敗血症性ショックや循環不全に対して「とりあえずカタボン(ドパミン)」と指示していた時代は終わりました。昇圧薬の第一選択は2010年代以降ノルアドレナリンに統一され、Surviving Sepsis Campaign 2021、日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG 2024)でも一致した推奨となっています。本稿では非専門医・若手内科医に向けて、ノルアドレナリンのシリンジポンプ調製(1mg/mL × 3アンプル+生食47mL = 50mL)、開始流量2mL/hの根拠、γ計算の実用最低限、末梢静脈ラインからの初期投与可否、バソプレシン併用基準を、根拠論文と共に整理します。
📊 すぐ現場で使える資料・ツール
本動画で使用した全27枚のスライドの閲覧・PDFダウンロード、および体重・投与経路から γ⇄mL/hr を自動換算する計算機をご用意しています。指示テンプレ・バソプレシン併用基準・末梢ライン安全ルールも一画面で確認できます。
インフォグラフィック ― ノルアドレナリン昇圧治療の全体像
目次
- なぜノルアドレナリンが第一選択になったのか ― ドパミン退場の物語
- 調製レシピと開始流量 ― 3A+生食47mLで2mL/hから
- γ計算を「使える形」で覚える ― 60×0.06公式と早見表
- 末梢静脈ラインから始めても良いか ― CV確保までの橋渡し
- MAPが上がらない時の次の一手 ― バソプレシン併用基準
- ステロイド併用とウィーニング
- よくある質問(FAQ)
- まとめ ― 3つのテイクホーム
- 参考文献
- 敗血症性ショックの第一選択昇圧薬はノルアドレナリン(SSC 2021強推奨)。ドパミンは不整脈リスクが2倍で死亡改善エビデンスなし。
- 標準調製は1mg/mL × 3アンプル+生食47mL = 50mL(0.06 mg/mL)、シリンジポンプ2mL/hから開始、MAP 65 mmHgを目標に1-2mL/h刻みで増量。
- 末梢静脈ラインからの初期投与は許容される(SSC 2021弱推奨)。NE 0.25-0.5 γ/kg/minを超えたらバソプレシン 0.03 U/min併用を検討する。
なぜノルアドレナリンが第一選択になったのか ― ドパミン退場の物語
かつて内科病棟では「血圧下がってきたらとりあえずイノバン(ドパミン塩酸塩)」「カタボン(ドパミン塩酸塩配合剤)回しといて」が日常会話でした。しかし2010年以降、この光景はICUからも一般病棟からもほぼ消えました。背景にあるのは、ドパミンとノルアドレナリンの大規模直接比較試験の積み重ねです。
SOAP II試験 ― 不整脈が2倍、心原性ショックでは死亡増
2010年にNew England Journal of Medicineに掲載されたSOAP II試験(De Backerら、n=1,679)は、ショック患者の第一選択昇圧薬をドパミンとノルアドレナリンで直接比較した多施設無作為化試験です。28日死亡率はドパミン群 52.5%、ノルアドレナリン群 48.5%で統計的有意差はつきませんでした(OR 1.17, 95%CI 0.97-1.42, P=0.10)。しかし副次評価項目で衝撃的だったのは不整脈イベントの差です。
- ドパミン群: 207例(24.1%)
- ノルアドレナリン群: 102例(12.4%)
- P<0.001
さらに事前計画されたサブグループ解析で、心原性ショック患者(n=280)ではドパミン群の死亡率がノルアドレナリン群より有意に高い(P=0.03)ことが示されました。「不整脈リスクが倍で、心原性ショックでは死を増やす」── これがドパミンの座を揺るがした最初の決定打です[1]。
Avni 2015メタ解析 ― 11試験で死亡 RR 0.89、不整脈 RR 0.48
2015年のAvniらによる系統的レビュー・メタアナリシス(32 RCT、3,544例)は、ノルアドレナリンとドパミンの差をさらに明確にしました[2]。
- 全死亡: ノルアドレナリン vs ドパミン RR 0.89(95%CI 0.81-0.98)、NNT = 9
- 不整脈: RR 0.48(95%CI 0.40-0.58)(ドパミンで約2倍)
- 中心静脈圧、尿量、血中乳酸でもノルアドレナリンが有利傾向
