コスモスが一株で複数色の花を咲かせる理由

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作者コメント

1つの株で複数の色のコスモスが咲いているのが不思議だったので記事にしてみました。スライドはGeminiの新機能で生成しました。いい感じの画像までつけてくれるのは有能です。

一株で、色々な花が咲くコスモス

 

コスモスの花色を決める遺伝学

コスモス(一般に秋桜とも呼ばれるCosmos bipinnatus)の花色は、主に花弁中の色素(特にアントシアニン色素)の有無と量によって決まります[1]。野生種の基本色はピンク系ですが、品種改良により白、淡いピンク、濃いピンク(赤紫)など多様な色合いが生まれています[2]

コスモスの花弁からはシアニジン系のアントシアニンシアニジン3-グルコシド3-ルチノシド)が検出されており、これがピンク~赤紫色の発色源になります[1]。一方、白色花ではアントシアニン合成系が働かず色素がほとんど蓄積しないため、白く見えます(実際には無色のフラボノイド類が多少含まれますが、人には白に見える)[3]。花色の濃淡(淡いピンク~濃赤紫)は主にアントシアニンの量や共存する無色素(フラボノイド補助色素)の違いによって生じます[3]

📋 遺伝子制御の複雑性
コスモスの花色を制御する遺伝子は一つではなく複数存在し、その組み合わせで花色が決まります[4]。古くから研究されている例では、C遺伝子I遺伝子Sp遺伝子の3つがアントシアニン合成経路の鍵となり、これらに対応する劣性対立遺伝子(働きが失われた型)との組み合わせで白色やピンクの発現が説明されます[5]
遺伝子機能の詳細

近年までの研究でY遺伝子群(黄色系色素カルコンの合成に関与)も含め、合計4つの遺伝子(群)がコスモス花色に関与すると報告されています[6]

C遺伝子:アントシアニン合成経路の最終段階(無色のロイコアントシアニジンを有色のアントシアニンに変える段階)を司り、これが劣性型(cc)になると色素が作られず白花になります[7][8]

I遺伝子:色素発現のインヒビター(抑制因子)と考えられ、劣性型(ii)では抑制が外れて濃色になり、優性型(I-)では発色が薄まる傾向があります[5]

同様にSp遺伝子や他の調節遺伝子が花弁組織ごとの色素沈着パターンに影響するとされます[9]

要するにコスモスの花色は単一遺伝子で決まる単純な性質ではなく、複数の遺伝子の組み合わせとその発現量によって連続的な変化を示します[10]

園芸品種「センセーション」系と品種改良による多様化

ご質問にある「センセーション系」のコスモスとは、古くから親しまれている代表的な園芸品種グループです。センセーション系は単一の品種ではなく、赤紫、桃色、白色など花色の異なる系統を集めたミックス種として流通しています。

例えばタキイ種苗の「センセーション混合」には、ダズラ(濃紅色)ラディアンス(桃地に赤のアイ〈蛇の目模様〉)ピンキー(桃色)ホワイト(白色)といった色別選抜品種が含まれています[10]。このように遺伝的に異なる色系統の種子を混ぜて播くことで、一面にカラフルなコスモス畑を作ることができます[10]

⚠️ 遺伝的ばらつきの発生
センセーション系はオープンポリネーション(自然交配)で種子を採るため、遺伝的に一代毎に多少ばらつきがあります[11]。そのため同じ「混合種」から育てても世代によって色の割合や組み合わせが変わりうるのです[11]

実際、ある年に白とピンクの混じった株が少し出たと思えば、翌年には別の色組み合わせが現れる、といった経験談もあります[12]。これは周囲で交雑が起こり遺伝子の再組み合わせが生じることで、種子から育つ次世代の花色が予測困難になるためです[11]。コスモスは基本的に自家受粉もしますが異花受粉も容易に起こるため、品種混合栽培では世代を経るごとに遺伝的多様性が増し、予想外の花色が現れることがあります[11]

