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作者コメント
片頭痛シリーズを続けてきたので、改めてトリプタンの使い分け、レイボーのこと、そして、まもなく発売されるであろうゲパント系薬剤について再度整理してみました。

📚 目次
概要 重要
片頭痛は日本人の約1割が経験する一般的な神経疾患で、女性に多く30代にピークを迎えます。発作時には激しい頭痛に加え悪心・嘔吐や光過敏・音過敏を伴い、日常生活に大きな支障をきたします。
脳神経内科医で頭痛専門でなくとも、片頭痛の急性期治療を正しく理解しておくことは重要です。本記事では、片頭痛発作時に頓用する治療薬について、NSAIDsからトリプタン、最新のラスミジタンや今後登場が期待されるゲパント系薬剤までを分かりやすく解説します。
NSAIDs(エヌセイズ)による片頭痛治療 第一選択
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は、いわゆる「痛み止め」であり、片頭痛の急性期に広く用いられる薬剤群です。炎症や痛みの原因物質であるプロスタグランジンの産生を抑えることで鎮痛作用を発揮します。
• 軽度~中等度の片頭痛の第一選択
• できるだけ早期(発作の始まり)に服用
• 月に10日未満の頻度で適正使用
• 必要に応じて制吐薬を併用
代表的なNSAIDs
ロキソプロフェン(ロキソニン)の詳細
薬動特性:
- 服用後約30分で吸収
- 血中濃度ピーク:30~50分後
- 半減期:約1.3時間(比較的短時間型)
特徴:
- 即効性があるが作用時間はやや短い
- 1日3回程度まで使用可能
- 市販薬も存在
- 胃腸障害などの副作用に留意
イブプロフェンの詳細
薬動特性:
- 血中濃度ピーク:約1~2時間
- 半減期:約1.8時間
- 鎮痛効果発現:比較的早い(30分程度)
特徴:
- 軽度~中等度の片頭痛に有効
- 400mg程度で2時間後の頭痛改善率が約50~70%
- 副作用は胃腸障害が中心
ナプロキセン(ナイキサン)の詳細
薬動特性:
- 血中ピーク到達:2~4時間後とややゆっくり
- 半減期:約14時間と長く作用が持続
特徴:
- 効果の持続性が高いため頭痛の再燃しやすい症例に適する
- 1日2回投与で持続する長い片頭痛にも対応
- 月経時片頭痛の短期予防に用いる試みも
- 海外では片頭痛治療薬として豊富なエビデンス
• 胃腸障害(胃痛、胃潰瘍、出血など)に注意
• 長期連用や高齢者では腎機能への影響に留意
• 薬物乱用頭痛のリスク(月10日以上の使用は避ける)
トリプタン系5剤の特徴と使い分け 中等度以上
NSAIDsでは十分に抑えられない中等度~重度の片頭痛発作に対しては、トリプタン系薬剤が第一選択となります。
• セロトニン5-HT1B/1D受容体作動薬
• 片頭痛特異的治療薬
• 現在日本で承認されているのは5種類
• 発作の早期に服用するほど効果的
• 脳血管障害や虚血性心疾患のある患者
• コントロール不良の高血圧患者
• 心筋梗塞や脳梗塞の既往
• 24時間以内に他のトリプタン製剤やエルゴタミン製剤を併用しない
トリプタン5剤の特徴
スマトリプタン(イミグラン)
薬動特性:
- Tmax:約1.8時間
- 半減期:約2.2時間
- 効果発現:服用後30分~1時間程度
特徴:
- 最初に開発されたトリプタン
- 経口錠剤のほか点鼻液や皮下注射製剤がある
- 皮下注射では10分程度で効果が現れる
- 1回に50mg錠2錠(計100mg)まで内服可能
- 日最大200mgまで服用可能
- 妊婦への投与も禁忌とはされていない
ゾルミトリプタン(ゾーミッグ)
薬動特性:
- Tmax:約3時間
- 半減期:約2.4時間
特徴:
- 水無しで服用できる口腔内崩壊錠(ODT)あり
- 外出先でも便利
- 1回2.5mg錠を2錠まで服用可能(最大5mg)
- 1日最大10mgまで
