真夏、家族の「様子がおかしい」に気づいたとき——それは熱中症でしょうか、それとも脳卒中やてんかん発作、低血糖でしょうか。実は熱中症の急性期は神経症状が中心で、脳の病気と見分けがつきにくいことが知られています3。2024年には日本救急医学会のガイドラインが約10年ぶりに改訂され、最重症群を示す「IV度」が新設されましたGL。この記事では、家庭で今すぐ使える見分け方と、迷わず救急要請できる基準を、脳神経内科医がやさしく解説します。
▶ 目次
「意識がおかしい」は熱中症とは限りません。脳卒中・てんかん発作後・低血糖でも同じように見えます。でも、「暑い場所にいた/体温が高い+呼びかけへの反応が鈍い」がそろっていたら、様子見せずにすぐ救急要請してよい——これが2024年改訂で新設された最重症「IV度(現場ではqIV度)」の考え方ですGL。判断に迷う場合は、通報を優先してかまいません。
1. 「様子がおかしい」=熱中症とは限らない

夏に家族がぼんやりしている・呼びかけへの反応が鈍い——こんなとき、多くの人は「熱中症かな」と考えます。でも、意識がもうろうとする原因は熱中症だけではありません。脳卒中・てんかん発作の後(もうろう状態)・低血糖でも、まったく同じように見えることがあります。「暑いから熱中症だろう」と決めつけてしまうと、対応を誤ることがあるのです。
実は、熱中症の急性期の中心となる症状は神経の症状(意識の変化・混乱・けいれんなど)だということが医学的に知られています3。だからこそ、脳の病気とまぎらわしいのです。脳神経内科医が熱中症を語るのは、まさにこの「神経症状との見分け」が大切だからです6。
- 発症状況 ― 暑い環境にいたか、体温が高いか。熱中症を疑う最大の手がかりです
- 手足の左右差 ― 片方の手足が動かない・顔がゆがむなら脳卒中を疑います
- けいれんの後のもうろう ― 全身がガタガタふるえた後にぼんやりしているならてんかん発作の可能性
2. 2024年改訂:熱中症の重症度分類 I度〜IV度
2024年、日本救急医学会が「熱中症診療ガイドライン2024」を約10年ぶりに公表しましたGL。ここで大きく変わったのが、これまでのI〜III度に加えて、最重症群を示す「IV度」が新設されたことです。重症度ごとに、家庭でどう動けばよいかをまとめました。
| 重症度 | 主な症状 | 対応 |
|---|---|---|
| I度 | めまい・失神・生あくび・大量発汗・筋肉痛・筋硬直(こむら返り)。意識障害はなし | 現場で対応可能(安静・冷却・経口補水) |
| II度 | 頭痛・嘔吐・倦怠感・虚脱感・判断力の低下 | 医療機関の受診が必要 |
| III度 | 中枢神経症状(意識障害・小脳症状・けいれん発作)、または肝腎機能障害、または血液が固まりにくくなる異常(DIC)のいずれか | 入院治療が必要 |
| IV度 (2024年新設) |
深部体温40.0℃以上 かつ GCS8以下(=呼びかけへの反応が著しく乏しい状態) | 直ちに救急要請・集学的治療を早急に開始 |
IV度の正式な基準は「深部体温(体の中心の温度)40.0℃以上」ですが、家庭や屋外で深部体温を測ることはできません。そこでガイドラインには、現場で使える迅速判定基準「qIV度」が用意されています。表面体温(体表温)40.0℃以上 かつ GCS8以下(=呼びかけへの反応が乏しい)なら、深部体温を測らなくても最重症として扱ってよい、というものですGL。「体が熱い+呼んでも反応が鈍い」なら、その場で救急要請してよいと覚えておきましょう。
