心因性非てんかん発作(PNES)総説

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PNESの解説

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疫学(日本と海外のデータ)

心因性非てんかん発作(PNES)は決して稀な疾患ではない。海外の研究によれば、PNESの発症率(罹患率)は人口10万人あたり約3~5人、有病率は同2~33人と推定され、多発性硬化症や三叉神経痛と同程度の頻度である[1]。日本国内では大規模な疫学調査は無いものの、この数字を参考にすれば国内でも同様の有病率と考えられる[1]。てんかん専門医療機関ではPNES患者の割合が高く、一般のてんかん外来受診者の約5~10%、長時間ビデオ脳波モニタリング目的で入院した患者の20~40%PNESと診断されると報告されている[2]。したがって、脳神経内科領域でも日常的に遭遇し得る障害である。

PNESはあらゆる年齢で発症しうるが、思春期から若年成人期に好発する[3]。小児から高齢者まで発症例があり、小児期発症の場合は男女差がない一方、成人では女性に多く、全体では約75%が女性患者である[4]。性差については地域差もあり、アジアでは女性割合がやや低いとの報告もある[4]PNES患者では心理的・身体的トラウマの既往が背景因子として指摘されており、欧米の研究ではPNES患者の21~100%に何らかの心的外傷が認められたと報告されている[5]。特に性的・身体的虐待歴の頻度がてんかん患者と比べて有意に高く(例えば性的虐待歴はPNES 24%対てんかん7%)、そのオッズ比は約3.35とされる[6]。ただしこの値は研究間で幅が大きく(性的虐待歴8~67%など)、文化や報告法によって差異があることに留意が必要である[7]。日本におけるPNES患者の虐待歴については統一した見解がなく、欧米に比べ低率との指摘もある[8]。そのほか、PNES患者には頭部外傷や重大な身体疾患を契機に発症する例も報告されている[5]

📋 PNESとてんかんの併存について
PNESとてんかんの併存(両方を患うこと)が起こる場合があり、その頻度は報告により幅がある。以前の研究では併存率5~50%とバラつきが大きかったが、定義の違いが影響していると考えられる[9]。近年のメタ解析では、PNES患者の約22%にてんかんの併存があり、逆にてんかん患者の12%にPNESが併存すると報告されている[10]。一方、診断基準を厳密に適用した研究ではPNES患者の5~10%程度のみが真正のてんかんを併発していたとの報告もあり[11]、実際の併存率は施設や診断精度によって変わり得る。したがってPNESとてんかんは排他的ではなく、両者が同一患者内に存在する可能性を念頭に置く必要がある。

診断(診断基準、ビデオ脳波検査の有用性、DSM-5との関連)

PNESの診断基準と位置づけ

PNESという名称は「てんかん発作ではない発作」から着想された用語で、厳密には精神科の公式診断名ではない[12]。精神医学的には、PNES患者の多くは転換性障害(機能性神経症状症、いわゆる機能性発作)あるいは解離性障害(転換性発作型の解離症状)に分類される[12]。歴史的には「ヒステリー発作」「偽発作(pseudoseizure)」などと呼ばれたこともあったが、このような用語は偏見や否定的ニュアンスを含むため現在では使用すべきでない[13]

DSM-5(『精神疾患の診断・統計マニュアル第5版』)では、PNESに相当する症状は「転換性(機能性)神経症状症/解離性けいれん」に分類される。DSM-5では診断基準から「心理的ストレス因(心因)の存在」が除外されており、神経学的に説明できない発作様症状であれば心因が明確でなくとも診断可能となった[14][15]。これは「明確な心因が見当たらない場合に診断を先送りし不必要な検査を重ねてしまう」事態を避ける目的がある[14]ILAE(国際抗てんかん連盟)による2013年のPNES診断指針や日本てんかん学会のガイドライン(2009年)でも、「PNESと診断するのに明確な心因の証明は不要」とされ、むしろ「心因があるからといって安易にPNESと決めつけてはならない」と警告している[15][16]PNESストレス・トラウマなど複数要因が複雑に関与して発症・持続するため、単一の原因に帰すべきでないという理解が重要である[17][18]

