、同心円型(同軸)の針電極であれば針軸が参照電極となるためそれ単独で記録可能です。
筋ごとに解剖を把握し、大血管や神経走行を避けて刺すことも重要です。例えば大腿近位部では動静脈の内側を避ける、上肢では尺骨神経郭内を避ける等、解剖学的ランドマークに留意します。
評価の実施
針筋電図検査では各筋ごとに「安静時」と「随意収縮時」の所見を系統的に評価します。典型的には「刺入時活動」→「安静時(自発活動)」→「わずかな収縮」→「最大収縮」の順に観察を進めます。以下に各フェーズでのポイントを示します。
刺入時活動の観察
針を筋内に刺入した瞬間および微調整時に記録される活動電位を刺入活動と呼びます。正常筋では刺入に応じて短時間のサーっという放電(数百msec程度)が起こり、これは筋膜や筋線維への機械刺激によるもので正常所見です。
刺入活動が極端に亢進している場合(針を動かさなくても持続放電する、刺入後数秒以上放電が止まらない)は筋膜の過敏性亢進を示し、神経原性変化で見られることがあります。一方で刺入活動の低下(針を刺してもほとんど反応がない)は重度の筋萎縮や線維化を示唆し、慢性期の神経原性病変や高度筋疾患で見られます。まず刺入時の反応を観察し、それが正常範囲かどうかを評価します。
安静時の自発放電の観察
針を刺入した状態で患者に筋を完全に力を抜いてもらい(安静時)、電極近傍の筋線維の自発的な放電がないかを調べます4。本来、健康な筋は安静時に電気的に静止しており、何も放電は検出されません。
ただし電極が終板帯(神経筋接合部付近)にあるとエンドプレートノイズ(数Hzの不規則な小さな電位)が生じることがありますが、これは電極を少し位置変更すれば消失する正常変化です。病的所見として特に重要なのが脱神経に伴う自発放電で、具体的には線維性自発電位および陽性鋭波、さらに線維束性収縮電位(線維束攣縮電位)が代表的です5。
線維性自発電位(fibrillation potential, fib)
単一筋線維の自発的興奮による電位で、安静時に規則正しく発生する小振幅の鋭い波形です。振幅は数十~数百µV程度と小さく、規則的(典型的には1~10 Hz程度)に繰り返し出現します。これは運動神経から切り離された筋線維が不安定化し自発発火する現象で、進行中の脱神経を示す所見です5。
ALSなどの運動ニューロン病では四肢や舌などで頻繁に観察されます。一方、炎症性筋疾患など筋原性疾患でも筋線維の壊死・再生に伴いfibが見られることがあり、神経原性所見との鑑別に注意が必要です。fibの有無と頻度は筋毎に記録し、0(なし)~4+(多数の部位で持続)的に半定量的評価を行います。
陽性鋭波(positive sharp wave, PSW)
脱神経筋線維から生じるもう一つの自発電位で、最初に下向きの鋭い波(陽性波)ではじまり緩徐な負の波へ移行する特徴的形態を示します。発生機序はfibと同じく筋線維の自発発火であり、fibとPSWは本質的に同じ現象と考えられ1、しばしばまとめて「線維自発電位/陽性鋭波(fib/PSW)」と記載されます1。
PSWも安静時に規則的に発生し、振幅はfibよりやや大きいことが多いですが概ね数百µV程度です。ALSではfibとPSWが高頻度に認められ5、筋原性疾患でも重度筋壊死時には出現しうるため、他所見との総合判断が必要です。
線維束性収縮電位(fasciculation potential, FP)
筋線維束(1つの運動単位に属する多数の線維)が同期して自発的に収縮することで生じる電位です。これは運動ニューロンの自発的な発火によるもので、波形は随意収縮時の単一運動単位電位(MUAP)に類似しますが、患者の意思とは無関係に不規則な間隔で発生します。
振幅はMUAP相当(mVオーダーのこともある)で比較的大きく、多相性の波形を呈することもしばしばあります。臨床的に筋肉のピクつき(線維束攣縮)として観察できることも多いです。ALSではFPの存在が筋電図上非常に重要な所見です5。
ALSでは筋力低下や筋萎縮が明らかになる前から全身の様々な筋でFPが出現しうるため、早期診断のカギになります。実際、2008年のAwaji基準ではFPの診断学的価値が再評価され、病的なFP(特に5相以上の複雑で不安定な波形のもの)はfib/PSWと同等にALSの下位運動ニューロン徴候とみなすと規定されています。したがって安静時にはFPの有無・波形も注意深く観察し、記録します。
