リードレスペースメーカーは、従来のペースメーカーに必須だった「リード(電極線)」と「皮下ポケット」を無くし、カプセル状の本体を心臓の中に直接留置する新世代の植込み型デバイスです。MedtronicのMicra(マイクラ)とAbbottのAveir(アヴェイル)が二大潮流で、2025年には日本でもデュアルチャンバー型(Aveir DR)の学会ステートメントが整備されました。本記事では循環器・内科の医療従事者や研修医、デバイス外来スタッフに向けて、リードレスペースメーカーの仕組み・エビデンス・MicraとAveirの違い・房室同期の作り方・日本での適応と施設要件・限界までを、PubMed収載の一次文献と学会ステートメントに基づいて整理します(要所に患者さん向けの説明例も添えます)。
- リードとポケットを無くすと合併症が減る:Micraの国際試験では植込み成功99.2%、従来の経静脈ペースメーカーより重大合併症がほぼ半減(ハザード比0.49)1。
- MicraとAveirは「固定と同期の作り方」が違う:Micraはタイン(ツメ)で引っ掛け+加速度センサー、Aveirはスクリューでねじ込み+2デバイス通信。Aveir DRは世界初の真のデュアルチャンバー型6。
- 進化の主戦場は房室同期:単室型(VR)は心房と同期しない。Micra AV(加速度センサーでVDD様)→Aveir DR(2デバイス)でAV同期は最大97.3%に3,6。
- 電池寿命も長い:Micra VR2は予測中央値16.7年・91%が生涯1台で済む見込み10。Aveir DRは心房5.3年/心室9.9年11。
- 唯一の弱点は心穿孔・心嚢液貯留:従来型よりやや高く(30日0.8%対0.4%)13、とくに女性・低体重(BMI 20未満)・高齢(85歳超)でリスクが上がる12。術前評価と手技(中隔・展開回数の最小化)で管理する。
※ 適応の最終判断はJCS/JHRS不整脈ガイドラインに従い、施設要件・術者要件(年10例・心臓血管外科体制・研修修了など)を満たす施設で行います[J1][J2]。電池寿命はモデル推定の「予測中央値」です10,11。
📚 目次
要点まとめ
- 概念:リードレスペースメーカーは経静脈リードと皮下ポケットを廃止し、カプセル本体を右室内に直接固定する。従来型ペースメーカーの有害事象の大半はリードとポケットに由来するため、これらを無くすことが合併症低減につながる2,9。
- エビデンス:Micra TPS試験で植込み成功99.2%、経静脈型より重大合併症が約51%少ない(HR 0.49)1。実臨床のMicra AV CED研究でも2年合併症率が5.3% vs 9.6%(従来型デュアルチャンバー経静脈PM)と低い5。
- 違い:Micra(Medtronic)はタイン固定・加速度センサー、Aveir(Abbott)はスクリュー固定・血液温度センサー・慢性期抜去を想定した設計。房室同期はMicra AVが加速度センサー、Aveir DRが2デバイス通信で実現6,8。
- 房室同期:単室VRは心房と同期しない。MARVEL試験で加速度センサーによるAV同期87.0%を実証3、市販のMicra AVへ。Aveir DRは右房・右室の2デバイスで真のデュアルチャンバーを実現しAV同期97.3%6。
- 日本の運用:JHRSがMicra(2017)・Aveir DR(2025改訂)の適応・施設要件・術者要件のステートメントを公表。経静脈アクセス困難例や感染リスクの高い症例などが想定される[J1][J2]。
① リードレスペースメーカーとは何か

従来のペースメーカーは、鎖骨下に作った皮下ポケットに本体を収め、そこからリード(電極線)を静脈経由で心臓内に通す構造です。これにより長年多くの患者を救ってきましたが、合併症の大半はこのリードとポケットに由来します。具体的には、リード断線・被膜損傷、静脈血栓・閉塞、ポケット感染や血腫、まれにリード関連の三尖弁逆流などです2,9。
リードレスペースメーカーは、この発想を根本から変えます。カプセル状の本体(ペーシング回路・電池・電極を内蔵)を、大腿静脈からカテーテルで運び、右室の心筋に直接固定します。リードもポケットも作らないため、それらに由来する合併症を構造的に回避できるのが最大の利点です2,9。本体は非常に小さく、初代Micraで約1.0cc・1.75gとされます[J1]。
