電気けいれん療法(ECT)総説 ― 医療従事者のための基礎知識と最新動向

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ECT(mECT)総説のインフォグラフィック ― うつ反応50-80%/躁病80%/初回80-90%、修正型麻酔+筋弛緩、死亡10万回中2.4回、片側電極で記憶障害軽減、維持ECTを紺金緑橙系で整理

精神科以外の一般内科医を含む医療従事者に向けて、電気けいれん療法(ECT: Electroconvulsive Therapy)の基礎知識と最新動向を総説します。ECTは1938年に初めて報告されて以来80年以上の歴史を持ち、重症のうつ病に対する最も有効な治療法の一つとして位置付けられてきました[1]。従来は電撃療法とも呼ばれ恐怖や偏見の対象にもなりましたが、近年は全身麻酔筋弛緩薬を併用する「修正型ECT」(mECT)の普及と定電流パルス波装置の導入により安全性と快適性が飛躍的に向上し、高齢者や身体合併症を有する患者にも施行可能な治療となっています[2]。本稿では以下の5つの重要項目について順に解説します。

1. 適応疾患(ECTが有効な主な疾患と状況)

📋 ECTの主要適応疾患
大うつ病エピソード(単極性・双極性)、双極性障害の躁病エピソード統合失調症(特に急性増悪例やカタトニア症状を伴う場合)が主な適応とされています[3]

ECTの主な適応は重症の気分障害や精神病性障害です。これらの疾患ではECTの有効性を支持するエビデンスが高く、治療抵抗例や重症例に対して有効率がきわめて高いことが報告されています。例えば、ECTのうつ病への反応率は50~80%、寛解率は約30~60%と推定[4]され、躁病では約80%が著明改善または寛解に至ったとの報告があります[5]統合失調症に対しても、特に緊張病型(カタトニア)や感情症状を伴う症例で有効性が高く[6]、抗精神病薬治療抵抗性の統合失調症にECTを追加することで症状改善が得られる場合があります[7]

さらにECTはカタトニア(緊張病)そのものに対して極めて高い有効性を示します。カタトニアは統合失調症だけでなく重症うつ病や双極性障害、抗NMDA受容体脳炎などでも起こりうる症候群ですが、ベンゾジアゼピン系薬剤(例:ロラゼパム)で効果がない難治性カタトニア悪性症候群(悪性緊張病)ではECTが第一選択となり得るとされています[8]悪性症候群(抗精神病薬による悪性症候群)に対して薬物療法が無効または精神症状が悪化する場合にもECTが検討され、生命の危機が高い場合には迅速に施行されます[9]

その他の適応疾患について(クリックして展開)

その他の適応としては、難治性の強迫性障害(OCD)や重症の神経性疼痛、あるいは難治性てんかんなどが挙げられています[10]。強迫性障害に対するECTの有用性エビデンスは限定的ですが、薬物療法で効果不十分な極端な症例で試みられることがあります。またパーキンソン病に伴う症状悪化(例:オン・オフ現象の制御困難例)やレビー小体型認知症の精神症状、薬物性精神障害などにECTが奏効した報告もあります[9]。もっとも、これら「その他の適応」についてはエビデンスが限られるため、通常は他の標準治療を検討した上で慎重に判断されます[11][10]

ECT適応となる状況(タイミング)

ECT適応となる状況(タイミング)にも一次治療として選択すべき場合と二次治療として検討される場合があります。例えば次のような場合、薬物療法に先立ち一次治療としてECTを考慮します[12]

  • 緊急性が高い場合:切迫した自殺の危険、極度の拒食による衰弱、昏迷状態、重度の興奮・錯乱状態など、迅速かつ確実な改善が必要なケース[12]。ECTは発現が早く効果も確実なため、数週間待てない状況で第一選択となり得ます[13][14]
  • 他治療のリスクが高い場合:高齢者や妊婦、重篤な身体疾患を合併している患者では、薬物療法の副作用リスクがかえって高くなることがあります。そのような場合に「可能な治療の中でECTが最も安全」と判断されれば、ECTを優先することがあります[15][16]
  • 患者の既往および希望:以前のエピソードで薬物療法が無効だったがECTで寛解した患者や、患者本人がECTによる治療を強く希望している場合も適応を後押しする要因となります[17]

