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作者コメント
片頭痛の薬の使い分けは、なんとなく頭に入っているのですが、自分の勉強のためにも改めて整理してみました。

1. 片頭痛の病態(簡単な復習) 基礎知識
片頭痛は遺伝的素因や環境因子が関与する複雑な神経血管性疾患です。発作時には大脳皮質での興奮波(皮質拡延性抑制)が生じ、これが前兆症状(視野のチカチカする閃輝暗点など)を引き起こすと考えられています。
三叉神経血管系の活性化により、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)などの神経ペプチドが硬膜血管周囲で放出され、血管拡張や神経原性炎症を引き起こすことで拍動性の頭痛が生じます。CGRPは片頭痛患者で発作時に上昇することが知られており、近年の新規治療薬はこのCGRP経路を標的に開発されています。
片頭痛は命に関わる疾患ではありませんが、4~72時間続く激しい頭痛発作に吐き気・嘔吐、光過敏・音過敏などを伴い、日常生活に大きな支障をきたす社会的に生命を脅かす疾患とも言われます。
2. 急性期治療薬(発作時治療) 急性期
片頭痛発作時の急性期治療の目的は、「できるだけ速やかに頭痛や随伴症状を緩和し、日常生活への影響を最小限にすること」です。軽度の片頭痛には市販鎮痛薬でも効果がありますが、日常生活に支障をきたす中等度以上の頭痛発作では特異的治療薬を用いることが推奨されます。
主な急性期治療薬
| 薬剤分類 | 代表薬 | 使用の考え方 |
|---|---|---|
| 鎮痛薬・NSAIDs | アセトアミノフェン(カロナール®) イブプロフェン、ロキソプロフェン |
軽度~中等度の発作 吐気が強い場合は制吐薬併用 |
| トリプタン系薬 | スマトリプタン、リザトリプタン エレトリプタン、ゾルミトリプタン ナラトリプタン |
中等度以上の発作 発症1時間以内の早期内服が効果的 |
| ジタン | ラスミジタン(レイボー®) | トリプタン無効例、心血管リスク例 服用後は自動車運転禁止 |
| ゲパント | ウブロゲパント、リメゲパント(海外) | 血管収縮作用なし トリプタン禁忌・無効例に有望 |
トリプタン系薬の詳細比較
5-HT1B/1D受容体作動薬で、脳血管の収縮とCGRP放出抑制により高い鎮痛効果を発揮します。各トリプタンの特徴:
- リザトリプタン:効果発現が速く再発率も低い
- エレトリプタン:他剤との相互作用に注意が必要
- ナラトリプタン:発現が緩徐で有効性がやや低い傾向
- スマトリプタン皮下注:効果発現が最も速く重度発作や群発頭痛にも適応
経口以外にも即効性を高める経皮や点鼻、皮下注射製剤があります。
禁忌事項の確認が重要です。片麻痺性片頭痛や脳幹性前兆(以前のバシラーマイグレイン)にはトリプタンは使用しません。また、虚血性心疾患・脳血管障害・末梢動脈疾患のある患者にも禁忌です。スマトリプタン皮下注など強力な製剤では、他のトリプタンやエルゴタミン製剤との併用間隔(24時間以上空ける)を守る必要があります。
妊娠中の急性期治療
妊娠中の急性期治療は基本的にアセトアミノフェンが安全とされます。トリプタンについては妊娠初期に使用しても催奇形性増加は報告されていませんが、重度発作時にやむを得ず使う場合は利益と不利益を慎重に検討し、患者および家族に十分説明します。
3. 予防治療薬 予防
片頭痛発作の頻度や影響が大きい場合には、発作そのものの回数・強度を減らす予防的治療を行います。
一般に「月2回以上の片頭痛発作、または生活に支障をきたす頭痛が月3回以上ある場合」に予防療法を検討します。予防薬の選択にあたっては有効性だけでなく患者の併存疾患や副作用プロファイルも考慮します。
従来型予防薬
| 薬剤分類 | 代表薬 | 用法・用量 | 注意事項 |
|---|---|---|---|
| β遮断薬 | プロプラノロール(インデラル®) | 20-30mg/日から開始 効果に応じ60mg程度まで増量 |
