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目次
片頭痛は有病率が高く(日本では成人の約8.4%)、日常生活や労働生産性に大きな支障をきたす神経疾患です。片頭痛治療は大きく「急性期治療(発作時の頓挫療法)」と「予防療法(発作の頻度抑制)」の二本立てで行われます。過去20年で片頭痛治療の選択肢は飛躍的に拡大し、特にCGRP関連製剤(CGRP受容体拮抗薬や抗CGRP抗体)の登場は画期的進歩となりました。本稿では一般内科の開業医の先生方向けに、急性期治療薬と予防薬の変遷を概説し、最新のCGRP関連薬の特徴、作用機序、適応、効果、安全性、保険適用状況、ガイドラインでの位置づけについて解説します。
急性期治療薬の変遷と新規薬剤
従来の急性期治療:NSAIDs・エルゴタミン・トリプタン
片頭痛発作時の治療薬として古くから使われてきたのは、鎮痛剤(アセトアミノフェンやNSAIDs)や麦角アルカロイド製剤(エルゴタミン誘導体)でした。これらは軽度~中等度の発作には有効ですが、重度の発作では効果不十分なことも多く、副作用(NSAIDsの消化器障害など)にも注意が必要です。またエルゴタミン製剤は嘔気や依存の問題があり、現在では使用頻度が減っています。
2000年代に入り、トリプタン系薬剤(スマトリプタン、リザトリプタン、エレトリプタン、ゾルミトリプタン、ナラトリプタン)が日本でも登場し(日本では2000年から使用可能)、片頭痛治療におけるゲームチェンジャーとなりました。トリプタンは脳血管の5-HT1B/1D受容体に作用し血管収縮と神経ペプチド放出抑制をもたらすことで高い鎮痛効果を発揮します。日常生活に支障をきたす中等度~重度の片頭痛発作では、NSAIDsよりトリプタンの内服が推奨され、発作早期(発症1時間以内)の服用がより効果的です。現在、日本で利用可能なトリプタン系薬剤は以下の5種類です。
- スマトリプタン(イミグラン®)
- リザトリプタン(マクサルト®)
- ゾルミトリプタン(ゾーミッグ®)
- エレトリプタン(レルパックス®)
- ナラトリプタン(アマージ®)
トリプタン系は多くの片頭痛患者で有効ですが、使用上の注意として、血管収縮作用のため虚血性心疾患や脳血管疾患のある患者には禁忌です。また脳幹型片頭痛(以前の呼称:Basilar型)や片麻痺性片頭痛には使用できません。副作用として一過性の胸部圧迫感、倦怠感、めまいなどが報告されています。こうした制約から、一部の患者ではトリプタンが使えないケースもありました。
新しい急性期治療薬:ラスミジタンとゲパント系

トリプタンが使えない患者や心血管リスクのある患者に向けて、近年新たな急性期治療薬が登場しました。その一つがラスミジタン(商品名レイボー®)です。ラスミジタンは選択的5-HT1F受容体作動薬で、セロトニン5-HT1F受容体に作用し、三叉神経からの痛み関連神経ペプチド放出を抑制することで鎮痛効果を発揮します。5-HT1F受容体は中枢性に痛覚伝達を抑える作用を持ち、血管収縮作用を介さないため心血管系への影響が少ない点が特徴です。米国では2019年に世界初の「ジタン系」薬剤として承認され、日本でも2022年1月に承認・同年6月に発売されました。ラスミジタンは頓服内服薬(50mg, 100mg錠)として使用され、トリプタン禁忌例や副作用で使えない患者に新たな選択肢を提供しています。
ラスミジタンの副作用として眠気やめまいが比較的多く報告されており、服用後の自動車運転は禁止されるなど注意が必要です。実臨床では「効果はあるが眠気が強い」という声もあり、患者への十分な説明と状況に応じた使用が求められます。