一方、二次治療(治療抵抗性症例)としては、十分な量と期間の薬物療法を行っても効果が乏しい場合や、副作用のため薬剤の投与が困難な場合、あるいは薬物治療中に状態が悪化し急速な改善が必要になった場合にECTが検討されます[18][19]。総じて、ECTは重症・難治かつ迅速な治療反応が求められる精神疾患に対する有効な選択肢です。

2. 安全性(心血管イベント、認知機能、高齢者への安全性など)

📋 安全性のポイント
現代の修正型ECTは適切な準備・管理のもとでは安全性の高い治療法です。ECT施行による死亡率は約5~8万回の治療あたり1回程度と推定されており、これは小規模手術の麻酔リスクと同程度で非常にまれです[20][21]

実際、1コース(通常6~12回程度)のECTでみれば、約1万コースに1人死亡するかどうかという低頻度であり、重大合併症の発生率はきわめて低いことが分かります[20]。近年の大規模調査でも、ECT施行日の24時間以内の死亡は10万回中2.4回(0.0024%)と報告されており[22]、手技そのものによる致死的リスクは極めて低い水準です。

医学的禁忌について

⚠️ 重要:絶対的禁忌はない
ECTには絶対的な禁忌がないとされています[23]。ただし「安全に施行するため特別な配慮が必要な状態」として以下のような相対的禁忌(高リスク状態)が挙げられています[24]

相対的禁忌(高リスク状態)として以下が挙げられます:

  • 重篤な心疾患:発症直後の心筋梗塞不安定狭心症、非代償性心不全、重度の心臓弁膜症など、現在進行形で心機能が不安定な患者[24]
  • 脳血管の病変:破裂リスクの高い動脈瘤や脳血管奇形、最近起きた脳梗塞など、血圧上昇により深刻な合併症を起こし得る病変[25]
  • 頭蓋内圧亢進を伴う病態:脳腫瘍など頭蓋内占拠病変による圧迫がある場合[25]
  • 重度の呼吸器疾患:重度COPDや重症喘息、活動性の肺炎など、麻酔や発作による一時的低酸素への耐容量が低い状態[26]
  • 全身状態がASA-PSクラス4~5相当(極めて不安定な重篤状態)の患者[27]

上記のような場合でも、精神症状が非常に深刻で他に有効策がないなら、リスクと利益を天秤にかけてECT施行が検討されることがあります[15]。その際は「可能な治療の中でECTが最も安全」という前提のもと、事前に循環器や神経内科等の専門医と協議しながらリスク低減策を講じ、より集中的な全身管理体制下で実施する(例えばICUや手術室で麻酔科管理下に行う)などの工夫が求められます[28]

心血管系への影響

ECTでは発作に伴い自律神経系が激しく変動するため、一時的な心血管イベントが生じることがあります。典型的には、通電直後に迷走神経刺激で徐脈や一過性の低血圧が起こり、痙攣発作中は交感神経緊張が優位となって頻脈血圧上昇が見られ、発作終了後は再び徐脈・不整脈が出現するといった変化です[29]。これらは通常ごく短時間で可逆的ですが、冠動脈疾患不整脈の既往がある患者では重大イベントに発展するリスクが否定できません。実際、ECT関連死の主たる要因は発作直後~覚醒期の心筋虚血致死的不整脈であり[30]、従って周術期の心機能管理が極めて重要です。

心血管管理の具体的対策(クリックして展開)

具体的には、麻酔導入前に抗コリン薬(アトロピン等)を投与して迷走神経反射を抑制する、高血圧症合併患者には朝の降圧薬内服や必要時の静注薬投与で血圧変動をコントロールする、発作中は心電図・経血圧モニタを付け麻酔科医が厳重監視する、といった対策が推奨されます[31]。また万一の心停止や重篤な不整脈に備え、除細動器や救急蘇生設備をECT室に用意しておく必要があります[32][33]。適切な管理下では、心血管イベントによる深刻な転帰はきわめてまれです[33]

認知機能への影響

ECT後には一過性の認知機能障害(健忘やせん妄など)が生じ得ます。多くは一時的かつ可逆的であり、長期的な認知症発症リスクの上昇は認められません[34]。実際、デンマークの大規模調査ではECT施行が認知症発症率の上昇と関連しないどころか、70歳以上の高齢患者ではECTを受けた群の方がその後の認知症発症率が低かったとの報告もあります[2]。このことは重症うつ病でECT適応となるような患者は総じて生命予後も改善し、結果的に認知機能の維持にも寄与している可能性を示唆しています。

