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フェンフルラミン(フィンテプラ)抗てんかん治療クイズ | Claude | Claude

背景
フェンフルラミン(Fenfluramine, FFA)は1960年代にフランスで開発されたアンフェタミン誘導体で、当初は食欲抑制剤・抗肥満薬として使用されました[1]。1973年に米国でPondiminという商品名で承認され、一時はフェンフルラミン+フェンテルミン(Fen-Phen)併用療法が爆発的な人気を博しました[2]。しかし1990年代後半、この併用療法の長期使用者に肺高血圧症や心臓弁膜症(主に僧帽弁・大動脈弁逆流)の重篤な症例が多数報告され[3]、1997年に米国市場から撤退するに至りました[4]。減量目的での高用量長期使用が原因と考えられ、実際40~60 mg/日の高容量を ≥4か月使用すると心臓弁膜症リスクが有意に増大することが判明しています[5][6]。
一方、フェンフルラミンには抗てんかん作用の可能性が以前から示唆されていました。1980–90年代には小児難治性てんかんへの有効例が散発的に報告され、ベルギーではフェンフルラミンの市場撤退後も2002年の特別勅令によりドラベ症候群患者への同薬使用が継続許可されました[7]。その後、ドラベ症候群(Dravet症候群)患者を対象とした症例報告や小規模試験で顕著な発作抑制効果が確認され、この希少疾患のアンメットニーズに応えるべく大規模臨床試験が企画されました[8]。その結果、2020年に米国FDAおよび欧州EMAがドラベ症候群に伴う発作治療薬としてフェンフルラミンを承認し、続いて2022年3月にFDAがレノックス・ガストー症候群(LGS)に対する適応を追加承認しました[9]。日本でも2022年9月に「他の抗てんかん薬で十分な効果が得られないドラベ症候群の発作」に対する併用療法薬としてフェンフルラミン内用液(商品名フィンテプラ®)が承認され[10]、さらに2024年3月にはLGS関連発作に対する適応追加承認が行われています[11]。こうした歴史的経緯から、フェンフルラミンは減量薬から抗てんかん薬へと"再開発"された薬剤として注目されています。
作用機序
フェンフルラミンはセロトニン作動薬であり、多面的な作用機序によって抗てんかん効果を発揮します。主な作用機序は以下の通りです。
セロトニン放出促進と再取り込み阻害
フェンフルラミンはセロトニントランスポーター(SERT)に作用し、シナプス前終末からの5-HT(セロトニン)の取り込みを阻害すると同時に、細胞内の5-HTをシナプス間隙へと放出させます[12]。その結果、脳内セロトニン濃度が上昇し、多様な5-HT受容体が活性化されます。5-HT受容体には14種類(5-HT₁~₇系)が存在し、そのうち5-HT₁D受容体や5-HT₂C受容体の刺激が発作抑制に寄与している可能性が指摘されています[13]。セロトニンは介在ニューロンでのGABA放出を増強し神経抑制を高める作用があるため、5-HT濃度上昇が発作閾値を上げる一因と考えられます[14][15]。なおフェンフルラミンの主要代謝物であるノルフェンフルラミン(D-およびL-体)は、フェンフルラミン本体とは別に5-HT受容体直接刺激作用も持つことが報告されています[16]。
シグマ1受容体作用
フェンフルラミンおよびそのD-体代謝産物はシグマ1受容体にも結合し、グルタミン酸作動性神経の過剰興奮を抑制する作用があるとされます[15]。シグマ1受容体は小胞体膜上のシャペロンタンパク質で、細胞内Ca²⁺動員やイオンチャネル調節に関与します。フェンフルラミンは当初シグマ1受容体拮抗薬と考えられましたが、近年では陽性アロステリック調節の可能性が示唆されており、この経路を介して認知機能や行動面への有益な効果ももたらす可能性があります[17]。さらにシグマ1受容体と相互作用するニューロペプチドY(NPY)の放出抑制も報告されており、NPY自体にも抗てんかん作用(興奮性グルタミン酸放出の低下)があることから、これも発作抑制に寄与し得ます[18]。
このほか動物モデル研究では、フェンフルラミンが樹状突起の形態異常を改善したり(GABA作動性介在ニューロンの樹状突起構造の改善)することも報告されており[19]、神経回路発達への長期的影響についても今後の検討課題です。
有効性
ドラベ症候群における有効性
