AIに「解いて」と頼んだら断られた——内科セルフトレーニング問題2026とAIの距離感

 

毎年恒例の内科セルフトレーニング問題。今年は「全部AIに任せてしまおう」と思い立ち、Claude CodeとCodexに丸投げしようとしたところ、どちらにもきっぱり断られました。返ってきたのは「学会が自己学習を求めており、解答・解説の提供はできません」という趣旨の回答。拍子抜けしつつ、これはむしろAIの進化ではないかとも思いました。結局は問題を自分で開き、AIに解説してもらいながら解き進めることになったのですが、この解き方が、これまでで一番学びの濃い時間になりました。AIと学習の距離感について考えたことを書き残しておきます。

執筆・監修:今村久司(脳神経内科専門医・総合内科専門医)

※本記事には、セルフトレーニング問題の設問・選択肢・解答は一切掲載していません。あくまで「AIをどう使ったか」という学習方法の話です。単位取得を目的として利用される場合は、必ずご自身で学会の規定を確認してください。

目次

今年もセルフトレーニング問題の季節がきた

内科学会のセルフトレーニング問題は、内科医にとってなじみ深い年中行事です。日常診療から少し離れた領域まで幅広く出題され、解いてみると「この分野、しばらく更新していなかったな」と気づかされる。そういう装置として、よくできていると思います。

ただし今年は事情が少し違いました。単位はすでに足りているのです。締切に追われる理由がない。となると残るのは「これを解くこと自体に、どれだけ意味を持たせられるか」という問いだけになります。義務でなくなった瞬間に、やり方を選び直せるようになったわけです。

これまでの解き方——イヤーノート、同僚との分担、SNSの解答例

振り返ると、私の解き方は時代とともにずいぶん変わってきました。

1必死にイヤーノートで調べる時代

手元の成書を引き、索引から該当ページを探し、周辺の記載も読む。時間はかかるが、探している途中で余計なものまで読んでしまうのが、いま思えば一番の収穫だった。

2同僚と分担する時代

効率は上がる。ただし「自分が担当しなかった問題」は、答えだけが手元に残る。学べたのは担当分だけ、というのが正直なところ。

3SNSで解答例を探す時代

最も速いが、最も学びが薄い。誰が書いたか分からない選択肢の並びを眺めるだけで、なぜそうなるかは残らない。

こうして並べてみると、効率が上がるほど、学習密度は下がっていたことが分かります。速さと理解が反比例していたわけです。

昨年はChatGPTのエージェントモードに任せてみた

昨年は、ChatGPTのエージェントモードに解かせてみました。自律的に調べて回答を組み立ててくれる、当時としてはかなり新しい体験です。

ただ、いま思い返すと、これは「SNSで解答例を探す」の高級版でした。手元に残るのは選択肢の並びで、私の頭はほとんど動いていない。技術としては面白かったけれど、学習としては空振りだったと思います。

今年、Claude CodeとCodexに丸投げしたら断られた

そして今年。普段の記事制作でも使っているClaude CodeCodexに、「全部やっておいて」と頼んでみました。私にとっては、いつもの作業を投げるのと同じ感覚です。

ところが、どちらも解いてくれませんでした。返ってきたのは、こういう趣旨の回答です。

資格関連の現行評価で、学会も自己学習を求め、問題の解答・解説の提供を禁止しています。そのため、私が設問を解いて選択肢を入力することはできません。

きっぱりしたものです。現行の資格評価であること解答・解説の提供が認められていないこと——この2点を、AIは自分の判断として崩しませんでした。数年前なら、頼めば何でもやってくれたはずの場面です。

断られて気づいたこと——AIは「代行」から「伴走」に寄ってきた

AIが現行のセルフトレーニング問題の代行はせず、設問や解答を外へ出さない境界を守りながら、学習者の理解を支える伴走役になることを示す図
AIに任せるのは解答の代行ではなく、理解の支援。設問・選択肢・解答は外へ出しません。(クリックで拡大)

最初は正直、拍子抜けしました。「昨年はやってくれたのに」と。しかし少し考えて、これは後退ではなく前進ではないかと思うようになりました。

セルフトレーニング問題は、点数を競うものではありません。解く過程で知識を更新することが目的で、答えの一覧そのものに価値はない。AIが断ったのは「成果物の代行」であって、「学習の支援」ではなかった——ここに気づくと、見え方が変わります。

つまりAIは、私の代わりに単位を取ることは拒み、私が理解することには協力する、と言っていたわけです。ずいぶん筋の通った線引きだと思いました。

結局こうした:問題を開いて、その場で解説してもらう

学習者が自分で内容を読み、AIに理由を問い、一次資料で確かめ、最後は自分で選ぶという伴走型学習の循環を示す図
伴走型の学習は、自分で読み、理由を問い、一次資料で確かめ、自分で選ぶ循環です。(クリックで拡大)