また認知機能障害は電極配置刺激強度の設定によって程度が変わるため、効果と副作用のバランスを考慮して刺激条件を調整すれば高齢者にも安全に施行可能です[34]。例えば高齢患者や認知症を伴う例では右片側性通電や低用量のパルス幅設定を用いることで記憶障害リスクを軽減できるとされています[35][36]。総じて、適切な手技の工夫により高齢者に対してもECTの有効性を損なうことなく安全に提供できることがわかっています[34]

3. 実施手順(準備、麻酔、刺激設定、頻度・期間など)

修正型ECTに用いられるMECTA社製の治療装置(spECTrum 5000Qモデル)

修正型ECT(mECT)について

現在のECTは全身麻酔下で行われる修正型ECT(mECT)が標準です。定電流・短パルス波の専用機器と全身麻酔下の管理により、安全かつ的確に痙攣発作を誘発する治療が行われています[2]

術前準備

ECT施行にあたっては事前に十分な身体的評価と準備を行います。具体的には、内科的診察・検査(血液検査、心電図、胸部レントゲンなど)を実施し、重篤な合併症やリスク因子の有無を確認します[37][38]。必要に応じて頭部CT/MRIや脳波検査を追加し、脳出血リスクやてんかん焦点の有無などを評価します[37]。麻酔科医とも連携し、患者のASAリスク分類や気道確保の難易度を評価します。

また患者・家族に対するインフォームド・コンセントも極めて重要です。ECTの目的・有効性だけでなく、他の選択肢や副作用(死亡や記憶障害など低頻度ながら重大なものも含む)についても十分説明し[39]、同意書を取得します。患者が自発的に同意できない場合の手続き(家族同意や倫理委員会の関与など)は各国の法律・ガイドラインに準じて行われます[40]

前処置

治療開始前日夜から禁食・禁飲水とし、特に当日朝から絶飲食(水以外は6時間前から、水や服用必須の薬剤も2時間前までに制限)が原則です[41]。これは麻酔後の嘔吐・誤嚥を防ぐためです。また術前に内服薬を見直し、発作を抑制する作用のある薬剤ベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗てんかん薬など)は徐々に減量・中止します[41]。これらの薬剤は痙攣閾値を上げて不発発作の原因となるためです[41]。一方で、高血圧症や糖尿病などの内科薬は主治医の指示に従い内服を継続することが多いです。患者には当日朝に排尿排便を済ませ、指示があれば病衣に着替えるよう案内します[42]。点滴ラインを確保し、生体モニター装着準備をします。

麻酔と発作誘発

治療は手術室あるいは専用のECT施行室で行われ、精神科医・麻酔科医・看護師からなるチームで対応します[43]。患者に心電図モニター、経皮酸素モニター、血圧計、脳波計(必要に応じて)などを装着し、静脈ラインから麻酔導入薬を投与します。麻酔薬は作用時間の短い静脈麻酔薬(チオペンタール、メトヘキシタール、プロポフォール等)を用い、患者は意識消失します。続いて筋弛緩薬(通常は超短時間作用型のサクシニルコリン)を静注し、全身の筋緊張を弛緩させます[44][45]。筋弛緩により骨折や舌咬傷などのリスクを大幅に減らし、また発作時の大脳以外の代謝需要を下げて全身への負担を軽減できます[46]。筋弛緩発現中は患者は自発呼吸が抑制されるため、マスク換気で十分な酸素を供給します(必要時は気管挿管下に人工換気)。ここまでが準備段階で、患者は意識がなく全身の筋肉も弛緩した状態で安全に管理されています。

刺激設定と通電

麻酔科医の許可のもと、精神科医(またはトレーニングを受けた看護師/技師)がECT装置の電極を患者の頭部に装着します。電極配置は大きく両側性(バイテンプラル)片側性(ユニラテラル)があります。両側性は左右こめかみに電極を当てる従来法で、効果発現が早い反面、認知障害のリスクがやや高い傾向があります[47]。片側性は非優位半球側(通常は右側)の前頭・側頭部に電極を配置し、反対側は前額部中央に置く方法で、記憶障害が軽減できるメリットがあります[48]。近年はまず右片側性で開始し、効果不十分な場合に両側性に切り替える流れが推奨されています。

