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甲状腺眼症の診断 - モバイルプレゼンテーション | Claude | Claude
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概要と疫学
甲状腺眼症(Thyroid Eye Disease: TED、いわゆるBasedow病眼症)は、甲状腺疾患に伴う自己免疫性の眼窩組織炎症であり、中年女性に多く見られます[1][2]。Graves病患者の25〜50%が程度の差はあれ眼症を発症し、そのうち重篤な視力障害に至るのは数%と報告されています[2][3]。女性の発症率は男性の5倍前後と高く(男性0.5–2%、女性2–10%程度)[4]、発症年齢は30–60歳がピークです。また喫煙は最大の環境リスク因子であり、喫煙者では発症・増悪リスクが有意に高くなります[5]。甲状腺機能亢進症(Graves病)がある患者の大半で甲状腺眼症は甲状腺疾患の発症前後1年以内に出現しますが、先行あるいは遅れて発症することもあり[6][4]、橋本病など甲状腺機能低下症に合併する例もまれながら存在します[7]。甲状腺眼症の発症には遺伝素因に加えて喫煙、放射性ヨウ素治療、ストレスなども関与するとされます[8]。
病態の概要
TEDの病態は自己免疫反応による眼窩内組織(眼瞼・後眼窩の軟部組織、外眼筋、脂肪組織など)のリンパ球浸潤と炎症です[9]。特に眼窩内の線維芽細胞がTSH受容体(TSH-R)に対する自己抗体によって活性化され、グリコサミノグリカン(ヒアルロン酸など)の産生や脂肪細胞への分化を引き起こします[10]。これにより外眼筋や眼窩脂肪組織が浮腫・肥大化し、眼球突出や眼球運動障害などを招きます。また長期経過でコラーゲン沈着が進み、組織線維化による不可逆的変化が生じます[11]。主要な自己抗体はTSH受容体抗体(TRAb)であり、その血中濃度は眼症の重症度と相関することが知られています[12]。一方、インスリン様成長因子-1受容体(IGF-1R)も眼窩線維芽細胞に高発現して自己免疫反応に関与しており、近年この経路を標的とした治療薬(テプロツムマブ)が登場しています[13]。病態の経過としては活動期(炎症積極期)と非活動期(線維化安定期)に分けられ、活動期は通常6〜18ヶ月ほど持続した後に自然に沈静化するとされています[14][15]。従って診断にあたっては現在の病勢(活動性と重症度)を正確に評価することが重要です。
臨床症状と眼所見の特徴
臨床症状と眼所見の詳細
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甲状腺眼症では多彩な眼症状が現れます。代表的な所見は眼瞼後退(Dalrymple徴候)であり、患者の約90%に上眼瞼挙上による強い眼光刺激症状がみられます[16]。これに伴い眼球突出(眼球突出症)もしばしば出現し、甲状腺眼症は成人の片眼・両眼性眼球突出の最も多い原因です[17]。その結果、角膜露出による乾燥感・異物感、流涙や羞明(まぶしさ)、眼痛などの症状が生じます[18]。眼瞼や結膜の発赤・浮腫など眼窩周囲の軟部組織炎症もしばしば認められ、充血や結膜浮腫、眼瞼浮腫は活動期の重要な所見です[17]。
進行例では複視(復視)が出現します。これは主に外眼筋の肥大・線維化による眼球運動制限によるもので、上下方向の複視(例えば上方視での複視)は下直筋の肥厚による眼球上転障害、左右方向の複視は内直筋の肥厚による外転制限が原因となります[17][19]。外眼筋の肥厚は頻度の高い順に下直筋、内直筋、上直筋群(上直筋+眼瞼挙筋)、外直筋、斜筋と報告されており(「I'M SLOw」という語呂で覚えられる)、中でも下直筋の病変が最も一般的です[20]。このため上方視の制限(下直筋麻痺様のVon Graefe徴候)がよくみられます。また眼球運動時痛や眼窩深部痛も活動期にはしばしば訴えられる症状です[20][21]。