診断のゴールドスタンダード

PNES診断の決め手は長時間ビデオ脳波(vEEG)モニタリングである[19]。典型的な発作をビデオと脳波同時記録で捉え、「意識障害や痙攣様の臨床症状があるにもかかわらず脳波上にてんかん発作の電気生理学的変化が認められない」ことを確認できれば、非てんかん性発作すなわちPNESと確定診断できる[19]。特に入念な鑑別が必要な症例では入院下でのvEEG記録が推奨される。ILAEのNonepileptic Seizuresタスクフォース報告(2013年)では、PNES診断の確実性に応じて以下のような段階分類を提唱している[20][21]

PNES診断の確実性分類(ILAEタスクフォース2013)
  • 確定診断(Definite PNES): ビデオ脳波記録下で発作を再現し非てんかん性であることを証明した場合。
  • 推定診断(Probable PNES): てんかん専門医が発作のビデオ映像や臨床所見からPNESと強く示唆しうる場合(脳波記録を欠くが臨床的にほぼ疑いない場合)[20]。経験豊富な医師であれば、特に運動症状主体の発作に関してはビデオ情報のみで高い精度でPNESかてんかん発作かを見分けられるとの報告もある[20]。ただし患者や家族の証言は不正確なこともあるため、可能な限りスマートフォン等で発作時の動画を撮影してもらうことが有用である[20]
  • 可能性(Possible PNES): 医師が実際の発作を目撃・記録できておらず、臨床経過から疑われるに留まる場合[20]。この場合は診断確度が低いため、引き続きモニタリングや再評価が必要となる。

鑑別診断上のポイント

PNESとてんかん発作の臨床表現型には重なる部分も多く、診断まで平均で成人で7年、小児で3年を要したとの報告もある[22]PNESとてんかんを鑑別するため、以下のような臨床所見が参考になる(※あくまで"参考"であり、単独所見で断定は禁物)[23]

鑑別点 PNES(心因性発作) てんかん発作
発作の持続時間 比較的長い(平均約2.5分)。5分以上に及ぶことも多い[24] 通常短い(1~2分以内強直間代発作は平均約1分[24]
発作中の眼 発作中に眼を閉じている例が多い(感度58%、特異度90%と報告)[25] 強直間代発作では眼を開いていることが多い。
運動・けいれんパターン 四肢の動きが不規則かつ非同期的で、強度が刻々と変化しうる[23] 強直間代発作では規則的な「強直相→間代相」の推移を示す[24]。前頭葉てんかんの過運動発作は激しいが常同的。
咬舌の部位 舌先端の軽い咬傷が見られる場合がある[26]。重篤な舌咬傷はまれ。 舌の側面(わき)を強く咬むことが多い[26]
発作後の様子 意識清明で会話可能なことが多い。浅く速い呼吸がみられる傾向[27] しばしば意識混濁や傾眠状態となる。強直間代発作後はいびき様の深い規則的呼吸[27]
発作に伴う受傷・失禁 重篤な外傷はまれだが、約3割に軽度の受傷が報告(例:舌咬傷13%[28]尿失禁も稀ながら起こり得る[29] 脱力・転倒による外傷や舌咬傷、尿失禁がしばしばみられる。
⚠️ 重要な留意点
上記のように、PNESでは閉眼発作、長時間発作、不規則な四肢運動などが示唆所見として知られる一方[23]、全般性てんかん発作では定型的なパターンや神経学的所見がみられることが多い。しかし、これらの所見単独で診断を確定することはできない点に注意が必要である[23]。例えば、以前は「発作時の受傷(外傷)があればてんかん発作の証拠」と考えられたが、PNES患者の約31%にも何らかの受傷が認められ、中には骨折や熱傷など重傷例も報告された[28]。むしろ外傷の有無にこだわると診断が遅れる危険があり、実際、発作時に受傷があったPNES患者は受傷がなかった患者より診断確定までの期間が有意に長引いた(平均7年対4.8年)とのデータもある[28]尿失禁についても絶対的指標ではなく、PNESでも稀に起こりうるため注意が必要である[30][29]

また、抗てんかん薬への反応も鑑別の決め手にはならない。PNES患者の中には抗てんかん薬投与後に一時的に発作頻度が減少したり消失したりする例があり(プラセボ効果と考えられる)、約43%の患者は薬開始後に発作改善を経験したとの報告もある[31][32]。したがって「薬が効いたからてんかん」とは一概に言えず、臨床経過のみでの判断は危険である。