もう一つの新規急性期治療がCGRP受容体拮抗薬、いわゆる「ゲパント系」と呼ばれる経口薬です。CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)は片頭痛発作時に放出される神経ペプチドで、血管拡張や神経原性炎症を引き起こし痛みの伝達に関与する物質です。ゲパント系薬はこのCGRP受容体を直接ブロックすることで鎮痛効果を発揮します。米国では2019年にウブロゲパント、2020年にリメゲパントが片頭痛発作治療薬として承認されましたが、これらは血管収縮作用を持たず、心血管リスクのある患者でも使用可能な新クラスの頓挫薬です。効果発現はやや穏やかですが、2時間後の頭痛軽減率はプラセボより有意に高く、トリプタンと同程度の有効性を示すとの報告もあります。またリメゲパントは頓挫治療だけでなく予防投与(隔日内服)でも有効というユニークなデータがあり、1剤で急性期・予防の双方に用いられる点が注目されています。
日本におけるゲパント系は現時点(2025年)で未承認ですが、「アトゲパント」(経口1日1回投与の予防薬)や「リメゲパントOD錠」(頓用・予防の両適応)の国内治験が行われ、承認申請も提出されています。例えばリメゲパントは2024年11月に国内で「片頭痛発作の予防および急性期治療」の適応で承認申請されており、近い将来使用可能となる見込みです。これらゲパント系薬剤が承認されれば、トリプタンが使えない症例や効果不十分な症例に対して、新たな治療オプションとして活用できるようになるでしょう。
片頭痛予防薬の変遷と新規治療
従来の予防薬:β遮断薬・抗てんかん薬・抗うつ薬・Ca拮抗薬
片頭痛の予防的治療(発作の発症抑制)は、発作頻度や重症度が高い患者を対象に行われます。一般的な適応基準は「月に4日以上片頭痛発作がある」「日常生活能力が著しく障害されている」などで、患者教育や生活指導を行ってもなお発作頻度が高い場合に検討されます。20年前まで、片頭痛予防薬として使用されてきたのは他疾患向けの既存薬の転用が中心でした。代表的なものに以下の薬剤があります。
- β遮断薬(プロプラノロール、メトプロロールなど) – 交感神経の緊張を抑え、中枢神経の過興奮を和らげる作用があると考えられます。プロプラノロール(インデラル®)は日本で片頭痛予防薬として保険適用が認められた代表的薬剤で、有効例では頭痛頻度の顕著な減少が期待できます。一方で低血圧や徐脈、気管支喘息悪化などの副作用に注意が必要です。※日本ではプロプラノロール以外のβ遮断薬(メトプロロール、アテノロール等)は適応外使用になります。
- 抗てんかん薬(バルプロ酸、トピラマートなど) – 神経の興奮を安定化させる作用から片頭痛予防に有効です。バルプロ酸(デパケン®)は日本で唯一保険適用のある抗てんかん薬系の片頭痛予防薬で、臨床的にも一定の有効性が確認されています。ただし体重増加や眠気、特に妊娠可能年齢の女性では催奇形性の観点から慎重投与が必要です。トピラマート(トピナ®など)は海外では片頭痛予防薬として一般的ですが、日本では適応外ながら専門家の間で用いられることもあります。有効性は高いものの認知機能低下など副作用が問題となり得ます。
- 抗うつ薬(三環系・SNRIなど) – 脳内の痛覚調節系を調整することで片頭痛を抑制すると考えられます。特にアミトリプチリン(トリプタノール®)はエビデンスがあり、海外ガイドラインでも第一選択の一つですが、日本では適応外使用となります。低用量から開始し、効果発現までに数週間を要しますが、不安や不眠を合併する片頭痛患者には有用です。副作用として眠気や口渇、体重増加に注意します。またSNRIのベンラファキシン(適応外)も有効性を示す報告があり、選択肢に入ります。
- Ca拮抗薬 – 血管の攣縮抑制や神経興奮の抑制作用により片頭痛予防に用いられます。日本ではロメリジン(テラナス®)が唯一片頭痛予防適応で保険承認されたCa拮抗薬で、中等度の有効性が認められています。比較的副作用が少なく使いやすいですが、効果発現は穏やかです。海外ではフルナリジン(日本未発売)が広く用いられています。
上記のうち、日本で正式に「片頭痛の予防」で保険承認されているのは プロプラノロール、バルプロ酸、ロメリジンの3剤のみ でした(アミトリプチリンやトピラマート等は適応外使用)。そのため、保険診療上はまずこれら既存3剤での治療が試みられ、効果不十分または副作用等で継続困難な場合に限り、適応外薬の使用や新規治療の検討がなされるのが実情でした。