- やや穏やかな薬動特性
エレトリプタン(レルパックス)
薬動特性:
- Tmax:約1時間
- 半減期:約3.2時間
特徴:
- 効果発現が速いトリプタン
- 臨床的には効果が強力とも言われる
- 20mg錠を1回1~2錠(20~40mg)
- 1日最大80mgまで
- 母乳への移行が少ない(授乳中でも比較的使いやすい)
グレープフルーツジュースなどCYP3A4阻害作用のあるものとの併用は注意。強いCYP3A4阻害薬(イトラコナゾール等)は併用禁忌。
リザトリプタン(マクサルト)
薬動特性:
- Tmax:約1時間
- 半減期:約1.6時間
特徴:
- もっとも速く効果が現れるトリプタンの一つ
- 即効型・短時間型
- 10mg錠(通常1回1錠)
- 口腔内崩壊錠もあり
- 小児(小学生以上)にも適応
- 作用が早い反面、効果の持続時間はやや短め
β遮断薬プロプラノロールとの併用は禁忌。プロプラノロールがリザトリプタンの代謝を阻害し血中濃度を上げてしまうため。
ナラトリプタン(アマージ)
薬動特性:
- Tmax:約2.6時間
- 半減期:約5時間
特徴:
- 効果発現はゆっくりめだが作用持続が最も長い
- 1回2.5mg(1錠)で効果が8時間以上持続することも
- 頭痛の再燃が多い患者では再燃予防に有用
- 月経関連片頭痛に適している場合がある
- 腎排泄型(重度の腎機能低下例には使えない)
- 比較的副作用が少なく忍容性の良いトリプタン
ラスミジタン(レイボー) – 新しい「ジタン系」薬剤 2022年承認
ラスミジタン(商品名レイボー)は、2019年に米国で世界初のジタン系片頭痛治療薬として承認され、日本でも2022年1月に承認・同年6月に発売された比較的新しい薬です。
• 5-HT1F受容体に選択的に作用
• 血管収縮作用がほとんどない
• 心筋梗塞や脳梗塞の既往がある患者でも使用可能
• 片頭痛発症から時間が経ってから服用しても効果的
作用機序と臨床的特徴
作用機序はトリプタンとは異なり、5-HT1F受容体に選択的に作用します。5-HT1F受容体は三叉神経終末に存在し、ここを刺激すると痛みに関与する神経ペプチド(CGRPなど)の放出を抑制できます。つまりラスミジタンは三叉神経の興奮を鎮めて痛みを止める薬であり、トリプタンのように血管を収縮させる作用はほとんどありません。
適応患者と臨床効果
適応となる患者:
- 心筋梗塞や脳梗塞の既往がある患者
- 動脈硬化リスクが高い患者
- 高血圧や末梢血管障害を有する患者
- トリプタンが禁忌とされる脳心血管疾患の患者
臨床効果の特徴:
- 片頭痛発症から時間が経ってから服用しても効果が得られやすい
- 頭痛発症後1時間以上経過してから服用しても痛みが改善
- 「タイミングを逃してしまった」場合でも使いやすい
強い中枢神経抑制作用
• 顕著な眠気やめまい、注意力低下
• 服用後少なくとも8時間は自動車の運転や機械操作を避ける
• 「飲んだらその日は安静に休む」ことを徹底
用法用量
通常100mgを片頭痛発作時に経口投与(50mgに減量可、200mgまで増量可)。効果が十分得られれば追加服用は不要ですが、一旦おさまった頭痛が再発した場合には再投与可能です。ただし24時間以内の総量は200mgまで(100mg錠なら2回まで)という制限があります。
トリプタン無効例や血管リスク患者への対応
一部の患者ではトリプタンでも十分な効果が得られないことがあります。また心血管リスクが高くトリプタンが禁忌となる患者も存在します。
他のトリプタンへの変更
あるトリプタンが効かなくても、別のトリプタンでは効果が出る例があります。個人差が大きいため、トリプタン無効=クラス効果がないと即断せず、種類を変えて再挑戦してみる価値があります。
実際に「スマトリプタンは効かなかったがリザトリプタンは効く」といった患者も経験されます。
薬剤の剤形や組合せの工夫
内服薬が無効な場合の対応:
- 皮下注射や点鼻など投与経路を変更