喘息等気管支疾患は禁忌 リザトリプタンと併用禁忌 |
| カルシウム拮抗薬 | ロメリジン(ミグシス®) | 10mg/日から最大20mg | 徐脈や眠気に注意 |
| ARB/ACE阻害薬 | カンデサルタン リシノプリル |
カンデサルタン8mg/日 リシノプリル5-20mg |
高血圧合併例に有用 |
| 抗てんかん薬 | バルプロ酸(デパケン®) トピラマート(トピナ®) |
- | バルプロ酸は妊婦禁忌 トピラマートは国内適応外 |
| 抗うつ薬 | アミトリプチリン(トリプタノール®) | 5-10mg就寝前から開始 | 睡眠改善効果も期待 緊張型頭痛合併例に好適 |
CGRP関連薬(新規予防薬) 最新
2021年以降、CGRPを標的とするモノクローナル抗体製剤が日本でも使用可能となりました。
- ガルカネズマブ(アイモビーク®):皮下注射製剤
- フレマネズマブ(アジョビ®):皮下注射製剤
- エレヌマブ(エムガルティ®):抗CGRP受容体抗体
CGRP関連薬の使用上の注意
副作用は注射部位反応のほか大きな問題は少なく、従来薬より忍容性も良好と報告されています。ただし高価なため適正使用指針が定められており、十分な診察で片頭痛の頻度を確認した上で、他の治療でも生活に支障が残る重症例に限り投与を検討することになっています。
4. 治療戦略と使い分けのポイント 戦略
片頭痛治療では急性期治療と予防療法の二本立てで戦略を立てます。
基本的な考え方
- 発作頻度に応じた予防的介入:発作頻度が月2回以上、もしくは生活障害が大きい場合には予防薬の導入を検討
- ストラティフィケーション:重症度に応じて初めから最適と考えられる薬を選ぶ戦略
- 薬剤過剰使用頭痛(MOH)の予防:急性期薬の使いすぎを防ぐ
ストラティフィケーション(重症度に応じた治療選択)の詳細
発作時治療は頭痛の重症度に応じて初めから最適と考えられる薬を選ぶ戦略が有効です。例えば軽度の頭痛にはまずNSAIDsを、明らかな中重度発作には最初からトリプタンを用いるアプローチです。
この「重症度に応じた治療戦略(stratified care)」は、段階的に薬を強くしていく従来型(step care)より2時間後の痛み軽減率が高く、患者の障害時間を減らせることが示されています。
急性期薬の使いすぎは薬剤過剰使用頭痛(MOH)につながるため注意が必要です。一般にはトリプタンやエルゴタミン製剤は月10日以内、NSAIDs等は月15日以内の使用に留めることが推奨されています。頻回に発作が起きる患者には予防療法を組み合わせ、頭痛ダイアリーを活用して乱用を未然に防ぎます。
治療効果のモニタリング
患者に頭痛日記をつけてもらい、発作頻度や重症度、誘因を記録してもらいます。治療介入後は月あたりの片頭痛日数やQOLの変化を評価し、効果判定と治療計画の修正に役立てます。必要に応じてMIDASやHIT-6といった質問票で障害度の推移を把握します。
5. 特殊な背景における片頭痛治療
妊娠・授乳中の患者
バルプロ酸やトピラマートは厳禁です。どうしても予防薬が必要な場合はメトプロロールなどのβ遮断薬や低用量アミトリプチリンが選択肢となります。
妊娠・授乳中の治療選択詳細
妊娠中は片頭痛発作頻度が減少することも多いですが、発作が起こればまずアセトアミノフェンで対応します。NSAIDsは妊娠後期には胎児への影響が懸念され避けます。
授乳中も基本的には妊娠中に準じますが、母乳への移行を考慮し短時間作用型の薬剤を授乳直後に服用するなど工夫します。
高齢者の片頭痛
高齢者では心血管系リスクが高まるため、トリプタン系の使用にはより慎重な判断が求められます。冠動脈疾患や脳梗塞の既往がある場合はトリプタンは禁忌ですので、代替として鎮痛薬や必要に応じラスミジタンの使用を検討します。
合併症を有する症例への対応
| 合併症 | 推奨薬剤 | 理由・効果 |
|---|---|---|
| 高血圧・冠疾患 | β遮断薬、ARB | 片頭痛と高血圧の双方に有効 (喘息があればβ遮断薬は禁忌) |