② どれくらい安全で効くのか(エビデンス)
リードレスペースメーカーの臨床的価値は、複数の前向き試験と実臨床データで裏づけられています。代表的な結果を整理します。
| 試験・データ | 主な結果 | 意味 |
|---|---|---|
| Micra TPS 国際試験(725例)1 | 植込み成功99.2%、デバイス脱落ゼロ、安全性エンドポイント達成96.0%。経静脈型より重大合併症が少ない(HR 0.49) | 植込みは高確率で成功し、従来型より重大合併症がほぼ半減 |
| Micra AV CED(実臨床・米Medicare、Micra AV 7,552例 vs 従来型デュアルチャンバー経静脈PM 110,558例)5 | 2年合併症率5.3% vs 9.6%(HR 0.54)、再介入3.5% vs 5.6%(HR 0.62) | 併存疾患が重い集団でも、合併症・再介入が有意に低い |
| Aveir DR i2i(300例)6 | 植込み成功98.3%、90日安全性達成90.3%、AV同期97.3% | 世界初の真のデュアルチャンバー型が安全性・同期目標を達成 |
| Aveir DR 手技成績(452例・126術者)7 | 植込み成功99%、88.9%が合併症フリー、術者経験で手技時間19〜36%短縮 | 2デバイスでも高い成功率。ラーニングカーブはあるが改善する |
包括的なレビュー(Eur Heart J 2025)でも、リードレスペースメーカーは経静脈型と比べデバイス関連合併症の発生率が低いとまとめられています9。
注意すべき合併症:心穿孔・心嚢液貯留と「高リスク群」
ここまで利点を見てきましたが、リードレスにも従来型より起こりやすい合併症が1つあります。それが心穿孔・心嚢液貯留(重症化すると心タンポナーデ)です。カプセル本体を心筋に直接固定する構造上、避けて通れないトレードオフです。実臨床の比較では、30日の心嚢液貯留・穿孔はリードレス0.8%に対し経静脈型0.4%とリードレスでやや高い一方、6か月の全体合併症はリードレスのほうが低い(補正後ハザード比0.77)という関係でした13。
そして臨床的に最も重要なのが、「誰でリスクが上がるのか」です。Micra 2,817例の解析では、心嚢液貯留の発生率は全体で1.1%(手技の習熟とともに経時的に低下し、近年のレジストリでは0.8%前後)でしたが、次の因子が有意なリスク因子として同定されています12。
| リスク因子 | オッズ比(95%CI) | ひとことメモ |
|---|---|---|
| 低体重(BMI 20未満) | 4.15(1.57–10.98) | 心筋が薄く穿孔しやすい。やせ型の高齢女性は要注意 |
| COPD | 3.09(1.42–6.73) | 肺の過膨張で心臓の位置・性状が変化 |
| 高齢(85歳超) | 2.92(1.45–5.87) | 加齢で心筋が脆弱化 |
| 女性 | 2.54(1.24–5.21) | 体格・心筋厚の差が一因と考えられる |
※ 多変量モデルでは、上記に加えて心不全・陳旧性心筋梗塞・心臓外科手術歴なし・透析も予測因子。心房細動の既往はむしろ低リスク。リスクスコアで層別化すると、予測発生率は低リスク0.4%/中リスク1.5%/高リスク4.8%でした12。
- つまり、典型的なハイリスク像は「高齢・やせ型・女性、とくにCOPD合併」。植込みの展開(deployment)回数が多いほど中〜高リスク群で発生率が上がるため、無理な再展開を避けることも重要です12。
- ただし、これらの高リスク群は、経静脈アクセスが困難・感染リスクが高いなど、リードレスの最も良い適応とも重なります。リスクは「禁忌」ではなく、術前カウンセリング・デバイス選択・手技(中隔への植込み・造影確認・展開回数の最小化)で管理するもの、という整理が現実的です12。
- なお、ここで挙げた穿孔リスクは主にタイン固定のMicraのデータです。固定機構の異なるAveirとの短期安全性は同等とする比較報告もあります(ただし長期の直接比較は限定的)。
③ MicraとAveir、何が違う?
