高血圧と認知症|厳格に下げて減ったのは「認知症」ではなく「MCI」だった・効くのは中年期の血圧・増えるのは血管性認知症

高血圧が認知症の危険因子であることは、よく知られています。ただ「血圧を下げれば認知症を防げる」と言い切れるかというと、それはまだ別の話です。厳格に下げて軽度認知障害(MCI)は減ったのに認知症そのものは減らせなかった大規模試験、認知症を主要評価項目にして減らせた2025年の試験、そして日本の久山町研究が示した「増えるのはまず血管性認知症」という病型の違いまで、一次資料の数値をそのまま並べて整理します。

監修:今村久司(脳神経内科専門医・総合内科専門医)

📊 解説スライド(全18枚)をブラウザで見る/PDFをダウンロードする

高血圧と認知症の関係をまとめたインフォグラフィック。中年期の血圧と晩年期の血圧では意味が違うこと、高血圧で強く増えるのは血管性認知症であること、降圧治療のメタ解析で示された相対値と絶対リスク減少、厳格降圧で減ったのはMCIであって認知症単独では有意差が出なかったこと、認知症そのものが減った2025年の試験の条件の違いを一覧にした図

※ 画像をクリックすると原寸大で表示できます

🖨 患者さん・ご家族向けハンドアウト(A4・印刷用)を開く
「いま何をすればよいか」だけを1枚にまとめたものです。血圧の目標値は人によって違うため記載していません。

この記事の核心(1文):高血圧は認知症の危険因子だが、「下げれば防げる」と言い切れるところまでは、まだ来ていない。
  • 1. 効いているのは、いま測っている血圧よりも中年期の血圧。晩年期の収縮期血圧は、それに先行する20年の認知の変化と関連していなかった9
  • 2. 高血圧で強く増えるのは、まず血管性認知症。久山町研究では、アルツハイマー病とは同様の関連が見られなかった8
  • 3. 厳格に下げて有意に減ったのはMCI(軽度認知障害)であって、主要評価項目である認知症では有意差が出なかった3。ただし「効果がない」と証明されたわけでもない。

この記事でわかること/わからないこと

「高血圧 認知症」で検索すると、ほとんどの記事が「血圧を下げれば認知症を防げる」という結論に着地します。方向としては間違っていません。しかし一次資料に当たると、話はもう少し込み入っています。

本記事は、健診で血圧を指摘された方と、外来でその質問を受ける医師の両方に向けて書いています。専門用語は初出で開きますが、数値は丸めずに、原著論文の表記のまま載せます。

この記事でわかること

  • 認知症に効いているのが「いつの血圧」なのか(中年期と晩年期は別の話です)
  • 高血圧で増えるのがどの型の認知症なのか(血管性認知症とアルツハイマー病は分けて考えます)
  • 降圧治療で認知症がどれだけ減るのか(相対値だけでなく絶対値で)
  • 大規模試験が示せなかったことと、その理由

この記事でわからないこと(書かないこと)

  • あなた個人が認知症になる確率、あるいは「血圧を下げれば何%減るか」
  • どの降圧薬が認知症予防に向いているか(薬剤クラス間の比較は扱いません)
  • 降圧薬を減らす・やめることの是非
  • 個別の降圧目標値(数値はガイドラインを扱った既存記事に譲ります)

【前提】高血圧は認知症の14因子のひとつ ― PAFという物差し

PAFは集団全体で危険因子を取り除いた場合の推計であり、個人のリスク低下率ではなく、重なり合う因子を単純に足し算できないことを示す図
PAFは集団の推計値です。個人の効果へ読み替えず、重なり合う危険因子を単純に足し算しません。(クリックで拡大)

認知症の予防可能な危険因子については、Lancet誌の常設委員会が2024年に報告を更新しています1。2020年版では12因子・合計40%でしたが2、2024年版で2因子が追加され、14因子・合計45%(早年期5% + 中年期30% + 晩年期10%)となりました1高血圧はこの14因子のひとつで、中年期(おおむね18〜65歳の区分)の PAF は 2% です1