「ドパミンは敗血症性ショックの初期蘇生で生命予後を改善しない、むしろ不整脈で害をなしうる」── この結論はSSC 2021でも、J-SSCG 2024でも変わっていません。
「腎保護用低用量ドパミン」も無効が確定済み
1990-2000年代に流行した「低用量ドパミン(1-3 γ)でドパミン-1受容体を介して腎血流を増やす」発想も、複数RCT・メタ解析で死亡率改善・腎機能維持の効果がないことが繰り返し示されています。SSC 2021でも「腎保護目的の低用量ドパミンは推奨しない」(弱推奨に対する反対)と明文化されており、もはや臨床現場で持ち出す根拠はありません。
完全になくなったわけではなく、(1) ノルアドレナリンが施設に在庫がない設定、(2) 徐脈性ショックでβ1作用を狙う場合 ── では代替として残っています。ただしSSC 2021は「代替使用時は不整脈リスクに特別な注意を払うべき」と但し書きを付けています。
調製レシピと開始流量 ― 3A+生食47mLで2mL/hから
ノルアドレナリン(ノルアドリナリン注、1mg/1mL/A)は、シリンジポンプで持続静注するのが標準です。日本国内の多くの救急・ICU施設で採用されている最も基本的な希釈レシピは以下のとおりです。
標準調製レシピ(覚えるべき一つの数字セット)
- ノルアドリナリン注 1mg/mL × 3アンプル(合計3mg / 3mL)
- +生理食塩水 47mL
- = 総量 50mL(最終濃度 0.06 mg/mL = 60 μg/mL)
- シリンジポンプ流量 2 mL/h から開始
- 目標 MAP(平均動脈圧)65 mmHg を達成するまで、5-10分ごとに 1-2 mL/h刻みで漸増
体重60kgの患者で2 mL/hを投与すると、約0.033 γ(μg/kg/min)に相当します。これは「とにかく投与を開始する」レベルの少量で、ここから血圧反応を見ながら漸増していくのが基本パターンです。
初期蘇生のセット ― ノルアドレナリンと並行で動かすもの
敗血症性ショックを疑った最初の1時間で、ノルアドレナリン以外に並行して動かすべきものは以下です(SSC 2021のHour-1 Bundle準拠)。
- 血液培養2セット(抗菌薬投与前、ただし抗菌薬を著しく遅らせない)
- 広域抗菌薬の1時間以内投与
- 晶質液 30 mL/kg のボーラス投与(最初3時間以内)
- 乳酸値の測定、上昇あれば2-4時間後に再測定
- 輸液負荷後もMAP < 65 mmHg ならノルアドレナリン開始
2019年の単施設RCT(CENSER試験、n=310)では、敗血症性ショック疑い患者にノルアドレナリンを早期投与すると、投与開始までの時間が中央値93分 vs 192分(P<0.001)と短縮し、6時間時点のショック制御率が 76.1% vs 48.4%(P<0.001)と有意に高く、心原性肺水腫(14.4% vs 27.7%、P=0.004)と新規発症不整脈(11% vs 20%、P=0.03)も少なくなりました[3]。「とにかく輸液で粘ってから昇圧薬」より、「早めに少量からノルアドレナリンを乗せる」方が、結果的に過剰輸液による肺うっ血を避けられるという示唆です。
γ計算を「使える形」で覚える ― 60×0.06公式と早見表
γ(ガンマ)の定義は 1γ = 1 μg/kg/min。これを実用的なシリンジポンプの流量(mL/h)に変換する公式は以下です。
γ計算の実用公式
流量(mL/h)= γ × 体重(kg)× 0.06 ÷ 濃度(mg/mL)
本稿の標準調製(0.06 mg/mL)では分母と「×0.06」が打ち消し合い、「mL/h = γ × 体重」という極めて単純な形になります。
つまり体重60kgなら 1γ = 60 mL/h。これさえ覚えておけば、表を見なくても暗算できます。実臨床での主要γ値の流量を体重別に示します。
体重60kg患者の早見表(標準濃度 0.06 mg/mL)
| γ値 | 流量(mL/h) | 臨床的意味 |
|---|---|---|
| 0.033 γ | 2 mL/h | 開始量(本稿の推奨スタート) |
| 0.05 γ | 3 mL/h | 低用量域。輸液反応性のあるショックで多い |
| 0.1 γ | 6 mL/h | 標準域。多くの敗血症性ショックが落ち着く範囲 |