新奇色品種の開発

さらに園芸学的には、20世紀後半から品種改良家によって黄色やオレンジ色のコスモス(主に別種のキバナコスモスCosmos sulphureusとの交配利用など)や、スモーキーピンク、ディープレッド(黒みのある赤)等、新奇色のコスモスも作出されてきました[13]

これら新色品種では従来のアントシアニン以外の色素(例えばカルコン系色素による黄色など)が関与するため、花色発現の遺伝的制御が一層複雑です[14][6]。品種改良により得られたこれらの園芸品種は、観賞価値を高めるため遺伝的に均一化(固定化)されているものも多いですが、混合種として販売される場合には元の系統間で交配が起これば思わぬ組み合わせの形質が現れる可能性があります。

つまり、園芸用コスモスでは人為的な品種混合や交雑が花色のバリエーションを増やし、一株ごとの遺伝的背景を多様にしているのです。もっとも通常は、一粒の種子から育った一つの株(クローン)では遺伝子型が統一されていますから、その株の全ての花は基本的に同じ遺伝的プログラムに従い、同じ色合いで咲くのが普通です。では、一株の中で白、淡桃、濃桃と異なる花色の花が咲く現象はどのように説明できるのでしょうか?

一株で複数の花色が現れるメカニズム

園芸現場や研究報告で知られている「一株咲き分け」現象の原因として、主に次のような可能性が挙げられます:

遺伝子の不安定性(トランスポゾン=動く遺伝子)

コスモスに限らず植物の花色変異でしばしば指摘されるのが、トランスポゾンと呼ばれる可動性の遺伝因子の関与です[11][15]。トランスポゾンが色素合成遺伝子に挿入されるとその遺伝子の働きが壊れ、本来は色づくはずの部分が白く抜けてしまうことがあります[16]

逆に、挿入されていたトランスポゾンがある細胞で抜け落ち(転移)て遺伝子機能が元に戻ると、そこから先にできる組織では再び色素が合成されるようになります[16]

📋 朝顔での研究例
この現象は朝顔で詳しく研究されており、たとえば朝顔の「雀斑(すずめふみ)」品種では花色に必須なDFR酵素の遺伝子トランスポゾンTpn1が挿入することで白花になりますが、茎頂の分裂組織でTpn1が抜けると色素合成能を取り戻した細胞が現れ、その細胞からできた枝(芽)では有色の花が咲くという枝変わり(スポーツ)が起こります[16]

一方、花の形成途中に転移が起これば、一枚の花弁内で色のある細胞とない細胞がモザイク状に混在し、絞り模様や斑入りの花として現れます[11]。コスモスでもトランスポゾンが色素遺伝子に関与する可能性は高いと考えられます。

実際、日本植物生理学会のQ&Aでも「コスモスの花に斑入りや模様が出た場合、トランスポゾンの関与が考えられる」と説明されています[15]。園芸品種の白花コスモスは、もともとピンク花から生じた突然変異(おそらく色素合成遺伝子の欠失変異)に由来することが多いですが、その中には不安定型(可逆的突然変異)も存在するかもしれません。

白花系統にトランスポゾン挿入変異が含まれていれば、ごく稀に遺伝子が「復帰」した花(部分的または全体的に着色した花)が一枝ないし一輪だけ現れることがありえます[17]。実際海外では、白のコスモスから突然ピンクの花が一輪咲いたという園芸家の報告例もあります[17]。このようなケースではその花から種子を採取し、次世代で安定して色付きに戻るか(先祖返り)を試みることも行われています[17]

キメラ(枝変わり・咲き分り)

上述のトランスポゾンの例とも一部重なりますが、ソマチックな突然変異(体細胞変異)によって一株の中に異なる遺伝子型の細胞系統が生じると、その個体はキメラ(遺伝的モザイク)状態になります[18]

