脳神経内科医が答える からだの不思議 #16
けいれんを目撃したときの正しい対応 ― やってはいけないことと、救急車を呼ぶ判断
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街中や職場で、突然目の前の人がバタッと倒れ、体が硬直してガクガクと震え始める――こんな場面に遭遇したら、誰でも頭が真っ白になるでしょう。「何かしなければ」という焦りが、かえって危険な行動につながってしまうことがあります。
脳神経内科の外来では、けいれん発作を実際に見た家族や同僚から「あのとき、何かできることはありましたか?」という相談をよく受けます。この記事では、けいれん発作を目撃したときに本当に必要な行動と、絶対にやってはいけないことを、脳の仕組みから分かりやすく解説します。
この記事でわかること
こんな経験、ありませんか?
電車のホームで突然倒れた乗客を見た。学校の体育館で生徒が震え始めた。同僚がランチ中に椅子から崩れ落ちた。けいれん発作はいつでも、誰の目の前にでも起こりうる出来事です。
日本における全生涯でのてんかん発症率は約3%、けいれん(てんかん発作以外を含む)の生涯累積罹患率は約10%とされています。1 つまり、人口の多い場所にいれば、目撃する機会はけっして珍しくありません。正しい知識を持っているかどうかで、その人の命を守れるかが変わります。
けいれん中、脳の中で何が起きているか
けいれん発作(全般発作)のとき、脳では神経細胞の電気的な嵐(放電)が広範囲に起きています。通常、神経細胞は秩序だって情報をやりとりしますが、何らかの原因で興奮性が過剰になり、一斉に発火してしまう状態です。2
この異常放電が運動野に及ぶと筋肉の不随意収縮(けいれん)が起き、意識を支配する網様体賦活系に及ぶと意識が消失します。全般強直間代発作(いわゆる「大発作」)では:
- 強直期(tonic phase):全身が硬直し、呼吸が止まることがある(30〜60秒)
- 間代期(clonic phase):規則的なガクガクした収縮を繰り返す(30〜60秒)
- 発作後期(postictal phase):発作が終わると深い眠りや錯乱状態になる(数分〜30分)
けいれん発作は、ほとんどの場合2〜3分以内に自然に止まります。発作中に外から止めることはできませんし、無理に止めようとする必要もありません。目撃者ができる最善の行動は、発作が安全に終わるよう環境を整えることです。
けいれんを目撃したら ― 正しい対応手順
▶発作中にやるべきこと
- 時間を確認する ― 発作が始まった時刻を記録。5分を超えたら救急車を呼ぶ目安
- 周囲の危険物を除く ― テーブルの角、椅子の脚、熱いものなど硬い障害物を遠ざける
- 頭を守る ― 地面が硬い場合は、折りたたんだ上着やカバンなどを頭の下に置く
- 横向きに寝かせる(回復体位) ― 嘔吐した際に気道をふさがないよう、顔を横に向ける
- 眼鏡・ネクタイ・ベルトなど体を締め付けるものを外す
- 発作の様子をよく観察・記録する ― 体のどこが震えたか、眼がどちらを向いていたか、意識の有無
- 声をかけ続ける ― 発作後、意識が戻ってきたら「大丈夫ですよ、そこにいますよ」と安心させる
やってはいけないこと ― よくある誤った行動
- 口の中に何かを入れない ― 「舌を噛まないように」とタオルや指を入れるのは最も危険。窒息・骨折・受傷のリスクがある
- 体を押さえつけない ― 無理に動きを止めようとすると骨折や脱臼を引き起こす可能性がある
- 水を飲ませない ― 意識がない・意識が混濁している状態での飲水は誤嚥(気管への流入)を引き起こす
- 一人にしない ― 回復するまでそばに寄り添う
- 仰向けにしたままにしない ― 嘔吐物が気道に流れ込まないよう、横向きに体位を保持する
- 発作中に食べ物・薬を口に入れない ― 意識のない状態での経口投与は窒息死につながる
「舌を噛む」という心配は非常によく聞きますが、実際には発作中に舌を完全に飲み込むことはありません。舌は口腔内に固定されており、飲み込まれる構造ではないのです。また、仮に舌の端を噛んでしまっても、そのリスクはタオルや指を口に入れることで生じる危険に比べれば、はるかに小さいものです。3
救急車を呼ぶべき状況
- 発作が5分以上続いている(てんかん重積状態の可能性)
- 発作が止まってもすぐに次の発作が始まる(意識が戻らないまま繰り返す)
- 発作後、数分経っても意識が戻らない、または呼びかけに反応しない
- 呼吸が回復しない、チアノーゼ(唇や爪が紫色)が見られる