| 0.2 γ | 12 mL/h | 中等量。輸液・ステロイドの再評価ライン |
| 0.3 γ | 18 mL/h | 高用量。バソプレシン併用検討 |
| 0.5 γ | 30 mL/h | 超高用量。VP必須、難治性ショック評価 |
体重別ミニ早見表(0.1 γ=中等用量を基準に)
| 体重 | 0.05 γ | 0.1 γ | 0.3 γ | 0.5 γ |
|---|---|---|---|---|
| 50 kg | 2.5 mL/h | 5 mL/h | 15 mL/h | 25 mL/h |
| 60 kg | 3 mL/h | 6 mL/h | 18 mL/h | 30 mL/h |
| 70 kg | 3.5 mL/h | 7 mL/h | 21 mL/h | 35 mL/h |
| 80 kg | 4 mL/h | 8 mL/h | 24 mL/h | 40 mL/h |
ノルアドレナリン5アンプル+生食45mL(0.1 mg/mL)など別の希釈で作る施設もあります。その場合は本稿の早見表は使えません。施設プロトコル・電子カルテのγ計算機を使ってください。「3A+生食47mL=50mL」は「mL/h = γ × 体重」となる便利な濃度として設計されています。
末梢静脈ラインから始めても良いか ― CV確保までの橋渡し
従来は「ノルアドレナリン=中心静脈ライン(CV)必須」が常識でした。漏出時の組織壊死リスクを警戒したものですが、近年この常識は変わりつつあります。
SSC 2021は末梢初期投与を明文で許容
SSC 2021ガイドラインは、「中心静脈ルートが確保できるまでの間、平均動脈圧を維持する目的で末梢静脈ルートからの昇圧薬投与を開始することを推奨する」(弱推奨)と明記しています。CVカテーテル挿入の手技時間(処置完了まで30-60分)がショック蘇生を遅らせる害の方が大きい、という臨床判断です。
Lewis 2017の観察データ ― 漏出4%、全例保存的対応
Lewisら(2017)の後ろ向きコホート(n=202、末梢からの昇圧薬投与)では、漏出イベントは4%(8例)のみで、いずれもフェントラミン局所注射などの拮抗薬や外科処置を必要とせず、温罨法など保存的処置で対応可能でした[4]。漏出後は88%で別の末梢ラインで再開しています。「末梢で投与すると組織壊死で皮膚移植になる」という昔の恐怖は、実臨床ではかなり過大評価されていた可能性が高いと考えられます。
末梢ラインで投与する際の実用ルール
- 留置部位: 前腕、肘窩を優先(手背・足背は避ける)
- カテーテルサイズ: 18-20G 以上が望ましい
- 持続時間の目安: 6時間以内、ないしCV確保まで
- 漏出のモニタリング: 1-2時間ごとに刺入部視診、看護師申し送りで明示
- 漏出時対応: 速やかに点滴中止 → 別ラインに切り替え → フェントラミン5-10mgを生食10-15mLで希釈し局所皮下注射、温罨法
末梢投与はあくまで「CV確保までの橋渡し」です。NE 0.1 γ/kg/min(60kg患者で6 mL/h)を超える投与量、または6時間を超える持続投与が見込まれる場合は、できる限り早期にCV挿入へ移行してください。J-SSCG 2024でも「短時間・低用量」の運用が前提です。
MAPが上がらない時の次の一手 ― バソプレシン併用基準
ノルアドレナリンを漸増していっても MAP 65 mmHg に届かない場合、選択肢は「ノルアドレナリン増量」か「バソプレシン併用」のどちらか。SSC 2021の推奨は後者です。
SSC 2021推奨38 ― 0.25-0.5 γ/kg/minでVP追加
「ノルアドレナリンで適切なMAPが得られない成人敗血症性ショックでは、ノルアドレナリン増量よりバソプレシン追加を推奨」(弱推奨、中等度エビデンス)。タイミングについては「実臨床ではノルアドレナリン用量が0.25-0.5 μg/kg/min(γ)の範囲でバソプレシンを開始することが多い」と本文に明記されています。本稿の濃度・60kg患者なら 15-30 mL/h に達したらバソプレシン併用を検討する、という運用になります。
バソプレシンの使い方
- 用量: 0.03 U/min を固定で持続静注(最大 0.06 U/min)
- 滴定しない: ノルアドレナリンと違って血圧反応で増減しない
