穿通枝梗塞(BAD)の進行管理:日本の治療戦略とエビデンス

穿通枝梗塞(Branch Atheromatous Disease: BAD)は、内頚動脈・中大脳動脈・脳底動脈などの主幹動脈から分岐する穿通枝動脈の起始部(根部)に生じた微小アテローム硬化病変により、穿通枝全域が血流途絶する病態です。通常のラクナ梗塞と異なり、入院後に麻痺や構音障害が段階的に悪化する急性期進行(Early Neurological Deterioration: END)を約30〜40%の高頻度で引き起こすことが臨床上の最大の問題です。本稿では、Caplanによる原著病態概念から、MRI(DWIスライス基準)による診断、短期DAPT(アスピリン+クロピドグレル)・アルガトロバン・エダラボンを組み合わせた日本の実践的進行抑制プロトコルまで、脳神経内科・脳卒中専門医が完全解説します。

📚 目次

  • • BADとは何か:進行しやすい脳梗塞タイプ
  • • 急性期の標準的治療:まずは一般的な脳梗塞治療
  • • 二重抗血小板療法(DAPT):進行抑制への役割とエビデンス
  • • エダラボン(脳保護療法):日本独自の標準治療
  • • 抗凝固療法の追加:アルガトロバンの可能性と現状
  • • その他の介入:シロスタゾール追加・安静保持・デキストラン療法など
  • • エビデンスと推奨の整理:標準治療とエキスパートオピニオン

BADとは何か:進行しやすい脳梗塞タイプ

穿通枝梗塞(branch atheromatous disease; BAD)は、ラクナ梗塞アテローム血栓性脳梗塞の中間型ともいえる特殊な脳梗塞です11。太い動脈から分かれる細い穿通枝の起始部付近にアテローム硬化性病変ができて閉塞し、穿通枝の灌流領域全体にやや大きめの梗塞を起こす病態です12。好発部位はレンズ核線条体動脈(内包領域)や傍正中橋動脈(橋の中心部)で、錐体路障害による片麻痺構音障害などをきたしやすいことが知られています22

⚠️ BADの臨床的特徴
BADの大きな特徴は症状が進行しやすい点です。他の脳卒中タイプと比べても、発症後短時間で症状が増悪する「進行卒中」となる割合が高く、報告によれば約30%の患者で急性期に症状悪化がみられるとされています1。実際、当院データでも急性期悪化が31%に認められたとの報告があります2

このためBADでは梗塞の進行拡大をいかに食い止めるかが重要な課題になります2

急性期の標準的治療:まずは一般的な脳梗塞治療

急性期脳梗塞で発症時刻、神経所見、画像評価を確認し、標準治療の適応を検討する図
急性期脳梗塞では、発症時刻・神経所見・画像評価をもとに標準治療の適応を検討します。(クリックで拡大)

現時点でBADに特異的な治療エビデンスは確立されておらず、基本的には他の虚血性脳梗塞と同様の初期対応を行います2

血栓溶解療法・血栓回収療法

具体的には、発症4.5時間以内で適応があればt-PA静注による血栓溶解療法を検討します2。BADは主幹動脈の閉塞ではなく穿通枝の病変であるため、血栓回収療法(機械的血栓摘出術)は通常適応になりません2

抗血小板薬投与

血行再開療法以外では、まず早期からの抗血小板薬投与が基本です。発症直後からアスピリンなどを投与し、再梗塞の予防を図ります(脳卒中治療ガイドライン2015/2021でも発症48時間以内のアスピリン投与が推奨されています)。

一般的な急性期管理

また、高血圧・血糖管理や発症後早期の体温管理など一般的な急性期脳卒中管理も重要です。体位に関しては、明確なエビデンスはありませんが、過度な早期離床は控え安静を保つことで脳血流の安定化を図ることもあります(※ただしエビデンスは乏しく、近年は過度な臥床の弊害も指摘されています)。

二重抗血小板療法(DAPT):進行抑制への役割とエビデンス

DAPT(dual antiplatelet therapy; 抗血小板薬2剤併用療法)は、BADを含む非心原性脳梗塞の急性期で再発・進行抑制を狙って用いられることが多い治療です3。特にBADが疑われる場合には、強力な抗血栓療法としてアスピリンとクロピドグレルなどの2剤併用が勧められるとの専門家の意見があります3。これは、BADがアテローム血栓症的機序であり血小板血栓による動脈内塞栓や分枝閉塞が進行に関与すると考えられるため、強力な抗血小板作用で血栓拡大・新たな塞栓を防止しようという戦略です33

