低栄養・フレイル・複数疾患の食事指導|制限しすぎないための優先順位
この記事では、食事指導で最も難しいのは「病気が重なる患者」・制限がぶつかる典型例・糖尿病と腎臓病について解説します。

目次
この記事のポイント
- 複数疾患の患者では、食事制限の足し算が低栄養・フレイルを進める危険がある
- 優先順位は「生命に直結する問題 → 低栄養を防ぐ → 継続できること」の順で考える
- フレイル高齢者では数値管理より「食べる力を保つこと」「体重・筋肉量を落とさないこと」が重要
- 食事指導は「何を禁止するか」ではなく「何を守るか」を決めること
「糖尿病があるので甘いものは控えましょう」
「腎臓が悪いのでたんぱく質を取りすぎないようにしましょう」
「血圧が高いので減塩しましょう」
どれも正しい説明です。ところが、外来で実際に困るのは、これらが同時に成り立つ患者さんです。
高齢の患者さんでは、糖尿病もあり、高血圧もあり、腎機能も落ちていて、しかも食が細くなって体重が減っている、ということが珍しくありません。嚥下障害があって食形態に配慮が必要な方もいますし、肝硬変やがん術後で筋肉量の低下が問題になる方もいます。このような場面で、それぞれの病気に対する教科書的な制限をすべて足し算してしまうと、患者さんは「何を食べてよいかわからない」状態になります。
その結果として起こりやすいのが、食事量そのものの低下です。食べるのが面倒になり、食べられるものだけに偏り、体重が落ち、筋肉量が減り、活動量が落ち、さらに食欲も落ちていきます。つまり、複数疾患の患者さんでは、数値の改善を目指して始めた食事指導が、かえって低栄養やフレイル(加齢などで心身が弱った状態)を進める危険があります。
最終回でお伝えしたいのは、食事指導では制限を足し算しないこと、そして何を最優先で守るべきかを決めることです。病気が複数ある患者さんでは、完璧な食事を目指すのではなく、まず崩してはいけない土台を守る発想が重要です。
食事指導で最も難しいのは「病気が重なる患者」
単一の病気であれば、食事指導の軸は比較的はっきりしています。高血圧なら減塩、糖尿病なら食事全体の量と質の調整、脂質異常症なら脂質の質や間食の見直し、といった形です。
しかし、実際には次のような組み合わせが非常に多くみられます。
- 糖尿病 + 高血圧 + 肥満
- 糖尿病 + 腎臓病
- 腎臓病 + 高齢 + 体重減少
- 嚥下障害 + 脱水 + 低栄養
- 肝硬変 + 筋肉量低下 + 食欲低下
- がん術後 + 下痢 + 体重減少
こうした患者さんに対して、各疾患ごとの食事制限をそのまま並べるだけでは実行不可能になりやすくなります。実際には、「今この患者さんで何が一番危ないのか」「何を守らないと全体が崩れるのか」を先に決める必要があります。
制限がぶつかる典型例
糖尿病と腎臓病
糖尿病では血糖管理が必要ですが、腎臓病を合併すると、塩分、たんぱく質、カリウム、リンなどへの配慮も必要になることがあります。ここで説明を増やしすぎると、患者さんは食事量全体を減らしてしまいがちです。
特に高齢者では、「ご飯もだめ、果物もだめ、肉もだめ、野菜もだめ」と受け止められてしまうことがあります。こうなると、栄養バランス以前に、食べる意欲そのものが落ちます。
高血圧と低栄養
減塩は大切ですが、食が細い患者さんで味を薄くしすぎると、さらに食事量が落ちることがあります。減塩の必要性は否定できませんが、体重減少や筋力低下が前景にある場合には、単純に味を薄くするだけではうまくいきません。
嚥下障害と脱水
嚥下障害では、とろみや食形態調整が重要です。しかし、とろみ水が飲みにくくて水分摂取量が落ちる患者さんは少なくありません。誤嚥を避けようとするあまり、水分不足や便秘、尿路感染、全身状態悪化につながることがあります。
肝硬変と筋肉量低下
肝臓病というと、以前は何となく「たんぱく質を控える」という印象を持たれがちでした。しかし実際には、肝硬変では低栄養や筋肉量低下が大きな問題になります。必要以上の制限は、全身状態をむしろ悪くすることがあります。
まず優先すべきものは何か
複数疾患がある患者さんでは、すべての問題を同時に最適化するのは困難です。そこで重要になるのが、優先順位です。私は外来では、少なくとも次の順で考えると整理しやすいと思います。
1. 生命に直結する問題がないか
まず最初に考えるべきなのは、今すぐ全身状態を崩し得る問題です。
- 水分が取れず脱水が進んでいる
- 嚥下障害で誤嚥リスクが高い
- 食事量が著しく低下している
- 体重減少が急速である
- 低血糖を起こしている
- 高度の浮腫や腹水で食べられない
こうした問題があるなら、LDLコレステロールや軽度の高血糖に先んじて、まずそこへの対応が必要です。
2. 低栄養を進めないこと
高齢者や慢性疾患患者では、低栄養は非常に大きな分岐点になります。体重減少、筋力低下、歩行低下、転倒、感染、入院、日常生活の動作(ADL)の低下につながりやすく、一度崩れると立て直しに時間がかかります。
したがって、食事指導ではいつも「この指導で食事量全体が落ちないか」を考える必要があります。
3. 継続できること
理論上完璧でも、患者さんが実行できなければ意味がありません。高齢の独居、買い物困難、調理困難、家族と別メニューにできない、といった事情があれば、できる範囲での最適化を目指す方が現実的です。
フレイル高齢者では何を守るべきか