PAF の読み方を先に確認してください。PAF(人口寄与割合)は、集団全体からその因子を完全に取り除けたとしたら、認知症全体の何%が減りうるかという推計値です。「高血圧を治すとあなたのリスクが2%下がる」という意味ではありませんし、「たった2%」でも「2%も」でもありません。因子どうしは互いに重なり合うため、単純に足し算できないことも委員会自身が明記しています1。個人のレベルでどれくらいの話なのかは、この後の章で相対リスクと絶対リスクの両方を見ていきます。

委員会が示している介入の方向は、「40歳以降、収縮期130mmHg以下を目標に管理する」です1。そして委員会全体のメッセージは "never too early, never too late" ― リスク低減はどの年代から始めても意味がある、というものです1

14因子の全体像(難聴・LDLコレステロール・喫煙・肥満・糖尿病・社会的孤立など)は、認知症の45%は予防できる? 介入可能な14の危険因子をやさしく解説【Lancet 2024】にまとめています。本記事はその中の高血圧だけを深掘りする回です。

① 効くのは「いつの血圧」か ― 答えは中年期

ここが、競合記事でいちばん混ざっている論点です。「中年期の血圧が大事」と言いながら、根拠として晩年期を対象にした試験を持ってくるという書かれ方をよく見かけます。中年期の血圧と晩年期の血圧は、認知症との関係が同じではありません。

24年追った ARIC研究 ― 晩年期の血圧にかかわらず、中年期の高血圧が効いていた

米国の ARIC コホート 4,761例を、1987〜89年(中年期・年齢の範囲44〜66歳)から2016〜17年まで24年間・5回の対面測定で追った研究があります7。女性2,821人(59%)、黒人979人(21%)。visit5 の時点の平均年齢は75歳(SD 5)で、visit5〜6 の間に516例(11%)が認知症を発症しました。高血圧は140/90mmHg超、低血圧は90/60mmHg未満と定義されています7

中年期 → 晩年期の血圧パターン 認知症発症率(/100人年) ハザード比(95%CI)
中年期・晩年期とも正常血圧(基準)1.31
中年期 正常 → 晩年期 高血圧1.99
中年期・晩年期とも高血圧2.83HR 1.49(1.06–2.08)
中年期 正常 → 晩年期 低血圧2.07
中年期 高血圧 → 晩年期 低血圧4.26HR 1.62(1.11–2.37)

この研究の中心的な所見は、晩年期の血圧がどうであれ、中年期の持続的な高血圧が認知症リスクと関連していた(HR 1.41、95%CI 1.17–1.71)という点です7。なお、血圧パターンと晩年期の認知機能の変化そのものとの間には、有意な関連は認められませんでした7

いま測っている血圧は、先行する20年の認知の変化を説明しなかった

同じ ARIC を使い、中年期(1990〜92年・48〜67歳)から20年間の認知機能の変化を調べた研究が、さらに直感に反する結果を出しています9。ベースラインの認知データがあるのは13,476例で、20年の認知フォローを完了したのは生存者の58.0%でした。

  • 中年期の高血圧は、20年間で global z スコアの追加低下 −0.056(95%CI −0.100 to −0.012)と関連していた9
  • 前高血圧では −0.040(95%CI −0.085 to 0.005)で、有意ではなかった9
  • 追跡終了時点(晩年期)の収縮期血圧は、それに先行する20年の認知変化と関連していなかった9
  • 白人では収縮期血圧が20mmHg高いごとに追加低下 −0.048(95%CI −0.074 to −0.022)。アフリカ系米国人では有意な関連なし(95%CI −0.026 to 0.066)で、人種による効果修飾が認められた(P=.01)9

治療についても示唆的な数字があります。高血圧があって降圧薬を使っていた人は、未治療の高血圧の人より20年の認知機能低下が小さいという結果でした(原著は低下量を正の値で表記:0.050ポイント[95%CI 0.003–0.097] vs 0.079ポイント[95%CI 0.002–0.156]、global z スコア)9

この章でいちばん伝えたいこと。認知症の話をするとき、「いま測っている血圧」よりも「20〜30年前の血圧」のほうが、認知機能の変化をよく説明していました9。だからこそ、血圧の管理は「高齢になってから」ではなく中年期からという話になります。ただし z スコアの差は小さく、「中年期に高血圧だと認知症になる」と飛躍させることはできません。

