
この記事のポイント
- 食事指導は「禁止事項を並べる」のではなく、その人の病気・体格・生活背景を踏まえて「何を優先して守るか」を決めることが大切
- 食事指導の出発点として、体重変化・食塩・食事量・たんぱく質・水分・食形態・生活背景の7項目をまず確認する
- 制限が強すぎると低栄養や筋肉量低下につながるため、「何を減らすか」と「何を不足させてはいけないか」を常に一緒に考える
- 1回の指導で変える項目は1〜2つに絞り、具体的な行動に落とし込むことで継続につながる
「血圧が高いので塩分を減らしましょう」
「血糖が高いので甘いものを控えましょう」
「コレステロールが高いので油ものはやめましょう」
外来で食事の話をするとき、こうした説明はよく出てきます。もちろん間違いではありません。ただ、これだけでは食事指導はうまくいかないことが少なくありません。
理由は単純です。食事は、検査値だけで決められるものではないからです。年齢、体格、体重の変化、筋肉量、腎機能、肝機能、飲み込みの状態、生活のリズム、家族の食事、買い物のしやすさ。こうした条件が重なって、はじめて「その人に合った食事」が見えてきます。
しかも実際の患者さんは、ひとつの病気だけを持っているとは限りません。高血圧があり、糖尿病もあり、体重も増えている。あるいは腎臓病がある一方で、食が細くなって体重が減っている。こうした場面では、「これを食べないように」と制限を増やすだけでは、かえって別の問題を悪くしてしまうことがあります。
このシリーズでは、病気ごとの食事療法を整理していきます。その第1回では、まず土台になる考え方として、食事指導は「何を禁止するか」ではなく「何を守るか」から始める、という話をしたいと思います。
食事指導がうまくいかない理由
食事指導が続かない理由のひとつは、説明が抽象的になりやすいことです。
たとえば「塩分を控えてください」と言われても、患者さんにとっては、
- みそ汁は飲んでよいのか
- 漬物はどのくらいならよいのか
- コンビニ弁当はだめなのか
- 減塩しょうゆならたくさん使ってよいのか
といった疑問が残ります。
「甘いものを控える」も同じです。砂糖の入ったお菓子だけをやめればよいと思っている方もいますし、逆に主食まで極端に減らしてしまう方もいます。
もうひとつ大きいのは、制限ばかりが前に出やすいことです。食事指導が「ダメなものを増やす話」になってしまうと、患者さんは続けにくくなります。食事は毎日のことです。短期間なら我慢できても、長くは続きません。
さらに、高齢の方や複数の病気がある方では、制限が強すぎると低栄養が問題になります。検査値を良くしたいと思って始めた食事療法が、体重減少や筋肉量低下につながってしまっては本末転倒です。
食事指導で大切なのは、「何を減らすか」だけではありません。その人の体と生活を守るために、何を優先すべきかを決めることです。
まず確認したい7つの項目
病気ごとの細かい話に入る前に、外来でまず見ておきたい項目があります。私は次の7つを、食事指導の出発点として考えるのが大事だと思います。
| 確認したい項目 | 見る理由 |
|---|---|
| 体重と体重変化 | 肥満だけでなく、意図しない体重減少がないかを確認するため |
| 食塩の取り方 | 高血圧、腎臓病、心不全などで特に重要だから |
| 食事量全体 | 何を食べるかだけでなく、全体量が多いのか少ないのかを見るため |
| たんぱく質の取り方 | 腎臓病、肝臓病、フレイルなどで考え方が変わるため |
| 水分の取り方 | 脱水、むくみ、嚥下障害などに関わるため |
| 食形態 | 嚥下障害、術後、食欲低下があるときに重要だから |
| 生活背景 | 一人暮らし、仕事、家族の食事、買い物環境で実行可能性が変わるため |
1)体重と体重変化
体重は基本ですが、単に「重いか軽いか」だけではありません。ここ数か月で増えているのか、減っているのかが重要です。
体重が増えている方では、食事量や間食、飲み物の見直しが必要かもしれません。一方で、高齢の方や慢性疾患のある方で体重が減っている場合は、まず低栄養を疑う必要があります1。食事制限の話を始める前に、「そもそも十分食べられているか」を確認しなければいけません。
2)食塩の取り方
食塩は、高血圧だけの問題ではありません。腎臓病や心不全でも重要ですし、むくみや血圧の変動にも関わります。
ただし、患者さんは自分で「塩辛いものをそんなに食べていない」と感じていることが多いものです。実際には、みそ汁、麺類の汁、漬物、練り物、ハムやソーセージ、惣菜、弁当、カップ麺など、日常の中に塩分は多く含まれています。
3)食事量全体
糖尿病でも脂質異常症でも肥満でも、食品の種類ばかり気にしがちですが、全体量が多ければ改善しません。逆に、全体量が少なすぎると低栄養になります。
主食、主菜、副菜のバランスがどうか。間食や夜食はあるか。甘い飲み物やアルコールは入っていないか。こうした点を合わせて見ないと、食事の実態はつかめません。
4)たんぱく質の取り方
たんぱく質は「多い方がよい」「少ない方がよい」と単純には言えません。
腎臓病では取りすぎに注意が必要な場面があります。一方で、高齢者、フレイル、肝硬変、術後では、不足が問題になることがあります。
肉や魚、卵、大豆製品、乳製品をどの程度取っているか。その情報がないまま、一律に制限を勧めるのは危険です。
5)水分の取り方
水分も見落とされやすい項目です。脱水しやすい高齢者、下痢のある患者さん、嚥下障害のある方では特に重要です。
一方で、心不全や進行した腎障害では、水分の取り方に注意が必要なこともあります。「何を食べるか」だけでなく、「何をどのように飲んでいるか」まで見ておく必要があります。
6)食形態
食事の内容が適切でも、食べ方や食形態が合っていなければ、安全に食べられません。
嚥下障害がある方では、やわらかいだけで安全とは限りません。術後の患者さんでは、少量頻回が必要なこともあります。入れ歯の具合や咀嚼力も含めて、「この人は実際に食べられるのか」という視点が必要です。