最終的にとった方法は、拍子抜けするほど素朴なものです。

やったこと

自分で問題を開き、画面に表示した状態で、Claudeのブラウザ拡張機能に「この問題の解答と解説をお願いします」と入力する。返ってきた解説を読み、納得したら自分で選択肢を選ぶ。腑に落ちなければ、その場で追加の質問を重ねる。

代行ではなく、隣に座って解説してくれる人がいる状態です。問題を開くのも、最後に選ぶのも自分。この一点が、昨年のエージェントモードとの決定的な違いでした。

50問を約2時間、それでも一番学べた

結果として、50問を約2時間で解き終えました。速さだけ見れば、丸投げには及びません。それでも、これまでで最も密度の高い時間だったと感じています。理由は3つあります。

① なぜ他の選択肢が違うのかが、その場で分かる

正解だけでなく、誤答肢がなぜ誤りかまで一度に確認できる。成書を引いていた頃は、ここまで手が回らないことが多かった。

② 疑問がその場で解消される

「これは日本のガイドラインだとどうなっているのか」「この薬はいつから使えるようになったのか」——浮かんだ疑問を、その場で追いかけられる。後で調べようと思って忘れる、が起きない。

③ 専門外の最近の動きに触れられる

自分の専門から遠い領域ほど、知識の更新は止まりやすい。解説のついでに近年の潮流を教えてもらえるのは、専門外の分野ほどありがたかった。

分担やSNSの解答収集と、何が違ったのか

「情報収集にAIを使うのは邪道ではないか」——正直、その気持ちはあります。ただ、これまでのやり方と並べてみると、話は少し違って見えてきます。

やり方 手元に残るもの
成書で1問ずつ調べる 深い理解。ただし時間が足りず、全問には届かない
同僚と分担 自分の担当分の理解+他人の答え
SNSの解答例 選択肢の並びだけ
AIに丸投げ 選択肢の並びだけ(ただし速い)
AIと一緒に解く 全問の解説+その場での疑問解消+周辺知識

こうして並べると、AIと一緒に解くほうが、分担やSNSより明らかに本質的です。少なくとも、全問について「なぜそうなるか」が自分の頭を通っている。邪道と呼ぶなら、答えだけを写していた頃のほうがよほど邪道でした。

AIを学習に使うときの、自分なりの線引き

AIの解説をそのまま受け入れず、一次資料で確認してから医師自身が判断する三段階の確認線を示す図
AIの解説は入口です。鵜呑みにせず一次資料で確認し、最後は自分で判断します。(クリックで拡大)

今回のことで、自分の中の基準がはっきりしました。

  • 単位を取ることが目的なら、AIに任せない。それは学習ではなく代行になる。今回は単位が足りていたからこそ、学習のためだけに使えた。
  • 解答・解説を外に出さない。AIが断った理由そのものなので、この記事でも設問・解答には触れない。
  • AIの解説を鵜呑みにしない。特に日本のガイドラインの記載や保険適用の範囲は、AIが外しやすいところ。引っかかった箇所は一次資料で確認する。
  • 「なぜ」を必ず聞く。答えだけもらった時点で、その学習は失敗している。

まとめ:邪道かどうかは、頭を通ったかどうかで決まる

この体験で残ったこと

・AIに丸投げしようとしたら断られた。理由は「自己学習が求められる現行の評価だから」

・断られたことで、代行ではなく伴走という使い方に落ち着いた

・50問を約2時間。速さは丸投げに劣るが、学習密度はこれまでで最も高かった

・邪道かどうかを分けるのは道具ではなく、自分の頭を通したかどうか

AIが「できません」と言う場面に出会うと、つい不便に感じます。でも今回に限っては、その一言が私の学習の質を上げてくれました。代わりにやってもらうのではなく、隣で説明してもらう。しばらくは、この距離感を守っていこうと思います。

よくある質問

Q. セルフトレーニング問題をAIに解かせてもよいのですか?

A. 学会は自己学習を前提としており、私が使ったAIはいずれも「解答そのものを出すこと」を断りました。単位取得を目的とする場合は、必ずご自身で学会の規定を確認してください。本記事は、単位が足りている状態で純粋に学習目的として取り組んだ体験の記録です。

Q. AIに断られたら、どう頼み直せばよいですか?

A. 言い方を工夫して断りを回避するのではなく、頼む内容そのものを変えるのが筋だと考えています。「代わりに解いて」ではなく「この内容を解説して」に切り替えると、AIは十分に協力してくれます。結果としてそのほうが学べます。

Q. AIの解説はそのまま信用してよいですか?

A. そのままでは信用していません。特に日本のガイドラインの記載や保険適用の範囲は誤りが混じりやすい部分です。引っかかった箇所はガイドライン本文や原著論文で確認するようにしています。確認する過程自体が、また学習になります。

Q. 情報収集にAIを使うのは、やはり邪道では?

A. 道具ではなく使い方の問題だと考えています。答えだけを写すなら、それが成書でも同僚でもSNSでもAIでも同じことです。全問について「なぜそうなるか」を自分の頭に通せたという点で、今回のやり方はこれまでのどの方法よりも本質的でした。