お急ぎのかたはClaudeのスライドをご覧下さい
↓ ↓
2025年最新の一般内科トレンド:感染症動向と対策
公開日: 2025年3月15日
2025年3月時点の一般内科における感染症の最新トレンドについて、感染性腸炎、新型コロナウイルス感染症、インフルエンザ、およびその他の成人領域の感染症に焦点を当てて解説します。それぞれの疾病の流行状況や変異株情報、最新の治療ガイドラインの変更点、ワクチンや抗ウイルス薬の開発動向、さらには新たな診断技術や感染症管理のベストプラクティスについて整理します。また、世界保健機関(WHO)や米国疾病対策センター(CDC)など国際的な公衆衛生機関の最新ガイドラインの要点、日本国内の保健行政の対応や新たな政策動向についても触れます。
感染性腸炎(感染性胃腸炎)の最新動向
主な病原体と流行状況
感染性腸炎(感染性胃腸炎)はウイルス、細菌、寄生虫など様々な病原体によって起こります。特にウイルス性の胃腸炎が圧倒的に多く、ノロウイルスやロタウイルス、サポウイルスなどが主要な原因です。ロタウイルスについては小児へのワクチン普及により重症例が減少したため、近年ではノロウイルスが小児を含む急性胃腸炎の最も一般的な原因となっています。
2023年から2024年にかけて、ウイルス性胃腸炎の報告数が世界的に増加傾向にあります。特にノロウイルスは、新型コロナウイルス流行下で一時的に流行が抑えられていましたが、各国で防疫措置が緩和された後に症例数やアウトブレイク件数が急増しています。米国では2024年末時点で検査陽性率が20%を超え、2023年同時期の約12%から大幅に上昇しました。同期間の報告アウトブレイク数も前年より4割近く増加し、ウイルス性胃腸炎の再流行が確認されています1。
治療ガイドラインの最新知見
感染性腸炎の治療は原因病原体によって異なりますが、基本は輸液などの支持療法です。ウイルス性胃腸炎の場合、特効薬は無く脱水への対応が最重要となります。細菌性下痢症では、重症例やリスク患者に対して抗菌薬を用いることがあります。ただし米国感染症学会(IDSA)のガイドラインでは、すべての下痢患者に一律に抗生物質を投与することは推奨されていません。
クロストリジオイデス・ディフィシル感染症(CDI)も成人の重要な腸炎の一つです。CDI治療ガイドラインは2021年に更新され、初発の重症例にはバンコマイシンよりもフィダキソマイシンの使用が推奨されるなど、治療選択が変化しています。また再発例に対するベズロトクスマブ(トキソイド抗体)投与や、再発反復時の糞便微生物移植(FMT)など新たなアプローチも注目されています。
薬剤耐性菌の動向と対策
感染性腸炎の分野でも、薬剤耐性菌(AMR)の台頭が懸念されています。特に注目されているのが、超多剤耐性(XDR)赤痢菌の増加です。米国CDCの報告によれば、2022年に報告された志賀菌感染症の約5%がXDR株によるもので、2015年には0%だったものが急増しています2。
感染症専門医や薬剤師と連携した抗菌薬適正使用(Antimicrobial Stewardship)を行い、耐性菌の蔓延を防ぐことがベストプラクティスとなっています。
感染予防策と公衆衛生対応
感染性腸炎の予防には、日常生活での衛生管理と公衆衛生上の対策の両面が重要です。個人レベルでは以下のポイントが推奨されています:
- こまめな手洗い: 調理前後、食事前、トイレ後には石鹸と流水で十分に手を洗浄します。ノロウイルスはアルコール消毒に強いため、石鹸による機械的洗浄が有効です。
- 食品の十分な加熱調理: 特に二枚貝(カキなど)はノロウイルス汚染のリスクがあるため中心部までしっかり加熱します。
- 嘔吐物や糞便の適切な処理: ノロウイルスを含む嘔吐物・下痢便は使い捨て手袋とマスクを着用して塩素系漂白剤で消毒します。
まとめ: 感染性腸炎の領域では、ノロウイルスをはじめとするウイルス性胃腸炎の流行再燃と、細菌性腸炎での耐性菌増加が懸念されています。一般内科医は最新のガイドラインに沿った診療(必要な検査や治療の適正化)と、地域におけるアウトブレイク情報の把握・指導(手洗い等の衛生啓発)に努める必要があります。特に冬場は感染性胃腸炎の流行期であり、院内感染防止にも配慮した対応が求められます。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の現状
