慢性硬膜下血腫にてんかん発作は合併するか?最新エビデンスによる検討

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はじめに

慢性硬膜下血腫(chronic subdural hematoma; CSDH)は高齢者に多い頭蓋内出血で、軽微な頭部外傷を契機に硬膜下に血液が徐々に貯留する疾患です。典型的な症状は頭痛、意識障害、認知機能低下、局所神経徴候(麻痺など)ですが、てんかん発作(痙攣発作)もCSDHの重要な症状・合併症となり得ます[1]

本記事では、「CSDHにてんかんは合併するか?」という問いに対し、最新の臨床研究(RCT、メタ解析を中心に)を踏まえて発作の頻度、リスク因子、発症時期、予後を整理し、さらに予防的抗てんかん薬(AED)の有用性や発作発生時の治療方針についてエビデンスとガイドラインの現状を解説します。読者は脳神経外科医・神経内科医・研修医を想定し、専門的な内容をできるだけ平易で構造的にまとめます。

痙攣発作の頻度と発症時期

CSDH患者に痙攣発作がどの程度の頻度で生じるかについて、報告はさまざまです。全体として文献上0.7%から18.5%と幅広い範囲の発生率が報告されています[2]。この幅は定義や研究集団による差異を反映しており、発作が手術前に起こったか術後に起こったかで頻度が異なることが背景にあります[3]

発作の発生頻度
例えば、日本からのある大規模研究(1,009例)では、手術前に発作を呈した症例が約2.4%であったのに対し、術後に新規発作を起こした症例は0.4%と報告されています[4]。一方で、手術後の経過中に発作が起こる割合について海外からの報告ではもう少し高く、約4〜10%とするデータもあります[5,6]

最近の系統的レビュー(18研究・計4966例を対象)でも、治療後に痙攣発作を起こした患者のプールされた割合は約10%と推定されています[6]。このメタ解析では対象研究間のばらつきが大きく(異質性I²=93%)、患者集団や定義の違いによる幅が大きいことが示唆されました[6]

発症時期の特徴

発作の起こりやすい時期としては、多くの発作は周術期(手術前後〜退院直後)に集中する傾向があります。実際、1244例の大規模後ろ向き研究では術後早期(入院中〜退院数週内)の発作率が4.2%と報告され、退院後遠隔期に新たな発作を起こす例は稀でした[5]

重要な知見
興味深いことに、この研究では痙攣発作を起こした群と起こさなかった群で血腫の再発率に差はなく(再発率は両群で約4%と同等)、発作によって血腫の再出血・再膨張が直接促進されるわけではないことが示唆されています[5]

したがって、CSDH患者の痙攣発作は初回診断時または術後早期に起こることが多く、遠隔期の発作合併は少ないと考えられます。ただし、一度発作を起こした患者では予後不良となる割合が有意に高い(後述)ため、時期にかかわらず注意深い管理が必要です。

痙攣発作のリスク因子とリスク層別化

CSDH患者がどのような状況で痙攣を起こしやすいか(リスク因子)について、多数の後ろ向き研究の蓄積と近年のメタ解析により徐々に明らかになってきました。痙攣発作の発症機序は完全には解明されていませんが、慢性硬膜下血腫による脳実質への圧迫や血液分解産物による皮質刺激などが関与すると考えられます。

硬膜下血腫は後期になると被膜に覆われ、内部で血液凝固・線溶が進行します。その過程で生じるヘモグロビン分解産物やサイトカインには神経刺激性があり、また大量の血腫による局所血流低下や軽度の皮質損傷も痙攣を誘発しうると指摘されています[7]。加えて、血腫内に多数の中隔膜(多房化)が形成されている場合や、慢性血腫内に新鮮な出血(急性硬膜下血腫成分)が混在している場合も、皮質刺激が強まり発作リスクが上がる可能性があります[8]

主要なリスク因子

画像所見(血腫の大きさ・形状・急性成分)
血腫量が多く中線偏位(midline shift)が大きい症例ほど発作リスクが高いと報告されています。特に術前の中線偏位が大きい(例:≥5mm)ことは術後発作の独立した予測因子であり[9,10]、中線偏位が顕著な場合には術前から抗てんかん薬予防投与を検討すべきとの提言もあります[11,12]

また、CT所見上血腫内に中隔を伴う「分隔型」(trabecular型)の血腫は、単房性の血腫に比べて術後発作が有意に多いとの解析結果があります[13]。さらには、混合密度型(新旧の出血が混在したタイプ)の血腫では線溶産物(フィブリン分解産物[FDP]など)の濃度が高く、これら分解産物が血腫膜を透過して皮質を刺激し痙攣を誘発する機序が示唆されています[14]。実際、日本の後ろ向き研究でも混合密度型(高低混在型)の血腫は痙攣合併例で有意に高率であったと報告されました[14]