フェンフルラミン再開発の契機となったのがドラベ症候群(乳幼児期発症の重度てんかん性脳症)に対する顕著な発作抑制効果です。ベルギーでの初期使用例や小規模観察研究に始まり、近年3件の国際第III相ランダム化比較試験(RCT)が実施されました[20]。主要評価対象はいずれも難治性の強直間代発作で、結果はいずれの試験でもFFA投与群の有意な発作頻度低減を示しています。例えば、ある第III相試験では2~18歳のドラベ症候群患者142例を対象に、高用量群(0.7 mg/kg/日、最大26 mg/日)でプラセボ対比平均で約65%強い月間発作頻度の減少(発作頻度64.8%低下、p<0.0001)を達成しました[21]。低用量群(0.2 mg/kg/日)でも有意差が認められ、両用量の有効性が確認されています。また50%以上の発作減少を達成した「レスポンダー率」は、フェンフルラミン群で約50~60%、プラセボ群でわずか数~10%台と大きな開きがありました[22]。こうした優れた有効性から、国際ドラベ症候群治療指針ではフェンフルラミンが第一選択肢の一つとして挙げられており、その奏効速度の速さや日常生活の改善効果についても言及されています[23]。
さらに注目すべき点として、フェンフルラミン療法はドラベ症候群患者のSUDEP(てんかん突然死)リスクの低減にも寄与する可能性があります。ドラベ症候群では強直間代発作の頻発と難治性からSUDEPが高率ですが、フェンフルラミン投与下での観察研究ではSUDEPを含む全死亡率が年1.7人/1000人と報告されており、歴史的対照(15.8/1000人)に比べ著明に低かったとの報告があります[24]。試験参加者というバイアスを考慮する必要はありますが、フェンフルラミンが脳幹の5-HT₄受容体を介し発作時の致死性アプネ(無呼吸)を防ぐ作用機序も想定されており[25]、この領域のエビデンス蓄積が期待されています。
レノックス・ガストー症候群における有効性
レノックス・ガストー症候群(LGS)は病因の多様な難治性てんかん症候群で、複数の既存薬が承認されていますが依然有効策が限られます。フェンフルラミンはドラベ症候群での成功を受けてLGSへの有効性も検討され、オープンラベル試験およびプラセボ対照第III相試験が実施されました[26][27]。Lagaeらによる第II相オープン試験(13例)では20週間の投与で中央値53%の発作(主に落下発作)減少を示し、>50%発作減少が62%の患者に認められました[28]。続く国際第III相RCT(2~35歳のLGS患者263例)では、主要評価項目である月間落下発作頻度の中央値がプラセボ群7.6%減少に対し、高用量FFA群で26.5%減少と有意差を示しました(p<0.01)[29]。また50%レスポンダー率はプラセボ10%に対しFFA高用量群で28%(p=0.005)と有意に高く、保護者評価による臨床改善度(CGI-I)の「著明改善」割合も有意に上回りました[30]。一方でLGS全般の発作に対する効果量(effect size)はドラベ症候群ほど大きくなく、特に主要評価であった失立発作(drop attack)の抑制は中央値で約25%減と限定的でした[29]。興味深い点として、本試験サブ解析では強直間代発作(全般強直間代発作:GTCS)の頻度がFFA群で顕著に減少しており、プラセボ群で+3.7%増加したのに対しFFA高用量群では45.7%の減少がみられました[22]。このことから、LGS患者においても発作型によってフェンフルラミンの効果に差があり、GTCSのような発作には特に有効である可能性があります。
長期成績については、上述の第III相試験終了後のオープンラベル延長試験に247名が参加し、1年間の追跡で中央値約52%の落下発作減少を維持したと報告されています[31]。もっとも延長試験では約33%が無効等により治療中止しており、特にLGSでは患者間の反応のばらつきが大きいこともうかがわれます[31]。現在LGSにおけるフェンフルラミンは併用療法の一選択肢となっていますが、その実臨床での位置づけ(どのラインで使うか)や他剤との比較、有効な症候群・発作タイプの絞り込みなど、今後の検討課題も残されています[32][33]。
適応外での使用例・エビデンス
フェンフルラミンは現在、ドラベ症候群とLGSのみが公式適応症ですが、それ以外の難治性てんかんに対する有効性も少数例ながら報告されています[34]。特に小児期発症の遺伝子関連てんかん(発達性てんかん性脳症:DEE)に対して、ドラベ/LGS以外の症候群でも奏効する可能性が注目されています。ここでは代表的な適応外使用の報告を紹介します。
CDKL5欠損症候群(CDD)
CDKL5遺伝子変異による重度てんかん性脳症でもフェンフルラミンの有効性が示唆されています。6例のパイロット試験では、平均0.4–0.7 mg/kg/日の投与により強直間代発作が中央値90%減少し、強直発作も50~60%減少しました[35]。保護者の67%が全体的な臨床改善を報告し、生活の質(QOL)指標も向上しています[36]。有害事象は重篤なものはなく、一過性の傾眠・食欲低下が各1例認められたのみでした[37]。さらにこの疾患についてはUCB社が国際第III相試験(GEMZ試験)を実施し、87例を対象に主要エンドポイントを達成したと2025年に発表されています[38]。詳細な結果は今後公表予定ですが、主要評価項目であるてんかん発作頻度の有意な低下がプラセボ対照下で確認されており、近い将来CDDに対する適応追加申請が行われる見込みです[39][40]。現時点ではCDDに対して未承認ではあるものの、科学的根拠に基づく適応外使用の代表例と言えます。