最新の流行状況(2025年初頭)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、パンデミック宣言(2020年)から5年が経過し、2023年5月にWHOが国際的な緊急事態宣言を解除しました。しかし、2025年に入った現在でもCOVID-19は依然として世界中で感染が継続する感染症です。公衆衛生上の緊急事態ではなくなったものの、COVID-19は「季節性インフルエンザに近い形で流行が続く恒常的な脅威」として認識されています3。
世界的な流行状況を見ると、各国で報告体制や検査方針が変化したため公式な患者数は過小評価されています4。WHOの最新の疫学アップデート(2025年2月時点)によれば、直近4週間(2024年12月上旬~2025年1月上旬)の全世界の新規報告感染者数は約16万件で前期間比21%減と引き続き減少傾向にあります。一方で同期間の新規死亡者数は約3,300人で前期間比14%増加が報告されており5、高齢者や基礎疾患保有者を中心に一定の重症者・死亡者が発生し続けている状況です。
日本国内では、2023年5月8日に新型コロナウイルス感染症の法的位置づけが感染症法上の「5類感染症」へ変更されました6。その後は季節性インフルエンザに準じたサーベイランス体制に移行し、全数把握は行われていません。COVID-19は今後もインフルエンザ同様に年単位で流行と小康状態を繰り返すと予想され、長期的な備えが必要です。
変異株の動向と新たな変異株情報
SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)はこれまで幾度も変異株の出現によって流行の局面が変化してきました。2023年以降はギリシャ文字で名付けられるような新たな「懸念される変異株(VOC)」は登場しておらず、ほとんどがオミクロン系統の派生型(亜系統)のみとなっています。
2024年後半から2025年初頭にかけて流行している主なオミクロン亜系統には、通称で報じられたものでは「エリス(Eris)」や「フォルナクス(Fornax)」、「アークトゥルス(Arcturus)」などがありました。
米国の状況では、2025年2月時点でXEC系統と呼ばれるリコンビナント株が推定シェア37%で優勢となっており、続いてLP.8.1系統が31%、KP.3.1.1系統が9%との報告があります7。一方、WHOの分析では2025年1月第1週時点でVOI(注目すべき変異株)に指定されたJN.1系統が世界シーケンスの15%を占め、また監視下変異株(VUM)のXEC系統が44.8%と大きな割合を占めて増加中と報告されています5。
治療法の進歩と最新の治療ガイドライン
COVID-19の治療は、パンデミック初期から著しく進歩しました。現在の一般内科診療における治療選択肢と最新トピックを整理します。
- 経口抗ウイルス薬の普及: 軽症~中等症のリスク患者に対しては、ニルマトレルビル・リトナビル配合剤(パクスロビド)が標準治療として定着しました。日本では塩野義製薬が開発した国産の経口抗ウイルス薬エンシトレルビル(S-217622、商品名Xocova)が2022年11月に特例承認され、軽症例への投与に使用されています。
- 入院患者への治療: 酸素投与が必要な肺炎例では、レムデシビル(点滴静注抗ウイルス薬)が早期投与で入院期間短縮に貢献します。またデキサメタゾンなどステロイド療法は、低酸素血症を伴う中等症~重症例で死亡率を下げるエビデンスが確立しました。
- 後遺症(ロングCOVID)への対応: 急性期治療とは別に、COVID-19罹患後の長期症状に対する診療ガイドラインも整備が進んでいます。疲労、呼吸困難、ブレインフォグ(認知機能低下)など多岐にわたるLong COVID症状に対し、リハビリテーションや対症療法を組み合わせた包括的ケアが推奨されています。