② 増えるのはどの認知症か ― 久山町(日本人データ)

「高血圧は認知症のリスク」と一括りにされがちですが、日本人を対象にした久山町研究は、病型によって関係がはっきり違うことを示しています8。認知症のない地域住民668例(65〜79歳)を17年間追跡し、血管性認知症76例・アルツハイマー病123例が発症しました。

晩年期の血圧レベル 血管性認知症の発症率(/1000人年・年齢と性で調整) 交絡調整後のリスク(正常血圧との比較)
正常血圧2.3基準
前高血圧8.43.0倍
ステージ1高血圧12.64.5倍
ステージ2高血圧18.95.6倍

血管性認知症の発症率は血圧レベルとともにきれいに上昇しました(P for trend が 0.001 未満)。ところが同じ集団で、アルツハイマー病では同様の関連が見られませんでした(P for trend = 0.88)8。中年期の血圧についても同じで、血管性認知症とは正の関連がありましたが、アルツハイマー病とは関連がありませんでした。そして中年期に高血圧がある人は、晩年期の血圧レベルにかかわらず血管性認知症のリスクが約5倍でした8

「高血圧でアルツハイマー病になる」とは書けません。久山町研究の結論は、中年期高血圧・晩年期高血圧はいずれも血管性認知症の有意な危険因子であるが、アルツハイマー病の危険因子ではない(一般日本人集団において)というものです8。前章の Lancet 委員会の PAF は認知症全体に対する推計であって病型別ではないため、この2つを混ぜて語ることもできません1

なお、久山町研究については別のもっと大きな倍率が一般向け記事で広く引用されていますが、本記事が確認した原著論文の抄録にはその数値が見当たらなかったため、本記事では使いません。使うのは、上の表にある抄録記載の数値だけです。

③ 下げると減るのか(1)― メタ解析が示した「減るが、劇的ではない」

ここからは治療の話です。まず、降圧治療と認知症の関係を無作為化試験でまとめた2本の解析を見ます。

Hughes 2020(JAMA)― 相対値と絶対値を並べる

降圧治療と対照を比べた無作為化試験14件(96,158例)のうち、認知症またはその複合をアウトカムとする主解析には12件・92,135例が組み入れられました4。平均年齢69歳(SD 5.4)、女性40,617人(42.2%)、ベースライン血圧は平均154/83.3mmHg、平均追跡49.2か月です。

アウトカム 降圧群 vs 対照群 相対値 絶対リスク減少
認知症または認知機能障害(平均4.1年)7.0% vs 7.5%OR 0.93(0.88–0.98)、I²=0.0%0.39%(0.09%–0.68%)
認知機能低下(8試験)20.2% vs 21.1%OR 0.93(0.88–0.99)、I²=36.1%0.71%(0.19%–1.2%)
認知機能検査スコアの変化有意な関連なし
ここが、多くの記事が書いていない部分です。「認知症リスクが7%低下」と相対値だけを見ると大きく感じますが、同じ結果を絶対値で見ると、平均4.1年でおよそ 0.39%(95%CI 0.09%–0.68%)の差です4。方向は確かにプラスですが、「血圧を下げれば認知症を防げる」と言い切れる大きさではありません。

Peters 2022(Eur Heart J)― プラセボ対照試験だけを個別患者データで統合

より条件を絞り、プラセボ対照の二重盲検RCT 5試験の個別患者データを統合した解析もあります5。20か国・28,008例、追跡中央値4.3年、認知症の発症は861例でした。

  • 調整オッズ比 0.87(95%CI 0.75–0.99)=降圧治療群で認知症リスクが低い。このときの平均降圧幅は 10/4 mmHg5
  • 死亡を競合リスクとして扱った解析でも同様の結果。年齢・性別による効果修飾はなし5
  • 治療群でより大きく血圧が下がった人ほど、認知症リスクの低下も大きいという媒介解析の結果5
  • 抄録の evidence classification 欄には Class I evidence と明記されている5