SCN2A遺伝子変異関連てんかん
SCN1A変異が原因のドラベ症候群で効果を示したことから、他のナトリウムチャネル遺伝子変異(SCN2AやSCN8Aなど)に伴う早期脳症でもフェンフルラミンの効果が期待されています。実際、SCN8A遺伝子変異による乳児てんかん性脳症の3症例を対象とした報告では、フェンフルラミン投与後の総発作頻度が60~90%減少し、注意・睡眠・言語面の改善も認められたとされています[41]。治療関連の重大な副作用は報告されておらず、心臓弁膜症や肺高血圧症も生じませんでした[42]。SCN2A変異症に関しては明確な報告が少ないものの、上記SCN8Aのケースや複数の遺伝子性てんかん症候群をまとめた後ろ向き解析から、フェンフルラミンに反応する患者が存在する可能性が示唆されています[43]。とくに乳児期重症てんかんで従来治療に難渋する場合、ドラベ症候群以外でも治験的な投与が検討され始めています。
成人の難治性てんかん・その他
フェンフルラミンの大規模試験は小児・若年成人を対象としてきましたが、成人の難治性焦点てんかんへのエビデンスは限定的です。一般的な部分てんかん患者に対する系統的な試験は行われていませんが、欧米の一部施設ではドラベ症候群やLGS以外の成人症例に試みられたケースがあります[43]。2024年の米国てんかん学会報告では、遺伝子診断のついた様々な難治てんかん患者20例に対し臨床使用下でフェンフルラミンを追加したところ、35%の患者が発作半減(≥50%減少)を達成し、30%は発作75%減少といった著明な改善を示したと報告されています[43]。中には結節性硬化症による難治てんかん成人で95%近い発作減少が得られた例もあり、開始早期から効果が現れたケースが多かったとのことです[43]。また超難治状態薬物乱用重積状態(スーパーステータス)の成人ドラベ症候群患者にフェンフルラミンを救援投与し、昏睡療法でも停止しなかった重積が数日で終息した症例報告もあります[44]。以上より、厳格な試験データは不足しているものの、成人を含む各種難治性てんかんへのフェンフルラミンの適応外使用が徐々に拡大しつつあり、今後さらなる研究が望まれます。
安全性プロファイル
フェンフルラミンは過去に心血管系副作用で市場撤退した経緯があるため、安全性には細心の注意が払われています。近年の臨床試験や使用成績から明らかになったポイントを示します。
短期のRCTにおいて頻度の高かった副作用は、食欲減退、下痢、発熱、嗜眠(眠気)、鼻咽頭炎などでした[45]。例えば主要試験の統合データでは、食欲減退はプラセボ群5–11%に対し高用量FFA群で36–44%、体重減少(>7%減)はプラセボ群2–4.5%に対し高用量FFA群で8–21%に増加しています[46][47](※用量依存的傾向)。一方、傾眠や嗜眠は管理可能な範囲で、深刻な中枢抑制による投与中止例は少数に留まります[45]。これらはセロトニン作動薬として予想される副作用プロファイルであり、特に食欲低下とそれに伴う体重減少については、小児では成長への影響を注意深くモニタリングする必要があります(幸い1~2年スパンの追跡では身長・体重への持続的な悪影響はほとんど認められていません[48][49])。副作用マネジメントとしては、食欲不振への対応(食事内容工夫や必要時高カロリー補助)、眠気が強い場合は投与時間の調整、併用薬の見直し等が挙げられます。またドラベ症候群で併用頻度の高いスチリペントールはFFA代謝を阻害し血中濃度を上昇させるため、併用時はFFA用量上限を下げる(最大0.4 mg/kg/日に制限)などの対策が取られています[50]。
フェンフルラミン最大の懸念は心血管系への安全性です。肥満治療で使用された高用量では、5-HT₂B受容体刺激による弁膜肥厚・線維化が原因で、大動脈弁や僧帽弁の逆流症が多発しました[51]。またセロトニン過剰による肺動脈平滑筋の増殖・血管収縮で肺高血圧症(PAH)を誘発することも判明しました[52]。当時の解析では、弁膜症リスクは使用量に依存して増加し、特に60 mg/日以上の使用で有意に高まること、女性や高齢者、長期使用者でリスク増大が認められることが報告されています[53][6]。現在のてんかん治療で用いるフェンフルラミンは最大26 mg/日(0.7 mg/kg/日)と過去の半量以下に制限されており、この範囲内では重篤な弁膜症やPAHの発生は極めて低いと考えられます。