新たな予防薬:抗CGRP抗体製剤の登場
従来の予防薬は片頭痛以外の適応を持つ汎用薬でしたが、CGRP関連製剤の登場により、片頭痛そのものを標的とした初の特異的予防薬が実用化されました。CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)は前述の通り片頭痛病態の主役物質の一つであり、発作時に血中濃度上昇が確認されています。このCGRPの働きを阻害することで片頭痛発作を減らすことを狙ったのがモノクローナル抗体製剤です。
抗CGRP抗体とは

現在日本で使用可能な抗CGRP関連抗体製剤は次の3種類です。
- ガルカネズマブ(商品名エムガルティ®) – CGRPそのもの(リガンド)に結合するヒト化IgG4抗体。月1回皮下注射(初回のみ2本: 240mgローディング)。
- フレマネズマブ(商品名アジョビ®) – CGRPリガンドに結合するヒト化IgG2抗体。月1回皮下注射(225mg)または3ヶ月に1回まとめて投与(675mg)。
- エレヌマブ(商品名アイモビーグ®) – CGRP受容体(CLR/RAMP1複合体)に結合する完全ヒトIgG2抗体。月1回皮下注射(70mgまたは120mg)。
これら3剤は2021年に相次いで国内承認され、従来の予防薬で十分な効果が得られない反復性片頭痛・慢性片頭痛患者に対する新たな予防選択肢となりました。作用機序はいずれもCGRP経路の遮断ですが、エレヌマブのみ受容体をブロックし、他2剤はCGRPそのものを捕捉する点が異なります。しかし臨床効果や安全性プロファイルに大きな差はなく、いずれも発作頻度の顕著な低減が期待できます。
海外第III相比較試験では、例えばエレヌマブは月間片頭痛日数を50%以上減少させる患者割合が約50%と、プラセボ群の約25%を大きく上回りました(トップラマートとの間接比較でも同等の有効性)との報告があります。また従来薬より効果発現が早く、投与開始1~2か月で有意な発作減少がみられるケースが多い点も利点です。実際に、「内服予防薬より速く効果が現れる」「月1回の注射で管理できるので患者のQOLが向上した」といった報告もなされています。
抗CGRP抗体製剤の適応と使用法(保険適用)

抗CGRP抗体製剤は従来の予防薬で効果不十分か使用困難な片頭痛患者を主な対象とします。日本頭痛学会のガイドラインおよび厚労省の最適使用指針では、投与開始条件として以下をすべて満たすことが求められています。
- 片頭痛の診断確定 – 国際頭痛分類ICHD-3に則り、「前兆のない片頭痛」または「前兆のある片頭痛」もしくは慢性片頭痛と診断されていること。日常的な診察やMRI等で二次性頭痛が除外されていること。
- 発作頻度 – 投与前3か月間において、片頭痛発作日数が1か月あたり平均4日以上であること。
- 既存治療の実施 – 規則正しい生活習慣指導や急性期治療薬の適切な使用を行ってもなお日常生活に支障があること。
- 既存予防薬が無効・不耐容 – 保険適用のある既存の片頭痛予防薬(プロプラノロール、バルプロ酸、ロメリジン等)を十分量・十分期間試みても効果不十分であるか、副作用や禁忌により継続困難であること。
上記条件を満たせば保険診療で抗CGRP抗体の使用が認められます。実際の使用にあたっては、神経内科等の専門医により片頭痛と診断されていること、頭痛ダイアリー等で頻度を記録していることなどが望ましいです。
投与方法は月1回の皮下注射(フレマネズマブのみ3ヶ月毎も可)で、ガルカネズマブのみ初回2本同時投与します。注射は医療機関で行う必要がありますが、一定期間で効果と安全性が確認できれば在宅自己注射へ移行することも可能です。治療効果は3か月(ガルカネズマブとエレヌマブは3回、フレマネズマブは1回投与後)を目安に評価し、効果不十分なら中止とされます。有効な場合でも定期的に必要性を再評価しつつ継続します。