植物では生長点のごく一部の細胞に変異が起こると、その細胞から形成された部分(枝や花の一部)が変異形質を示し、残りは元の形質のままということが起こります[18]

📋 キメラの種類と発現
例えば、白花品種のコスモスの茎頂細胞で突然変異が起こりアントシアニン合成能が回復した場合、その細胞から分化した一本の枝だけピンクの花を咲かせることがありえます。同様に、ピンク花品種の枝変わりで白花の枝が出現する可能性もあります。枝全体ではなく花半分だけ色が違うようなケース(花弁の一部分だけ別の色になる等)も、発生途中の細胞クローンの境界が花に現れた区分キメラとして説明できます[18]

園芸分野ではツツジ(サツキ)の咲き分け(同じ株で赤や白や斑入りの花が咲く)や八重咲きサクラの源平咲き(一本の木に紅白の花)などが有名で、これらも枝変わり突然変異によるキメラと考えられています。

コスモスは一年草で木本ほど枝変わりの観察例は多くありませんが、それでも生長過程で突然変異が起これば即座に花色に表現型が現れるため、注意深く見ると一株内の咲き分けが見つかることがあります。実際「一株のコスモスから白、薄紅、濃紅の花が咲いた」というケースでは、遺伝子的な枝変わり(おそらく先述のトランスポゾン変異の固定化か別の突然変異)が起きた枝が含まれていた可能性があります。

エピジェネティックな変化(遺伝子発現制御の変動)

DNA配列そのものに変化がなくても、遺伝子の発現状態が可逆的に変化することで花色が変わる場合があります。これをエピジェネティックな変化といい、具体的にはRNAサイレンシング(RNA干渉)DNAメチル化による発現抑制などが関与します。

花の模様形成において、遺伝子の一部がサイレンシング(発現沈黙)されることで部分的に色が抜ける例が知られています[19]。たとえばペチュニアの星形模様の品種では、特定の部位で色素合成遺伝子が小分子RNAによって抑制され白く抜けます。

また朝顔の「吹掛絞り」と呼ばれる不規則な絞り模様では、もともとトランスポゾン変異だった遺伝子が世代を経て安定化する過程でエピジェネティックな制御により世代限定的な斑入りが生じることが報告されています[15]

エピジェネティック制御の詳細

コスモスにおいて明確にエピジェネティック制御だけで花色が分かれた事例は確認されていませんが、他の植物の知見からすれば遺伝子発現調節の揺らぎが部分的な色変化をもたらす可能性はあります。

特に品種改良で人工的に導入した遺伝子(例えば外来種との交配由来の遺伝子や反復配列)が多い背景では、そうした配列に由来するRNA干渉が予期せぬ発現沈黙と解除を引き起こす可能性も考えられます[19]

エピジェネティックな変化はトランスポゾンによる変異とも関係が深く、トランスポゾン挿入部位がメチル化などでサイレンス状態になったり解除されたりすることでも花色に影響しうるでしょう。

ウイルス感染

ウイルスによる花色異変も古くから知られる現象です。チューリップの「虹彩現象」(ウイルス感染による絞り模様)が有名ですが、他の花でもウイルスが色素生合成を阻害すると斑入り(色抜け)が生じます[20]

コスモスでもウイルス病(モザイク病など)はありますが、花色への影響はあまり報告されていません[20]。ただ、ウイルス感染株で花弁にまだらな淡色斑が出る可能性は否定できません。ウイルスによる場合、模様は不規則であり、株全体で症状が現れる傾向があります。

同じ株で正常花と白化花が混在するようなケースはウイルスより前述の遺伝的要因のほうが蓋然性が高いですが、念のため挙げておきます。ウイルス感染が疑われる場合、他の生育不良症状(モザイク葉斑や生長抑制)が見られることも多いです。