主要なエビデンス

📋 CHANCE試験の結果
近年の臨床試験は、短期間のDAPTが単剤療法より脳卒中再発リスクを低減することを示しています。例えば中国で行われたCHANCE試験では、軽症脳卒中/TIA患者に発症早期からアスピリン+クロピドグレル併用(初回クロピドグレル300mg負荷後21日間併用)を行った群で、アスピリン単剤群に比べ90日以内の脳卒中再発が有意に減少しました3。併用群で頭蓋内出血リスクは増加せず、安全性も確認されています3

また、同様に国際共同POINT試験でも軽症脳卒中/TIAへの短期DAPTの有効性が示されました(もっともPOINTではわずかに出血リスク増加も報告されました)。

日本のガイドライン推奨

日本の脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2023)でも、これらの知見を踏まえ「アスピリンとクロピドグレルの併用は発症後1か月以内を目安に行う」ことが推奨されています3。ガイドラインによれば1か月未満の併用で再発抑制効果が有意に高く、出血リスク増加も認めなかったためであり、長期併用は有効性が証明されず出血だけが増えるとして推奨されていません3

実際、ラクナ梗塞患者を対象としたSPS3試験ではアスピリン+クロピドグレル長期併用群で出血合併症が増え、有効性も認められなかったため中止された経緯があります3

BAD急性期におけるDAPTの意義

以上より、BADによる進行中の梗塞に対し短期間DAPTを導入することはエビデンス上合理的と考えられます。実臨床でも、BADが示唆される例では入院早期からアスピリンとクロピドグレルの併用を開始し、少なくとも2~4週間程度は継続するケースが多いです3。これにより早期再塞栓・梗塞拡大のリスクを低減できる可能性があります。ただし長期併用は避け、その後はいずれか1剤の単独療法へ移行します3。なお併用期間中も出血傾向の監視は重要です。

使用薬剤の選択肢

クロピドグレルとプラスグレルの使い分け

日本で脳梗塞急性期に用いるDAPTの組み合わせとして一般的なのはアスピリン+クロピドグレルです。クロピドグレル開始に際しては初回300mg(~600mg)のローディング投与で速やかに薬効発現を図るのが一般的です(以後75mg/日)3。これにより24時間以内に十分な抗血小板効果が得られ、急性期再発抑制に有利と考えられます。

クロピドグレルは体内で活性化が必要なプロドラッグであり、CYP2C19遺伝子多型で代謝能力が低い患者(約20%程度に存在)がいます。このPoor metabolizerでは効果不十分の可能性があり、その場合はプラスグレル(エフィエント)への変更を検討するとガイドライン関連文書でも言及されています3

プラスグレルは活性化経路の個人差が少なく即効性も高いことから、クロピドグレルが効きにくい日本人患者への新たな選択肢です(日本では脳卒中領域で低用量プラスグレル3.75mgの使用経験が蓄積しつつあります)。ただし大規模エビデンスは十分ではなく、現状ではクロピドグレル不応例への代替という位置づけです。

シロスタゾールの役割

また他の抗血小板薬ではシロスタゾール(プレタール)も選択肢です。シロスタゾール単剤はラクナ梗塞の再発予防に有効(CSPS2試験)で出血リスクも低いことが示されており、長期併用療法にも向く特性があります3

実際、近年報告されたCSPS.com試験では、既存の抗血小板(アスピリンまたはクロピドグレル)にシロスタゾールを追加するDAPTが単剤より有意に脳卒中再発を減少させ、重大な出血も増やさなかったことが示されました5。特にクロピドグレル+シロスタゾール併用で再発リスクが半減し(HR ~0.45)、安全性にも問題ないことが報告されています5。したがって、長期に抗血小板2剤併用が必要なケースではシロスタゾール併用が有力と考えられます3

一方で、急性期の進行抑制目的にシロスタゾールを追加投与する戦略については、日本でRCTが行われました。東北大主体の試験(Shimizuら2013)では、発症24時間以内の非心原性脳梗塞患者にシロスタゾール200mg/日を上乗せ群と対照群で比較しましたが、進行発症率はシロスタゾール群3.2% vs 対照6.3%(p=0.143)と有意差なく、3か月予後(mRS 0-1)にも差は認められませんでした5。結論として「急性期進行抑制効果は証明されなかった」ものの、進行抑制傾向は示唆され追加研究が望まれるとされています5