ECT装置のダイヤルで刺激強度(電流・電圧)パルス幅、周波数、通電時間などを設定します。現代の装置は定電流の短パルス矩形波で刺激を与え、古いサイン波刺激に比べて認知副作用が少なくなっています[49]。刺激量は患者ごとのけいれん閾値に合わせて調節されます。初回は低いエネルギーから通電し発作が誘発される最小値(閾値)を測定するか、患者の年齢・性別から経験的に推定した値で行い、以後はその閾値の2~3倍程度の刺激量で発作を起こすのが一般的です[50][51][52](片側性の場合は両側性より高い倍率が必要となります)。十分な強度の電流を数秒間流すと、大脳ニューロンが脱分極し全般性の痙攣発作が誘発されます[53]

発作のモニタと終了

発作誘発後は脳波計(EEG)上で振幅の高い同期性の棘波や徐波が出現し、通常20~60秒ほど持続します[54][55]。筋弛緩薬により四肢の大きな痙攣は抑えられているため、一見すると患者は小刻みに震える程度ですが、脳内ではしっかり痙攣放電が起こっています。発作活動が30秒以上持続すれば治療効果に必要十分と考えられます。それより短い場合は「不完全発作(不発)」として追加刺激が検討されます[56][57]。発作が終息すると脳波は平坦化し、その後一過性の抑制期を経てベースライン活動に戻ります[56]。麻酔科医は速やかに100%酸素による換気を再開し、自発呼吸が戻るのを待ちます。徐々に筋弛緩が切れて患者の筋力も回復してきます。

覚醒・リカバリー

患者は数分~十数分で意識を回復します。覚醒直後は一時的に見当識障害(時間や場所が分からない)、錯乱、頭痛などを訴えることがありますが[56][57]、多くは数分~1時間程度で落ち着きます。看護師が付き添い、安全が確保された静かなリカバリールームで経過観察します[56]。酸素投与や必要なら鎮静(著しく興奮する場合にベンゾジアゼピンを少量追加する等)を行います[58]。十分に意識清明となりバイタルも安定したらリカバリーを終了し、患者は病室(または外来の場合は付き添いと共に自宅)へ戻ります。

治療スケジュール

ECTは通常週2~3回の頻度で施行されます[59]。例えば月・木曜の週2回や、月水金の週3回など施設に応じた間隔で行います。日本精神神経学会の推奨では週2回以上3回以下が標準的とされ、認知障害やせん妄が生じた場合は頻度を減らすよう勧告しています[60]。各回の施行前には、前回からの精神状態の変化副作用の有無を確認し[61]、必要に応じて刺激条件の調整や治療中止の判断を行います(例えば許容できない重度の認知障害が出現した場合はコース中止を検討[61][62])。

急性期の治療回数は疾患や症状の重症度によりますが、大うつ病エピソードでは一般に合計6~12回で約8割の患者が寛解または大幅改善するとされています[63]統合失調症双極性躁状態では症状によってもう少し回数を要することもあります[64]

維持ECT(メンテナンスECT)について(クリックして展開)

コース終了後、症状が寛解した患者に対しては再発予防策が必要です。ECT自体は「今あるエピソード」を効果的に治療しますが、将来の再発を防ぐ効果はありません[65]。したがって寛解維持には薬物療法や精神療法の継続が不可欠です[65]。特にうつ病では再発率が高いため、抗うつ薬の服用や維持的な通院を続けてもらいます。一部の難治性患者では維持ECT(メンテナンスECT)を行うこともあります。維持ECTとは、寛解後に再発予防目的で数週間~数か月ごとに単発ECTを繰り返す方法です[66]。例えば最初は週1回から開始し、徐々に隔週、月1回へと間隔を延ばしつつ6か月~1年程度続けるケースがあります[66]。維持ECTは患者の希望や過去の再発歴に基づき検討され、副作用と利益を天秤にかけながら最小頻度で行うのが望ましいとされています[66]

4. 副作用(記憶障害、頭痛、筋肉痛、麻酔関連リスクなど)

ECTは適切に行われた場合、大半の副作用は一過性かつ軽度で、安全に対処可能です。以下に主な副作用とその特徴をまとめます。

記憶障害(健忘)

⚠️ ECTの代表的副作用
ECTの代表的な副作用として、前向性健忘(新しいことを覚えにくくなる)と逆行性健忘(過去の出来事の記憶が抜け落ちる)が起こり得ます[67]

