
目次
この記事のポイント
- 計算した必要カロリーは「初日投与量」ではなく「安全に到達すべき目標量」である
- 低栄養患者への急速な栄養投与は再栄養症候群を引き起こしうる
- 急性期では内因性エネルギー産生があるため、計算式どおりに入れると過栄養になる
- 導入量は低栄養の重さだけでなく、病態・年齢・炎症・臓器障害・監視体制で決まる
1. 必要カロリーを満たせば早く良くなるのか
低栄養患者を前にすると、計算上の必要カロリーまで早く届かせたほうが回復も早いのではないかと考えたくなる。しかし実際には、算定した必要カロリーは最終到達目標であって、導入初日から入れる量ではない。
とくに長期間の摂取不良、著明な体重減少、低BMI、低リン・低カリウム・低マグネシウム、重症患者の急性期では、高カロリー負荷がかえって有害になりえる。
NICEは、再栄養リスクのない一般患者では25〜35 kcal/kg/日を目安とする一方、重症例では目標の50%以下から、再栄養高リスクでは10 kcal/kg/日以下、極めて高リスクでは5 kcal/kg/日からの導入を勧めている。1
2. 再栄養症候群とは何か

最大の理由は再栄養症候群(refeeding syndrome)である。
長く食べていない患者では、見かけ上の血清値が保たれていても、体内のリン・カリウム・マグネシウム・チアミンは枯渇していることがある。そこへ糖質を中心とした栄養を急に入れるとインスリン分泌が増え、これらの電解質が細胞内へ急速に移動し、さらに水・ナトリウム貯留も起こる。
再栄養症候群の病態
- 栄養再開 → インスリン分泌↑ → リン・カリウム・マグネシウムの急速な細胞内移動
- 水・ナトリウム貯留 → 体液過剰
- 重症例では臓器障害やチアミン欠乏(Wernicke脳症)を合併
ASPENは、再栄養開始後5日以内にリン・カリウム・マグネシウムが低下し、重症例では臓器障害やチアミン欠乏を伴う状態として定義している。2
3. 急性期の過栄養という問題
もうひとつ大事なのは、急性期では「必要量どおり」がそのまま安全量ではないことである。
ESPENは、ICU急性期では早期のフルフィーディングは内因性エネルギー産生(糖新生・脂肪分解・蛋白異化)と上乗せになり過栄養を招くと述べている。急性期には相当量の内因性エネルギー産生が残るため、計算式どおりに入れると「足し算」になってしまう。3
ESPENは、予測式で必要量を見積もる場合、ICU最初の1週間は推定必要量の70%未満の低カロリー投与を優先するよう勧めている。3
NUTRIREA-3試験の教訓
ショックで人工呼吸管理中の患者に対し、急性期7日間の標準投与群(25 kcal/kg/日、蛋白1.0〜1.3 g/kg/日)は、低投与群(6 kcal/kg/日、蛋白0.2〜0.4 g/kg/日)に比べて死亡率を下げず、むしろ嘔吐、下痢、腸管虚血、肝機能障害が多くみられた。急性期は「多く入れるほどよい」ではない。4
4. 高リスク患者の見分け方

NICEが示す再栄養リスクの高い患者像は以下のとおりである。1
1項目でも該当すれば高リスク
- BMI <16
- 3〜6か月で15%以上の体重減少
- 10日超のほぼ絶食
- 開始前から低K・低P・低Mgがある
2項目以上で高リスク
- BMI <18.5
- 3〜6か月で10%以上の体重減少
- 5日超の摂取不良
- アルコール多飲や利尿薬・制酸薬・インスリンなどの使用歴
5. 導入量の目安
| 患者像 | 導入の考え方 |
|---|---|
| 重症でなく、再栄養リスクも高くない | 25〜35 kcal/kg/日を目標に考える |
| 重症・外傷でEN/PNが必要 | 目標の50%以下から開始し、24〜48時間で増量 |
| 5日以上ほとんど食べていない | 最初の2日間は必要量の50%以下 |
| 再栄養高リスク | 10 kcal/kg/日以下から開始し、4〜7日で段階的に増量 |
| 極めて高リスク | 5 kcal/kg/日前後から開始 |
NICEガイドラインをもとに整理1
ASPENは高リスク成人に対して、最初の24時間は100〜150 gの糖質、または10〜20 kcal/kgから開始し、1〜2日ごとに目標の33%ずつ増やすという実務的な提案をしている。2
共通するメッセージ:必要量はゴールであって、開始量ではない。
6. カロリーより先に考えるべきこと

再栄養リスクがある患者では、カロリーより先にチアミンと電解質管理を考えるべきである。
電解質モニタリング
ASPENは、開始前にK・Mg・Pを確認し、高リスクでは最初の3日間は12時間ごとのモニタリングを勧めている。2
チアミン投与
チアミン100 mgを栄養開始前、またはブドウ糖輸液開始前に投与し、その後5〜7日以上継続する。NICEも初期10日間のチアミンと電解質補充を重視している。1,2
見落としやすい落とし穴
維持輸液や薬剤に含まれるブドウ糖も再栄養負荷として数えるべきである。「食事はまだ少ないから大丈夫」と思っていても、点滴で糖が先行していると再栄養症候群の引き金になる。2
電解質が低下した場合の対応
単純に「補えばよい」ではなく、増量速度そのものを見直す必要がある。ASPENは、K・Mg・Pの補正が難しい、あるいは急速に低下する場合には、カロリーや糖質を50%減らして再度ゆっくり増量するよう提案している。ESPENも、再栄養低リン血症が出た場合には2〜3日間のエネルギー制限とその後の段階的増量を勧めている。2,3
7. 常に「low and slow」が正解か
そこも少し注意が必要である。
摂食障害の若年入院患者(12〜24歳)を対象としたランダム化試験では、2000 kcal/日開始の高カロリー再栄養は、1400 kcal/日開始よりも早く内科的安定化に到達し、在院日数も約4日短く、電解質異常の増加もみられなかった。5
外挿に注意
このデータは12〜24歳の摂食障害入院患者で、厳密な電解質モニタリングと補充プロトコルがある環境でのものである。高齢の内科患者、慢性疾患患者、敗血症やショックのICU患者へそのまま外挿するのは危険である。5
どれだけ入れるかは、低栄養の「重さ」だけでなく、病態、年齢、炎症、臓器障害、監視体制で変わると考えるのが実際的である。
8. まとめ
低栄養患者に高カロリーを早く入れると、早く良くなるどころか、再栄養症候群、急性期の過栄養、消化管不耐、体液過剰、代謝合併症を招くことがある。
計算した必要カロリーは「初日投与量」ではなく「安全に到達すべき目標量」と考えるのが基本である。
一文でまとめると:低栄養患者では、必要量を計算したら、その数字はゴールとして扱い、導入量は再栄養リスクと急性期病態で決める。