「体温がそこまで高くないから大丈夫」とは言い切れません。研究では、体温と意識レベルの関係は思ったより弱く、体温が40℃を超える群ではその相関がなくなることも報告されています5。意識の混乱や見当識の障害(ここがどこか・今がいつか分からない)が、最初のサインになることも多いのです。「体温よりも、意識の様子」を重視しましょう。
3. 高齢者は「運動していなくても」屋内で熱中症になる

熱中症というと、炎天下でのスポーツや工事現場をイメージするかもしれません。しかし、国際的にも熱中症は2つのタイプに分けて考えられています1。
- 労作性(exertional) ― 運動や労働で体に熱がたまるタイプ。若い人・スポーツ選手に多い
- 非労作性(classic) ― 運動していなくても、暑い環境にいるだけで起こるタイプ。高齢者に多い
日本救急医学会のガイドラインによれば、熱中症患者のうち65歳以上の高齢者が全体の約60%強を占め、発生場所は「住居(屋内)」が最も多いとされていますGL。つまり、多くの熱中症は「屋内で・運動していない高齢者」に起きているのです。
高齢になると、暑さやのどの渇きを感じにくくなり、エアコンを使わずに閉め切った部屋で発症するケースが少なくありません2。しかも、本人は自分の異変に気づけないことが多いのが、このタイプの怖いところです。
非労作性の熱中症は、本人からの訴えを待っていては手遅れになりがちです。「返事がいつもより鈍い」「部屋が異常に暑い」「エアコンをつけていない」——こうした周囲からの気づきが、命を守ります。離れて暮らす高齢の親には、こまめに連絡を取り、猛暑日は特に様子を確認しましょう。
4. 家庭でできる応急処置と、してはいけないこと

熱中症を疑ったとき、救急車を待つ間にできることがあります。ポイントは「早く冷やす」こと。研究でも、体温を早く下げること・迅速な対応がその後の回復を左右することが示されています4。
すべきこと
- 涼しい場所へ移動する ― 日陰・エアコンの効いた部屋へ
- 衣服を緩める ― 熱を逃がしやすくする
- 首・脇の下・足の付け根を冷やす ― 太い血管を冷やすと効率的
- 自力で飲めるなら経口補水 ― 水分と塩分を補う(経口補水液が理想)
してはいけないこと
- 意識がはっきりしないのに、無理に水を飲ませる ― 誤嚥(気管に入る)の危険があります
- 「少し休めば治るだろう」と様子を見すぎる ― 受診・通報が遅れると重症化します
「暑い場所にいた/体温が高い + 呼びかけへの反応が鈍い」——この組み合わせがあれば、迷わず救急要請してかまいません(qIV度の考え方)。自力で水を飲めない、意識がもうろうとしている状態は、家庭で様子を見てよい段階ではありません。
5. まとめ ― 3つのポイント
熱中症の見分け方について、家庭で必ず持ち帰ってほしい3つのポイントをまとめます。
- 決めつけない ― 「様子がおかしい」だけで熱中症と決めつけない。脳卒中・てんかん発作後・低血糖でも同じように見えます。手がかりは「暑い場所にいたか」と「体温」です
- 迷わず通報してよい基準がある ― 「体が熱い + 呼びかけへの反応が乏しい」なら、体温計がなくてもその場で救急要請してよい(2024年新設のqIV度)
- 高齢者は屋内で発症する ― 運動していなくても、閉め切った部屋で熱中症になります。本人は気づきにくいので、周囲が「いつもと違う」に気づくことが大切です
「意識がおかしい」は熱中症とは限りませんが、体温が高く・じっとしていて発症したなら、様子見せずすぐ救急要請していいのです。体温よりも意識の様子を重視し、迷ったら通報を優先する——この姿勢が、真夏の家族の命を守ります。