- 制吐薬を先に投与して吸収を改善
- 吸収の早い製剤に切り替え
- トリプタン+NSAIDs併用で効果と持続性を向上
特に著明な悪心・嘔吐を伴う発作では内服薬の吸収不良が原因で効かない場合があります。
ラスミジタンの使用
心疾患や脳卒中歴がある患者ではトリプタンは使えませんが、その代替としてラスミジタンが非常に有用です。またトリプタンで効果不十分な場合にも別の発作時にラスミジタン単独を試すことが可能です。
血管リスクを気にせず使える点が最大のメリットです。
その他の選択肢
ジヒドロエルゴタミン(DHE)やエルゴタミン製剤:
- エルゴタミン・カフェイン配合錠(クリアミンなど)が入手可能
- 効果はトリプタンに劣り、副作用(吐き気、依存など)も多い
- トリプタンで頭痛の再燃が多い患者では、ごく初期に服用すれば一定の効果
- 心血管リスクがある患者にはエルゴタミンも禁忌
非薬物療法や神経ブロック:
- 重度で治療抵抗性の片頭痛発作(片頭痛発作重積)
- 点滴治療(静脈水分、鎮静薬、ステロイド等)
- 大後頭神経ブロック
- 専門的対応として頭痛専門医にコンサルト
今後登場が期待されるゲパント系薬剤 未承認
近年、片頭痛の病態に重要なCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)を標的とした新薬が相次いで開発されています。その中で経口薬として登場したのがゲパント系薬剤(Gepants)です。
• 低分子のCGRP受容体拮抗薬
• 片頭痛発作時に放出されるCGRPの作用をブロック
• 心血管への影響なし
• 海外では既に複数のゲパントが承認・使用中
代表的なゲパント系薬剤
ウブロゲパント(商品名Ubrelvy)
承認状況: 米国で2019年末に承認された初のゲパント系急性期治療薬
薬動特性:
- 効果発現:内服後1時間前後
- 半減期:約5~7時間
- 必要に応じて2時間後に追加投与も可能
- 1日2回まで服用可能
特徴:
- 2時間後の頭痛軽減効果がプラセボより有意に高い
- 主な副作用は一過性の傾眠や悪心だが頻度は低い
- 心血管への影響はない
リメゲパント(商品名Nurtec ODT/Vydura)
承認状況: 米国で2020年に承認
薬動特性:
- 効果発現:約1.5時間
- 半減期:約11時間と比較的長い
- 効果が持続しやすい利点
特徴:
- 1剤で急性期治療と予防療法の両方に使える
- 発作時に口腔内崩壊錠75mgを頓用
- 2日に1回定期内服で片頭痛発作頻度を減らす予防薬としても機能
- 副作用は口腔内崩壊錠で苦味、やや悪心がプラセボより高率程度
リメゲパント(国内開発名:BHV-3000)の製造販売承認申請が2024年末に行われており、順調なら2025年~2026年頃に日本でもリメゲパントが登場すると見込まれます。
ゲパント系薬剤の臨床的意義
経口ゲパントは即効性に優れ、内服後速やかに頭痛が改善することが確認されており、トリプタンと比較しても遜色ない有効性が示されています。実際、ゲパントの頭痛改善効果はトリプタンと同程度とのメタ解析もあり、患者にとっては「効き目は同じくらいだが副作用が少ない薬」となる可能性があります。
各急性期治療薬の選択目安(比較表)
以下は、主な急性期治療薬の特徴を一覧表にまとめたものです。患者の状態に応じた薬剤選択の参考にしてください。
| 薬剤名(種類) | 効果発現時間 ※Tmax参考 |
半減期 (T1/2) |
主な副作用・注意点 | 主な併用禁忌・注意 | 保険適用状況 (日本) |
|---|---|---|---|---|---|
| ロキソプロフェン (NSAID) |
約0.5時間 | 約1.3時間 | 胃腸障害、腎機能悪化(長期大量時) ※喘息発作惹起に注意 |
特になし (NSAIDs同士の重複に注意) |
○ (処方薬・市販薬あり) |
| イブプロフェン (NSAID) |