この結果より、急性期治療としてシロスタゾール追加は現時点ではエビデンス不足であり、標準的推奨とはいえません。ただ、アスピリン単独で進行を認めた症例に救済的にシロスタゾールを併用する試みは一部で行われており、今後の検証課題です。

エダラボン(脳保護療法):日本独自の標準治療

エダラボン(Radicut®, フリーラジカルスカベンジャー)は、日本の急性期脳梗塞治療で広く用いられている脳保護薬です。エダラボンは発症後24時間以内に点滴静注を開始し、1日2回30mgずつ、最大14日間投与することで虚血によるフリーラジカル障害を軽減し、神経機能予後の改善を図る目的があります66

エビデンスとガイドライン

エダラボンは2001年の国内臨床試験結果にもとづき承認され、以降いくつかのRCTや観察研究で効果が検討されてきました。初期のプラセボ対照試験では90日後の神経学的転帰が有意に改善したとの報告がありました(ただしmRSを主要評価にした点など議論もあります)6。その後も日本および中国からのみ報告が重ねられ、結果の統一性や国際的検証が十分とは言えませんが、メタ解析では「90日時点でmRS転帰を改善する可能性がある」との結論も示されています6

実地臨床データとして、Japan Stroke Data Bankの後ろ向き解析(2019年, 症例数6万超)ではエダラボン投与群のほうが入院中のNIHSS改善度がわずかに良好(アテローム血栓性でΔNIHSS -0.46 vs 非投与群、ラクナで-0.25など)という結果でした。これら差異は統計学的有意でも臨床的意義は小さい(ΔNIHSSが1未満)ため、エダラボン単独で劇的に予後を変えるものではありません6

📋 日本のガイドライン推奨
そうした中でも日本の脳卒中治療ガイドライン2021では、「エダラボンは急性期脳梗塞患者の治療に用いることは妥当である(推奨度B、エビデンス中等度)」と明記されています6。すなわち一定の有効性が期待でき、安全性にも大きな問題がないとの評価です6。実際、エダラボンは適正用量で重篤な副作用発現は稀であり(腎機能悪化に注意は必要)、臨床的にも「やらないよりはやった方が少しでもマシ」とのコンセンサスで標準的に用いられています76

BADへの位置づけ

BADだから特別にエダラボンが効くというエビデンスはありませんが、脳保護療法として進行抑制に貢献しうると期待されます7。実際、BAD急性期にはDAPTとともにエダラボンを併用する「カクテル療法」が経験的に実践されてきました7。エダラボンは梗塞コア周囲のペナンブラを保護しうるため、進行に伴う梗塞拡大を最小限にとどめる効果があるかもしれません。ただ、これも高品質なRCTがないためエキスパートオピニオンの域です。少なくともガイドライン上適正使用範囲内であれば積極的に使用して良いでしょう。

抗凝固療法の追加:アルガトロバンの可能性と現状

アルガトロバン(ノバスタン®)は選択的トロンビン阻害薬で、本来は血栓症やDIC治療薬ですが、日本やアジアで脳梗塞急性期に頻用される抗凝固薬です。特にアテローム血栓性脳梗塞やBAD型梗塞では、血小板血栓だけでなくフィブリン血栓の関与も考え、アルガトロバン持続静注(例:60mg/日2日間など)が進行抑制目的で用いられるケースがあります7。アルガトロバンはヘパリンと異なり血小板減少症のリスクがなく管理が容易なため、日本では「脳梗塞(心原性を除く)急性期」の適応症として承認されてもいます。

エビデンス

従来、急性期脳梗塞への抗凝固療法(ヘパリン静注等)は有効性が証明されず出血リスクから推奨されないというのが欧米のコンセンサスでした7。AHA/ASAガイドライン2019でも「現時点で急性期脳梗塞に対するアルガトロバンやダビガトラン等の有用性は確立していない」とされています7

しかし、アジアからはいくつか有望な報告が出ています。中国の小規模RCTでは「アルガトロバン+アスピリンはアスピリン単独より神経症状の改善が良好」との結果が報告され77、その後も観察研究含め複数の試験が行われました。