重症例では視力低下が問題となります[22]。これは角膜潰瘍による視力障害や視神経圧迫症(圧迫性視神経症)による視力・視野障害で、特に後者は緊急治療が必要な合併症です[23]。眼窩尖端部で肥大した外眼筋が視神経を圧迫することで生じ、全甲状腺眼症患者の3〜5%(報告により~6%)と少数ながら発生しうるため注意が必要です[24][3]。視神経症の兆候として視力・色覚低下やRAPD(相対的求心性瞳孔障害)が認められ、視野検査では中心暗点や傍中心暗点、弓状暗点など視神経症に典型的な異常が現れます[25]。眼底所見では初期には乳頭浮腫を欠き正常に見えることも多く、進行すると萎縮性変化が現れます[26]。
甲状腺眼症の症状は左右両眼にほぼ対称性に出現することが多いですが、一側性に強く出る例(約10%)や左右差の大きい例(約30%)もあります[27]。したがって片眼性眼球突出を呈する場合でも甲状腺眼症の可能性を念頭に置く必要があります。実際、日本人の大規模データでも甲状腺眼症患者の約15%が初診時片眼性だったとの報告があります[28]。総じて甲状腺眼症は症状・所見が多彩であり、重症例ではQOLが著しく損なわれることから[29]、早期診断と適切な重症度評価が重要です。
神経眼科的所見との鑑別診断
甲状腺眼症では上述のように多様な眼症状が出現するため、他の神経眼科疾患との鑑別が問題になります。以下に主要な鑑別疾患と臨床所見の相違点をまとめます。
- 眼筋麻痺(動眼神経・滑車神経・外転神経麻痺): これらの脳神経麻痺では、通常は一つの外眼筋の麻痺に対応した特定の複視パターンを示し(例: 外転神経麻痺なら患側眼の外転不全による内側偏位)、眼球運動障害は麻痺筋の方向にのみ限定されます。一方、甲状腺眼症では下直筋や内直筋など複数筋が肥厚・硬化しており、特定の神経支配領域に限定されない制限(例: 上転制限+外転制限)がみられることがあります。また甲状腺眼症では眼瞼後退や眼球突出を伴うのが典型であるのに対し、単一の脳神経麻痺では眼瞼下垂や眼球陥凹はあっても突出は起こりません。甲状腺眼症では眼球の圧迫感や眼窩痛を伴うことがある点も、通常無痛の末梢神経麻痺と異なります。
- 重症筋無力症(眼筋型): 自己免疫性の神経筋接合部障害で、外眼筋麻痺や眼瞼下垂を呈しうるため甲状腺眼症との鑑別が重要です。MGでは眼瞼下垂が典型的で、夕方に増悪・朝に寛解する日内変動や疲労で悪化する特徴(易疲労性)があります。また眼球突出は伴わず、複視のパターンも一定せず可逆的です。一方TEDでは眼瞼下垂より眼瞼挙上が多く、複視も慢性的かつ固定的です。単純な徒手筋力試験では判断が難しい場合、テンシロンテストやアイスパックテスト、エドロフォン試験などMGの検査や、甲状腺ホルモン・抗体検査(MG患者でも合併があり得るため両疾患の検査が推奨されます)を行います。MGとGraves病は合併することもあるため完全な鑑別が難しいケースもありますが、画像検査で外眼筋の形態変化があればTEDを強く示唆します[30]。
- 特発性眼窩炎症(眼窩偽腫瘍): 原因不明の眼窩内炎症で、眼球突出や外眼筋肥大を生じる点でTEDと共通します。鑑別点は発症が急性で疼痛や眼球運動痛が強いこと、しばしば片眼性であること、全身副腎皮質ステロイドへの反応性が良好なことです。画像上も筋肉の腱部まで肥厚する傾向があり(TEDでは腱付着部は相対的に温存される[31])、時に視神経周囲の炎症も伴います。IgG4関連眼疾患も鑑別に挙がりますが、これも画像では腱も含めた肥厚や涙腺腫大、時に両側対称的な滑車上神経周囲の硬化性炎症など特徴所見があります[32][33]。
- 海綿静脈洞瘻(CCF): 内頸動脈海綿静脈洞瘻では、眼球突出と結膜充血、眼球拍動や雑音、網膜静脈うっ滞などが出現し、外転神経麻痺を併発することが多いです。甲状腺眼症との違いは、結膜の高度な静脈怒張や眼球拍動、眼瞼・結膜の拍動性腫脹などで、血管性雑音が確認できればCCFが強く示唆されます。