環境要因

一株の中の花色変化に比べれば影響は小さいものの、気温・日照・土壌条件など環境が花色の濃淡に影響する場合もあります。一般にアントシアニンは低温や強光で合成が促進されるため、秋口の涼しい時期に咲いた花は盛夏の花より発色が濃くなることがあります。

また土壌のpHが花色を左右する例(アジサイなど)もありますが、コスモスの場合は花弁液胞のpHは弱酸性(pH5前後)で比較的安定しており、土壌による顕著な色変化は起きにくいと報告されています[21]

したがって環境要因で白花がピンクに変わるといった極端な変化は通常は生じません。しかし淡いピンクと濃いピンク程度の差であれば、気象条件や栄養状態で変動しうるため、一株でも開花時期によってトーンが異なる花が咲くことはありえます。

⚠️ 環境要因の限界
例えば夏の最初の花は淡く、秋が深まると同じ株でも濃色の花を付ける、といったことが起こりえます。ただし環境による影響は株内の全ての花にある程度一様に及ぶので、同時期に咲いた花で真っ白と濃紅が混在するようなケースは環境要因だけでは説明できず、やはり遺伝的・細胞学的要因を併せて考える必要があります。

まとめ・一株咲き分け現象の解明と展望

以上のように、一株のコスモスから異なる色の花が咲く理由としては、コスモスの花色遺伝子系がもともと多因子的であることに加え、園芸品種の交配による遺伝的混雑さ、そしてトランスポゾン変異や枝変わり突然変異などゲノムの不安定性が複合的に関与していると考えられます[5][15]

センセーション系のように多様な色素遺伝子背景を持つコスモスでは、稀にそうした不安定性が表面化し、結果として一株で白・桃・濃桃と「咲き分け」が起こるのでしょう。実際にはまだコスモスでこの現象を分子レベルで解明した研究は少ないようですが、朝顔など類似例の研究からトランスポゾンやエピジェネティクスが有力な要因として推測されています[15][16]

📋 遺伝子のダイナミズム
今後、もしコスモスの一株咲き分け個体が得られれば、その遺伝子を解析することで新たな色素遺伝子や制御機構の発見につながるかもしれません。園芸愛好家にとっては偶然の咲き分けは嬉しい驚きですが、科学的にはそれが起こる背景には遺伝子のダイナミズム(不安定だからこその多様性)が潜んでいるわけです。

コスモスという身近な花にも、遺伝学・育種学・分子生物学の視点から見ると、このように奥深いメカニズムが絡み合っているのです。今回の解説で、一株から白やピンクの花が咲き分ける不思議の裏側にある科学について理解の一助となれば幸いです。

参考文献

[1] tamagawa.jp - コスモスの花色に関する植物生理学的研究
https://www.tamagawa.jp/university/faculty/bulletin/pdf/2_2021_37-45.pdf
[2][3][6][8][13][14][21] 日本植物生理学会 - コスモスの花の色 | みんなのひろば
https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2319
[4][5][7][9][11][12] 遺伝学・育種学に関する一般文献および園芸品種に関する情報
[10] 花の種 景観用 コスモス センセーション 混合 1L 約500g タキイ種苗
https://store.shopping.yahoo.co.jp/e-hanas/4974650292846.html
[15][18][19][20] レファレンス協同データベース - 一つの木に違う色の花が咲くなど、花の色に変化が生じる仕組みを知りたい。接ぎ木ではない。
https://crd.ndl.go.jp/reference/entry/index.php?page=ref_view&id=1000233118
[16] 日本植物生理学会 - 咲き分け、枝がわり | みんなのひろば
https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=0941
[17] Reddit r/gardening - これは、突然変異したコスモスについての最新情報です。2枚目の写真は、突然変異した花と同じ部分から直接咲いた花です。次の写真はすべて同じ植物からのもので、残りはすべて白です!何らかの突然変異が続いたようです。
https://www.reddit.com/r/gardening/comments/16dani3/this_is_an_update_on_my_mutated_cosmos_flowers/?tl=ja