📋 診断における重要原則
一度PNESの診断が確定したからといって「その患者の発作は全てPNESだ」と早合点すべきではない。同一患者でPNESとてんかん発作が合併している場合もあるため、確認された発作ごとに慎重に評価する必要がある[33]。逆に「難治性てんかん」と思われ長年治療されていた患者が実はPNESであったケースも少なくない。特に複数の抗てんかん薬を長年使用しても発作が抑制されず頻回に救急搬送されている場合や、発作症状が典型的なてんかん発作像から逸脱している場合はPNESを疑う契機となる[19]。最終的な診断には上記のように脳波検査による裏付けが望ましいが、医療資源の制約もあり常にvEEGが可能とは限らない。発作の性状や頻度によっては、治療的アプローチを先行し経過中に診断の再検討を行う柔軟な姿勢も必要である[34][35]

鑑別診断(てんかんとの鑑別、併存例など)

PNESの鑑別診断として最も重要なのはてんかん(Epilepsy)との区別である。上記の通り臨床的な鑑別点はいくつか存在するが、PNESとてんかん発作の症状はしばしば酷似し、専門医でも判別が難しい例がある。ビデオ脳波検査による客観的な記録が診断の決め手となるが、それ以外にも以下のポイントに留意する必要がある。

  • 発作症状の多彩さ: PNESでは一人の患者が様々なタイプの発作様症状を呈することがある。逆にてんかん発作は通常は発作ごとにパターンが一定している(特に焦点性発作は同一患者で発作様式が類型的)[23][24]
  • 他疾患との鑑別: 失神(血管迷走神経反射性失神など)、一過性脳虚血発作(TIA)睡眠障害(REM睡眠行動障害など)、てんかん以外の非てんかん性発作性疾患(ミオクローヌス、カタプレキシー等)も鑑別に挙がる。特に小児では反復する失神発作や呼吸停止発作との鑑別も重要である。抗NMDA受容体脳炎などの器質性脳疾患が若年者の精神症状や痙攣発作様の症状で初発しうることも知られており、臨床文脈に応じて鑑別疾患のスクリーニングを行う必要がある[36]
  • てんかんとの併存: 繰り返しになるが、PNESとてんかんが同一患者で併存しうる点には常に注意する。一度PNESが確認された患者でも、新たな症状が出現した場合には改めててんかん発作の可能性を検討することが推奨される[37]。特に長年「難治性てんかん」と思われていた患者でPNESが判明した場合、元々てんかんも併存していた可能性や、逆に当初はてんかん発作だったものが途中からPNESに置き換わった可能性もありえるため、過去の診断も含めて再評価する視点が求められる[34][35]

以上のように、PNESの診断・鑑別には神経学的視点と精神医学的視点の両面からのアプローチが不可欠である。国際的にもPNESの診療には神経科医と精神科医の多職種連携が必要とされており、ILAEなども診断から治療へのシームレスな橋渡し体制の重要性を強調している[38]

治療(精神療法、薬物療法、抗てんかん薬の漸減など)

PNES治療の基本は、患者に自身の病態を正しく理解させ、適切な精神科的介入につなげることである[39]。治療戦略は段階的に進められ、多くの専門家は①診断の告知と教育、②一般的な精神科治療(支持療法・薬物療法・環境調整)、③専門的精神療法のステップに分けて考えることを提唱している[40][41]。以下、それぞれの段階について概説する。

1. 診断告知(患者への病状説明)

PNESと確定診断したら、まず患者本人と家族にその旨を丁寧に説明する。これは治療そのものの第一歩であり、正しい説明により患者が診断を受容できれば、それだけで発作が消失したり救急受診が激減した例もある[39]。逆に告知が不十分だと患者が診断を信じず「別の医師にてんかんと診断してもらおう」と転医したり、発作が悪化する恐れがある[39]。そのため、前向きで共感的な態度で診断の根拠と今後の治療方針を説明し、患者の不安に寄り添うことが重要である[42]。この際、てんかん専門医と精神科医が協力して説明に当たることが望ましい。特に長期間「てんかん」と信じて治療されていた患者の場合、突然「あなたはてんかんではなくPNESです」と告げられても混乱するため、専門医が連携して説得力のある説明を行う必要がある[43]