実際、ドラベ症候群・LGSの主要臨床試験およびその延長試験(327例で中央値約2年服用)において、臨床的に問題となる弁膜症やPAHは一例も報告されていません[54]。エコー検査上でのごく軽度の逆流所見が観察されることはありますが、プラセボ群と比較しても差は小さく、一過性あるいは臨床症状を伴わない所見に留まっています[47]。それでも「用量依存的リスクが存在する」という過去の知見を踏まえ、フェンフルラミン投与患者には定期的な心エコー検査(米国では6か月毎)によるモニタリングが義務付けられています[55]。米国ではREMS(Risk Evaluation and Mitigation Strategy)プログラムの下で心疾患発生状況のデータ収集が行われており、慎重な安全対策と長期的な追跡によりリスクを適切に管理しています[56]。臨床現場においても、患者・家族に過度の心配を与えないよう、最新エビデンスに基づく安全性情報を丁寧に共有しつつ、慎重かつ適正な使用を図ることが重要です。
現在の承認適応
フェンフルラミン塩酸塩製剤(米国・欧州での商品名:Finteplaフィンテプラ®)の2025年現在における各国の承認状況は以下の通りです。
米国(FDA)
2020年6月に「ドラベ症候群関連てんかん発作」の適応で承認[10]。さらに2022年3月に「レノックス・ガストー症候群関連てんかん発作」へ適応拡大[57]。いずれも2歳以上の小児および成人が対象となっています[40]。
欧州連合(EMA)
2020年12月にドラベ症候群(2歳以上)で承認[10]。続いて2023年1月にLGS(2歳以上)への適応追加承認が行われました[58]。欧州でも米国同様、ドラベ症候群・LGSが正式適応症です[40]。
日本(厚生労働省)
2022年9月に「他の抗てんかん薬で効果不十分なドラベ症候群患者のてんかん発作」に対する併用療法として製造販売承認[10]。日本では承認時から2歳以上が対象です。さらに2024年3月にLGS関連発作への適応追加承認が承認されました[11]。日本国内ではユーシービージャパン社が製造販売承認を取得し、販売提携先の日本新薬社を通じて供給されています[59]。なお日本での製品名もフィンテプラ内用液2.2 mg/mLで、海外と同一有効成分・濃度の経口液剤です。
以上より、フェンフルラミンは現在ドラベ症候群とLGSの治療薬としてグローバルに承認されています。それ以外の疾患への使用は現時点では適応外ですが、前述のように一部の領域で治験・研究が進行中です。
今後の展望
フェンフルラミンの今後の展開として、新たな適応拡大と長期安全性・有用性の検証が大きなテーマです。まず適応症に関しては、CDKL5欠損症候群への適応追加が今後見込まれるほか、その他の希少てんかん症候群(例:STXBP1変異症、SYNGAP1変異症、15番染色体重複症候群〔inv-dup15〕、CSWSを伴うてんかん性脳症など)を対象とした第II相バスケット試験が進行中です[60]。この試験では複数のDEEs患者を対象に3か月間の発作頻度変化と12か月間の認知・行動面への影響を評価する計画で、フェンフルラミンの広範な抗てんかん効果や神経発達への好影響がより明確にされることが期待されます[61]。また乳児けいれん(West症候群)に対するフェンフルラミンの第II相試験も計画されており(0.8 mg/kg/日を3週間投与後、奏効例は最長6か月継続)[62]、乳児期の難治性てんかんへの新規治療選択肢として注目されています。
さらに、作用機序の観点から非てんかん疾患への応用も視野に入ります。例えばPitt-Hopkins症候群やBainbridge-Ropers症候群など発作と無呼吸発作(息止め発作)を併発するような神経発達疾患において、フェンフルラミンが両者に有効か検証する提案がなされています[63]。フェンフルラミンがSUDEPリスクや呼吸抑制発作に一定の効果を示す可能性から、脳幹機能異常を伴う疾患への転用研究も将来的な課題です。
最後に、薬剤開発的な展望としてフェンフルラミンの鏡像異性体に関する研究があります。現行製剤はラセミ体(D,L混合体)ですが、報告によれば有効性発現にはL体よりD体が寄与し、一方で副作用(食欲減退や心臓弁への作用)はD-ノルフェンフルラミンが主に関与することが示唆されています[64][51]。もしL-フェンフルラミン単独でも十分な抗てんかん効果を持つことが証明されれば、副作用リスクの低減した改良型治療への道が開けるかもしれません[65]。こうした基礎検討も含め、フェンフルラミンは古くて新しい薬として今後も研究と議論が活発に続けられるでしょう。本薬のリスク・ベネフィットを的確に評価しつつ、より多くの難治てんかん患者への福音となる可能性が期待されています。