抗CGRP抗体製剤の効果・使用感・安全性
臨床試験および実臨床で、抗CGRP抗体製剤は顕著な発作頻度の減少と患者QOLの向上に寄与することが示されています。とくに今まで予防薬が無効だった難治例で有効率が高く、「片頭痛の日数が月に数日程度まで減った」「頭痛が来ても軽くて済むようになった」といった報告が多数あります。また効果が不十分な場合でも薬剤の変更(スイッチ)により改善が得られるケースがあることも分かってきました。例えばエレヌマブで効果不十分だった患者がガルカネズマブに変更して有効になる、といったケースです。さらには、従来型の内服予防薬との併用療法も有用です。ガイドラインでも他の予防薬との併用は禁忌ではなく、必要に応じて併用可能とされています。実際、少量のバルプロ酸やアミトリプチンと抗CGRP抗体を組み合わせることで相乗効果が得られたとの報告もあります。
安全性プロファイルについては、現在まで重篤な副作用は報告されておらず良好な忍容性を示します。主な副反応は注射部位の疼痛・発赤程度で、プラセボ群と大差ありません。一部報告ではエレヌマブで便秘が数%の患者にみられることが知られていますが、対症療法で管理可能であり大半は軽度です。
またCGRPは血管拡張に関与するため長期的な心血管影響が懸念されましたが、現在まで有害事象のシグナルは認められていません。ただし導入初期はアナフィラキシー等のリスクに備え、緊急対応できる医療機関で投与することが望まれます。総じて抗CGRP抗体製剤は従来薬より副作用が少なく継続しやすい予防薬と言えます。
保険適用と費用の実際
抗CGRP抗体製剤は保険適用下でも薬価が高額なため、患者さんの自己負担も大きくなります。日本では従来予防薬が無効または副作用で使えなかった場合に保険診療の対象となると規定されており、3割負担の場合でも自己負担は1本あたり1万2千~1万3千円前後になります(ガルカネズマブは初回2本投与のため約2万7千円)。高額なため企業の健康保険組合による付加給付や高額療養費制度の適用で自己負担軽減を受けられる場合もあります。費用面も含め、導入にあたっては患者への十分な説明と同意が重要です。
ガイドラインにおける位置づけと今後の展望
日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会が合同で策定した「頭痛の診療ガイドライン2021」では、8年ぶりの改訂でCGRP関連薬(抗CGRP抗体/受容体抗体製剤)の登場が盛り込まれました。同ガイドラインでは、反復性片頭痛および慢性片頭痛の予防薬として抗CGRP抗体製剤を強く推奨しており、特に「既存の片頭痛予防薬で十分な効果が得られない症例」に対して有用であると明記されています。欧米のガイドラインと同様に、まずは従来薬での治療を行い、それが無効・不耐容であればCGRP関連薬を用いるという位置づけです。また慢性片頭痛(15日以上/月の頭痛)に対しては、従来治療に加えて抗CGRP抗体製剤やボツリヌス毒素治療(国内未承認)も含めた包括的治療戦略が重要であるとされています。急性期治療においても、2021年以降ラスミジタンが新たに使用可能となったこと、海外で承認済みのゲパント系薬剤が今後国内でも使える可能性があることが紹介されています。
今後数年で、経口ゲパント系薬剤が日本でも承認されれば、片頭痛診療はさらに進化するでしょう。また現在開発中の新しい作用機序の薬剤(例:PACAP関連薬など)やデバイスを用いた神経調節療法も将来的に加わる可能性があります。片頭痛は患者の生活の質に大きな影響を与える疾患だけに、治療選択肢の拡大は大歓迎です。
一般内科の先生方におかれましても、最新の治療動向を把握しつつ、必要に応じて専門医と連携して新規治療を取り入れることで、片頭痛患者さんの診療の質をさらに向上させることが期待されます。
最後に、片頭痛診療では患者教育とフォローアップも重要です。新規薬剤は高価ではありますが適切に用いれば患者の人生を大きく改善し得ます。今回解説した内容が日常診療のお役に立てば幸いです。