- 調製例: ピトレシン注(バソプレシン20U/A)1Aを生食50mLで希釈(0.4 U/mL)→ 4.5 mL/h で 0.03 U/min
VASST試験 ― 死亡率は変わらないが軽症で生存改善
2008年のVASST試験(Russellら、n=778)は、NE単独 vs NE+VP(0.01-0.03 U/min)併用を比較しました[5]。28日死亡率は 39.3% vs 35.4%(P=0.26、NS)で全体としては有意差つかず。しかし事前計画サブグループ解析で、NE使用量が15 μg/min未満(軽症)の群では生存改善(死亡 35.7% → 26.5%, P=0.05)が見られました。これがSSC 2021が「ノルアド増量より早めにVP追加」を推す理由の一つです。
VANISH試験 ― RRT必要性は減る、死亡は変わらない
2016年のVANISH試験(Gordonら、n=409)は、敗血症性ショックの早期にバソプレシンを第一選択として用いる戦略を検証しました[6]。主要評価項目の腎不全フリー日数では有意差なし。しかし副次評価項目で腎代替療法(RRT)必要率は バソプレシン群 25.4% vs ノルアドレナリン群 35.3%(差 -9.9%、95%CI -19.3 to -0.6%)と低下。死亡率には差なし。VANISH全体としてはネガティブ試験ですが、バソプレシンの腎保護的シグナルは複数のメタ解析でも再現されています。
第三選択:アドレナリン追加
NE+VPでもMAPが上がらない難治性ショックでは、SSC 2021推奨39でアドレナリン追加(弱推奨、低エビデンス)が示されています。心拍出量不足が主体ならドブタミン併用(β1作動による陽性変力作用)も選択肢ですが、敗血症性ショックでルーチンにドブタミンを足すエビデンスは弱く、心エコー・乳酸値・尿量などで判断します。
ステロイド併用とウィーニング
ハイドロコルチゾン併用 ― NE依存性ショックで200mg/day
SSC 2021は「ノルアドレナリンまたはアドレナリンが 0.25 μg/kg/min(γ)以上で4時間以上必要な成人敗血症性ショックでは、ハイドロコルチゾン 200 mg/day(持続静注または6時間ごと50mg)の併用を提案」(弱推奨、中等度エビデンス)と推奨しています。APROCCHSS試験(Annaneら、2018)でNE依存性ショックでの死亡率減少が示されたためです。
ウィーニング順序
ショックが安定してMAP・乳酸が正常化した後、薬剤を中止する順序は実臨床では以下が多用されます。
- バソプレシンを先に中止(昇圧薬3剤併用中の場合)
- 次にノルアドレナリンを1-2 mL/h刻みで漸減
- 最後にハイドロコルチゾンを漸減(急にやめると相対副腎不全のリバウンドリスク)
「VP→NE→ステロイド」の順は絶対ではなく、施設プロトコル・臨床経過で変わります。中止前にMAP安定24h・乳酸正常化(<2 mmol/L)を確認することが目安です。
よくある質問(FAQ)
まとめ ― 3つのテイクホーム
- 第一選択はノルアドレナリン一択。ドパミンはSOAP II以降、不整脈倍増・心原性ショックで死亡増のエビデンスにより退場。SSC 2021・J-SSCG 2024で一致した強推奨。
- 調製は「3A+生食47mL = 50mL(0.06 mg/mL)」、2 mL/hから開始。この濃度なら「mL/h = γ × 体重」で暗算可能。MAP 65 mmHgを目標に1-2 mL/h刻みで増量。
- 末梢静脈ラインから開始してよい(CV確保までの橋渡し、SSC 2021弱推奨)。NE 0.25-0.5 γ/kg/minを超えたらバソプレシン 0.03 U/min併用を検討。難治例ではアドレナリン・ハイドロコルチゾン追加。
「とりあえずカタボン」から「とりあえずノルアドレナリン2 mL/h」へ ── この一文を内科病棟・救急外来の標準言語にすることが、ショック診療の予後を着実に押し上げる一歩になります。
参考文献
本記事の医学的内容は上記引用文献に基づき執筆し、PubMedで実在を逆引き確認しました。記事内のすべての具体的数値・推奨度は出典に記載されたものであり、執筆者の個人的推定値は含みません。臨床判断は施設プロトコルと主治医判断を優先してください。