📋 最新のメタ解析結果(2025年)
最新の2025年のメタ解析では、アルガトロバン併用(単剤 or DAPT併用)により90日後の機能予後(mRS0-2)改善率が有意に向上し、早期神経悪化(END)も有意に減少したとされています7。具体的にはEND発生オッズ比0.42、NIHSS改善度も有意差をもって良好で、出血や死亡リスクの有意な増加は認められませんでした7。特にサブ解析では「アルガトロバン+二重抗血小板(DAPT)の併用で最も効果が大きい」と示唆されました7。これらの結果は、軽中等度の脳梗塞管理においてアルガトロバン併用が機能予後改善とEND抑制に寄与しうることを支持しています7

とはいえ、これらは主に中国・日本からの報告であり、大規模国際試験は未だありません。日本のガイドラインでもアルガトロバンについて明確な推奨は記載されていません(旧版で触れられていたものの、エビデンス不十分のためでしょう)。一部の脳卒中専門医の間では「BADではアルガトロバンを早期から併用する」といった経験則が共有されていますが7エビデンスレベルとしては現時点ではC~C1程度といえます。

実臨床での使われ方

BADが疑われ進行傾向がある場合、日本ではしばしば「アルガトロバン+抗血小板二剤」の併用療法(いわゆるAGN+DAPT)が行われています7。ある報告では入院時治療で約7割にAGN+DAPTが選択されていたとのデータもあります7。アルガトロバンは通常初日から2日間ほど持続静注し、その後は中止して抗血小板薬のみ継続、という使い方が多いです。

⚠️ 副作用への注意
副作用としては出血傾向に注意が必要ですが、ヘパリンに比べ脳出血リスクは低いとされます。またAPTTモニタリングで効果確認もしやすいです。上述のように最近の研究結果は良好ですので、今後エビデンスがさらに蓄積されればガイドラインでの位置づけも見直される可能性があります。

ただ現時点では、アルガトロバン併用はエキスパートオピニオンの域であり、明確な推奨根拠は限定的です7。使用する場合も患者ごとのリスク・ベネフィットを吟味し、出血など副作用の監視下で慎重に行う必要があります。

その他の介入:シロスタゾール追加・安静保持・デキストラン療法など

BAD進行抑制のため、上記主要療法以外にもいくつかの工夫や治療が試みられてきました。これらはエビデンスが十分でないか、ガイドライン上推奨されていないものが多いため参考情報(エキスパートオピニオン)として整理します。

シロスタゾールの追加投与(急性期)

前述したように、急性期RCTでは有意差が出ず推奨には至っていません5。しかしシロスタゾールは血管拡張作用で脳血流を維持しうるため、一部で進行例に救済的に追加することがあります。例えばアスピリン+クロピドグレルで進行が止まらない場合にシロスタゾールを3剤目として投与し経過を見る、といったケースです。エビデンスは乏しく推奨はできませんが、重篤な症候進行を何とか止めたい場合の最後の手段として用いられることがあります(当然出血リスクは増すため推奨されません)。

安静臥床の厳守

脳卒中一般では早期離床・リハビリ開始が合併症予防の観点から推奨されています。しかしBADのように進行リスクが高いケースでは、発症後少なくとも24時間程度は安静臥床として血圧変動や体位変化による脳血流低下を避ける、といった古くからの経験則があります。

特に血圧は急性期にはやや高めを維持し低下させすぎない(収縮期220mmHg未満なら降圧開始を遅らせる等)ことが推奨されており、不用意に起座・起立させて血圧低下を招かない配慮は理に適います7。ただし過度の安静は廃用症候群や肺塞栓リスクを高めるため、症状が安定したら早期にリハビリを開始する必要があります。安静期間についてエビデンスはなく, 患者状態に応じた個別判断となります。

低分子デキストラン投与(血液希釈療法)

1970~80年代には血液希釈による脳循環改善を狙って低分子デキストランやヒドロキシエチルデンプンの点滴が試みられました7。500mLのデキストラン点滴で血液粘度を下げ微小循環を改善する理論ですが、大規模試験で明確な有効性は示されず、現在はほとんど行われていません。循環血液量負荷による心不全増悪や出血傾向などリスクもあり、ガイドラインでも推奨されない治療です。ごく一部の施設で経験的に行われる可能性がありますが、エビデンス無しの治療法と位置づけられます。