- 眼窩内腫瘍: 徐々に進行する片側性の眼球突出や視力障害を呈する場合、眼窩腫瘍やリンパ腫なども鑑別に含めます[30]。画像検査(MRI/CT)で外眼筋のびまん性肥大(TED様)ではなく限局性腫瘤を認めたり、眼窩脂肪内の結節性病変を認めた場合は腫瘍性病変を考えます。特に眼窩リンパ腫は中高年に生じやすく、無痛性で徐々に進行する眼球突出をきたします(筋肉肥大が局所的で腱付着部まで及ぶ点もTEDと異なります[34][35])。また転移性甲状腺癌が軟部組織浸潤して眼球突出の原因となることもまれですが報告があります[36]。
以上のように、甲状腺眼症は多彩な症状ゆえに他疾患と紛らわしい場合があります。特に片眼性の症状や眼瞼下垂を主症状とする場合、あるいは眼所見に比して視力低下が顕著な場合は別の疾患を示唆するため注意が必要です。一方で甲状腺眼症でも例外的に「オカルトTED」と称される眼球突出をほとんど伴わない視神経症型が存在し、この場合は甲状腺機能検査や眼窩MRIで初めて診断に至ることもあります[37][38]。総合的な診察所見と検査所見の組み合わせで総括的に診断することが重要です[30]。
診断に有用な診察所見
診察所見の詳細
身体診察では眼窩の視診・触診に加え、視機能と眼球運動の評価を綿密に行います。まず眼球突出の程度は、眼球突出計(ヘルトル眼球突出計)で眼球突出度(Exophthalmos)の定量を行います。正常値は人種によりますが一般に12〜14mm前後(白人では16mm程度)で、20mm以上または健側との差が2mm超で眼球突出と判断します[39]。甲状腺眼症では左右差を伴うことが多いので両眼測定は必須です。また他覚的には上強膜露出(強膜が角膜輪部上方に見える)、眼球後方からの抵抗感(眼球後方を指で軽く押すと抵抗を感じる)などが参考になります[40]。
次に眼瞼徴候として、Dalrymple徴候(一次視線位での上眼瞼後退により強膜が見える)、von Graefe徴候(下方視時の上眼瞼下垂遅延)、Graefe徴候(同)、Kocher徴候(凝視様の眼差し)などが古典的に知られます[16][41]。特にDalrymple徴候は重要で、立位注視で上眼瞼と虹彩角膜縁との間に強膜が顕著に露出します。また瞬目の減少(Stellwag徴候)や瞬目時の眼瞼の不随意運動(Boston徴候)なども観察されます[42]。眼瞼周囲の浮腫(眼瞼腫脹)もよくみられ、これは朝に強く夕方に軽減する傾向があります。
続いて眼球運動の評価では、各方向注視での眼球運動制限と複視の有無を確認します。典型的には上方視で眼球が十分挙上できず(下直筋の肥厚による)、外方視で外転が制限されることがあります(内直筋の肥厚による)[20]。眼球運動障害がある場合、その分野に対応する二重像の間隔や患者の代償頭位(例えば斜頸)なども観察します。複視が常に出るのか、一日の中で変動するのか(MGでは変動性あり)、どの方向で悪化するかも重要です。必要に応じHess赤緑試験やカバープリズムテストで複視の定量を行い、経過観察に役立てます[43]。外眼筋の圧痛は通常ありませんが、内側直筋部の圧を感じるとの訴えがある場合もあります。
瞳孔反射は必ず確認します。対光反射でRAPD(片側の相対的求心路障害)が認められれば視神経症の徴候であり緊急度が高くなります[26]。また色覚検査(石原表・アノマロスコープなど)で赤や青の色調低下がないか評価します。視力は基本ですが、軽度の視神経症では視力は保たれて色覚や視野のみ異常ということもあるため油断できません[26]。視野検査(静的・動的ペリメトリー)も視神経症を疑う場合には行います。眼底検査では視神経乳頭の発赤腫脹がないか、あるいは萎縮がないか確認します(ただし上述のように圧迫性視神経症では初期は正常なことも多いです)。
最後に眼科的な前眼部所見として、角膜障害の有無を調べます。眼球突出や眼瞼裂拡大により角膜が露出し、乾燥性角結膜炎や上方角膜上皮欠損(SPK)、重症例では角膜潰瘍や穿孔を起こし得ます[44]。このため涙液の状態や角膜知覚、NaFl染色による角膜上皮障害の有無をチェックします。眼圧も注視方向で変動しうるため計測します(一般に上転位で眼圧が上昇することがあります)。
以上の診察所見を総合すると、甲状腺眼症では上眼瞼後退と眼球突出、複視、眼球運動障害が特徴的であり、場合により視神経障害を来すことがわかります[17]。診察段階で甲状腺眼症が疑われたら、確定診断と重症度評価のため次に述べる検査を行います。