手術関連要因

手術術式と操作
CSDHに対する外科的治療には通常穿頭ドレナージ術(burr hole術)が行われますが、場合によっては開頭血腫除去術(大きな骨窓を開ける開頭術)が選択されることがあります。複数の研究で、開頭術は穿頭術に比べて術後痙攣のリスクが高いと報告されています。2024年のメタ解析では、開頭術を受けた群は穿頭術に比べオッズ比4.3倍(OR=0.23[穿頭 vs 開頭])で術後発作リスクが上昇していました[15]

開頭術では血腫膜の一部を切除(膜剥離術)する操作が行われることもありますが、ある解析では膜除去を行った症例で術後発作が有意に多かったとの報告もあり、過度な操作による皮質刺激が懸念されています[9](一方で膜除去の有無と発作に関連なしとする報告もあり、結論は一定していません)。したがって基本的には低侵襲な穿頭ドレナージ術が望ましく、必要最小限の操作に留める方針がリスク低減に繋がると考えられます[16]

患者背景因子

CSDH患者の中でも基礎脳障害や全身疾患を持つ患者は発作合併リスクが高い傾向があります。後方視的解析で繰り返し指摘されているのは、大量飲酒者(アルコール依存傾向)[13]、脳梗塞など脳血管障害の既往[13]、心疾患の合併[18]、および慢性腎不全(透析を含む)[19]といった要因です。

リスク因子 説明・エビデンス
血腫の大きさ・中線偏位 大きな血腫による脳への圧迫(中線偏位≥5mmなど)は発作リスクを上げると報告[10]。術前midline shiftが独立因子との解析あり[9]
血腫の形態(内部構造) 内部に中隔を有する分隔型血腫は発作が多い[13]。混合密度型血腫では血液分解産物が多く脳を刺激しやすいと考えられ[14]、実際その型で発作合併率が高かった[14]
手術術式 穿頭ドレナージ術は開頭術より発作リスクが低い(開頭術は穿頭術の約4倍リスク増)[15]。開頭時の膜剥離操作も発作誘発の可能性あり[9]
ドレーン留置 ドレーン先端が皮質を強く刺激する位置だと発作の誘因となり得る[17]。適切な留置が重要であるが、ドレーン使用自体がリスクを高める明確な証拠はない。
患者背景因子 アルコール多飲歴[13]、脳梗塞既往[13]、心疾患合併[18]、慢性腎障害[19]などがリスクと指摘される。高度脳萎縮・認知症も関連の可能性[20]。逆に若年であるほど発作リスクが高いとの報告もあり[19]、患者の全身状態も考慮した評価が必要。
神経学的状態 手術前の意識レベル低下(GCS<13程度)の症例では発作頻度が高いとの報告[21]。痙攣で発症したCSDH例は基礎に脳傷害を抱えることが多い[20]

予防的抗てんかん薬(AED)投与の有用性:エビデンスと推奨

外傷後や脳出血後の痙攣発作に対しては、てんかん発症を予防する目的で抗てんかん薬(antiepileptic drug; AED)の予防投与を行うことがあります。たとえば外傷性脳損傷では発症早期の抗てんかん薬投与が推奨される場合があります。しかし慢性硬膜下血腫(CSDH)における予防的AED投与の有用性については、近年まで明確な結論が出ていません[22]

現在の推奨状況
臨床現場でも対応が分かれており、術前後にルーチンでAEDを投与する施設もあれば、特に投与しない施設もあるのが現状です。現在のところ、CSDH患者に一律に予防的AED投与をすべきとのコンセンサスは確立していません[23]

最新のエビデンス

この問いに答えるため、2020年前後から予防的AEDの効果を検証した後ろ向き研究やメタ解析が相次いで発表されています。その代表的なエビデンスを紹介します。

2021年メタ解析(13研究)
CSDH患者に対するAED予防投与の有無で痙攣発作発生率に差があるかを検証した系統的レビューでは、予防的AED投与による有意な発作減少効果は認められませんでした[24]。対象研究間で用いられた薬剤はフェニトイン(phenytoin)やバルプロ酸(valproate)、レベチラセタム(levetiracetam)など様々でしたが、総合するとAED投与群と非投与群で術後発作率に有意差なしとの結論です[24]。このレビューは観察研究中心で限界もありますが、少なくともこの時点では「慢性硬膜下血腫へのルーチンの発作予防薬投与を支持する強い根拠はない」とされています。