よくある質問
Q. 熱中症とただの夏バテはどう違いますか?
夏バテは、だるさや食欲不振が数日〜数週間かけて続く状態で、命にかかわることはまれです。一方、熱中症は暑い環境で急に発症し、めまい・頭痛・嘔吐から、重症では意識障害やけいれんに至ります。特に「意識がおかしい」「呼びかけへの反応が鈍い」場合は夏バテではなく、緊急の対応が必要です。
Q. 体温計がない時はどう判断すればいいですか?
体に触れて明らかに熱い、暑い場所にいた、そして呼びかけへの反応が鈍い——この組み合わせがあれば、体温計がなくても最重症(qIV度)として扱ってよいとされています。体温よりも「意識の様子」を重視し、反応が乏しければ迷わず救急要請してください。
Q. 高齢の親が室内で熱中症にならないために、何ができますか?
高齢者は暑さやのどの渇きを感じにくく、エアコンを使わずに屋内で発症することが多いです。猛暑日はこまめに連絡を取り、室温を確認し、エアコンの使用を促してください。本人は異変に気づきにくいため、「返事が鈍い」「部屋が異常に暑い」といった周囲からの気づきが命を守ります。
Q. 水を嫌がる・飲めない時はどうすればいいですか?
意識がはっきりしないのに無理に水を飲ませると、気管に入ってしまう(誤嚥)危険があります。自力で飲めない状態は、家庭で様子を見てよい段階ではありません。無理に飲ませず、涼しい場所で首・脇・足の付け根を冷やしながら、すぐに救急要請してください。
Q. 病院に行くべきか迷ったら、どうすればいいですか?
「暑い場所にいた/体温が高い + 呼びかけへの反応が鈍い」の組み合わせがあれば、迷わず救急要請してかまいません。また、手足の左右差や顔のゆがみがあれば脳卒中を、けいれんの後のもうろう状態ならてんかん発作を疑う必要があります。判断に迷う場合は、通報を優先してください。
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参考文献
- [GL] 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2024. 2024年7月25日公表. https://www.jaam.jp/info/2024/files/20240725_2024.pdf
- [1] O'Connor FG. Heat-Related Illnesses. Ann Intern Med. 2025 Jul;178(7):ITC97-ITC112. doi:10.7326/ANNALS-25-01958
- [2] Kidane AS, Peters R. [Heat stroke on the hottest day of the year]. Ned Tijdschr Geneeskd. 2020 Aug 6;164. PMID: 32779922. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32779922/
- [3] Bianchi C, Vallotton L, Carron PN. [Heatstroke]. Praxis (Bern 1994). 2025 Jul;114(7):283-287. doi:10.23785/PRAXIS.2025.07.005
- [4] Zhong L, Wu M, Liu ZY, Liu Y, Liu ZF. Risk factors for brain injury in patients with exertional heatstroke: A 5-year experience. Chin J Traumatol. 2023 Nov 3;27(2):91-96. doi:10.1016/j.cjtee.2023.10.003
- [5] Yeargin SW, Scarneo-Miller SE, Jardine J, Troyanos C, Lopez R. The Association Between Central Nervous System Function and Core Body Temperature in Patients With Exertional Heat Stroke. Clin J Sport Med. 2025 Jul 28. doi:10.1097/JSM.0000000000001383
- [6] Gardner J, Caley L, Poche M, Trammell S. Heat-related illness. Nursing. 2024 Jun 21;54(7):16-23. doi:10.1097/NSG.0000000000000029
- [7] Barletta JF, Palmieri TL, Toomey SA, Harrod CG, Murthy S, Bailey H. Management of Heat-Related Illness and Injury in the ICU: A Concise Definitive Review. Crit Care Med. 2024 Mar;52(3):362-375. doi:10.1097/CCM.0000000000006170
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。実際に「様子がおかしい」家族に気づいたときは、自己判断で様子を見すぎず、迷った場合は救急要請(119番)を優先してください。
監修:今村久司(京都大学医学部卒・医学博士/脳神経内科専門医・指導医/総合内科専門医・指導医/てんかん学会専門医・指導医)

















