作者コメント
IMTスペクトやMIBG心筋シンチ、DATscanなど放射性ヨウ素を使った検査を脳神経内科ではよく行いますが、ヨウ化カリウムの内服をきっちりやっている施設は少ないように思います。公式には内服必要とのことですので知識共有です。

脳神経内科領域で用いられる123I標識薬剤(例:123I-IMPによる脳血流SPECT、123I-MIBGによる心筋交感神経シンチ、123I-ioflupaneによるドーパミントランスポーターSPECT〈DATスキャン〉など)では、検査前後に安定ヨウ素剤(ヨウ化カリウムなど)を投与して甲状腺ブロックを行うことが推奨されています。本記事では、その理由や具体的な投与方法、使用薬剤、注意点について、添付文書やガイドラインに基づきまとめます。
なぜ甲状腺ブロックが必要か
123Iで標識された放射性医薬品を投与すると、体内で微量の遊離放射性ヨウ素(123I−)が発生する可能性があります。甲状腺はヨウ素を強く取り込む臓器のため、この遊離ヨウ素があると甲状腺に集積し被ばくしてしまいます1。甲状腺被ばくは将来的な甲状腺機能異常や癌発生リスク(甲状腺腫瘍)の増加につながる可能性があるため2、これを防ぐことが重要です。加えて、甲状腺への不要な集積は画像上のアーチファクトとなりうるため(特に胸部や全身スキャンの場合)、読影の妨げを避ける目的もあります1。
また一部報告では、123I-IMP脳血流SPECTであらかじめKI投与により甲状腺取り込みを抑制すると、目的部位である脳内集積が高まることも指摘されています3。
各123I製剤における投与タイミングと期間
甲状腺ブロックに用いるヨウ素剤の投与タイミング・期間は、製剤の添付文書やガイドラインでおおよそ共通した考え方が示されています。一般的には検査の数日前から安定ヨウ素剤の内服を開始し、検査当日および検査後も一定期間継続します45。以下に主要な123I製剤ごとの推奨例を示します。
123I-IMP(脳血流SPECT)
脳血流SPECT用123I-IMPでは、検査2〜3日前から検査後数日間の甲状腺ブロックが望ましいとされています4。実際の運用例として検査3日前から1週間後までヨウ化カリウム50mgを1日1回内服する方法があります5。投与当日まで継続することで甲状腺被ばくを抑え、123I-IMPの脳集積を最適化します5。
123I-MIBG(心筋交感神経シンチ)
心臓自律神経機能を見る123I-MIBGでも、IMPと同様に検査数日前から検査後数日までの安定ヨウ素剤投与が推奨されます4。多くの施設で検査3日前から1週間程度ヨウ化カリウム50mg/日の内服を行っています6。添付文書にも「投与前から試験後も数日間、適当なヨウ素剤を服用させること」と明記されており7、甲状腺への放射性ヨウ素集積防止措置が求められています。MIBGシンチでは注射後24時間や48時間後に追加撮影を行う場合もあるため、少なくとも最後の撮影が終わるまで甲状腺ブロックを継続するのが安全です。
123I-イオフルパン(ダットスキャン:DAT SPECT)
パーキンソン病診断に用いる123I-ioflupane製剤(商品名DaTSCANなど)の場合、海外の添付文書では「投与の1時間以上前」に甲状腺ブロック剤を投与すると規定されています8。具体的にはカリウムヨウ化物を約100〜120mg、撮影1〜4時間前に1回内服する方法です9。日本国内でも同様の指示があり、PMDA承認時資料に「DaTscan投与1時間以上前に甲状腺ブロック剤を投与」と記載されています8。
興味深いことに、123I-ioflupaneについては動物・健常人試験で遊離ヨウ素の発生がごくわずかであり、甲状腺への集積もバックグラウンド並みだったとの報告があります10。つまり理論上は甲状腺ブロックの必要性が低い可能性も示唆されています。しかし、安全側に立った運用として国内外のガイドラインでは依然ブロック実施が推奨されており9、実臨床でも基本的に投与前の安定ヨウ素剤内服が行われています。なお、ダットスキャンでは他の123I製剤に比べ事前投与期間が短く、一回投与型のプロトコールである点が特徴です。