全体として、COVID-19の治療ガイドラインは「重症化リスクの高い患者を早期に治療介入する」戦略にシフトしています。若年・基礎疾患なしの軽症者は自宅安静と経過観察が基本ですが、高齢者や慢性疾患を持つ患者には積極的に抗ウイルス薬を投与し、悪化を未然に防ぐことが重視されます。
ワクチンの有効性と新規開発状況
ワクチン接種はCOVID-19パンデミック収束の鍵となった対策であり、現在も重症化予防の柱です。2025年3月時点でのワクチン動向は以下のとおりです。
オミクロン株出現後、従来株スパイクに加えてオミクロン変異を盛り込んだ2価ワクチン(BA.4/5対応型)が2022年秋以降各国でブースター接種に用いられました8。研究により、従来の1価ワクチンではオミクロンに対する入院予防効果が低下していたが、2価ブースター接種によりその効果が回復したことが示されています。実際、2価ブースターを受けた人は従来ワクチンのみの人に比べ、重症化(ICU治療や死亡)を50%防ぎ、入院を39%減少させたとの大規模データがあります8。
現在使用中のワクチン(mRNAワクチン、ウイルスベクターワクチン、組換えタンパクワクチンなど)は、重症化や死亡のリスクを大幅に低減させています。例えばCDCの報告では、2023-24年シーズンにおける追加接種により入院予防効果が約50%向上したとされています9。
COVID-19ワクチン研究開発は現在も続けられています。特に期待されるのは、鼻腔粘膜免疫を誘導する経鼻ワクチンや、SARS・MERSなど広範なコロナウイルスに効くパンコロナワクチンです。また、製薬企業各社は、インフルエンザとの2価混合ワクチンや、RSウイルスとの混合ワクチン開発も進めています。
まとめ: 新型コロナウイルス感染症は、パンデミックの最急性期を脱したとはいえ、依然として一般内科領域で重要な疾患です。オミクロン亜系統の追跡とそれに対応したワクチンアップデートが今後も必要となるでしょう。治療面では経口薬の普及と重症例への適切な治療で死亡率は大きく低下しました。一般内科医は最新の変異株情報にアンテナを張りつつ、患者へのワクチン接種推奨や早期治療介入を確実に行い、またLong COVIDにも配慮した包括的ケアを提供することが求められます。
季節性インフルエンザの動向
流行状況と近年の特徴
季節性インフルエンザは毎年冬季を中心に流行する呼吸器感染症で、一般内科においては古くから最多の流行疾患の一つです。しかし、2020~2021年シーズンは新型コロナ対策による人の移動制限やマスク着用の普及でインフルエンザの報告数が過去最低となり、事実上「消滅」に近い状況でした。2022~2023年シーズンからインフルエンザは本格的に再流行し始め、2023~2024年シーズンにはコロナ前に近い大規模な流行が見られました10。
特に2022/23年および2023/24年シーズンは、例年とは異なる流行パターンが報告されています。日本では通常、インフルエンザの流行は12月下旬から始まり1~2月にピーク、4月頃に収束します。しかし2023年は流行開始時期が大幅に早まり、秋口(10月)から患者報告が増加、11月中旬に早くもピークに達しました11。その後、患者数は減少に転じたものの、本州では翌年4月頃まで流行が持続し、例年より長引くシーズンとなりました11。
さらに特徴的だったのがインフルエンザB型(ビクトリア系統)の動向です。2023/24シーズン、日本国内では当初A型(H1N1およびH3N2)が主体でしたが、年明けの2024年1月下旬にB型がピークを迎え、その後4月中旬までB型が流行の主役となる現象が観察されました11。
治療ガイドラインと抗ウイルス薬の活用
インフルエンザの診療はここ数年で大きな変化はないものの、迅速診断キットの更なる普及と新規抗ウイルス薬の利用が進展しています。一般内科医が押さえておくべきポイントをまとめます。
抗インフルエンザ薬の種類: 現在日本で利用可能な抗インフルエンザ薬は以下の通りです。
- オセルタミビルリン酸(タミフル®): 経口薬のノイラミニダーゼ阻害薬。
- ザナミビル(水薬または吸入剤・リレンザ®): 吸入型ノイラミニダーゼ阻害薬。
- ラニナミビル(吸入剤・イナビル®): 長時間作用型のノイラミニダーゼ阻害薬。1回の吸入投与で治療が完結。