現在の二大潮流が、MedtronicのMicraとAbbottのAveirです。両者は「固定方式」「房室同期の作り方」「抜去性」「センサー」「電池寿命」で設計思想が異なります。1枚の表で整理します。
| 項目 | Micra(Medtronic) | Aveir(Abbott) |
|---|---|---|
| 固定方式 | タイン(ニチノール製のツメ)を心筋に引っ掛ける | ヘリックス(スクリュー)を心筋にねじ込む |
| ラインアップ | VR(単室)/AV(房室同期)/次世代VR2・AV2 | VR(単室)/DR(右房+右室の2デバイス) |
| 房室同期 | Micra AV:本体の加速度センサーで心房収縮を検出(VDD様)3,4 | Aveir DR:右房・右室の2デバイスがi2i通信で心房ペーシング+同期6 |
| レートレスポンス | 加速度センサー(体動) | 血液温度ベースセンサー8 |
| 抜去(慢性期) | タイン型。長期留置例は被膜化が進む(抜去は術者判断・添付文書参照) | 専用カテーテルで慢性期の抜去・回収を想定した設計(メーカー特徴) |
| 電池寿命(予測中央値) | VR2 16.7年/AV2 15.6年10 | DR:心房5.3年/心室9.9年11 |
| 主な臨床根拠 | Micra TPS1、MARVEL3、Micra AV CED5 | Aveir DR i2i6,7、温度センサー8 |
④ 房室同期をどう作るか
リードレスペースメーカー進化の最大のテーマが房室(AV)同期です。最初の単室型(VR)は右室だけをペーシングするため、心房と心室のタイミングが揃わず、一部の患者でペースメーカー症候群(動悸・倦怠感・血圧低下)を起こしうるという弱点がありました。
ステップ1:MARVEL — 加速度センサーで心房を「感じる」
右室内のMicraに内蔵された3軸加速度センサーで、心房収縮に伴う心臓の微細な振動を検出できることが示されました。これを応用したのがMARVEL試験です(64例、9ヶ国12施設)。AVアルゴリズム作動時の平均房室同期率は87.0%で、とくに高度房室ブロック例でVVIより有意に改善しました3。
ステップ2:Micra AV — 単一デバイスでVDD様の同期
MARVELの成果を実装した市販機がMicra AVです。心房リードを置かずに、1個の本体だけで房室同期ペーシング(VDD様)を提供します4。実臨床のMicra AV CED研究では、従来型デュアルチャンバー経静脈PMより2年合併症・再介入が低い結果でした5。
ステップ3:Aveir DR — 2デバイスで「真の」デュアルチャンバー
さらに踏み込んだのがAveir DRです。右房と右室に2個のリードレスデバイスを植込み、両者が拍動ごとに低エネルギーのi2i(implant-to-implant)通信を行うことで、心房ペーシングと房室同期の両方を実現します。NEJM 2023の試験(300例)では、植込み成功98.3%、70%以上のAV同期を97.3%の患者で達成しました6。これは加速度センサー方式(Micra AV)が「心房を感じる」のに対し、Aveir DRは「心房を直接ペーシングできる」点が本質的な違いです。
⑤ 日本での適応・施設要件・限界

日本では日本不整脈心電学会(JHRS)が、リードレスペースメーカーの適応・施設要件・術者要件に関するステートメントを公表しています。適応の最終判断はJCS/JHRS不整脈ガイドラインに従います[J1][J2]。
適応として想定される患者像
- 心房細動を合併した症状のある高度房室ブロック患者[J1]。
- 右房へのリード留置が困難・有効でないと考えられる高度房室ブロック患者[J1]。
- 心房へのリード留置が困難・ハイリスクな徐脈頻脈症候群/洞機能不全症候群患者[J1]。
- 経静脈アクセスが困難な例、感染リスクが高い例(透析・易感染性など)9。
施設要件・術者要件(要点)
| 区分 | シングルチャンバー(Micra)2017[J1] | DDD型(Aveir DR)2025改訂[J2] |
|---|---|---|
| 症例数 | 常勤医がペースメーカー植込み・交換を年間10例以上 | 同(年間10例以上) |