| うつ傾向・不眠 | アミトリプチリン | 鎮痛効果に加え睡眠の質も改善 |
| 肥満傾向 | トピラマート | 食欲抑制作用で体重管理にも有利 (国内適応外) |
| 月経関連片頭痛 | NSAIDs、トリプタン | 月経開始前後の短期予防療法 前兆ある女性にはピル禁忌 |
6. 今後の展望 未来
片頭痛治療は近年飛躍的に発展しており、今後も新たな治療オプションが登場する見通しです。
経口CGRP関連薬の拡充
- アトゲパント:経口で毎日服用する初の片頭痛予防専用薬(米国承認済み、日本治験中)
- ザブズレプトナズ鼻噴霧剤:CGRP受容体拮抗薬の点鼻薬(2023年米国承認)
- エプチネズマブ:静脈投与の抗CGRP抗体(海外承認済み)
非薬物療法の展望
薬物に頼らない片頭痛治療として、経皮的迷走神経刺激や経頭蓋磁気刺激などの非侵襲的神経刺激療法が海外では実用化されています。日本でも研究が進んでおり、今後治療選択肢に加わる可能性があります。
治療ガイドラインの更新
世界的な新薬・新技術の登場に伴い、治療指針もアップデートされ続けています。日本頭痛学会も2021年版ガイドラインに続き、近い将来さらなる改訂が行われるでしょう。それにより、CGRP抗体薬を第一選択の予防薬と位置付ける動きや、急性期治療でも個別化医療(precision medicine)的な戦略が取り入れられることが予想されます。
片頭痛治療薬の使い分けには多くの選択肢とポイントがあります。患者一人ひとりの症状や背景に応じて最適な治療計画を立てることが重要です。専門でない先生方にも、本記事が片頭痛診療の一助となれば幸いです。
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参考文献
- [要出典] 日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会(監修).頭痛の診療ガイドライン2021.医学書院;2021.
- [要出典] Ashina M, Buse DC, Ashina H, et al. Migraine: integrated approaches to clinical management and emerging treatments. Lancet. 2021;397(10283):1505-1518.
- [要出典] Puledda F, Silva EN, Suwanlaong K, Goadsby PJ. Migraine: from pathophysiology to treatment. J Neurol. 2023;270(7):3654-3666.
- [要出典] Takeshima T, Kikui S, Danno D. Migraine Management in Japan: Current Approaches and Science Narrative Including an Evidence-based Review. Intern Med. 2024 (オンライン先行公開).
- [要出典] Lipton RB, Croop R, Stock EG, et al. Rimegepant, an Oral CGRP Receptor Antagonist, for Migraine. N Engl J Med. 2019;381(2):142-149.
- [要出典] Dodick DW, Lipton RB, Ailani J, et al. Ubrogepant for the Treatment of Migraine. N Engl J Med. 2019;381(23):2230-2241.
- [要出典] Ailani J, Lipton RB, Goadsby PJ, et al. Atogepant for the Preventive Treatment of Migraine. N Engl J Med. 2021;385(8):695-706.