- ペラミビル(点滴製剤・ラピアクタ®): 静脈投与のノイラミニダーゼ阻害薬。
- バロキサビル マルボキシル(経口薬・ゾフルーザ®): 2018年に登場したキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬。1回の服用で治療完結する。
治療ガイドラインのポイント: 抗インフルエンザ薬は原則として発症後48時間以内の早期使用が推奨されています。症状緩和だけでなく、ウイルス排出期間を短縮し周囲への感染拡大を防ぐ効果も期待できます。高齢者、妊婦、慢性疾患を有する患者、5歳以下の小児、免疫抑制状態の患者などは重症化リスクが高いため、できるだけ迅速に抗ウイルス薬を投与します。
薬剤耐性への監視: インフルエンザウイルスは変異しやすく、薬剤耐性株の出現も懸念されます。新薬バロキサビルに対する耐性変異(PA/I38T変異)が一部検出されています12。日本の2023-2024年シーズンの調査では、治療前の検体からはバロキサビル耐性変異は検出されなかったものの12、治療後の検体から一部耐性ウイルスが確認されています12。
ワクチンの効果と将来的な開発
インフルエンザワクチンは毎年接種が推奨される予防策です。日本では不活化ワクチン(4価:A型2株+B型2株)が使用されており、例年10月頃から接種が始まります。ワクチンの予防効果はシーズンや年齢により異なりますが、発病を40~60%程度減少させ、特に重症化や合併症(肺炎、脳症など)を防ぐ効果が高いとされています。
近年の話題としては、高齢者に対する高用量ワクチンや添加剤ワクチンの導入が海外で進んでいます。65歳以上では免疫応答が低下するため、通常の4倍量抗原を含む高用量ワクチン(米国で承認)や免疫増強剤加入りワクチン(MF59添加など、欧州で使用)が開発され、日本でも承認が検討されています。
また、mRNA技術を使ったインフルエンザワクチンも臨床試験が進行中です。モデルナ社やファイザー社はmRNAフルワクチンの大規模治験を実施しており、従来の卵培養ワクチンより迅速に製造でき、株選定ミスマッチにも柔軟に対応できると期待されています。
インフルエンザの今後の課題
インフルエンザ診療における課題としては、同時流行への備えと医療提供体制の強化があります。2022/23冬には一部地域でCOVID-19とインフルエンザの同時流行(いわゆるツインデミック)が発生し、発熱外来がひっ迫しました。今後も複数の呼吸器ウイルスが同時期に流行する可能性があり、発熱患者への総合的なトリアージ体制が求められます。
また、新規抗インフルエンザ薬の開発も続けられています。既存薬とは異なる作用機序の薬剤(例えばヘマグルチニン阻害薬や中和抗体製剤など)が研究段階にあります。抗体製剤としては、米国で単クローン抗体のパルビズマブ(IgG 抗体)が開発中で、複数のインフルエンザ株に有効な中和抗体として期待されています。
まとめ: 季節性インフルエンザは、一時的な抑制期を経て再び一般内科領域で重要な疾患となっています。通常の流行パターンが乱れ、一年を通じて監視が必要な状況です。医師は迅速診断と早期治療で患者の重症化を防ぐとともに、ワクチン接種の啓発に努めることが大切です。特に高齢者施設や医療機関ではクラスター防止のため職員の予防接種、発熱者の早期隔離など基本対策の徹底が求められます。インフルエンザは「備えあれば憂いなし」の典型であり、平時からのワクチンストックと治療薬備蓄、体制整備が公衆衛生上の鍵となります。
その他の成人感染症トレンド:新興・再興感染症と課題
性感染症の再流行:梅毒の急増
日本における梅毒感染者数は2010年代半ばから増加傾向にあり、近年その勢いが加速しています。2023年の梅毒報告数は全国で14,906人と過去最多を更新し、戦後統計開始以来の高水準となりました13。特に都市部で顕著で、東京都では2024年の年間報告数が3,760人に達し、こちらも統計開始以来最多となりました14。
梅毒の再流行には、性感染症に対する警戒心の低下やコロナ禍で検査機会が減ったこと、出会い系アプリ等を介した不特定多数との接触増加など複合的要因が指摘されています。一般内科においても、発疹やリンパ節腫脹、原因不明の疲労感などで来院した患者から梅毒が診断されるケースが増えています。