ただし、この論文自身が宿題を残しています。すでに良好にコントロールされている高血圧をさらに下げる意義と、ライフコースのより早い時期に降圧治療を始めた場合の長期的なリスク低下は、まだ解決していません5

④ 厳格に下げて減ったのは「認知症」ではなく「MCI」だった ― SPRINT MIND

本記事でいちばん書きたかったのが、この章です。SPRINT MIND(JAMA 2019)は、収縮期血圧を厳しく下げれば認知症を減らせるかを直接検証した無作為化試験です3。日本語の解説記事では「MCIが20%減少した試験」として紹介されることが多いのですが、この試験の主要評価項目は MCI ではなく probable dementia(認知症)であり、そこでは有意差が出ていません。

MCI(軽度認知障害)とは、記憶や段取りの力が同年代より落ちてはいるものの、日常生活は自立して送れている段階を指します。認知症の手前の状態と考えられており、認知症とは別のアウトカムです。

試験のかたち3

  • 対象:50歳以上・高血圧があり、糖尿病と脳卒中既往のある人は除いた成人。米国・プエルトリコの102施設
  • 人数:9,361例(厳格群4,678/標準群4,683)。平均年齢67.9歳、女性3,332人(35.6%)
  • 介入:収縮期血圧の目標を120mmHg未満(厳格) vs 140mmHg未満(標準)
  • 期間:介入期間の中央値3.34年、総追跡の中央値5.11年
評価項目 厳格群 vs 標準群(/1000人年) ハザード比(95%CI)
主要評価項目:probable dementia(認知症)
149例 vs 176例
7.2 vs 8.6HR 0.83(0.67–1.04)=有意差なし
副次:MCI(軽度認知障害)14.6 vs 18.3HR 0.81(0.69–0.95)=有意に減少
副次:MCI または認知症の複合20.2 vs 24.1HR 0.85(0.74–0.97)=有意に減少

では「効かなかった」のか ― 原著はその理由を明記している

ここで話を止めて「厳格降圧は認知症に効かない」と結論するのは、同じくらい不正確です。原著は、この結果の解釈について次のように書いています3

試験が早期に中止となり、認知症の発症例が予想より少なかったため、このエンドポイントについては検出力不足であった可能性がある3

早期中止の経緯はこうです。本体の SPRINT試験が心血管イベントの複合と総死亡で有益性を示したため、2015年8月20日に早期中止となりました。認知アウトカムの最終追跡は2018年7月22日です3。つまり、認知症という比較的まれで時間のかかるアウトカムを判定しきる前に、試験の介入期間が終わってしまったわけです。

正確な言い方は、次のとおりです。「厳格降圧で認知症を防げる」とは言えません。同時に「厳格降圧は認知症に効果がないと証明された」とも言えません。この試験では示せなかった、が正しい表現です3。なお、この試験の掲載誌は JAMA です(NEJM と紹介している解説を見かけますが誤りです)。

⑤ 認知症そのものが減った試験もある ― He 2025(中国農村)

一方で、全原因認知症そのものを主要評価項目に置いて、有意な減少を示した試験が2025年に Nature Medicine に報告されています6

試験のかたち6

  • 対象:中国農村部の40歳以上・血圧コントロール不良の高血圧 33,995例
  • 割付:163村を介入群、163村を通常ケア群(村単位のクラスター無作為化)
  • 介入:非医師の地域医療従事者(村医)主導で、かかりつけ医の監督下に簡易なステップドケア・プロトコルで降圧薬を開始・増量。目標は収縮期130mmHg未満かつ拡張期80mmHg未満
  • 登録:ClinicalTrials.gov NCT03527719
  • 48か月での正味の降圧幅:収縮期 −22.0mmHg(95%CI 20.6–23.4、P<0.0001)/拡張期 −9.3mmHg(95%CI 8.7–10.0、P<0.0001)6
  • 主要評価項目=全原因認知症:RR 0.85(95%CI 0.76–0.95)、P=0.0035=介入群で有意に少ない6
  • 重篤な有害事象も介入群で少なかった:RR 0.94(95%CI 0.91–0.98)、P=0.00066
「SPRINT MIND の否定的な結果が覆った」と読まないでください。2つの試験は、対象も、降圧幅も、認知症の判定方法も違います。He 2025 の対象は血圧がコントロールされていない中国農村部の住民で、正味の降圧幅は 22.0/9.3mmHg と非常に大きいものでした6。日本の外来で日常的に見る「すでに治療中で、おおむねコントロールされている高血圧」とは条件が異なります。ここから言えるのは「条件が違えば結果も違う」までで、「中国で減ったから日本でも減る」ではありません。