多くの場合、治療後数日から数週間でこれらの記憶障害は改善します[67]前向性健忘(新しい記憶が定着しにくい)は比較的速やかに回復し、逆行性健忘(昔の記憶の抜け落ち)は回復に時間がかかる傾向があります[67]。特にECTコース中や直前の出来事の記憶が部分的に戻らないケースもあります[67][68]。なお、エピソード記憶(個人の体験の記憶)が意味記憶(一般知識の記憶)より障害されやすく、近時記憶(直近の出来事の記憶)が遠隔記憶(昔の出来事の記憶)より障害されやすいことが知られています[67]

対策:記憶障害は両側性通電高刺激量で起こりやすいため、必要に応じて右片側性ECTへ変更したり[36]、刺激強度・頻度を下げるなど調整します[36]。治療コース中は定期的に認知機能評価を行い[69]、著明な障害悪化があれば一時中断や方針見直しを検討します。

一過性の錯乱・せん妄

ECT後に意識が回復した直後の数分~数十分間、混乱して落ち着かない状態(ポストイクタル錯乱)が生じることがあります[56]。患者が興奮して起き上がろうとしたり、見当識がはっきりしないこともあります。ただこれは通常短時間で解消し、数時間以内にははっきりしてきます[58]

対策:錯乱が見られる場合は、静かな環境で安心できる声かけを行いながら経過を見守ります[58]。必要に応じて鎮静薬(ベンゾジアゼピン系の追加投与など)を用いて安全を確保します[58]。また発作間せん妄といって、ECTセッションとセッションの合間の日にも軽度のせん妄状態になることがあります[70]。これも治療終了後には消失しますが、持続する場合はECT施行間隔を延ばす、刺激強度を下げる、抗精神病薬でせん妄を治療する等の対応をとります[70]

頭痛

ECT当日、覚醒後に頭痛を訴える患者は少なくありません[71]。これは痙攣発作に伴う脳血管拡張や筋緊張、ストレス反応などが原因と考えられます。

対策:頭痛は通常軽度~中等度であり、必要に応じて市販の鎮痛薬(NSAIDsやアセトアミノフェン)を投与すれば治まります。頭痛は一過性で、長引くことはまれです。

筋肉痛

治療後に筋肉痛やだるさを感じることがあります[71]。特に全身性の筋肉痛(筋肉痛様の症状)は、筋弛緩薬投与前のファシキュレーション(筋繊維の小刻みな収縮)や、不完全ながら全身の等張性収縮が起こることによる疲労が原因です。

対策:筋肉痛も通常は1~2日で改善します。痛みが強ければ鎮痛薬や温罨法で対処します。また筋弛緩薬投与前に少量の非脱分極性筋弛緩薬をプレ処置することでファシキュレーションを抑え、筋肉痛を減らすテクニックもあります。

悪心・嘔気

麻酔覚醒時に吐き気を催す患者もいます[57]。全身麻酔の副作用としての術後悪心嘔吐(PONV)は、女性や麻酔薬の種類によって起こりやすい傾向があります。

対策:術前の絶食遵守で胃内容物を減らし、必要に応じて制吐剤(オンダンセトロン等)を併用します。嘔気が強い場合は少し時間をおいてから水分摂取を始めるようにします。

麻酔関連リスク

修正型ECTは全身麻酔を必要とするため、麻酔に伴う合併症リスクもゼロではありません。例えば、気道確保困難、誤嚥、悪性高熱、循環抑制などが考えられます。しかし、これらは一般的な短時間麻酔のリスク範囲内であり、麻酔科専門医による管理で極めて低頻度に抑えられます。前述のとおりECT中の死亡リスクはごくまれで、外科の小手術と同程度です[20][21]

対策:麻酔科が術前評価を行い、高リスク因子(気道狭小や心肺機能低下など)があれば対策します。挿管や機械換気の準備、必要機器のチェックを万全に行い、安全な麻酔導入・覚醒プロトコルを遵守します。また、絶食や術前投薬の指示を患者に守ってもらうことで誤嚥や麻酔トラブルの防止に努めます[21]

以上のように、ECTの副作用は多岐にわたりますが、事前評価と周到な管理によりほとんどが回避または軽減可能です。特に記憶障害への対策(片側刺激やコース中のモニタリング)と心血管管理(発作中のモニタと事前準備)は重要であり、ガイドラインでも慎重な対応が推奨されています[72][36]