RCT/比較試験の報告:真のランダム化比較試験は依然不足していますが、小規模な前向き試験があります。例えばバングラデシュからの報告では、CSDH手術患者100例を対象にフェノバルビタール(Phenobarbitone)投与群50例と無投与群50例で発作発生を比較しています[25,26]。結果は、発作発生率が投与なし群4.0% vs 投与群0%と数値上は投与群で低かったものの、症例数が少なく統計的有意差は認められませんでした[27]。著者らは「予防的AEDの rutin 投与は有益性を示せず推奨できない」と結論付けています[28]

2024年メタ解析からの示唆
前述の2024年メタ解析では、予防的AED投与群の方がむしろ発作リスクが高い傾向さえ示されました(OR=2.62, 95%CI 0.53–13.06 とCIが広く有意差なし)[30]。この点について著者らは、重症例(発作ハイリスク症例)に選択的にAEDが投与されていた可能性があり単純比較はできないと述べています[31]。すなわち「発作リスクの高い患者にAEDが投与されていた」バイアスを除去できておらず、現時点でAED予防投与によって発作が減るとも増えるとも結論できないというのが実情です[31]

現在の臨床実践

以上より、国際的なガイドラインにおいてもCSDHに対するAED予防投与の明確な推奨は打ち出されていません(日本でも特異的なガイドラインはありません)。実臨床では、症例ごとのリスク因子に応じた個別判断がなされています。例えば初発症状が痙攣発作であったCSDH患者では、少なくとも術後しばらく(数か月〜1年程度)はAED維持投与を行うことが一般的です。

高リスク症例での考慮
また上述のリスク因子を多数抱えるハイリスク症例(大量血腫・高度偏位・基礎疾患あり等)では、エビデンス不確実ながら術後短期間の予防的AED投与を検討することもあります[12]。特に意識障害が強い例(GCS低下例)や急性硬膜下血腫を合併した例では発作頻度が高いとの報告もあり[21,32]、個別状況に応じ神経内科とも相談の上で予防投与を行うケースがあります。

ただし高齢者ではAEDの副作用(傾眠、転倒、認知機能低下など)にも留意すべきであり、漫然と投与することは推奨されません[33,24]。現状では「CSDHに対する予防的AED投与はルーチンには推奨されず、高リスク症例で慎重に検討する」というスタンスが一般的と言えるでしょう。

痙攣発作を認めた場合の対応と予後

実際にCSDH患者が痙攣発作を起こした場合の臨床対応とその後の予後について整理します。

発作時の初期対応

まず目の前で発作が起きた場合は一般的な痙攣発作の初期対応を行います。具体的には:

  • 気道確保と安全確保:舌根沈下や誤嚥を防ぐため頭位を調整し、酸素投与や必要に応じ気道確保を行います。外傷防止のため患者を安全な姿勢に保持します。
  • 急性期発作の止血:痙攣発作が持続する場合や全身強直間代発作であれば、ベンゾジアゼピン静注(ジアゼパムやミダゾラム等)で速やかに発作を止めます。必要に応じて追加投与し、5分以上持続するてんかん重積状態に移行しないよう管理します。
  • 原因の評価(画像検査):発作が一段落したら頭部CT検査を行い、硬膜下血腫の状態を再評価します。術前であれば血腫の増大や急性硬膜下血腫への移行がないか確認し、緊急手術の適応を判断します。術後であれば血腫残存や再出血、水頭症、脳梗塞など発作誘発の原因が隠れていないかチェックします。
  • 抗てんかん薬の開始:急性期対応後、速やかに抗てんかん薬の負荷投与を行い治療を開始します。高齢CSDH患者では相互作用や副作用の少ないレベチラセタム(LEV)が第一選択となることが多く、静注製剤でロードし経口へ切り替えます。状況によりホスフェニトインやバルプロ酸ナトリウムを用いる場合もあります。
  • 集中治療管理:発作重積や意識低下が遷延する場合、ICU管理下で全身状態を管理します。気道確保のため挿管管理が必要になることもあります。発作原因への対処(血腫除去再手術や減圧術など)が必要ならば並行して行います。

術後管理と長期対応

継続治療の重要性
発作を起こした患者では、上記の初期対応後も抗てんかん薬の継続投与が推奨されます。少なくとも発作後数か月〜1年程度はAEDを内服し経過を見ることが一般的です(明確なエビデンスはありませんが、臨床的には再発作予防のためしばらく治療を続けます)。その後、神経内科専門医と相談しつつ徐々に減量中止を検討します。ただし脳挫傷や脳梗塞の後遺病変がある場合、あるいは複数回発作を起こした場合には、てんかん症(てんかん疾患)とみなして長期的なAED継続が必要になることもあります。