なお良性の線維束攣縮症候群(BFS)でもFPは出現しうるため、FP所見は他の脱神経所見(fib/PSW)や臨床経過と合わせ総合判断します。
軽度収縮時の評価
患者に力を入れてもらい、ごく弱い筋収縮をしてもらいます(例えば「力を入れ始めてすぐ止める」程度の最小限の収縮)。この段階では単一もしくは少数の運動単位電位(MUAP)を記録することが目的です。オシロスコープ上で1~3個程度のMUAPが明瞭に識別できるよう、患者には収縮の強さを調節してもらいます(強すぎると多数のMUAPが同時に出現してしまうため4)。得られたMUAPについて以下を評価します。
波形の構成要素
正常なMUAPはおおむね2~4相性で、持続時間は5~15 msec程度、振幅は50 µV~2 mV程度です4。弱収縮時にはこうした単位電位がリズミカルに発火している様子が観察されます。
ALSなどの神経原性変化では、脱神経後に生存ニューロンによる再支配(軸索スプラウティング)が起こるため1つの運動単位あたりの筋線維数が増加し、それに伴いMUAPの振幅が増大・持続時間延長・位相数増加(多相化)します5,6。例えば正常では振幅1mV未満のMUAPが、ALSでは5 mVを超えるような高振幅かつ10相以上の多相性波形として記録されることもあります5。
一方、筋原性変化では1つの運動単位内の筋線維数が減少し各線維の興奮タイミングのバラつきも大きくなるため、多相性にはなりますが振幅は低下し波形は小さくなります4。典型的には「低振幅・短持続時間・多相性」のMUAPが出現し、正常波形との判別が難しいほど微小な場合もあります4。例えば筋ジストロフィーなどでは振幅0.1~0.3 mV程度の小さなMUAPが多数見られます7。
波形音では、神経原性の巨大電位は「バチッ」という強い音、筋原性の小さい電位は「サッ、サッ」とビニール袋を握り潰すような軽い音に聞こえると表現されます4。各MUAP波形の振幅・持続時間・位相を複数計測し、それらが正常範囲か、神経原性(大きく遅延)、筋原性(小さく短縮)かを判断します。
発火頻度とリクルートメント
軽い収縮時には各MUAPの発火頻度(発火レート)と、新たなMUAPの動員状況(リクルートメント)にも注目します。ALSなど神経原性疾患では、脱神経により利用可能な運動単位数が減少しているため、力を入れても新たなユニットの動員が遅れ、代わりに既存のユニットが高速発火して出力を補おうとします4,6。
その結果、弱い収縮にもかかわらず1つのMUAPが通常より高頻度(20~50 Hz以上)で連続発射する様子(急速発射)が見られることがあります。「急降下爆撃音」のように高い音で連続して聞こえる場合、1つの単位が高速に発火している可能性が高く、これは運動単位数減少=神経原性変化を示唆する所見です4。
一方筋原性疾患では、各運動単位自体の出力が低下しているため、わずかな力でも多数の運動単位が早期に動員されます6。つまり通常であれば新しいMUAPが加わる程度の弱収縮で、すでに複数のMUAPが同時発火し始めます。この現象を早期動員(rapid/early recruitment)と呼び、筋原性疾患に特徴的な所見です6。
波形上は弱い収縮なのにすでに干渉波に近い状態になり、非常に細かい多重発射が認められます6。ただし早期動員が顕著な場合、個々のMUAPの分離記録が難しくなるため、収縮力の調節が困難なときは患者に一旦力を抜いてもらい、再度ゆっくり力を入れ直してもらうなど工夫します4。
最大収縮時の評価
患者に可能な限り力を入れてもらい、その筋の最大随意収縮時の筋電図(干渉波)を観察します。正常筋では収縮力の増加に伴い次々と新たな運動単位が動員され、最大収縮時には個々のMUAPが重なり合って基線が見えない完全な干渉波形を呈します6。
これに対しALSなど神経原性病変では、動員可能な運動単位数の減少により干渉波の密度低下(干渉不全)が生じます6。具体的には最大努力をしても基線が完全には埋まらず、振幅の大きなMUAPが疎に識別できる状態が残ります6。高振幅のMUAPがちらちらと見え、間に隙間がある様子は運動単位の動員不良(poor recruitment)を示す典型的な神経原性所見です6。発火レートも必要以上に上昇しており、「カチカチカチッ」という高速な発射音が単調に聞こえることが多いです。