7)生活背景
どれほど正しい食事指導でも、生活に合っていなければ続きません。
一人暮らしで調理が難しい方に、手の込んだ献立を勧めても実行は難しいでしょう。仕事で帰宅が遅い方、家族と別メニューにできない方、買い物に行きにくい方では、現実的な工夫が必要です。
食事指導は、理想論を語ることではありません。その人の生活の中で実際にできる形に落とし込むことが大切です。
制限だけの指導が危ない理由
食事療法というと「減らす話」が中心になりやすいのですが、制限だけを前に出すと問題が起こります。
たとえば、糖尿病が気になるからといって主食を極端に減らし、結果として食事量全体が落ちてしまう方がいます。腎臓を気にしてたんぱく質を減らしすぎ、筋肉量が落ちてしまう方もいます。嚥下が不安だから食べやすいものだけに偏り、水分や栄養が不足することもあります。
とくに高齢者では、「食べすぎ」より「食べなさすぎ」の方が深刻になることがあります。体重が落ちる、筋力が落ちる、活動量が減る、さらに食欲が落ちる。この流れに入ると、元に戻すのは簡単ではありません。
もちろん、制限が必要な病気はあります。ただし本当に大切なのは、必要な制限を、必要な範囲で行うことです。
食事指導ではいつも、次の二つを一緒に考える必要があります。
- 何を減らすべきか
- 何を不足させてはいけないか
このバランスが崩れると、食事療法はうまくいきません。
外来で使いやすい食事指導の進め方
では実際に、食事指導はどう進めるとよいのでしょうか。ポイントは、最初から完璧を目指さないことです。
1回で変える項目は多くしすぎない
患者さんに一度にたくさんの指示を出しても、続きません。最初は1つか2つ、行動に落としやすい目標に絞る方が現実的です。
たとえば、
- 毎日飲んでいる甘い飲み物をやめる
- みそ汁は1日1回までにする
- 麺の汁を全部飲まない
- 夜食の菓子パンをやめる
このように、具体的な行動に変えることが重要です。
数字より行動に落とす
「塩分を減らす」「糖質に注意する」だけでは、日々の食事は変わりません。数字の話をするにしても、最後は行動に落とし込む必要があります。
たとえば「減塩」を伝えるなら、
- 漬物を毎食から1日1回にする
- カップ麺は回数を減らす
- だしや酢、香辛料を使って味を補う
- 惣菜は汁気の多いものを避ける
という形にした方が、実際の生活で使えます。
できていることを確認する
食事指導は、問題点を探すだけではありません。すでにできていることを確認すると、患者さんも取り組みやすくなります。
「間食はしていない」「甘い飲み物は飲まない」「揚げ物はあまり多くない」
こうした点が確認できれば、そこは無理にいじらず、本当に直すべき点に集中できます。
次回につながる指導にする
食事指導は一度で完成するものではありません。前回から何が変わったか、やってみて何が難しかったかを確認しながら調整していくものです。
うまくいかなかったときも、「意志が弱い」と考えるのではなく、目標設定が現実に合っていなかった可能性を考えた方が建設的です。
栄養士につなぐべき場面
外来で大まかな方向を示すことは大切ですが、より専門的な介入が役立つ場面も少なくありません。
たとえば、
- 腎臓病で塩分、たんぱく質、カリウムを整理する必要がある
- 肝硬変で低栄養や筋肉量低下が気になる
- 消化管手術後で食事量が安定しない
- 嚥下障害があり、食形態や水分調整が必要
- 糖尿病、高血圧、肥満などが重なっていて優先順位の整理が難しい
- 高齢で体重減少があり、低栄養が疑われる
このような場面では、栄養士の介入で具体性がぐっと増します。医師が方向性を示し、栄養士が生活に落とし込む。この連携はとても重要です。
このシリーズで扱うこと
このシリーズでは、次回以降、病気ごとに食事療法の考え方を整理していきます。
高血圧では、まず減塩が中心になります。脂質異常症では、単に油を減らすのではなく、脂質の質をどう考えるかが重要です。糖尿病では、甘いものだけでなく、食事全体の組み立てが問題になります。肥満では、短期的な我慢より、崩れにくい食べ方を作ることが大切です。腎臓病や肝臓病では、制限と低栄養予防の両方を考えなければいけません。嚥下障害や消化管手術後では、食べる内容だけでなく、食べ方や食形態が大きな意味を持ちます。
つまり、病気が違えば、食事指導で守るべきポイントも違います。一律の「健康食」で済ませないことが、このシリーズの出発点です。
まとめ
食事指導は、「これを食べてはいけない」と禁止事項を並べることではありません。その人の病気、体格、年齢、栄養状態、生活背景を踏まえて、何を優先して守るかを決めることです。
減塩が大切な人もいます。体重を減らすことが必要な人もいます。一方で、まずは体重減少を止めること、筋肉量を保つこと、安全に飲み込めることを優先すべき人もいます。
食事療法は、厳しくするほどよいわけではありません。必要な制限を必要な範囲で行い、不足してはいけないものを見落とさないこと。そこがいちばん大切です。
次回は、高血圧の食事指導を取り上げます。減塩だけで終わらせず、外来で実際にどこを見て、何をどう伝えると実行につながるのかを整理します。
参考文献
- Cederholm T, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition - A consensus report from the global clinical nutrition community. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2019;10(1):207-217. PMID: 30920778
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