新興感染症の警戒:エムポックス(サル痘)など
世界ではCOVID-19以外にも新興感染症の発生が相次いでいます。代表的な例として、2022年に世界的流行となったエムポックス(Mpox、旧称サル痘)があります。エムポックスウイルスは以前はアフリカの限られた地域に留まっていましたが、2022年5月以降に欧米を中心に急拡大し、WHOは同年7月に緊急事態宣言を行いました15。最終的に110か国で86,500例以上の患者が報告され15、日本国内でも2022年7月に初症例が確認されて以降、2023年前半にかけて累計数百例の患者が発生しました。
ダニ媒介感染症の新興例としては、日本固有の課題である重症熱性血小板減少症候群(SFTS)があります。SFTSウイルスは2013年に初めて国内で確認されて以来、西日本を中心に毎年数十~百例規模の患者が発生しています。マダニに咬まれることで感染し、発熱や消化器症状、出血傾向を呈し、日本での致死率は約27%と極めて高いことが報告されています16。
抗菌薬耐性(AMR)の拡大と院内感染
抗菌薬耐性(AMR: Antimicrobial Resistance)は21世紀の医学における最大の脅威の一つです。WHOはAMRを「グローバルヘルス上のトップ10脅威」に挙げ17、各国に対策を求めています。推計では2019年に全世界で約127万人が耐性菌感染により死亡したとされ17、今後対策なく推移すれば2050年には年間1000万人が死亡するとの予測もあります。
AMR対策として、抗菌薬適正使用(Antimicrobial Stewardship)が不可欠です。不要な抗生物質処方を減らし、必要な場合もスペクトラムの狭い薬剤を適切な期間用いることが推奨されます。またワクチン接種の推進も間接的に抗菌薬使用を減らし、耐性菌抑制に繋がります。
その他再興感染症とグローバルな課題
麻疹(はしか)や結核、ポリオといった再興感染症のリスクも見逃せません。麻疹ウイルスは伝染力が極めて強く、世界的にワクチン接種率が低下した地域でアウトブレイクが起きています。米国では2023年にも複数州で麻疹患者が報告され18、日本でも2024年に輸入症例を契機とした小流行が発生しました。
気候変動も感染症流行に影響し始めています。地球温暖化に伴い、デング熱やジカ熱、チクングニア熱などの蚊媒介ウイルスが温帯地域にも北上しています。欧州南部や米国フロリダ州などでデング熱の現地感染が報告されるようになりました。
最新の診断技術と迅速診断法の進歩
感染症診療において、診断技術の進歩は治療の質向上に直結します。近年、分子生物学的手法やデジタル技術の進展により、従来より迅速かつ正確に病原体を検出・同定することが可能になっています。主な進歩をいくつか紹介します。
- マルチプレックスPCR検査: 一度の検体で複数の病原体を同時に検出できるPCRパネルが実用化されました。
- POC(Point-of-Care)迅速診断: ベッドサイドやクリニックでその場で結果が出るポイント・オブ・ケア検査も拡充しています。
- 遺伝子シーケンスの活用: 次世代シーケンサー(NGS)の性能向上とコスト低下により、感染症診断へのメタゲノム解析の応用が現実味を帯びています。
- マススペクトロメトリー(MALDI-TOF): 細菌培養の世界では、培養したコロニーをMALDI-TOF質量分析計で解析することで、わずか数分で菌種を同定する技術が定着しました。
- CRISPRを利用した新診断法: 遺伝子編集で知られるCRISPR-Casシステムを応用した診断技術も開発中です。
- AIと画像診断: 人工知能(AI)の解析技術も感染症診断支援に利用され始めています。
成人における感染症管理のベストプラクティス
感染症対策は個々の診療だけでなく、組織的・社会的な取り組みが重要です。成人領域の感染症管理に関して、現時点で考えられるベストプラクティスを以下にまとめます。
- ワクチン接種の推進: 成人でも予防接種で防げる疾患は多く存在します。特に2023年以降、高齢者に対するRSウイルス感染症予防ワクチン(アレックスビー筋注、組換えタンパクワクチン)が日本でも承認されました19。