血液検査
甲状腺眼症が疑われた場合、甲状腺機能と関連自己抗体の測定が診断の助けになります。具体的には甲状腺ホルモン(T3, T4)とTSHを測定し、甲状腺機能亢進症または低下症の有無を確認します。典型的にはGraves病に伴う甲状腺機能亢進症(血中T3, T4高値・TSH低値)がみられますが、既に治療中で甲状腺機能が正常化している例や、橋本病合併例では甲状腺機能が正常〜低下の場合もあります。TSH受容体抗体(TRAb)はGraves病の自己抗体であり、甲状腺眼症では高頻度に陽性となります[45]。特に刺激性抗体であるTSAb価は眼症の活動性・重症度と相関するとの報告があり[12]、診断だけでなく経過予測にも役立つ可能性があります。その他、抗サイログロブリン抗体や抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(抗TPO抗体)が陽性となることもありますが、甲状腺眼症そのものの診断指標としてはTRAbが最も重要です。鑑別診断で重症筋無力症を疑う場合は抗Ach受容体抗体検査やエドロフォン試験を追加します。甲状腺クリーゼなど他の甲状腺疾患のスクリーニングも包括的に行い、全身状態を評価します。
活動性の評価(CASスコアなど)
甲状腺眼症のマネジメントでは、現在眼症が活動期(炎症が活発な時期)か非活動期かを判断することが極めて重要です。活動期で炎症が強い場合は免疫抑制治療の適応となりうる一方、非活動期では炎症が落ち着いているため手術的治療の検討段階となります。この活動性の指標として広く用いられているのが臨床活動性スコア(CAS: Clinical Activity Score)です[64]。
CASは炎症の古典的兆候7項目(眼窩痛〈安静時〉、眼窩痛〈眼球運動時〉、眼瞼発赤、結膜充血、結膜浮腫、眼瞼浮腫、涙丘(カントン)充血・浮腫)からなり、各1点で計点します[19]。CASは簡便な指標ですが定性的評価であるため限界もあり[54]、活動性評価には画像所見や血清学的指標も総合的に用いることが望ましいでしょう[66]。そのほかVISA分類(Vision, Inflammation, Strabismus, Appearance)という眼症評価法もあり、炎症(I項目)を10点満点で評価し5点以上で積極治療を推奨する基準などがあります[67]。ただしVISAは米国の提唱する分類で、EUGOGOのCASとは併用せずいずれか一方で統一して評価する必要があります[64]。いずれのスコアリングも視力障害(視神経症や角膜障害)の有無が最重要項目となります。例えば視力低下を伴う場合はCASにかかわらず「活動性の重症眼症」として即治療が検討されます[38]。昨今ではMRIやPETで筋肉や脂肪組織の信号定量を測定して活動性を評価する試みもあり、将来的には客観的バイオマーカーが確立する可能性があります[62]。
重症度分類と臨床的意義
甲状腺眼症の重症度(severity)は、上記の活動性とは独立した概念で、「視機能障害や日常生活への支障の程度」に着目した分類です[68]。従来、米国甲状腺学会のNOSPECS分類が広く用いられてきました(Class 0〜VIまで、眼瞼徴候のみ〜視神経症までの段階分類)が[69]、現在はEUGOGOの重症度3分類(軽症・中等症・視機能危険(重症))が実臨床では分かりやすく使われます[70]。重症度判定には眼瞼、軟部組織、眼球突出度、複視の程度、角膜障害、視神経機能の6要素を総合評価します[71]。その上で例えば次のように分類します[70]:
重症度分類の詳細
- 軽症(mild): 眼瞼後退や軽度の眼瞼・結膜の発赤腫脹、軽度の眼球突出(例:片眼8–10mm程度[69])があるものの、複視はなく日常生活に支障がない状態。視力障害や角膜障害のリスクもない。こうした軽症例では強力な免疫治療は不要で、経過観察や対症療法(眼脂のケア、潤滑剤の使用など)が主体となります[72][73]。