一方、筋原性病変では筋力低下があっても運動単位自体の数は保たれるため、最大収縮時には多くの単位が発火し干渉波はほぼ正常に近い密度を保ちます4。むしろ筋力低下の程度に比して過剰に干渉波が出現する傾向があり、例えば徒手筋力テスト(MMT)で3程度(=可動範囲内で重力に抗して保持できるが抵抗に打ち克てない筋力)しかない筋でも、EMG上は基線がしっかり埋まる干渉波が得られる場合があります4。MMT低下にもかかわらず干渉波が保たれる所見は筋原性疾患を強く示唆する特徴です4。
以上より、最大収縮時には干渉波の充実度を評価し、神経原性では不良、筋原性では正常に近いという対比で所見を解釈します。なお、最大収縮時の評価は患者の協力(最大努力)に依存するため、痛みや疲労がある場合は正確な評価が難しいこともあります。その場合には中等度収縮時の傾向(動員様式)から補完的に判断します。
代表的な筋の評価手順
実際の臨床では、疾患の疑われる分布に応じて複数の筋を選択し検査します。ここではALSや筋疾患の評価で典型的に調べる筋の例と、その刺入・評価の要点を示します。
第一背側骨間筋(FDI; 手の背側骨間筋)
尺骨神経支配の手内筋で、上肢遠位筋の代表として評価されます。患者には前腕を台に置いて肘を曲げ、手のひらを下にリラックスした状態にします。術者は示指と中指の間の手背から針を刺入し、骨間筋に達します(中手骨近傍を狙い、骨に当たったら少し引いて筋腹に留める)。
安静時にはALSで高頻度に出現する線維束性収縮を見る筋として重要で、微細な線維性電位も注意深く探します。軽い収縮は患者に示指をわずかに外転するよう指示して行います。第1背側骨間筋は小さい筋ですがALS初期から変化が出やすいため、他筋より高感度で評価できます。ただし針の位置が浅いと皮筋電図や隣接筋(例えば虫様筋)の活動を拾う可能性があるため、適切な深さまで刺入します。
上腕二頭筋(Biceps brachii)
筋皮神経支配の近位上肢屈筋で、頚髄(C5-6)レベルの神経原性変化や近位筋障害の評価に用います。患者は仰臥位または座位で肘を軽く曲げ力を抜いた状態にします。上腕二頭筋の筋腹(力こぶの中心あたり)に針を刺入しますが、針は皮膚に対し垂直に近い角度で素早く刺し、筋膜抵抗を感じたら筋内に進めます。
安静時には正常では何も出ませんが、ALSであれば線維自発電位やPSWが検出されることがあります。軽度収縮は「肘を少し曲げて力を入れて」と指示し、MUAPを1~数個記録します。上腕二頭筋は太いため、必要に応じ刺入深度を変えて複数部位で評価します。最大収縮時には肘関節の強力な屈曲をお願いし、干渉波の状態を確認します。
なお上腕二頭筋では隣接する上腕筋や三角筋の電位が混入しないよう注意し、患者には肘のみ曲げてもらい肩には力を入れないよう協力を求めます。
大腿四頭筋(Quadriceps; 例:大腿直筋または内側広筋)
大腿神経支配の近位下肢伸筋群で、腰髄(L2-4)レベルおよび近位筋疾患評価に適しています。患者は仰臥位で膝下に枕を入れ軽度屈曲位としリラックスさせます。大腿直筋を評価する場合は、大腿中央部のやや外側(筋腹)から骨に当たらない程度の深さまで刺入します。内側広筋を狙う場合は膝上内側の筋腹に刺入します。
太い筋肉であるため刺入による痛みは比較的少ないですが、広範囲の評価が可能です。安静時に線維性電位やPSWが見られれば神経原性変化を示唆します。軽度収縮は「膝を少し伸ばすように力を入れてください」と指示し、数個のMUAPを記録します。大腿四頭筋ではALSでも変化が出やすい筋で、巨大なMUAPやリクルートメント低下が認められることがあります。
最大収縮時には膝を伸ばす力を最大限入れてもらい、干渉波がどの程度得られるかを確認します。正常なら膝伸展の強い力で密な干渉波になりますが、ALS患者では筋力低下とともに干渉波の低下が顕著です。筋疾患(例:筋ジストロフィー)では近位筋優位の筋力低下がありますが、それに比して干渉波は比較的保たれる傾向を確認できます。
その他
ALSを疑う場合は、四肢の遠位・近位筋に加え、脊髄の領域毎(頚・胸・腰・仙髄)から少なくとも1筋ずつ、また球麻痺徴候があれば舌や顔面筋も評価します。一方、筋疾患が疑われる場合は、症状が強い筋(多くは近位筋)と対照的に遠位筋も調べ、分布や重症度を電気生理学的に把握します。