⑥ 脳には何が起きているのか ― MRI副試験

SPRINT MINDのMRI副試験で、厳格降圧群は白質病変の増加が小さい一方、総脳容積の減少はやや大きく、差はいずれも小さいため一方向へ断定できないことを示す図
MRI副試験の所見は二方向でした。片方だけを取り出して「脳を守る」「脳を縮ませる」と断定できません。(クリックで拡大)

SPRINT MIND には、脳MRIを撮った副試験があります10。ベースラインでMRIを撮った670例(平均67.3歳・女性40.4%)を厳格群355例・標準群315例に割り付け、そのうち4年後のフォローMRIまで到達したのが449例(67.0%)です。結果は2つの方向に分かれました

指標 厳格群 標準群 群間差(95%CI)
白質病変体積の増加4.57→5.49 cm³
(+0.92[0.69–1.14])
4.40→5.85 cm³
(+1.45[1.21–1.70])
−0.54 cm³(−0.87 to −0.20)
=厳格群のほうが増え方が小さい
総脳容積の減少1134.5→1104.0 cm³
(−30.6)
1134.0→1107.1 cm³
(−26.9)
−3.7 cm³(−6.3 to −1.1)
=厳格群のほうが減り方が大きい

白質病変(脳の細い血管の障害を反映するとされる所見)の増え方は、厳格に下げたほうが小さくなりました。ところが総脳容積の減り方は、厳格に下げたほうがやや大きいという結果でした10。そして原著の結論には、"although the differences were small"(ただし差はいずれも小さい)という但し書きが明記されています10。片方だけを取り出して「厳格降圧は脳を守る」とも「厳格降圧は脳を縮ませる」とも書けません。

⑦ 「下げすぎると認知症になる」は本当か

中年期高血圧から晩年期低血圧という観察された血圧パターンと認知症の関連は、降圧薬が原因であることを証明したものではなく、自己判断で薬を変えないことを示す図
血圧パターンとの関連を、降圧薬の因果へ読み替えることはできません。薬は自己判断で変更せず、症状を主治医へ伝えます。(クリックで拡大)

「降圧剤を飲むと認知症になる」「血圧は高めのほうが頭がしっかりする」という話は、外来でもよく聞かれます。この疑問に、いちばん近い形で答えているのが、③で見た ARIC のパターン分類です7

5つのパターンのうち、認知症の発症率がもっとも高かったのは「中年期に高血圧で、晩年期に低血圧」のグループ(4.26/100人年、HR 1.62、95%CI 1.11–2.37)でした7。MCI について有意だったのも、5群のうちこのパターンだけです(OR 1.65、95%CI 1.01–2.69)7

ここは、いちばん慎重に読む必要があります。これは観察された血圧パターンの分類であって、「降圧薬で下げすぎると認知症になる」ことを検証した試験ではありません7。中年期に高血圧だった人の血圧が晩年期に下がっている背景には、薬以外にも、心機能の低下・フレイル・体重減少など多くの要因がありえます。この2つを混同して「だから薬を減らそう」と読むことはできません。自己判断で降圧薬を減らしたり中止したりしないでください。

同時に、「だから下げすぎは気にしなくてよい」とも言えません。高齢の方で降圧が過度になると、立ちくらみ(起立性低血圧)や転倒という、認知症とは別の実務的な問題が生じます。血圧を下げていて立ちくらみやふらつきがあるときの考え方は、起立性低血圧(立ちくらみ)の生活指導テンプレートにまとめています。気になる症状があれば、自分で薬を調整するのではなく、その症状を主治医に伝えてください。