告知後もしばらくは脳神経内科医のフォローを継続しつつ、不要な抗てんかん薬の漸減・中止を図ることが推奨される[43]。多くのてんかん専門医は「不要な抗てんかん薬の中止が完了するまで自分達の役割である」と考えており、精神科治療が軌道に乗るまでの併診が望ましいとされる[43]。実際、英国の前向き研究ではビデオ脳波でPNESと確定診断した後、半年間で医療費(発作関連コスト)が診断前より84%減少し、不要な検査や薬剤投与、救急搬送が大幅に減ったと報告されている[44]

📋 抗てんかん薬中止の安全性
PNESと診断がついた患者に抗てんかん薬治療を続行する利益はなく、適切な監視下での抗てんかん薬中止は安全に実施可能との臨床データもある[45]。Otoらの前向き試験では、78人のPNES患者(併存てんかんを慎重に除外)を対象に抗てんかん薬を漸減した結果、重篤な有害事象は認められず、6~12か月後の経過で発作頻度は全体的に低下したと報告されている[45]。以上より、診断告知とそれに続く抗てんかん薬の適切な整理PNES治療の重要な第一段階となる。

2. 標準的な精神科治療および環境調整

診断の受容が得られた患者では、引き続き精神科主導での治療に移行する。具体的には、支持的精神療法(カウンセリングを通じた不安の軽減、ストレス対処法の指導など)や、家族・職場環境の調整、併存する精神疾患の治療が中心となる[46]PNES患者の多くはうつ病や不安障害、PTSDなどを合併するため[47]、必要に応じて抗うつ薬・抗不安薬などの薬物療法も行う。例えば抑うつや不安が強い患者にはSSRI/SNRIなど抗うつ薬が奏功しうるし、それ自体が発作頻度の減少につながる可能性もある(実際、抗うつ薬と精神療法の併用で発作が有意に減少したとの報告あり[48])。

また家族への心理教育も重要で、発作時の対処法や患者への接し方について指導する。環境調整によりストレス因子を軽減し、患者が自らのストレスを適切に認識・表現できるよう支援することで、自己コントロール感や自己肯定感の回復を目指す[46]。専門家の見解では「PNES患者の大半は比較的アプローチしやすく、標準的治療で十分改善が得られる」という意見もあり[49]、実際この段階の介入で発作が消失または著明に減少する患者も多いと考えられる。

3. 専門的な精神療法(本格的な心理療法)

標準治療で十分な改善が得られない場合や、患者に明らかなトラウマ体験の影響が推測される場合には、専門的な精神療法(心理療法)を検討する[50]。個々の患者に応じて認知行動療法(CBT)トラウマ・フォーカスト療法(曝露療法など)精神力動的精神療法弁証法的行動療法(DBT)など多様な手法が用いられる。

中でも認知行動療法(CBT)はPNES治療で最もエビデンスが蓄積されている手法である[51]。例えば英国で実施されたRCTでは、てんかん併存のないPNES患者に対し4か月間のCBT(平均12セッション)を施行したところ、発作頻度が有意に減少し、3か月以上発作が抑制された患者のオッズ比が3.1と報告された[52]。また米国での多施設共同研究では、12回のCBT単独治療によりPNES発作が平均51%減少し、抗うつ薬(セルトラリン)併用では59%の減少を示したほか、抑うつ症状の改善効果も確認されている[48]。これら高品質な研究からCBTの有効性が示されており、現在PNES治療ガイドラインでも第一選択の心理療法として推奨されている[53][47]

⚠️ 専門療法の限界と注意点
ただし、これらのRCTでは知的障害を伴うPNES患者が除外されていたり、フォローアップ期間が短かったりと限界もある[47]。また、CBT終了と同時に治療からドロップアウトしてしまう患者も少なからず存在することが指摘されている[47]。したがって、専門療法を要する段階でも患者との信頼関係を保ち、必要に応じてステップ2(支持療法)とステップ3(専門療法)を行き来できる体制を整えることが理想的とされる[54]。治療が一段落ついたらステップ2に戻り、再度問題が顕在化したらステップ3に進むといった柔軟な対応で、患者を治療から離脱させない工夫が求められる[54]

上述のように、PNES治療では多職種チームによる包括的アプローチが重要である。脳神経内科医(てんかん専門医)が診断と身体面のケアを担い、精神科医・心理士が継続的な心理社会的ケアを担う協働モデルが理想である[38]PNES患者は診断確定に至るまでに度重なる検査や誤治療により心身ともに疲弊していることが多いため、精神科医が積極的に治療を引き受ける姿勢を示すこと自体が「治療の第一歩」となるとも言われる[55][56]