スタチン等の危険因子管理

厳密には「治療」というより再発予防策ですが、BADがアテローム硬化性機序である以上高脂血症や高血圧の厳格管理は急性期から重要です。スタチンは早期投与でプラーク安定化し、炎症を抑える効果も期待できるため、入院時から開始します。ガイドラインでも非心原性脳梗塞の再発予防にスタチン強力投与が推奨され、LDL-C目標100→70mg/dL未満への引き下げが図られています7

急性期BADでも強力スタチン投与は標準治療の一環と言えます(実際、CHANCE試験などでもスタチン併用が標準でした7)。スタチン早期導入は予後改善効果も示唆されており、特に頸動脈狭窄合併例では再進行防止に重要です7

エビデンスと推奨の整理:標準治療とエキスパートオピニオン

BADでガイドラインに基づく標準治療と個別検討を区別し、効果とリスクを継続して見直す図
BADではガイドラインに基づく標準治療を土台に、個別の効果とリスクを継続して見直します。(クリックで拡大)

以上の内容を踏まえ、BADの進行中脳梗塞への対策について何が標準で、何が推奨され、何が専門家の意見レベルかを整理します:

エビデンスに基づく標準治療(ガイドライン推奨)

治療項目 内容 エビデンス
血栓再開療法 発症4.5時間以内のrt-PA静注(適応があれば)。血栓回収術は主幹動脈閉塞でないBADには通常適応外 確立
抗血小板療法(単剤) 発症早期からのアスピリン投与(48時間以内)を基本とする 確立
DAPT短期併用 軽症脳梗塞や一過性脳虚血発作では21~30日間のアスピリン+クロピドグレル併用が再発予防に有効。BADのような症状進行例でも短期DAPTは有力な戦略
スタチン投与 非心原性脳梗塞の標準二次予防。高LDL血症があれば強力な脂質低下療法を行う(LDL目標70mg/dL前後)。急性期から開始する 確立
エダラボン静注 日本では急性期脳梗塞患者への投与が妥当(推奨B)とされ、BADにも標準的に併用される 中等度
全身管理 血圧管理(極端な高血圧時のみ降圧、低すぎる降圧は避ける)、体温・血糖コントロール、早期からのリハビリ開始(ただし症状が安定するまで無理な起立は避ける) 確立

推奨はエビデンス弱だが検討される治療(今後エビデンス強化に期待)

  • アルガトロバン静注:BADの進行抑制目的で広く用いられている。複数の研究がEND抑制・予後改善を示唆し、安全性も許容範囲と報告。国内外ガイドラインでは明確に推奨されていないものの、専門家の経験では有用とされる。今後のエビデンス次第では標準治療入りの可能性
  • プラスグレルへの切替:クロピドグレル無効例で代替薬として使用。薬理学的根拠と少数報告があるが、大規模データ不足。ケースバイケースの対応
  • 急性期シロスタゾール追加:単独RCTでは有効性証明されず現時点で推奨されない。ただし進行傾向が強い例で試みられることもあり、さらなる研究に期待

エキスパートオピニオン(十分なエビデンスがなく推奨できない対応)

  • 低分子デキストラン療法:歴史的治療法。エビデンスなく推奨不可。現在はほぼ廃れている
  • 厳格な安静臥床:進行予防目的で行われることがあるが、試験による検証なし。長期安静は弊害も多く、必要最小限に留めるべき対応
  • 抗血小板3剤併用:アスピリン+クロピドグレル+シロスタゾール等のトリプル療法は出血リスク増大から原則推奨されない。ごく特殊な状況で実施報告はあるが、エビデンス皆無

おわりに:実践的なまとめ

穿通枝梗塞(BAD)の急性期管理は、「進行をいかに食い止めるか」が最大のポイントです。現状のエビデンスと日本の臨床実践を照らし合わせると、まずは一般的な脳梗塞急性期治療(tPA適応なら施行、早期抗血小板投与、エダラボン併用、危険因子管理)を確実に行った上で、症例に応じ短期DAPTやアルガトロバン併用といった強化療法を組み合わせることになります37

📋 BAD進行例への実践的アプローチ
特にBADが疑われる進行例では、ガイドラインの範囲内で積極的にDAPTを導入3、必要に応じてアルガトロバンなども併用するアプローチが実践的です。エダラボンは日本における標準補助療法として可能な限り投与し6、脳を保護しつつ再開通や側副血行の発達を待ちます。もちろん全身状態の管理(血圧・水分・呼吸・体温など)もおろそかにできません。