- 中等症(moderate to severe): 眼瞼後退が明らかで眼瞼腫脹・結膜充血も中等度以上、眼球突出も顕著(例:18〜20mm以上[69])、複視が日常生活で支障を来すレベルに存在する状態です。ただし角膜潰瘍や視神経症は認めないものが該当します。中等症では患者のQOL低下が著しいため、活動期であれば全身ステロイド療法(パルス療法)などによる免疫抑制治療を積極的に検討します[74]。非活動期であっても複視や眼瞼異常による機能的・美容的問題が大きければ、眼位矯正手術や眼瞼手術を計画します。
- 重症(視機能危険、sight-threatening): 視神経圧迫症(DON)や角膜潰瘍を伴う状態です[75]。具体的には視力低下や視野狭窄、RAPD陽性や乳頭異常を認める視神経症例、および角膜上皮欠損が治癒せず潰瘍化・穿孔の恐れがある重度の曝露性角膜症例が該当します[44]。この段階では眼科救急として取り扱い、直ちに副腎皮質ステロイド大量療法(メチルプレドニゾロン静注パルスや経口高容量)を開始し、場合によっては緊急眼窩減圧術も検討されます[76][77]。特にDONでは1g以上のステロイド点滴を連日行うことが推奨され、効果不十分なら早期に眼窩減圧術で視神経の除圧を図ります[76][77]。
重症度分類の臨床的意義は、このように治療方針の決定に直結する点にあります。軽症では経過観察、活動性中等症では積極的免疫治療、重症では緊急治療といった具合に、重症度と活動性を踏まえて他科連携による治療計画を練る必要があります[78]。なお、日本におけるガイドラインでも重症度と活動性に基づく治療アルゴリズムが提案されており[79]、第3次試案(2023年)ではMRI所見を組み込んだフローチャートが示されています[79]。患者のQOL評価も含め、重症度分類は治療適応のみならず予後予測にも重要です。例えば一部の研究では「男性・高齢発症・喫煙者・高TRAb価」の患者群で重症化リスクが高いことが示されており[8]、重症度分類と合わせてそうしたリスクファクター管理も考慮されます。
画像検査
甲状腺眼症の診断にはCTやMRIによる画像検査が非常に有用です。CT検査は骨構造の描出に優れ、外眼筋の石灰化や骨の形態評価ができるため、多くの場合に初期検査として行われます[46][47]。
画像検査の詳細所見
CT所見
CT所見として典型的なのは外眼筋の紡錘状肥大で、筋腹部が太く腱付着部は比較的温存されるパターンです(コカコーラ瓶様変形とも形容されます)[48]。左右対称の複数筋肥大が高頻度で(両眼性:約90%、左右ほぼ対称:約70%)認められます[49]。最も侵されやすい筋は下直筋と内直筋であり、ときに上直筋群や外直筋も含めて全筋性に肥厚します[21]。筋径の増大は臨床重症度や視神経圧迫リスクと相関するとされ、Barrett指数(垂直・水平の筋径合計を眼窩高・幅で除した比率)が67%超の場合、視神経症の発生率が高いとの報告があります[50]。
実際、CTで眼窩尖端部の脂肪スペース消失(apical crowding)が確認できれば視神経症の可能性が高くなります。骨性眼窩の形態としては、眼窩容積が小さい(特に内側壁が狭い)症例で視神経症リスクが高いことが知られ[51][52]、CTで骨構造を確認することも重症度予測に有用です[47]。またCTは手術計画(眼窩減圧術)の際に骨壁の形態を把握するため必須です[46]。一方、被曝があるため経過観察で頻回に行うことは避けます。


MRI所見
MRI検査は軟部組織コントラストが高く、視神経や眼窩軟部の評価に優れる検査です[53][54]。特に視神経圧迫の有無や外眼筋・脂肪の炎症の程度(活動性評価)に有用です[55]。T1強調像では筋は等信号〜やや高信号でガドリニウム造影後に増強されることがあり、T2強調像で筋が高信号を呈していれば活動性炎症を反映します[56]。短T1 inversion recovery(STIR)像は浮腫を鋭敏に捉えるため活動性の指標として有用です[57]。また造影MRIで強膜傍の静脈洞拡張(上眼静脈怒張)や視神経鞘の形態変化(くびれ)を捉えることができ、これらも視神経症の所見として知られています[58]。MRI所見上、炎症期には筋肥大と高信号(浮腫)を伴い、非活動期になると筋は低信号化(線維化)します[59][60]。