- 水の中(プール・浴槽)で発作が起きた
- 頭部を打撲した後に発作が起きた
- 妊娠中に発作が起きた(子癇の可能性)
- 初めての発作と思われる(てんかんの診断がない人)
- 発作後に麻痺・ろれつが回らないなど新たな神経症状がある
特に重要なのは「5分ルール」です。かつては「10分以上続いたら救急」とされていましたが、現在の国際てんかん連盟(ILAE)のガイドラインでは、5分以上続く発作は「てんかん重積状態(status epilepticus)」として扱い、早急な治療が必要とされています。4 重積状態が続けば脳に不可逆的なダメージが生じるため、5分を超えたらためらわず119番です。
発作後の対応と救急隊員への伝え方
▶発作が終わったら
発作が自然に終わると、回復体位を保ちながら意識の戻りを確認します。発作後は脳が疲弊した「発作後朦朧状態(postictal state)」に入り、本人はぼんやりしていたり、眠ったり、何が起きたか覚えていなかったりします。これは正常な経過です。慌てて揺り起こす必要はありません。
▶救急隊員・医師への情報提供
目撃者の証言は診断にとって非常に重要です。次の情報をできる限り伝えてください。
| 確認項目 | 具体的に観察・記録するポイント |
|---|---|
| 発作の始まり方 | 突然か、体の一部から始まったか。どの部位から始まったか |
| 発作の持続時間 | 発作が始まった時刻、止まった時刻 |
| 体の動き | 全身か、右半身・左半身か。硬直→ガクガクの順か |
| 眼の動き | 眼が白目を向いたか、どちらを向いていたか |
| 意識の有無 | 声をかけて反応があったか、呼びかけに気づいていたか |
| 発作後の状態 | すぐに意識が戻ったか、麻痺や言語障害はないか |
| 既往歴 | てんかんや糖尿病の持病、内服薬(わかれば) |
よくある誤解を解く
▶「舌を飲み込む」は本当か?
これは医学的に誤りです。舌は口腔底・舌根部に固定されており、飲み込まれることはありません。「舌が落ちて気道を塞ぐ」という心配から口に物を入れる行為は、逆に歯の骨折・異物誤嚥・介助者の咬傷などを引き起こします。3,5
▶「押さえつけると発作が短くなる」は本当か?
誤りです。発作は脳内の電気的な現象であり、体を外から固定しても止まりません。筋力に反して押さえつけると、肩関節脱臼・肋骨骨折などの二次的損傷が生じます。5
▶「けいれん中に水を飲ませるとよい」は本当か?
誤りです。意識のない状態での飲水は誤嚥の危険があります。完全に意識が回復してから、本人が希望する場合に限ります。
こんなときは要注意 ― てんかんと紛らわしい発作
けいれんのように見える状態がすべて「てんかん発作」とは限りません。鑑別が必要な状態として以下があります。
- 失神(syncope):脳への血流が一時的に低下して生じる意識消失。四肢がぴくっと動くことがあり、発作と間違われやすい
- 低血糖発作:糖尿病患者で血糖が著しく低下したときに起こる。意識障害・発作様症状が現れる
- 解離性(心因性)非てんかん発作(PNES):脳波上の異常なく発作様症状が出る。ストレス関連のことが多い
- 熱性けいれん:乳幼児に多い。高熱(38℃以上)に伴って起きるが、ほとんどは数分で自然に止まる
どのような種類の発作であっても、目撃者が行うべき基本対応は変わりません。安全な環境を確保し、時間を計り、観察し、必要なら119番する。この4つが柱です。診断は医師が行います。
まとめ ― 脳神経内科医からのアドバイス
- けいれん発作中、脳では神経細胞の電気的な嵐(異常放電)が起きている
- 発作はほとんど2〜3分以内に自然に止まる。無理に止めようとしない
- やるべきことは「安全な環境・回復体位・時間計測・観察」
- 口に何かを入れることは最も危険な誤った行動。絶対にしない
- 5分以上続く・意識が戻らない・繰り返すなどの場合は119番通報
- 目撃者の「発作の様子」の情報は診断に不可欠。できる限りメモしておく
「けいれんを止めなければ」という焦りは自然な感情ですが、外から体を押さえたり口に物を入れたりする行為は、本人を守るどころか傷つけてしまいます。正しい知識を持ったうえで「落ち着いて、安全を確保し、時間を計る」。これが最善の対応です。
てんかんをはじめ、けいれん発作に関する疑問は脳神経内科で相談できます。「発作が怖くて外出できない」「薬を飲んでいるが発作が続く」といった場合も、ぜひ専門医に相談してください。
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▶参考文献
