作者コメント
世の中で意見が分かれている問題に関して、深く議論するうえでは、前提となる知識をある程度知っておく必要があります。どんな問題があって、何が論点になっているのかAIを用いて整理します。

定義と現行制度
日本の民法750条は「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定めており、結婚時に夫婦がどちらかの姓を選ぶことを義務付けています[1]。選択的夫婦別姓制度とは、夫婦が結婚後も各自の婚姻前の姓を名乗るかどうかを自分たちで決められる制度であり、同姓か別姓かを強制しません[2]。政府は2021年時点で夫婦同姓制を採用している国は他にないと答弁しており[1]、日本は世界で唯一同姓を義務付ける国となっています。
人口動態統計によると、結婚した夫婦の94.1%が夫の姓を選択し、妻が姓を変えるケースが圧倒的に多い[3]。姓の変更に伴う手続き(銀行・クレジットカード・免許証など)が面倒であると答える人は69%に上り[4]、姓の変更を嫌うため結婚に踏み切れないと感じる人は女性で25.6%(20〜30代)、男性11.1%で、40〜60代女性では35.3%に達しています[5]。
賛成・反対の世論と主要調査
近年、選択的夫婦別姓への賛否を問う調査が相次いでいます。質問の仕方や選択肢によって結果が大きく変わる点にも注意が必要です。例えば内閣府の「家族の法制に関する世論調査」では、2017年までの質問形式では「夫婦別姓を選べるよう法律を改めてもかまわない」と答えた人が57%で最多でしたが、2021年の新しい質問形式では「選択的夫婦別姓を導入した方がよい」が30%に減り、「旧姓の通称使用の法制度を設けた方がよい」が39%と最多になりました[6]。質問文に通称使用制度への誘導が含まれるためで、世論調査の設問が結果に影響を及ぼすことを示しています[7]。
主な世論調査の結果
| 年/機関 | 回答者規模 | 賛成 | 反対 | その他・特徴 |
|---|---|---|---|---|
| NHK世論調査(2024年4月) | 約1,200人 | 62% | 27% | 70歳以上では賛否がほぼ拮抗、60歳未満では7割以上が賛成[8] |
| 連合調査(2025年2月) | 有権者1,000人 | 46.8% | 26.6%が同姓維持 | 「どちらでもよい」37.9%、既婚女性の55.3%が選択肢を望む[9] |
| 日本財団「18歳意識調査」(2025年9月) | 18歳に限る | 47.6% | 20.5%が同姓維持 | 約9割が制度を認知、男性より女性の賛成が高い[11] |
| 共同通信地方首長調査(2024年9月) | 全都道府県知事と市区町村長 | 78% | 17% | 賛成理由は「本人の選択肢を広げる」、反対理由は「家族の一体感が損なわれる」[14] |
| DJ連絡会研究者調査(2025年) | 研究者7,582人 | 67.2% | 20.6% | 女性研究者の賛成82.7%、男性60.6%[15] |
| 内閣府世論調査(2021年12月) | 全国18歳以上 | 30% | 30%同姓維持、39%通称使用 | 質問文に通称使用制度を併記した結果、賛否が三分される[13] |
各種自治体や企業・新聞社の調査がありますが、総じて最近の調査では賛成が反対を上回るか伯仲しています。ただし、質問方法によって賛成率が大きく変動することが確認されており、調査結果の解釈には注意が必要です。
賛成派の論点
人格権と平等
夫婦同姓を義務付ける現行法により、結婚した女性の95%以上が改姓を強いられ、改姓による不利益が女性に偏っています[3]。名前は仕事や研究実績、社会的信用と結びつくため、改姓でアイデンティティが断絶するとの声があります。元最高裁判事の櫻井龍子氏は、旧姓でキャリアを築いていたにもかかわらず最高裁就任時に戸籍名へ改姓せざるを得ず、過去の実績とつながらなくなった経験を語り、改姓による人格的利益の侵害を訴えています[16]。こうした不利益は憲法13条が保障する人格権や婚姻の自由への侵害だと主張されています[17]。
男女平等の観点からも問題視されています。憲法24条は婚姻に際して個人の尊厳と両性の本質的平等を求めており、夫婦別姓訴訟の反対意見でも「96%の夫婦が夫の姓を選んでいる現状は平等に反する」と指摘されました[18]。国連女性差別撤廃委員会も日本の夫婦同姓義務について見直しを勧告しています[19]。
社会的・経済的な負担
改姓に伴う手続きは、銀行口座やクレジットカードの名義変更、学術論文の氏名管理など多岐にわたります。連合の調査では、姓を変更した既婚者の69%がこうした手続きを不便だと答えています[4]。若年層ほど結婚時の改姓に抵抗を感じており、20〜30代女性の25.6%、40〜60代では35.3%が「名字が変わるのが嫌・面倒」と回答しました[5]。
事実婚を選択している男女の調査では、改姓できないため結婚を先延ばしにしている「結婚待機者」が約58.7万人に上ると推定されています[20]。選択的夫婦別姓を認めることで婚姻の障壁が下がり、少子化対策にも資するという声があります。