代表的な甲状腺ブロック実施例
| 放射性医薬品(検査) | 安定ヨウ素剤の投与タイミングと期間 | 投与量の目安(成人) |
|---|---|---|
| 123I-IMP(脳血流SPECT) | 検査2〜3日前から検査当日または翌日まで継続45。例:検査3日前〜7日後まで | ヨウ化カリウム50mgを1日1回 |
| 123I-MIBG(心筋シンチ) | 検査2〜3日前から検査終了(数日後)まで継続46。例:検査3日前〜7日後まで | ヨウ化カリウム50mgを1日1回 |
| 123I-ioflupane(DAT SPECT) | 検査当日投与1時間前に単回投与(事前数日間の連続投与は不要)89 | ヨウ化カリウム約100mgを1回内服 |
※上記は一例であり、実施期間は施設方針によって多少異なります。一部施設ではより長め(例:注射2日前から検査後1週間)に投与し安全域をとるケースもあります11。
使用される製剤と用量・使い分け
甲状腺ブロックに用いられる安定ヨウ素剤として代表的なのは以下の通りです。
ヨウ化カリウム製剤(丸剤・散剤)
一般的に成人では「ヨウ化カリウム丸50mg」を用います。1錠50mg中にヨウ化カリウム50mg(ヨウ素換算約38mg)を含む製剤で、成人では1回100mg(50mg錠×2錠)程度の内服が標準的です12。上記表のように、検査前日まで連日服用する場合は1日50mg〜100mg程度を継続します(製剤毎の推奨に従う)。ヨウ化カリウム丸は小型の黒褐色丸剤で服用しやすく、投与量が正確に把握できる利点があります。ただし小児には丸剤が使いにくいため、小児例ではヨウ化カリウム散剤を水やジュースに溶かして投与します13。年齢・体重に応じた目安量として、12歳以上50mg/日、6〜12歳で25〜50mg/日、1〜6歳で10〜25mg/日などと調整する方法があります14。
ルゴール液(ヨウ素・ヨウ化カリウム液)
ルゴール液はヨウ素とヨウ化カリウムを含む褐色の液剤で、滴下液として用いられます。成人では5%ルゴール液5滴を水約200mLに溶かし、1日1回服用すると約30〜40mg程度のヨウ素を摂取できます15。施設例では「検査2〜3日前から検査終了まで毎日ルゴール液5滴を服用」といった方法がとられています15。ルゴール液は錠剤が飲めない患者や微調整が必要な場合に有用ですが、独特の味があるため水やジュースに希釈して飲ませます。またヨウ素濃度が製剤により多少異なる点に注意が必要です(処方時に用法確認)。
甲状腺ブロック施行上の注意点
甲状腺ブロックを安全に行うために、以下の点に注意が必要です。
甲状腺疾患のある患者
ヨウ素過敏症・アレルギー
ヨウ化カリウムやルゴール液の投与歴がなくても、ヨウ素造影剤でアナフィラキシーを起こした既往などがある患者では慎重投与が必要です17。ヨウ素そのものへの真のアレルギーは稀ですが、安定ヨウ素剤によって蕁麻疹様血管炎や皮疹を生じることがあります18。重篤な過敏反応既往がある場合は代替手段の検討(例:過塩素酸投与の検討)や、必要性そのものを再評価します。投与する場合も少量から試し、異常がないことを確認してから本量を与えるなど慎重に進めます。
消化器症状への対策
ヨウ化カリウムは空腹時に服用すると胃部不快感や吐き気を催すことがあります。添付文書上は「食直後の投与では胃内容物に吸着され効果減弱の恐れがある」ため注意とありますが19、実際には食後に牛乳で服用させると胃粘膜刺激が和らぐため推奨されています19。制酸剤併用も有効です19。一方、空腹時に確実に吸収させたい場合は少量の水とともに内服させます。患者の胃腸状態に合わせて指導しましょう。
服薬コンプライアンス