例えば筋強直性ジストロフィーでは遠位筋にも変化が現れるため手指筋も調べますし、多発筋炎では体幹に近い筋(頚部伸筋や股関節周囲筋)に重度変化が出るため必要に応じ追加します。
データ取得と記録
適切な電位の記録方法
各筋で得られた重要な所見は、バイキング装置の機能を使って波形を保存します。たとえば安静時に出現した代表的な線維自発電位やPSWをスクリーンショットないしプリントアウトし、また軽度収縮時のMUAP波形(神経原性なら巨大多相電位、筋原性なら低振幅多相電位の例など)も記録します。最大干渉波も可能なら録画やプリントしておきます。
これらの波形は後で紙または電子カルテに貼付してレポート化し、他院紹介時や経時比較に用います。記録の際には感度やフィルタ設定もメモしておきます。特に振幅や持続時間を解析する際には感度(μV/div)が重要です。バイキングでは画面上に感度・時間軸が表示されますが、保存画像にもそれらが入るようにします。
ノイズやアーティファクトが一時的に入った場合は、その部分を避けてきれいな部分を凍結(フリーズ)します。どうしてもノイズが多い場合、フィルタやノッチを一時的に使って再記録することもあります(その旨注記します)。
病変の分布や重症度評価の方法
筋電図所見はどの筋にどの程度の異常があるかを一覧できるようまとめます。筋ごとに安静時自発電位(fib/PSW/FP)の有無と頻度、MUAPの異常(高振幅化・低振幅化・多相化・持続時間変化)、リクルートメントの状態(早期動員か動員低下か)などを表形式で整理します。
ALSを疑う場合、四肢の少なくとも3領域(例えば頚部=上肢近位筋、腰部=下肢近位筋、そして延髄支配筋など)にわたり慢性・進行性脱神経所見があることが診断の手助けとなります5。そのため広範囲に筋を検査し、所見の分布が節をまたいでいるか(例:右上肢と右下肢の両方に神経原性所見)を確認します。
筋原性疾患では近位筋群に変化が強いことが多いため、近位筋と遠位筋の両方を検査して近位優位の所見かどうかを見ます。また重症度評価として、自発放電の密度(例:fibが持続的か散発的か)、MUAPの変化の程度(例:振幅が正常比何倍か、位相数が非常に多いかどうか)、干渉波の程度などを総合的に判断します。
線維自発電位やPSWはその数をスコア化(0~4+)して重症度を表し、例えば「4+」であれば計測中ずっと安静時に自発電位が見られる重度の脱神経と評価します。筋原性変化の重症度は干渉波が維持されているかに着目します。MMTで著明に筋力低下しているのに干渉波が全く形成されない場合は筋原性としては重度で、逆に筋力低下が軽度にもかかわらず干渉波に乱れが出ている場合は他の要因(痛みや協力不十分など)を考慮します。
最終的に各筋電図所見を組み合わせ、「神経原性所見が広範囲」「筋原性所見のみ」「混在している」など全体像を掴み、診断に役立てます。
3. ALS・ミオパチー診断の施行ポイント
ALSに特徴的な所見
安静時の脱神経所見(線維性電位・陽性鋭波・線維束性電位)
ALSでは安静時にこれらの自発放電が高頻度かつ広範に出現します5。とりわけ線維束性収縮電位(FP)はALSに特徴的で、他の疾患でも見られることはありますがALSでは早期から複数の筋で観察される傾向があります。
Awaji基準でも、慢性神経原性変化を反映した複雑なFP(5相以上で振幅・持続が不規則な不安定型)はALSに特異度が高い所見として重視されています。一方、良性の線維束攣縮との鑑別には注意が必要で、良性ではFP以外の脱神経所見(fibやPSW)は出現せず臨床的にも経過が良好です。
ALSでは線維自発電位(fib)や陽性鋭波(PSW)が四肢遠位・近位から体幹・舌筋まで多発し、その密度も高い(3+~4+)ことが多いです5。これらは運動ニューロンの進行性変性に伴う進行性脱神経所見であり、症状が軽微な段階でもEMG上検出されれば重要な診断手掛かりとなります。したがってALS疑い例では、無症状の筋であっても針EMGでfib/PSWがないか調べ、潜在的な脱神経を証明することが早期診断に有用です。
随意収縮時の神経原性変化
ALSに典型的な随意収縮時所見は巨大運動単位電位と動員遅延です。脱神経後の再支配により形成された運動単位は、振幅が非常に大きく長時間で多相性のMUAPを生みます5。例えば正常では1 mV未満・持続10 msec未満だったMUAPが、ALSでは5 mV以上・持続20 msec以上・位相数5相以上といった巨大多相電位になることがあります5。