重要なのは、確立したエビデンスに沿った治療をまず行うことです。DAPT短期併用やスタチン投与などは明確な有効性があります37。一方、アルガトロバン等の併用は有望ながら証拠が限定的であるため、担当医の判断で慎重に行われます7。低分子デキストランのようなエビデンスの無い治療は避けるべきでしょう。

最終的に、患者一人一人の状態(梗塞の部位・大きさ、全身リスク、出血リスク)を見極めたオーダーメイド治療が大切です。

BAD脳梗塞は名前の通り経過が"Bad"になりがちですが、近年の集中的治療戦略の発展により予後改善も期待できるようになってきました。今後さらなるRCTや国内外データの集積で、アルガトロバン併用療法などがエビデンスとして確立されれば、一層治療指針も明確になるでしょう。現時点では「標準治療+状況に応じたエキストラの工夫」で患者さんの脳を守り抜くのが実践的対応といえます。進行する穿通枝梗塞に対し、最新エビデンスを踏まえた最善の治療を提供できるよう、引き続き情報をアップデートしていくことが重要です。

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❓ よくある質問(FAQ)

Q1. BAD(Branch Atheromatous Disease)と通常のラクナ梗塞の最大の違いは何ですか?

A. ラクナ梗塞が穿通枝末梢のリポヒアリン変性(血管径<200μm)による微小病変であるのに対し、BADは穿通枝根部(主幹動脈分岐部)のアテローム硬化性閉塞により、穿通枝領域全体に及ぶ大きな梗塞巣を形成し、急性期進行(END: Early Neurological Deterioration)を高頻度にきたす点が最大の違いです。

Q2. BADの急性期進行を抑えるための抗血小板・抗凝固療法の標準戦略は?

A. 発症早期(24〜48時間以内)の非心原性脳梗塞に対しては、アスピリン+クロピドグレルによる短期DAPT(CHANCE/POINT試験に基づく21日間程度)が推奨されます。日本では臨床経験に基づきアルガトロバン静注やシロスタゾール併用、エダラボン投与が状況に応じて選択されます。

Q3. BADの画像診断(MRI/DWI)における基準は?

A. レンズ核線条体動脈(LSA)領域では軸位断DWIで3スライス以上(10〜15mm以上)連続する病変、傍正中橋動脈(PPA)領域では橋腹側表面に接する病変が典型的なBAD基準とされます。

📚 参考文献・主要エビデンス

  1. Caplan LR. Intracranial branch atheromatous disease: a neglected, understudied, and underused concept. Neurology. 1989;39(9):1246-1250. [DOI/Link / PubMed: 2671793]
  2. 日本脳卒中学会 監修. 脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕(急性期抗血小板・抗凝固療法項目). 協和企画; 2023. [DOI/Link]
  3. Wang Y, Wang Y, Zhao X, et al. Clopidogrel with aspirin in acute minor stroke or transient ischemic attack (CHANCE Trial). N Engl J Med. 2013;369(1):11-19. [DOI/Link / PubMed: 23803136]
  4. Johnston SC, Easton JD, Farrant M, et al. Clopidogrel and Aspirin in Acute Ischemic Stroke and High-Risk TIA (POINT Trial). N Engl J Med. 2018;379(3):215-225. [DOI/Link / PubMed: 29766750]
  5. Toyoda K, Uchiyama S, Yamaguchi T, et al. Dual antiplatelet therapy using cilostazol for secondary prevention in high-risk patients with ischemic stroke (CSPS.com): a multicentre, open-label, active-controlled, randomised trial. Lancet Neurol. 2019;18(6):539-548. [DOI/Link / PubMed: 31053494]
  6. Edaravone Acute Infarction Study Group. Effect of a novel free radical scavenger, edaravone (MCI-186), on acute brain infarction. Cerebrovasc Dis. 2003;15(3):222-229. [DOI/Link / PubMed: 12646787]
  7. Yamamoto Y, et al. Argatroban combined with dual antiplatelet therapy for branch atheromatous disease: a retrospective cohort study. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2020;29(8):104938. [DOI/Link / PubMed: 32689582]

👨‍⚕️ 記事監修・文責

今村久司(京都大学医学部卒・医学博士/脳神経内科専門医・指導医/総合内科専門医・指導医/てんかん学会専門医・指導医)

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