国際的な例と立法の動き
夫婦同姓を義務付けている国は日本しかなく、海外では夫婦が同姓・別姓を自由に選べるのが一般的です[1]。こうした国では家族の崩壊などの弊害は報告されておらず、岡山弁護士会の声明も「別姓制度を導入している圧倒的多数の国で家族が崩壊しているという事実は認められない」と指摘しています[21]。
立法面では、1996年に法制審議会が別姓導入を答申したものの、国会審議は停滞してきました[22]。しかし、2025年通常国会には立憲民主党、国民民主党、日本維新の会から別姓関係の法案が提出され、28年ぶりに審議入りしました[23]。立憲案と国民案はいずれも婚姻時に同姓か別姓かを選べる内容であり、子の姓は婚姻時に定めるため兄弟姉妹間で姓が異なることはありません[24]。一方、日本維新の会は夫婦同姓を維持しつつ旧姓通称使用を法制化する案を提出しています[25]。審議は秋の臨時国会に継続となりましたが、議論が本格化したこと自体が大きな転換点です。
反対派の論点
家族の一体感と子の姓
反対派の中心的な主張は「別姓は家族の一体感を損ない、親子の絆を弱める」という懸念です。産経新聞の記事では、別姓導入に反対する女性たちが「夫婦別姓だと子供は父か母と違う姓になり、親子別姓・家族別姓制度になる。家族の絆が失われ、日本の血縁共同体の崩壊につながる」と訴えています[26]。また「親と名字が違うことを子供はどう思うか」との問いかけや、戸籍上でも別姓家族と同姓家族が入り乱れることへの不安が語られています[27]。
子の姓の扱いに関しては、別姓導入で兄弟姉妹の姓がバラバラになるのではないかという心配も挙げられます。この点については、立憲案・国民案ともに婚姻時に親がどちらかの姓を子の姓として決めるため兄弟姉妹間でバラバラになることはなく[24]、法制審議会案でも子の姓を統一する仕組みを採っています。
伝統と社会秩序の維持
夫婦同姓は明治期以来の制度であり、伝統的家族観の維持を重視する層は同姓制の存続を主張します。反対派は、姓は親から与えられたもので個人のアイデンティティとは区別すべきだと述べ、別姓でアイデンティティが揺らぐという考えに疑問を呈しています[28]。同紙では「たんに『結婚して姓が変わりました』で揺らぐアイデンティティーやプライバシーなんていらない」というエッセイストの声も紹介されています[28]。
また、旧姓の通称使用を拡大すれば改姓に伴う不便は解消できるとし、民法改正ではなく労働慣行や通達で対応すべきという意見もあります[29][30]。さらに、別姓推進派は家族法の改正と同時に「事実婚」を推進しており、それが結婚制度の崩壊につながると警戒する意見も載っています[31]。こうした声は保守的な価値観に基づいており、世論調査では特に高齢層に反対が多いことと符合します[8]。
旧姓通称使用という代替案
政府や一部政党は別姓導入ではなく旧姓の通称使用を法制化する案を推進しています。例えば日本維新の会は戸籍上は同姓のまま旧姓使用を拡大する法案を提出し[25]、政府も旧姓使用拡大に向けた法整備を検討しています。
連合調査では姓を変更した人の約60%が通称使用だけでは不便が解消されないと答えており[32]、旧姓通称使用では根本的な解決にならないとする声が多いです。岡山弁護士会は、通称使用を法制化する場合は戸籍システムや金融システムの変更に莫大なコストがかかる一方、別姓制度では戸籍制度を維持しつつ費用はわずかだと指摘しています[33][34]。
誰が得して誰が困るか
論点整理と当事者の声
価値観の対立と利害の対立
この問題は家族観やジェンダー観という価値観の対立と、名前の管理や手続き負担といった利害の対立が混在しています。賛成派は個人の人格権・平等・多様性を訴え、別姓を選ぶ自由を求めています。一方、反対派は家族の結束や伝統を重視し、姓が同じであることに共同体としての意味を見いだします。価値観は簡単には調整できませんが、具体的な利害(例えば手続きの簡素化や子の姓の扱い)については制度設計や付随的な措置で解消する余地があります。
当事者の具体例
むすび ── 結論を急がず論点を整理する
選択的夫婦別姓は「別姓を義務付ける制度」ではなく、同姓か別姓かを夫婦自身が選べるようにする制度です[36]。現行制度が家族の絆を強制的に守る一方で、改姓の不利益や婚姻の障壁という現実の問題を生んでいることも明らかになっています。世論調査では賛成が多数派になりつつあり、2025年には複数の法案が国会で審議入りしましたが、反対派の声も根強い。家族観という価値観の違いを尊重しつつ、具体的な利害をどう調整するかが今後の課題です。
政策的には、子の姓の決め方や戸籍制度の維持など、懸念される点を丁寧に制度設計する必要があります。岡山弁護士会の声明が示すように、別姓導入は戸籍制度を壊すものではなく、子の姓の統一やコスト負担にも配慮した案が示されています[37]。同姓を望む人には従来通りの選択肢が残るため、反対派が心配する伝統や家族の一体感を保ちたい人々の選択を奪うものではありません。
制度導入をめぐる議論では、双方の立場の根拠と価値観を尊重しながら、誰もが納得できる仕組みを模索する姿勢が求められます。