また随意収縮時にそうした大きなMUAPが少数しか動員されず、他のMUAPは参入しないか遅れて参入する動員不良がみられます6。具体的には、最大収縮時でも高振幅MUAPが2~3単位ほど見えるだけで干渉波にならない、といったパターンです6。これは運動単位数の減少を反映した神経原性運動単位の動員様式で、検者には収縮力の割に画面がスカスカに見えるため一目で異常とわかります。
さらに動員された各MUの発火頻度増加(同一MUAPの急頻回発射)も特徴で、これは少ない運動単位で力を出すための代償現象です4。この高速発射のMUAPは時に「急降下爆撃音」に例えられる連続音として聴取され、他のMUがほとんど介入しない状況では単一ユニット放電試験のような様相を呈します。
ALSでは以上のような「高振幅・長持続・多相性なMUAP」5および「発火頻度亢進を伴う動員低下」6が複数の筋で見られ、これらを総称して慢性脱神経所見と呼びます5。針筋電図報告書では「高振幅多相性MUAP」「干渉波形成不良(神経原性パターン)」などと記載される所見です。
脱神経電位と再神経支配電位の評価
ALSの診断には、現在進行中の脱神経があること(fib/PSWなど)と、過去に脱神経が起き再支配が行われたこと(巨大MUAPなど)の両方を示す所見が重要です5。前者は活動性の疾患を反映し、後者は慢性的な経過を示唆します。針筋電図ではこれらを組み合わせて時相的な評価が可能です。
具体的には、ある筋でfib/PSWが多数あり且つ巨大MUAPも認める場合、その筋は「現在進行形で脱神経が起きており、かつ過去の脱神経からの再支配変化も見られる」すなわち活動期+慢性期変化が混在していると解釈できます。これはALSに典型的な所見配置です。
一方、fib/PSWはあるがMUAPが小さく乏しい場合(再支配所見に乏しい場合)は、急性期の脱神経(まだ再支配が追いついていない状態)と考えられます。また逆にfibがなく巨大MUAPのみ多数見られる場合は、過去の脱神経があったが現在は進行が落ち着いている、もしくは他の疾患(例:ポリオ後症候群など慢性の運動ニューロン障害)も考慮します。
ただしALSでも病初期にはfibが目立たず巨大MUAP主体の時期もありうるため、臨床経過や他の筋の所見と併せた判断が必要です。以上のように、一筋内で急性脱神経所見と慢性変化を両方評価し、さらに全身の筋肉でそれが広範に存在することを確認できれば、ALSの筋電図所見として強い根拠となります5。
ミオパチーに特徴的な所見
低振幅・多相性の運動単位電位
筋原性疾患(ミオパチー)では運動単位あたりの筋線維数の減少や筋線維のサイズ低下により、各MUAPの振幅が低下します4。また筋線維の興奮伝播の時間差(位相差)が大きくなるため波形は多相性になりがちですが、運動単位内の線維数自体は少ないため全体の持続時間はむしろ短縮する傾向があります4。
典型例では「振幅が低く(0.3 mV以下)、持続時間短く(5 msec以下)、相が多い」MUAPが多数観察されます4。これを英語で"short duration, low amplitude, polyphasic"と言い、筋原性変化の典型所見です4。ただし振幅が低い波形は正常小単位との鑑別が難しい場合も多く、軽度の筋原性変化は見逃されやすい点に注意します4。
音響的には高調波成分が少ないためザーッという軟らかい雑音のように聞こえます。筋強直性ジストロフィーや先天性筋ジストロフィーなど慢性進行性の筋疾患ではこのような低振幅MUAPが主で、逆に多発筋炎や封入体筋炎など炎症性筋疾患では後述のように線維自発電位との混在が見られるケースもあります。
早期動員パターン(rapid/early recruitment)
筋原性障害では上記の通り各運動単位が発揮できる張力が低下しているため、わずかな随意収縮でも必要な張力を得るために多数の運動単位を同時に動員します6。その結果、通常であれば弱収縮時には数個のMUAPが疎に見える状態になるはずが、筋原性では早い段階から干渉波に近い状態(細かいMUAPが重畳した波形)になります6。
これがMUP早期動員所見であり、筋疾患では典型的なパターンです6。筋電図上では、例えば力の入り具合が30%程度でも既に基線がかなり埋まっている、といった所見として認識されます。特に低振幅の棘波様MUAPが多数早期動員されると、図示すれば非常に細かい干渉過多な波形となり、これをまとめて筋原性所見と呼ぶこともあります6。