- 標準予防策と感染対策: 医療現場では、すべての患者に対して標準予防策(スタンダードプリコーション)を徹底することが基本です。
- 抗菌薬適正使用と抗菌薬管理チーム(AMS): 院内に抗菌薬適正使用支援チーム(AST)を設置し、抗菌薬処方をモニタリングすることが推奨されています。
- サーベイランスと情報共有: 医療機関や地域社会での感染症発生動向を常に把握し、情報を共有することも管理の一環です。
- 患者教育とセルフケア支援: 成人の感染症管理には、患者自身が正しい知識を持ち適切に対処できるよう教育することも含まれます。
国際的な公衆衛生機関の最新ガイドラインと政策動向
世界規模での感染症対策をリードするWHO(世界保健機関)やCDC(米国疾病対策センター)などは、最新の知見に基づきガイドラインや勧告を発出しています。2025年3月時点での国際的な主な動向をまとめます。
- COVID-19関連: WHOは2023年5月にCOVID-19の国際緊急事態を終了しましたが、引き続き各国にワクチン接種とサーベイランスの継続を求めています。
- インフルエンザ関連: WHOは2023年にパンデミックインフルエンザに備えた枠組み(PIPフレームワーク)の強化を呼びかけました。
- HIV/ウイルス性肝炎: WHOはHIVやウイルス性肝炎の2030年までの流行終息を掲げています。
- 抗菌薬耐性(AMR)対策: 国連の主導で2024年にAMRに関するハイレベル会合が予定されており、各国の進捗と課題が議論されます。
- グローバルワクチン戦略: COVID-19を契機に、ワクチンの不平等是正が課題となりました。
- 国際的情報プラットフォーム: WHOは2024年に「WHOパンデミック早期警戒システム」の強化版を発表しました。
日本国内の保健行政の対応と新たな政策動向
最後に、日本国内における感染症対策の行政的トピックと政策の最新動向を紹介します。日本はCOVID-19パンデミックの経験を踏まえ、体制整備や制度見直しを進めています。
- 新型コロナの5類移行と対応変更: 既に述べたように、日本政府は2023年5月8日付けでCOVID-19の感染症法上の分類を2類相当(新型インフルエンザ等感染症)から5類感染症へ変更しました6。
- 感染症危機管理統括庁の創設: 政府はパンデミック対応の司令塔機能を強化するため、2023年9月1日に内閣官房に感染症危機管理統括庁を新設しました20。
- 医療提供体制・法制度の整備: 政府と自治体は、平時から重症患者を受け入れる感染症指定医療機関の病床確保や、人工呼吸器・ECMOの備蓄、医療従事者派遣の仕組みづくりを進めています。
- 予防接種行政のアップデート: 予防接種法上の定期接種にも変更がありました。今後は帯状疱疹ワクチンの定期接種化(50歳以上)や、成人用の百日咳含む混合ワクチン接種なども検討課題です。
- 保健所・検疫所の機能強化: コロナ禍で疲弊した保健所体制を見直し、人員拡充やデジタル化が進められています。
おわりに
2025年現在、一般内科医が直面する感染症の領域はますます広がり、変化のスピードも増しています。感染性腸炎ではノロウイルスの流行再燃と耐性菌の台頭、COVID-19ではエンデミック化への対応と新変異株の監視、インフルエンザでは流行パターンの変化と新技術の導入、さらに新興・再興感染症やAMRとの戦いなど、課題は尽きません。
本レポートで述べたトレンドは刻一刻と変わる可能性があります。したがって、「生涯学習」が感染症診療の質を左右します。信頼できる情報源(医学論文、ガイドライン、行政発表など)を定期的にチェックし、エビデンスに基づく最善の医療を提供することが重要です。
最後に強調したいのは、感染症対策は個人・医療機関・地域・国・世界のすべてのレベルで連携してこそ効果を発揮するという点です。COVID-19はその教訓を我々に残しました。今後も油断せず、「正しい知識」「冷静な対応」「思いやりの心」を持って感染症診療にあたりたいものです。常に最新のトレンドを把握しつつ、患者一人ひとりに向き合った丁寧な医療を提供することが、これからの一般内科医に求められる姿勢でしょう。