約1時間 | 約1.8時間 | 胃腸障害、眠気少々 | 特になし (NSAIDs同士の重複に注意) |
○ (処方薬・市販薬あり) |
| ナプロキセン (NSAID) |
約2~4時間 | 約14時間 | 胃腸障害(長時間作用) ※長期連用で潰瘍に注意 |
特になし (NSAIDs同士の重複に注意) |
○ (処方薬) |
| スマトリプタン (トリプタン) |
約1.8時間 | 約2時間 | 一過性の胸部圧迫感、眠気 | エルゴタミン製剤との併用禁忌 他のトリプタンと24時間以内併用不可 |
○ (片頭痛治療薬) |
| ゾルミトリプタン (トリプタン) |
約3時間 | 約2.4時間 | 眠気、口内違和感(OD錠) | 他のトリプタンと24時間以内併用不可 | ○ (片頭痛治療薬) |
| エレトリプタン (トリプタン) |
約1時間 | 約3.2時間 | 眠気、めまい少々 ※グレープフルーツで血中濃度上昇 |
CYP3A4阻害薬 (イトラコナゾール等)併用禁忌 |
○ (片頭痛治療薬) |
| リザトリプタン (トリプタン) |
約1時間 | 約1.6時間 | 眠気、めまい少々 | プロプラノロール併用禁忌 他のトリプタンと併用不可 |
○ (片頭痛治療薬) |
| ナラトリプタン (トリプタン) |
約2.6時間 | 約5時間 | 眠気、倦怠感少々 ※腎機能低下時は減量 |
他のトリプタンと24時間以内併用不可 | ○ (片頭痛治療薬) |
| ラスミジタン (5-HT1F作動薬) |
約1時間 (0.5~1時間) |
約5~6時間 | 強い眠気・めまい 倦怠感(運転禁止8時間) |
他の中枢神経抑制薬との併用注意 アルコールで増強 |
○ (2022年承認) |
| ウブロゲパント (ゲパント) |
約1時間 | 約5–7時間 | 傾眠、口乾、悪心(頻度低) | 強力なCYP3A4阻害薬併用注意 | × (未承認:米国2019年) |
| リメゲパント (ゲパント) |
約1.5時間 | 約11時間 | 軽度の悪心、傾眠まれ | 特になし (CYP3A4誘導薬で効果低下) |
× (未承認:申請中) |
※効果発現時間はTmax(血中濃度ピーク)を一つの目安として記載。実臨床での体感発現時間とは異なる場合があります。
※保険適用状況:「○」は医師の処方で保険適用可(片頭痛適応があるもの)。「×」は未承認(2025年現在)。
おわりに
片頭痛の急性期治療薬は、この数年でラスミジタンやゲパント系の登場により新時代を迎えつつあります。従来からあるNSAIDsやトリプタンを上手に使いこなしつつ、新薬の特性を踏まえて患者一人ひとりに最適な治療戦略を立てることが重要です。
• 発作の重症度を見極め、重症度に応じて治療薬を層別化(stratified care)
• 軽症にはNSAIDs、重症にはトリプタン
• それが使えない場合にラスミジタンや今後のゲパント
• 急性期治療と予防療法を組み合わせる
頭痛を専門としない先生方でも、本記事の内容を押さえていただければ日常診療で片頭痛患者に遭遇した際に適切な対応ができるでしょう。幸い片頭痛治療薬は保険適用も整備されてきており、2021年には予防目的のCGRP抗体製剤も登場しています。急性期治療と予防療法を組み合わせ、患者さんが「片頭痛とうまく付き合いながら生活の質を維持できる」ことを目指していきましょう。
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参考文献
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- [要出典] Lipton RB, et al. Rimegepant, an oral calcitonin gene-related peptide receptor antagonist, for migraine. N Engl J Med. 2019;381(2):142-149.