逆に最大収縮時まで含めて全体に運動単位数の動員は保たれている(干渉波は形成される)のに筋力が低下している場合、これは筋原性疾患を強く示唆する所見です4(神経障害では筋力低下時に干渉波も低下するため、この乖離は起こらない)。
なお、筋原性変化が重度になると動員すべき筋線維自体が失われるため、終末期には一見神経原性のような干渉低下をきたすこともあります。しかしその場合でもMUAP振幅は低いままである点や、他の筋の所見から鑑別可能です。
筋活動の異常パターンとその鑑別
多くの筋疾患では上記のような所見が主体ですが、中には脱神経所見が混在したり特殊な自発放電を示す場合があります。代表例として炎症性筋疾患(多発筋炎、皮膚筋炎、封入体筋炎など)があります。
これらでは筋原性変化(低振幅多相MUAP、早期動員)に加えて筋線維の壊死による二次的な脱神経も生じるため、線維自発電位やPSWがしばしば検出されます。特に封入体筋炎では筋原性所見+自発放電が典型で、筋電図上は神経原性と筋原性の混在所見となり得ます。このためALSとの鑑別が問題となることがありますが、分布(IBMは遠位筋や前腕屈筋優位など)や臨床経過、筋生検所見で区別されます。
また筋疾患特有の自発放電としてミオトニー放電や複合反復放電(CRD)があります。ミオトニー放電は筋強直症などで針の刺入や筋叩打をきっかけに発生する持続的高頻度放電で、「ピューッ」という急降下する音(waxing and waningの音響学的表現)を呈する特徴的なものです8。ALSではこのようなミオトニー放電は起こりませんので、筋強直性疾患との鑑別点になります。
CRD(complex repetitive discharge)は筋線維や運動単位が同期して反復的な放電を行う現象で、慢性神経原性病変や慢性筋病変の両方で出現しうる所見です。一定のパターンで周波数を保って繰り返す複数の電位群が見られた場合、CRDを疑います。筋原性疾患では特に封入体筋炎でCRDが報告されます。
このように、筋電図上の異常自発放電パターンは疾患ごとの特徴があり、ALSではfib/PSWや不安定FP、筋疾患ではミオトニー放電やCRDなどが鑑別に寄与します。総じて、ALSでは神経原性所見が主体で筋原性所見は伴わないのに対し、原発性筋疾患では筋原性所見が主体だが場合により軽度の神経原性所見を呈することがポイントです。
アーティファクトの除去とノイズ対策(検査時の工夫)
筋電図検査では患者・環境要因によるアーティファクトを的確に除去することも重要な技術です。まず患者には安静時に完全に力を抜いてもらう必要がありますが、痛みや不安で力が入ってしまうことがあります。その際は一度針を抜き深呼吸や筋を揺すってリラックスさせ、再度刺入し直すこともあります。体位調整で関節を少し曲げ楽にするのも有効です4。
電極の配置では、モノポーラ針使用時に参照電極が遠すぎると商用ノイズを拾いやすくなるため可能な限り記録筋に近い部位(筋の近傍の腱付着部や骨凸部など)に置きます。皮膚が乾燥していると接触抵抗が増えノイズの原因になるため、必要に応じて参照電極や接地電極部位はアルコールで清拭して角質を落とし、湿らせたガーゼで軽く擦るなど下準備します9。
環境ノイズ対策として、検査室内の不要な電気機器は電源を落としコンセントから抜いておきます2。ベッドや器具の金属部分は接地し、患者にもアースベルトを巻くなど徹底します。ケーブル類は体に固定テープで留め、動いても擦れないようにします。
針電極自体のアーチファクト(動かすと発生する誘導雑音)は、患者が話したり咳をした衝撃でも起こりうるため、検査中は可能な限り静かにしてもらいます。どうしても除去できないノイズ源(例えば近隣工事の低周波振動や強力な無線電波など)がある場合は、フィルタで対処するか日を改めることも検討します。
最後に、記録中に出現したアーティファクトは波形上で明確に判別できる場合(例:針の位置ズレによる巨大な振幅のベースライン偏位など)は、その部分は解析から除外し、レポートにも「○○にて一過性のアーチファクト出現」と注記します。EMG検査者の熟練によりノイズを極力排除し、信頼性の高いデータを得ることが鑑別診断の精度向上につながります。
4. 結果の解釈と臨床応用
ALSとミオパチーの電気生理学的鑑別