MRI導入により、CASが低値(<3点)でも画像上活動性病変が検出される例が少なくなく、そのような場合には早期に治療介入すべきとの報告があります[61]。したがってMRI所見は臨床所見と併せて総合的に判断することが推奨されます[62][63]。なお超音波検査(A-scan, B-scan)でも外眼筋肥厚を測定できますが[61]、眼窩尖端部や視神経の評価は困難でありルーチンには用いられません。FDG-PETによる眼窩集積評価も試みられていますが、現時点では研究段階であり日常診療には普及していません[62][63]。
他科との連携
甲状腺眼症でも全身ステロイド療法(パルス療法)などによる免疫抑制治療を積極的に検討し[74]、非活動期であっても複視や眼瞼異常による機能的・美容的問題が大きければ、眼位矯正手術や眼瞼手術を計画します。
重症(視機能危険、sight-threatening): 視神経圧迫症(DON)や角膜潰瘍を伴う状態です[75]。具体的には視力低下や視野狭窄、RAPD陽性や乳頭異常を認める視神経症例、および角膜上皮欠損が治癒せず潰瘍化・穿孔の恐れがある重度の曝露性角膜症例が該当します[44]。この段階では眼科救急として取り扱い、直ちに副腎皮質ステロイド大量療法(メチルプレドニゾロン静注パルスや経口高容量)を開始し、場合によっては緊急眼窩減圧術も検討されます[76][77]。特にDONでは1g以上のステロイド点滴を連日行うことが推奨され、効果不十分なら早期に眼窩減圧術で視神経の除圧を図ります[76][77]。
甲状腺眼症の診療では内分泌代謝科(甲状腺専門医)と眼科(神経眼科・眼形成など専門医)との緊密な連携が欠かせません[80]。まず内分泌科により甲状腺機能の適切な管理が行われることが重要です。甲状腺ホルモン値の乱高下は眼症に影響を与えるため、可能な限り早期に甲状腺機能を正常域に維持(euthyroid化)します[81]。甲状腺機能亢進症がある場合は抗甲状腺薬治療や無機ヨウ素投与、必要に応じて手術や131I治療を検討しますが、活動期の眼症患者に131I治療を行う際はステロイドカバーで眼症悪化を予防します[82]。
一方、眼科は眼症そのものの評価と治療を担当します。特に視神経症や角膜潰瘍の有無を判断し、重症例ではステロイドパルス療法の実施や眼窩放射線治療、手術的治療(眼窩減圧術、斜視手術、眼瞼手術など)の適応を決定します[78][83]。眼症の活動期には基本的に眼科主導で治療方針が組まれますが、内科医もステロイド全身投与中の全身管理(副作用対策)を分担するなどチーム医療が必要です。また軽症例でもドライアイ症状に対する点眼や眼瞼テーピング指導など眼科的ケアが求められます。さらに甲状腺眼症はしば数年に及ぶ経過観察とタイミングを見計らった治療(例:活動期にステロイド、非活動期に手術)が必要なため、患者を長期でフォローできる専門医療機関への紹介が推奨されます[84]。日本内分泌学会や日本眼科学会では甲状腺眼症の診療連携体制を整備しており、専門施設リストを公表しています。一般内科医・一般眼科医は、少しでも疑わしい所見(眼球突出、眼球後退、複視、視力低下など)を認めたら早期に専門医へコンサルテーションし、内科・眼科の合同で診療を進めることが患者の視機能と生活の質を守ることにつながります[80]。
加えて、喫煙者には禁煙指導を行い[5]、必要に応じて眼科から形成外科や放射線科と協議して治療戦略を検討します。特に最近は分子標的治療薬(テプロツムマブ)の登場により治療の選択肢が増えているため[85]、内分泌・眼科医のみならず免疫療法の専門家とも連携する時代になりつつあります。
以上、甲状腺眼症の診断について、疫学・病態から臨床像、鑑別・検査・評価法、他科連携まで概説しました。甲状腺眼症は早期診断・的確な評価によって重篤な視力障害を未然に防ぎうる疾患です。脳神経内科医も本疾患の初期症状を見逃さず、必要な検査と専門医紹介を行うことで、患者の視機能と生活の質の維持に大きく寄与できるでしょう[80]。最新の知見も踏まえた診療ガイドに則り、多職種と協働して甲状腺眼症に対処することが重要です。