甲状腺ブロックの効果は患者の内服遵守にかかっています。外来で検査予約時にヨウ素剤を処方し、服用開始日・終了日を具体的に伝えてください。可能なら服薬カレンダーを作成して渡し、検査当日に実際服用したか確認します。特にDaTSCANのように検査当日早朝のみ内服とした場合、患者が飲み忘れるとブロック効果がゼロになってしまうため注意です。
併用薬・疾患
検査とのタイミング
もし甲状腺シンチグラフィ(123I摂取率検査など)を予定している患者であれば、安定ヨウ素剤投与はその検査結果に干渉します。基本的に甲状腺シンチや131I治療の少なくとも1〜2週間前にはヨウ素剤を中止しておく必要があります24。従って、これらの検査・治療前には今回のような甲状腺ブロックは避けるか十分前もって終了させておくべきです。
国内外の運用の違いと文献ガイドライン
日本国内では、先述のように比較的長めのブロック期間(数日前から数日後まで)を推奨する傾向があります4。例えば脳血流やMIBGシンチでは「検査3日前から1週間後までKI内服」が一つのスタンダードになってきました11。一方、欧米の添付文書・ガイドラインでは最小限の期間、すなわち「投与前に1回ブロック剤を飲ませる」ことが多いです9。DaTSCANに限らず、AdreView(123I-MIBG製剤)など米国の添付文書にも「投与前に甲状腺取り込みをブロックせよ」と記載がありますが、具体的には投与直前の1回服用を指すケースが一般的です225。過度に長期の安定ヨウ素投与は甲状腺機能への影響も考慮すべきであり4、患者負担とリスクのバランスから海外では最小限アプローチがとられていると考えられます。
| 比較項目 | 日本国内の傾向 | 欧米の傾向 |
|---|---|---|
| ブロック期間 | 検査数日前〜検査後数日間(合計約1週間)411 | 投与直前の1回服用が多い925 |
| 根拠 | 安全域を広くとる方針 | 最小限アプローチ(甲状腺機能への影響を考慮) |
| 小児ガイドライン | 検査前2〜3日より当日ないし翌日まで(合計3〜5日間)1 | ー |
もっとも、日本においても小児核医学検査ガイドラインでは「無機ヨウ素投与期間は検査前2〜3日より当日ないし翌日までの合計3〜5日間」とされており1、極端に長期にわたる必要はないとされています。実情としては施設ごとに方針が異なり、「前日から翌日まで3日間のみ」という運用をしている所もあれば「念のため1週間後まで続ける」という所もあります。重要なのは、各放射性薬剤の特性(遊離ヨウ素の量、半減期、撮影タイミング)を踏まえて適切な期間を設定することです26。例えば123I-IMPは半減期13時間の123Iを用い投与後早期に撮像が完了するため数日間のブロックで十分ですが、123I-MIBGは投与翌日以降の遅延像も撮るため念のため長めに継続する、といった判断がありえます。
まとめ
123Iを用いるSPECT検査では、安定ヨウ素剤(ヨウ化カリウム製剤やルゴール液)による甲状腺ブロックが必須の前処置です。これは甲状腺への放射性ヨウ素集積を防ぎ被ばくを低減する目的で行われ、添付文書・ガイドラインに従い検査前から検査後まで継続的に実施します14567891012151619172022。
代表的な投与法として、ヨウ化カリウム50mgを検査2〜3日前から1日1回内服し、検査後も数日間継続します14131425。嚥下困難な場合や小児にはルゴール液など液剤で代用可能です15。
甲状腺疾患やヨウ素過敏症を有する患者では慎重な適応判断と対策が必要ですが、適切に施行すれば甲状腺ブロックは患者の長期的安全性を確保する重要な手段となります。国内外で運用細部に差はあるものの、「放射性ヨウ素による不必要な甲状腺被ばくは避けるべき」という点で一致しており、今後も最新のエビデンスを踏まえつつ安全で効果的な甲状腺ブロック法が追求されていくでしょう。