フレイルの患者さんでは、血圧、血糖、脂質といった数値の管理も大切ですが、それ以上に食べる力を保つことと体重・筋肉量を落とさないことが重要になる場面が少なくありません。
フレイル高齢者で意識したい点は次の通りです。
- 体重減少がないか
- 食欲低下がないか
- 主食だけに偏っていないか
- たんぱく質源が毎食あるか
- 水分が足りているか
- 嚥下や咀嚼に問題がないか
- 買い物や調理ができているか
このような患者さんに、若年者と同じ感覚で強い減量指導をすると、かえって状態を悪くすることがあります。肥満があっても、体重を急いで減らすことより、まず食事の質を整え、筋肉量低下を防ぐことが優先されることがあります。
「数値の改善」と「食べられること」のバランス
医療者はどうしても、HbA1c、LDLコレステロール、血圧、クレアチニン、カリウムなどの数値に目が向きます。もちろんそれは大切です。ただし、食事指導では、数値の改善だけを目標にすると全体を見失うことがあります。
たとえば、
- HbA1cを少し下げるために食事量全体が落ちる
- 塩分を減らしすぎて食欲が低下する
- 腎臓を気にしすぎてたんぱく質が不足する
- 嚥下に配慮しすぎて水分摂取が減る
といったことは実臨床でよくあります。
大切なのは、数値だけでなく、食べられているか、体重は保てているか、日常生活が維持できているかを一緒に見ることです。
家族指導で伝えるべきこと
高齢者や複数疾患の患者さんでは、本人だけでなく家族の理解も非常に重要です。家族が熱心なほど、いろいろな情報を取り入れて制限を増やしてしまうことがあります。
家族には、次のような点を共有すると実践的です。
- 完璧な制限食を目指さなくてよいこと
- まずは食事量を保つことが重要な場合があること
- 体重減少や食欲低下は見逃してはいけないこと
- 一度にすべてを変えなくてよいこと
- 食べやすい形で必要量を入れる工夫が大切なこと
家族が「これもだめ、あれもだめ」と言いすぎると、患者さんは食事自体が嫌になってしまいます。指導では、制限の理由だけでなく、何を守りたいのかを説明することが大切です。
栄養士、訪問看護、リハビリとの連携
複数疾患の患者さんほど、多職種連携の価値が高くなります。
栄養士は、制限がぶつかり合う中で現実的に食べられる献立を組み立てるのが得意です。訪問看護は、自宅での食事量や水分摂取を直接把握できる立場にあります。リハビリ職や言語聴覚士は、嚥下機能や体力面から食べる力を支えることができます。
医師がひとりですべてを細かく指示するより、方向性を示したうえで多職種と役割分担する方がうまくいくことが多いと思います。各疾患ごとの栄養士との連携についてはシリーズ各回でも触れています。
こういう患者では単純な制限食が危険
次のような患者さんでは、一般的な制限食をそのまま当てはめるのは危険です。
- 最近3-6か月で体重減少がある
- 食事量が明らかに減っている
- BMIが低い、または筋肉量低下が目立つ 1
- 嚥下障害がある
- 食後症状が強い
- 独居で調理困難
- 認知機能低下がある
- 進行した慢性疾患や悪性疾患がある
このような患者さんでは、まず「何を制限するか」より、「どうすれば食べられるか」を考える方が重要です。
外来で使いやすい最終チェックポイント
複数疾患の患者さんで食事指導に迷ったときは、次の順で確認すると整理しやすくなります。
- 今、脱水や低栄養など、急いで対応すべき問題はないか
- 体重は減っていないか
- 1日の総摂取量は確保できているか
- たんぱく質源は毎日入っているか
- 水分は足りているか
- そのうえで、塩分、糖質、脂質、カリウムなどの個別調整を考える
- 本人と家族が実行できる内容になっているか
この順番で考えると、制限の足し算に陥りにくくなります。
まとめ
食事指導で本当に難しいのは、病気がひとつではない患者さんです。糖尿病、高血圧、腎臓病、嚥下障害、低栄養、フレイルなどが重なると、それぞれの教科書的な指導を単純に並べても、現実には続けられません。
だからこそ大切なのは、制限を足し算しないことです。まず生命に直結する問題がないかを確認し、低栄養や脱水を防ぎ、食べられることを守ったうえで、個別の数値管理に進む。この順番が重要です。
食事療法は、厳しいほどよいわけではありません。複数疾患の患者さんではなおさら、完璧な制限を目指すより、崩してはいけない土台を守る方が臨床的に価値があります。
このシリーズでは、高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満、腎臓病、肝臓病、嚥下障害、消化管手術後と、それぞれの病態ごとの食事指導を見てきました。最後に残る原則はひとつです。食事指導は「何を禁止するか」ではなく、「何を守るか」を決めることです。その視点を持つだけで、外来での説明はずっと実践的になります。
参考文献
- Cederholm T, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition - A consensus report from the global clinical nutrition community. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2019;10(1):207-217. PMID: 30920778
前回の記事:消化管手術後の食事指導
このシリーズの全記事は食事指導シリーズ一覧からご覧いただけます。