⑧ 結局、いま何をすればよいか

ここまでの内容を、行動に落とすとこうなります。

  1. 血圧の管理は、中年期から始める意味がある。晩年期の血圧よりも中年期の血圧のほうが、その後の認知の変化をよく説明していました7,9。Lancet 委員会が示す方向は「40歳以降、収縮期130mmHg以下を目標に管理する」です1
  2. すでに治療中なら、続けることが基本。ARIC では、降圧薬を使っていた人のほうが未治療の高血圧の人より20年の認知機能低下が小さいという結果でした9
  3. 期待値は正しく持つ。降圧治療で認知症・認知機能障害は減る方向ですが、その大きさは平均4.1年で絶対リスク減少 0.39% 程度です4。血圧管理は認知症対策の「唯一の切り札」ではなく、14ある因子のひとつです1

具体的な下げ方(家庭血圧の測り方・減塩・運動・受診のタイミング)と、現在の降圧目標値の考え方は、本記事では扱いません。目標値の詳細は高血圧の新基準(2025年)と減塩対策|130/80mmHg時代の血圧管理に、外来で使える生活指導の組み立ては高血圧の生活指導テンプレート(外来指導シリーズ#6)にまとめています。

医療者の方で、認知症予防を外来指導として組み立てたい場合は、14因子を診療の流れに落とし込んだ認知症予防の生活指導テンプレート(外来指導シリーズ#5)が対応する回になります。

⑨ この記事で扱わないこと

  • どの降圧薬が認知症予防に向いているか(薬剤クラス間の比較)。「このクラスがいちばん良い」という主張は流通していますが、本記事はその一次資料を検証していないため踏み込みません。
  • 降圧薬の減薬・中止の是非。「減薬したら認知機能低下が抑えられた」という趣旨の紹介記事がありますが、元の試験を特定・検証できていません。自己判断の中断は害のほうが大きくなりえます。
  • 個別の降圧目標値。日本の最新ガイドラインの推奨内容は、書籍として発行されておりオンラインで全文を照合できなかったため、本記事では数値を書きません。目標値については上記の既存記事をご覧ください。
  • 久山町研究について一般向け記事で広く引用されている大きな倍率。原著抄録に見当たらないため、本記事では使いません(②の表にある数値のみを使用しています)。

まとめ

  1. 効いているのは「いつの血圧」か ― 中年期。晩年期の血圧にかかわらず、中年期の持続的高血圧が認知症と関連し(HR 1.41、95%CI 1.17–1.71)7、追跡終了時点の収縮期血圧は先行20年の認知変化と関連していなかった9
  2. 増えるのは、まず血管性認知症。久山町研究では晩年期の血圧レベルとともに血管性認知症の発症率が上昇したが、アルツハイマー病では同様の関連がなかった(P for trend = 0.88)8
  3. 下げると減るが、劇的ではない。メタ解析では OR 0.93(0.88–0.98)・絶対リスク減少 0.39%4、プラセボ対照試験の個別患者データ統合では調整OR 0.87(0.75–0.99)・平均降圧幅10/4mmHg5
  4. 厳格に下げて有意に減ったのは MCI であって、認知症単独ではなかった。SPRINT MIND の主要評価項目は HR 0.83(0.67–1.04)で有意差なし。ただし原著は早期中止と発症例の少なさによる検出力不足の可能性を明記しており、「効果がない」という意味ではない3
  5. 条件が変われば結果も変わる。中国農村部の血圧コントロール不良例で降圧幅22.0/9.3mmHgを達成した試験では、全原因認知症が RR 0.85(0.76–0.95、P=0.0035)で有意に減少した6
  6. 「下げすぎ」の観察所見は、降圧薬の話とは分けて読む。中年期高血圧+晩年期低血圧のパターンが最もリスクが高かったが(HR 1.62)、これは観察された血圧パターンの分類であって、降圧薬を検証した試験ではない7

血圧は、認知症のために管理するものではなく、脳卒中・心筋梗塞・腎障害を含めた全体のために管理するものです。そのうえで、中年期からの血圧管理は将来の認知症リスクを下げる方向に働くと考えられています。ただし「血圧を下げれば認知症を防げる」と言い切れるところまでは、まだ来ていません。この距離感を持ったまま、続けられる管理をしていくのが現実的です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 高血圧だと必ず認知症になりますか?