針筋電図結果の解釈では、ALSのような神経原性変化と筋ジストロフィーや筋炎のような筋原性変化とを区別することが主要なゴールの一つです。上述した所見を総合して考えると、ALSでは以下のような所見の組み合わせが典型的です:
- 安静時に広範な線維自発電位・陽性鋭波(活動性の脱神経)+ 線維束性収縮電位5
- 随意収縮時に高振幅・長持続・多相性のMUAP(慢性脱神経に伴う再支配)5
- 運動単位数の減少による動員遅延(リクルートメント低下)6および高速発射
- 結果として最大収縮時の干渉波低下(干渉不全)6
一方、筋原性疾患では:
- 安静時には原則として線維自発電位やPSWは出現しない(※ただし活動期の炎症性筋疾患では出現しうる)
- 随意収縮時には低振幅・短持続・多相性のMUAPが主体4
- 多数の運動単位が早期に動員されるためリクルートメント亢進(早期動員)6
- 結果として最大収縮時でも干渉波は保たれる(筋力低下の度合いの割に干渉波が良好)4
このように両者は対照的なパターンを示します。例えば、ある患者のEMG所見が「四肢の近位および遠位筋で高振幅多相性MUAPと干渉不全を認め、線維自発電位も広範に出現」となればALSを強く示唆します5。逆に「著明な低振幅MUAPの早期干渉が近位筋に限局して認められ、遠位筋はほぼ正常、線維自発電位はわずか」といった場合は筋原性疾患(多発筋炎など)の可能性が高くなります。
実地では両者の混在や中間像も存在しうるため、一つの所見だけで断定はしません。例えば封入体筋炎は筋原性変化主体ですが線維自発電位もしばしば伴い、鑑別に難渋します。この場合は病歴や酵素学的所見、筋生検結果も総合して判断します。EMG所見は常に臨床像と照らし合わせて解釈し、矛盾がないか検討します。
追加検査との組み合わせ
針筋電図単独で得られた情報は、他の神経生理検査や画像・血液検査と併用することで診断の確度をさらに上げることができます。
神経伝導検査(NCV/NCS)
ALSと末梢神経障害の鑑別に有用です。ALSでは末梢神経自体の伝導ブロックや著明な速度低下は通常起こりません(感覚神経伝導は正常)5。ただし運動軸索が減少すればCMAP振幅低下やF波の出現頻度低下などはみられます。
一方、ニューロパチー(多発神経炎)や根障害では伝導速度の低下や潜時延長、波形分散などNCSでの異常所見が出ます。したがってNCSがほぼ正常で針EMGにのみ神経原性所見がある場合はALSなど中枢側の障害を疑います。
また重度筋原性疾患ではCMAP振幅が低下することがありますが伝導速度自体は保たれるため、NCSで速度が正常かつ振幅低下のみなら筋萎縮の程度を反映した所見と判断できます。
反復刺激試験(RNS)
神経筋接合部の異常を検出する検査で、重症筋無力症との鑑別などに使われます。ALSでは一部の患者で軽度の漸減応答(低頻度RNSでの漸減現象)を示す報告もありますが、典型的な特徴ではありません。筋原性疾患では神経筋接合部は正常のためRNSは基本的に正常です。
従って著明な漸減現象が認められればむしろALSや筋疾患より重症筋無力症など接合部疾患を疑う契機になります。ALSか重症筋無力症か判断に迷うような症例(両者とも構音障害や易疲労感を呈することがあります)では、針EMGでの神経原性所見の有無に加えRNSで明らかな漸減を欠くことがALS支持所見となります。
筋生検・血液検査
針EMG所見が筋原性を示唆した場合、確定診断のため筋生検を検討します。例えば多発筋炎が疑われればEMGで変化の強い筋から生検組織を採取し、炎症所見や筋繊維変性所見を確認します。
ALSが疑われる場合は、通常筋生検までは不要ですが、時に封入体筋炎など筋疾患との鑑別目的で行われることがあります(ALSでは生検で神経原性萎縮の所見、筋炎なら炎症細胞浸潤など筋原性所見)。血液検査では筋疾患ではしばしばCK高値を示すのに対し、ALSでは高度には上昇しないなどの差異も参考になります。
電気生理検査としては他に針EMGの特殊手法である単一線維筋電図(SF-EMG)があり、これはALSで神経原性変化に伴うjitter増大やブロックを検出するのに有用ですが専門的手技です。総じて、針EMG所見を軸に据えつつNCSやRNS、画像、病理所見を組み合わせることで、ALS vs ミオパチーの鑑別診断はより確実なものとなります。
針筋電図結果の臨床診断への統合