5. 最近のガイドライン(日本精神神経学会、APA等の推奨)

ECTの実践に関しては国内外でガイドラインや推奨事項が策定されています。

日本精神神経学会(JSPN)の推奨

日本精神神経学会(JSPN)では2002年に「ECTの手技と適応基準に関する委員会」が発足し、2013年に『電気けいれん療法(ECT)推奨事項 改訂版』が学会誌に公表されました[73]。このJSPN推奨事項は、日本におけるECTの標準的手続きを示した事実上のガイドラインであり、適応疾患や治療手順、副作用対策、インフォームド・コンセントの要点など本稿で述べた内容の多くを含んでいます[39]

📋 JSPN推奨のポイント
特に「ECTの適応は診断名だけで自動的に決まるものではなく、症状の重篤度・緊急度、患者の希望、他治療とのリスク比較など総合的に判断すべき」といった原則や[74]、「絶対的禁忌はなく高リスク状態には注意して実施」「修正型ECTの安全な環境整備」「継続ECT(維持療法)の評価手順」など、実践的な項目が詳述されています[75][69]

JSPNはその後もECT施行医のトレーニング機会を提供し、関連学会と協力して安全なECT普及に努めています。

米国精神医学会(APA)のガイドライン

米国では米国精神医学会(APA)がECTに関するタスクフォースを設け、2001年に『The Practice of ECT: Recommendations for Treatment, Training, and Privileging(第2版)』を発表しました。さらに最近になり2025年に第3版となるタスクフォースレポートが出版され、最新のエビデンスを踏まえたECT施行指針が示されています[19][28]

APAのガイドラインでも、日本の指針と概ね共通する内容が推奨されています。例えば「治療抵抗性うつ病や急性自殺リスク例ではECTを考慮」「高齢者や妊婦にも修正型ECTは有効で比較的安全」「絶対的禁忌はなく、最近の心筋梗塞や脳卒中などは慎重管理で施行可能」等です[76]。またAPAはECTの有効性について「初回治療としてのECTでは80~90%が反応し、複数の薬物療法を経た難治例でも50~60%が反応する」と非常に高い奏効率を報告しており[77][78]、適切な患者に対しては積極的に用いるよう提言しています。もっともECT後の再発予防には薬物療法等の継続が必要な点も強調され[65]、ECT単独で治療を完結させず維持治療計画まで含めるよう推奨されています。

その他の国際的な動向

その他の国際ガイドライン(クリックして展開)

英国国立医療技術評価機構(NICE)もECTのガイドラインを出しており、重度うつ病やカタトニアなど限られた適応で有用性を認めつつ、不適切な乱用を避ける観点から治療適応の厳格な評価と同意プロセスを求めています。またオーストラリア・ニュージーランド精神医学会(RANZCP)2019年にECT臨床ガイドラインを発行し、修正型ECTの安全施行とトレーニング体制の整備を提言しています[79]世界保健機関(WHO)もECTを重大な精神疾患の治療オプションの一つと位置づけ、各国に対し倫理的・安全なECT実施基準を整備するよう勧告しています[80]

総括

📋 ガイドラインの総合的メッセージ
現在のガイドラインは総じて「修正型ECTの有効性と安全性」を認め、適切な対象に対しては速やかに施行することを推奨しています。その際には十分なインフォームド・コンセントを取り、患者の人格権を尊重すること、訓練を受けた医療チームが標準化された手順で行うこと、そして治療後のフォローアップ体制を確保することが強調されています[39][81]

ECTは時に誤解されがちな治療ですが、最新の知見とガイドラインに基づき適切に運用すれば、多くの苦しむ患者に速効性かつ有効な救済をもたらしうる重要な治療手段です。本稿が非精神科の先生方にとってECTへの理解を深める一助となれば幸いです。

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参考文献

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3 6 9 10 11 12 15 17 18 35 39 49 50 51 52 53 55 59 60 61 62 63 66 69 73 74 75 79 日本精神神経学会. 電気けいれん療法(ECT)推奨事項 改訂版. Journal.jspn.or.jp. Available at: https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1150060586.pdf
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37 38 42 43 熊本県精神神経科医会. 電気けいれん療法について. Available at: https://www.kumamoto-neuropsy.jp/schedule/pdf/ETC.pdf
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