参考文献
- [要出典] IASR 45(11), 2024【特集】インフルエンザ 2023/24シーズン. 国立感染症研究所. 2024.
- [要出典] IASR 44(12), 2023【特集】梅毒 2023年現在. 国立感染症研究所. 2023.
- [要出典] COVID-19 in 2025: 'A Constant Threat, but a Manageable One'. Boston University School of Public Health. 2025.
- [要出典] What COVID-19 variants are going around in February 2025? Nebraska Medicine Omaha, NE. 2025.
- [要出典] COVID-19 epidemiological update – 13 February 2025. World Health Organization. 2025.
- [要出典] 広報誌「厚生労働」2023年5月号 新型コロナウイルス最前線. 厚生労働省. 2023.
- [要出典] What COVID-19 variants are going around in February 2025? Nebraska Medicine Omaha, NE. 2025.
- [要出典] COVID bivalent booster protects well against hospitalization - Kaiser Permanente Department of Research & Evaluation. 2024.
- [要出典] Use of Additional Doses of 2024–2025 COVID-19 Vaccine for Adults Aged ≥65 Years and Persons Aged ≥6 Months with Moderate or Severe Immunocompromise: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices — United States, 2024. MMWR. 2024.
- [要出典] IASR 45(11), 2024【特集】インフルエンザ 2023/24シーズン. 国立感染症研究所. 2024.
- [要出典] 2023-2024年シーズンの日本におけるインフルエンザサーベイランスの概要(2024年12月25日作成). 新潟大学大学院医歯学総合研究科 国際保健学分野. 2024.
- [要出典] 2023-2024年シーズンの日本におけるインフルエンザサーベイランスの概要(2024年12月25日作成). 新潟大学大学院医歯学総合研究科 国際保健学分野. 2024.
- [要出典] 梅毒患者が急増中!検査と治療であなた自身と大切な人. 政府広報オンライン. 2024.
- [要出典] 梅毒の流行状況(東京都 2006年~2024年のまとめ). 東京都感染症情報センター. 2024.
- [要出典] 東京都健康安全研究センター » エムポックス(サル痘)の世界的流行について(令和6年4月8日更新). 2025.
- [要出典] 国内外における重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の発生状況について. 国立感染症研究所. 2024.
- [要出典] Antimicrobial Resistance and the Environment. Geneva Environment Network. 2025.
- [要出典] Health Alert Network (HAN) - 00522 | Expanding Measles Outbreak. CDC. 2025.
- [要出典] GSK、60歳以上を対象としたRSウイルスワクチン「アレックスビー筋注」の製造販売承認を取得. GSKプレスリリース. 2024.
- [要出典] 内閣感染症危機管理統括庁発足1年を迎えて. 内閣感染症危機管理統括庁. 2024.