| 外科体制 | 緊急心臓血管手術が可能、または近隣施設との連携体制 | 緊急心臓血管手術が自施設で可能/心臓血管外科専門医が常勤 |
| 術者 | 不整脈デバイス治療の専門知識/製造販売業者の研修受講済 | 十分な専門知識と植込み経験/不整脈専門医資格が望ましい/研修修了 |
| その他 | — | 植込み型心臓不整脈デバイス認定士の配置が望ましい |
限界と注意点
- 単室型(VR)は房室同期がない:心房との同期が必要な患者には不向き。Micra AVやAveir DRを検討する4,6。
- 抜去・交換の考え方:電池は本体内蔵で、寿命到達時は新規デバイスを追加留置するのが基本(複数個が心内に残りうる)。Aveirは慢性期抜去を想定した設計だが、長期留置後の抜去可否は個別判断9。
- デュアルチャンバー型の電力課題:Aveir DRは2デバイス+常時のi2i通信のため、予測電池寿命は単室Micraより短め(心房5.3年・心室9.9年)11。i2i通信設定の最適化で延命可能11。
- 適応は限定的に運用:JHRSステートメントは慎重判断を求めており、すべての徐脈患者が対象ではない。施設・術者要件を満たす施設で、ガイドラインに沿って選択する[J1][J2]。
FAQ(よくある疑問)
Q1. リードレスペースメーカーは従来型より安全ですか?
リードとポケットに由来する合併症を回避できるため、デバイス関連合併症の発生率は経静脈型より低いと報告されています9。Micra TPS試験では従来型より重大合併症が約51%少なく(HR 0.49)1、実臨床でも2年合併症が5.3% vs 9.6%でした5。ただし適応・術者要件を満たした上での話です。
Q2. すべての徐脈患者に使えますか?
いいえ。CRT(両室ペーシング)が必要な患者や、現時点で同期の要件を満たせない病態には適しません。JHRSステートメントは、経静脈アクセス困難例・感染リスクの高い例などを念頭に、ガイドラインに沿った慎重な適応判断を求めています[J1][J2]。
Q3. 電池が切れたらどうなりますか?
電池は本体内蔵で交換できないため、寿命到達時は新しいデバイスを追加で留置するのが基本です。Micra VR2は予測中央値16.7年・91%が生涯1台で済む見込みとされ10、長寿命化が進んでいます。Aveir DRは心房5.3年・心室9.9年で、設定最適化により延命できます11。
Q4. MicraとAveir、どちらを選ぶべきですか?
病態によります。心房ペーシングが必要な洞不全には2デバイスのAveir DR、房室ブロックで心房の感知だけで足りる場合は加速度センサーのMicra AVが理にかないます4,6。将来の抜去・交換の見通しや施設の経験も加味して選択されます。
Q5. MRIは撮れますか?
現行のリードレスペースメーカーはMRI対応(条件付き)として設計されています9。ただし撮像条件はデバイス・施設の規定に従う必要があります。詳細は各製品の添付文書・MRI対応条件を確認してください。
Q6. どんな人で穿孔のリスクが高いですか?
Micraの大規模解析では、心嚢液貯留・穿孔は全体で約1.1%(近年は0.8%前後)でしたが、低体重(BMI 20未満)・女性・高齢(85歳超)・COPDでリスクが有意に上がります12。とくに「やせ型の高齢女性」は典型的な高リスク像です。一方で、これらの患者は経静脈アクセス困難などリードレスの良い適応とも重なるため、リスクは禁忌ではなく、術前評価・中隔への植込み・展開回数の最小化で管理します12。
参考文献
※ [1]〜[11]はPubMed収載論文(DOIリンク/メタデータ照合済み)。[J1][J2]は日本不整脈心電学会の公式ステートメント。
本記事は医療従事者向けの教育・知識整理を目的とした情報提供であり、特定の患者の診断・治療方針や、特定機器の選択・適応を保証するものではありません。デバイスの適応・施設要件・術者要件は最新のJCS/JHRSガイドラインおよび学会ステートメント、各製品の添付文書をご確認ください。電池寿命はモデル推定の予測中央値です。記載は作成時点(2026年6月)の情報に基づきます。
監修:今村久司(京都大学医学部卒・京都大学医学博士/神経内科専門医・指導医/総合内科専門医・指導医)