なりません。高血圧は認知症の危険因子のひとつですが、原因ではありません。Lancet 委員会は予防可能な因子を14挙げており、高血圧はそのひとつです1

Q2. 血圧を下げれば認知症は防げますか?

「防げる」とは言えません。降圧治療で認知症・認知機能障害がやや減ることは複数の試験をまとめた解析で示されていますが(OR 0.93、絶対リスク減少 0.39%)4、厳格に下げた試験の主要評価項目では有意差が出ていません3。リスクを下げる方向に働く、というのが正確な言い方です。

Q3. 何歳の血圧がいちばん大事ですか?

中年期の血圧です。晩年期の血圧にかかわらず中年期の持続的な高血圧が認知症と関連し7、追跡終了時点の収縮期血圧は先行する20年の認知変化と関連していませんでした9

Q4. 高血圧はアルツハイマー病の原因になりますか?

久山町研究では、アルツハイマー病との関連は見られませんでした(P for trend = 0.88)。強い関連が見られたのは血管性認知症のほうです8

Q5. 降圧薬を飲むと認知症になると聞きましたが本当ですか?

そう示した試験はありません。むしろ、降圧薬を使っていた人のほうが未治療の高血圧の人より20年の認知機能低下が小さいという報告があります9。自己判断で減らしたり中止したりせず、気になる症状は主治医に伝えてください。

Q6. 高齢で血圧が低いのは、脳にとって良いことですか?

単純に良いとは言えません。中年期に高血圧で晩年期に低血圧というパターンは、観察研究で認知症の発症率がもっとも高いグループでした7。ただしこれは血圧パターンの分類であって、降圧薬の影響を検証したものではありません。

Q7. どの降圧薬が認知症予防にいいですか?

本記事では扱いません。薬剤クラス間の比較について一次資料を検証していないためです。薬の選択は、腎機能・心疾患・年齢などを含めて主治医が判断します。

参考文献

  1. Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404(10452):572-628. PMID: 39096926
  2. Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. Lancet. 2020;396(10248):413-446. PMID: 32738937
  3. SPRINT MIND Investigators for the SPRINT Research Group. Effect of Intensive vs Standard Blood Pressure Control on Probable Dementia: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019;321(6):553-561. PMID: 30688979
  4. Hughes D, et al. Association of Blood Pressure Lowering With Incident Dementia or Cognitive Impairment: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA. 2020;323(19):1934-1944. PMID: 32427305
  5. Peters R, et al. Blood pressure lowering and prevention of dementia: an individual patient data meta-analysis. Eur Heart J. 2022;43(48):4980-4990. PMID: 36282295
  6. He J, et al. Blood pressure reduction and all-cause dementia in people with uncontrolled hypertension: an open-label, blinded-endpoint, cluster-randomized trial. Nat Med. 2025;31(6):2054-2061. PMID: 40258956
  7. Walker KA, et al. Association of Midlife to Late-Life Blood Pressure Patterns With Incident Dementia. JAMA. 2019;322(6):535-545. PMID: 31408138
  8. Ninomiya T, et al. Midlife and late-life blood pressure and dementia in Japanese elderly: the Hisayama study. Hypertension. 2011;58(1):22-8. PMID: 21555680
  9. Gottesman RF, et al. Midlife hypertension and 20-year cognitive change: the atherosclerosis risk in communities neurocognitive study. JAMA Neurol. 2014;71(10):1218-27. PMID: 25090106
  10. SPRINT MIND Investigators for the SPRINT Research Group. Association of Intensive vs Standard Blood Pressure Control With Cerebral White Matter Lesions. JAMA. 2019;322(6):524-534. PMID: 31408137

※ 本記事は情報提供を目的としたものであり、個々の患者さんの治療方針は主治医の判断によります。降圧薬の量や種類を自己判断で変更しないでください。記載した数値はすべて原著論文の抄録・本文から転記し、PMID/DOI による実在確認を行っています。