なお、救急搬送が必要なPNES発作重積状態では基本的に支持的態度で安全確保に努める(気道確保・酸素投与など)ことが原則で、過度に侵襲的な処置は避ける。鎮静目的のベンゾジアゼピン系薬は、静脈注射の痛みや薬剤による脱抑制がかえってPNES発作を誘発・増悪しうるため注意が必要である[57][58]。繰り返すPNES発作への対応についてあらかじめ患者・家族と対策を話し合っておくことも再発予防に有用である[58][59]

予後(再発率、長期経過、治療予後因子)

PNES患者の長期予後に関するデータは限定的だが、既存の海外報告からは必ずしも楽観できない状況が示唆されている。発作が長期的に完全消失する患者は少数(約25~38%)に留まり、多くは何らかの発作が持続または再燃する[58][59]。たとえ一時的にPNES発作が消失しても、その後も約半数の患者は就労や社会復帰が困難で、公的支援を必要とする状態が続いたとの追跡調査もある[60]。これはPNESに伴う心理社会的ハンディキャップの大きさを物語っている。

また、日本と欧米では医療体制や文化背景が異なるため、欧米のデータがそのまま日本人に当てはまるとは限らない。現時点で日本におけるPNES予後を系統的に検証した高品質な研究は存在せず[61]、今後さらなる調査が望まれる。

年齢層による違い

興味深いことに、小児・思春期発症のPNESは成人発症より予後が良好とする報告がある。例えば、ある研究では新規診断された成人PNES患者5年以内に発作寛解(消失)する割合は40%未満だったのに対し、小児PNES患者では約70%が寛解を達成したと報告されている[62]。したがって若年発症例では比較的早期に症状が消失しやすい可能性が示唆される。ただし、小児例では家庭や学校環境など周囲の調整が介後に与える影響も大きいため、単純な比較はできない。

予後因子(予後を左右する要因)

いくつかの研究でPNESの転帰に影響する因子が検討されている。一般に診断確定までの期間が短いほど予後良好とされ、早期にPNESと診断し適切な治療につなげることが重要だと考えられる[63][64]。逆に何年も誤診された末に治療が開始された場合、発作行動や患者の病的適応が固定化し、治療反応性が低下する傾向がある。

また、てんかんの併存重篤な精神疾患の合併(例:人格障害や難治性のうつ病など)は予後不良の因子とされる[62]。発作の表現型として暴力的で外傷を伴いやすい発作を呈する患者や、社会的に依存的な生活状況(失業や障害年金受給など)にある患者も、そうでない患者に比べ転帰が悪いとの指摘がある[62]。一方、明確なトラウマ治療の必要がある患者については適切な専門療法により症状改善が見込まれるケースもあり、個別の背景要因に応じた対応が必要である。

最後に、患者自身の病気に対する洞察と受容も重要な予後因子である。PNESと診断されても患者がそれを受け入れられない場合、治療継続が困難となり再発リスクが高まる。医療者との信頼関係を築き、患者が自分の症状と向き合う意欲を持てるよう支援することが、長期予後を改善する鍵となる。

📋 今後の課題と展望
PNESは診断・治療法の確立において近年大きく前進してきたものの、依然として多くの患者が適切な医療にアクセスできていないとの指摘もある[65]。特に診断から治療への橋渡しに困難が伴うことが課題とされ、患者要因(診断の受容しにくさ)だけでなく、治療を引き受けるメンタルヘルス専門家側の知識不足や誤解も問題視されている[66]PNES患者の治療には「身体と心の統合的アプローチ」が不可欠であり、脳神経内科医と精神科医の協働による包括的診療体制の整備が望まれる[38]PNESは決して「稀な厄介症例」ではなく、適切に対応すれば改善しうる病態である。一人でも多くの医療者が最新の知見に基づくPNES診療に携わり、診断・治療のギャップを埋めていくことが期待される[55][56]

参考文献

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https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=122&year=2020&mag=0&number=2&start=87
[45] The safety of antiepileptic drug withdrawal in patients with non-epileptic seizures - PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15944179/

注記: 本記事は医療従事者向けの学術的内容を含んでいます。診断・治療に関しては必ず専門医にご相談ください。

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