針筋電図で得られた知見は、最終的には臨床診断に統合して活用します。その際のポイントをいくつか挙げます。
診断基準への当てはめ
ALSにはAwaji改訂エルエスコリアル基準といった診断基準があり、針EMG所見は下位運動ニューロン徴候の客観的証拠として組み込まれています5。例えば臨床的に下位運動ニューロン徴候(筋萎縮や線維束攣縮)が無い部位でも、EMGで明らかな脱神経所見があればそれを下位運動ニューロン徴候ありと見做して診断カテゴリーを引き上げることができます5。
このようにEMG所見はサブクリニカルな異常の検出として診断基準上重要な役割を果たします。筋原性疾患でも、筋ジストロフィーなど遺伝子診断が進む現代においてもEMG所見は除外診断や重症度評価に使われます。例えばステロイド筋症か多発筋炎か迷う症例で、EMGで明らかな自発放電や多相性電位があれば炎症性筋疾患を支持し積極的な治療介入の根拠とできます。
臨床症状との対応付け
針EMG所見は、どの筋に異常があるかを客観的に示してくれます。臨床上はっきり症状に出ていない筋でもEMGで異常が拾われれば「この部位も侵され始めている」と判断できます。ALSでは例えばまだ筋力低下が顕在化していない他側の筋にEMG変化が出ていれば、将来的な症状出現を予測し経過観察に反映します。
筋疾患でも、患者の主訴にない部位の筋力低下予備軍をEMGで検出し、全身的な障害範囲を評価します。逆に、臨床的には筋力低下があるのにEMG所見が乏しい場合、それは神経疾患では説明しにくいため筋疾患を強く考える、など臨床所見とのすり合わせによって診断の方向性を絞ります。
経時的変化のフォロー
針EMGは病態の進行や治療反応の評価にも用いられます。ALSでは時間とともに脱神経所見が広がり、残存MUAPもより巨大化・疎化していく傾向があります。数ヶ月おきのEMGで所見の進行を確認することで疾患のスピードを把握できます。
筋疾患では治療(免疫療法など)によって筋線維破壊が収まれば、自発放電が減少しMUAPの振幅が回復・干渉波も改善するといった変化がみられることがあります。これらは臨床的筋力の改善と相関しますが、わずかな変化はEMGの方が敏感に検出できる場合もあります。したがってフォローアップEMGは治療効果判定の一助となります。
総合診断
最終的には、針筋電図所見を含むあらゆる検査結果と臨床像を総合して診断を下します。ALSと筋疾患の鑑別では、「上位運動ニューロン徴候の有無」「感覚障害の有無」「血清CK値」「MRI所見」「遺伝子検査結果」なども考慮されますが、その中で針EMG所見は下位運動ニューロン系の機能状態を直接反映する決定的な情報です。
例えば感覚が正常で上位ニューロン徴候があり、針EMGで広範な神経原性所見が得られればALS診断に大きく傾きます。一方、上位ニューロン徴候が無くEMGも筋原性変化のみなら末梢神経や筋接合部は無関与と判断され筋疾患の診断が裏付けられます。
針EMG結果を正しく解釈し、他の検査と組み合わせることで、鑑別診断の精度が上がり不必要な検査を省略できる場合もあります。
以上、バイキングを用いた針筋電図検査の設定から手技、所見の読み取りまでをALSとミオパチーの診断に焦点を当てて詳細に解説しました。適切な機器設定と手技により良質なデータを得て、それぞれの典型所見を把握することで、両者の鑑別診断に大いに役立てることができます5。継続的な技術研鑽と知識のアップデートにより、針筋電図検査は今後も神経筋疾患診断の重要な柱であり続けるでしょう。
文献
- [要出典] 朝倉書店. 内科学第12版デジタル付録.
- [要出典] How to reduce noise interference in nerve conduction studies and EMG signals for more reproducible test results - Natus.
- [要出典] きれいにとれるシリーズ アーチファクトの種類と対策.
- [要出典] 針筋電図検査 総論│医學事始 いがくことはじめ.
- [要出典] 001 球脊髄性筋萎縮症_170313.
- [要出典] 筋電図(キンデンズ)とは? 意味や使い方 - コトバンク.
- [要出典] 筋萎縮性側索硬化症 山口 滋紀先生 | 川村内科診療所様.
- [要出典] 筋強直性ジストロフィー - 東埼玉病院.
- [要出典] 雑音混入のメカニズムと対策 - 日本光電.