痙攣発作を起こした患者の予後

CSDH患者が痙攣を起こすこと自体は短期的には命に直結しない場合が多いものの、その後の臓器合併症や機能予後に大きく影響することが知られています。発作を起こした群では誤嚥性肺炎や術後せん妄の頻度が上昇し、入院期間が延びる傾向があります[34,35]

予後への影響
実際、中国からの1244例の報告では、発作群は非発作群に比べ肺炎発生率の有意な上昇(p=0.012)や術後昏迷の増加がみられ、入院中死亡率も有意に高かったとされています[36,37]。別の研究では、発作を起こした患者の院内死亡率が20%に達し、発作のなかった患者の0.9%と比して有意に高率であったとの報告もあります[34]。さらに退院時の機能転帰(ADL、自立度)も、発作群では不良(要介護状態)となる割合が有意に高いことが示されています[38]

具体的には、ある解析で発作群の11.5%が後遺症重度(不良な転帰)であったのに対し、非発作群ではそれが1.9%に留まっていました[38]。この差は発作そのものの脳への悪影響に加え、発作の背景となった脳機能低下や合併症の存在を反映していると考えられます。

まとめ
以上より、慢性硬膜下血腫における痙攣発作は決して稀な現象ではなく、一部の患者で生じうる重要な合併症です。発作の頻度は報告によって異なりますが、おおむね数%から1割程度と考えられ、特に術前後の急性期に起こりやすい傾向があります。発作のリスク因子としては、血腫容量・中線偏位の大きさ、多房性・急性成分混在、手術方式(開頭術)、患者の基礎脳症(脳卒中既往、萎縮、アルコール等)など複数が知られ、これらでハイリスク・ローリスクの層別化が可能です。予防的抗てんかん薬の有用性は明確に証明されておらず、現時点ではRoutineな予防投与は推奨されませんが、症例に応じ個別判断されます。そして万一痙攣発作が生じた場合には速やかな救急対応と原因検索を行い、AED治療を開始するとともに合併症予防に努めることが肝要です。発作を起こした患者は予後が悪化しうるため、慎重な管理・リハビリテーションと長期てんかん管理計画の両面からフォローアップすることが重要です[39,38]

参考文献

慢性硬膜下血腫と痙攣発作に関する最新のRCT・メタ解析・観察研究のデータおよび関連ガイドラインの記述に基づき作成しました。

PDFファイル記載の参考文献の対応関係:

  • [1], [4], [14], [20]: 臨床神経学54-11.indb
  • [2], [3], [8], [22], [24]: Role of prophylactic antiepileptic drugs in chronic subdural hematoma-a systematic review and meta-analysis - PubMed
  • [5], [7], [13], [18], [35], [36], [37], [38], [39]: Frontiers | Seizure after chronic subdural hematoma evacuation: associated factors and effect on clinical outcome
  • [6], [9], [10], [11], [12], [15], [19], [21], [23], [30], [31], [32], [34]: Role of prophylactic antiepileptic drugs in chronic subdural hematoma-a systematic review and meta-analysis | Request PDF
  • [16], [17]: Risk factors for postoperative seizures in patients with chronic subdural haematomas | Neurosurgical Review
  • [25], [26], [27], [28], [33]: ijclinicaltrials.com
  • [29]: Efficacy of antiseizure prophylaxis in chronic subdural hematoma
  1. 臨床神経学54-11.indb. https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/054110869.pdf
  2. Role of prophylactic antiepileptic drugs in chronic subdural hematoma-a systematic review and meta-analysis - PubMed. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32910368/
  3. Frontiers | Seizure after chronic subdural hematoma evacuation: associated factors and effect on clinical outcome. https://www.frontiersin.org/journals/neurology/articles/10.3389/fneur.2023.1190878/full
  4. Role of prophylactic antiepileptic drugs in chronic subdural hematoma-a systematic review and meta-analysis | Request PDF. https://www.researchgate.net/publication/344223464_Role_of_prophylactic_antiepileptic_drugs_in_chronic_subdural_hematoma-a_systematic_review_and_metaanalysis
  5. Risk factors for postoperative seizures in patients with chronic subdural haematomas | Neurosurgical Review. https://link.springer.com/article/10.1007/s10143-022-01858-5
  6. ijclinicaltrials.com. https://www.ijclinicaltrials.com/index.php/ijct/article/download/866/466/4689
  7. Efficacy of antiseizure prophylaxis in chronic subdural hematoma. https://thejns.org/view/journals/j-neurosurg/132/1/article-p284.xml

注記: 上記の番号対応関係は、PDFファイル末尾(5-6ページ)に記載されている参考文献の番号分類に基づいています。本文中の[1]~[39]の引用番号は、これらの7つの主要な参考文献グループに対応しています。