「運動も食事も脳トレも」は認知症に効くのか|日本のJ-MINT研究が示した正直な結果

健診で血圧も血糖もコレステロールも指摘された。運動も足りていない。ひとつずつ気にするのはもう限界だから、まとめて何とかできないものか——そう考えるのは自然なことです。実際、世界中の研究者が同じことを考えて、食事・運動・頭を使うこと・生活習慣病の管理を「束ねて」行う多因子介入(マルチドメイン介入)を、大規模な臨床試験で検証してきました。フィンランド、フランス、オランダ、アメリカ、そして日本。この記事では、その主な5つの試験が実際に何を測って何を出したのかを、原著論文の記載だけを使って順に確かめます。先にお伝えしておくと、結果はきれいに揃っていません。とくに日本で行われた試験は、あらかじめ決めていた主要な評価項目で差がつきませんでした。それでも読み終えたときに手元に残るものがあるように、最後まで書きます。

監修:今村久司(脳神経内科専門医・総合内科専門医)

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多因子介入と認知症の関係を整理したインフォグラフィック。上段は、認知症の修正可能な14の危険因子の重み付き人口寄与割合の合計が約45パーセントであること、ただしこれは集団の割合であって個人の確率ではないことを示す。中段は5つの大規模ランダム化試験の一覧で、フィンランドのFINGER試験は年あたりの群間差0.022で有意、ただし効果量は小さいこと、日本のJ-MINT試験は主要評価項目の群間差0.047、95パーセント信頼区間マイナス0.029から0.124で差がつかなかったこと、アメリカのU.S. POINTER試験は構造化群が自己流群より年あたり0.029標準偏差だけ良く、両群とも点数が上がったこと、オランダのpreDIVA試験は認知症の発症を主要評価項目にしてハザード比0.92、95パーセント信頼区間0.71から1.19で差がなかったこと、フランスのMAPT試験も3群とも有意差がなかったことを並べる。次の段は、MAPTとpreDIVAを統合して5205人を最長12年追跡した解析でも、全体でもどのサブグループでも認知症の発症は減らなかったことを示す。その次の段は、109試験2万3010人のネットワークメタ解析で、運動と認知トレーニングの組み合わせが標準化平均差0.26で最も強く、認知トレーニング単独が0.21、4つのドメインを束ねたものが0.14であり、ドメインを増やすほど良いわけではないことを示す。最下段は、それでも言えること4つとして、多いほど良いではないこと、続けられる形にすることが効いている可能性、自己流でも点数は動いたこと、血圧血糖コレステロールを放置している人ほど恩恵が大きかったことを挙げている。

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1. 「血圧も血糖も、そのうえ運動不足も」——まとめて何とかできないか

健康診断の結果票に、赤い印がいくつも並ぶ。血圧が高めで、血糖も境界域で、コレステロールも指摘されている。そのうえ「運動不足です」と書かれている——珍しいことではありません。

認知症の危険因子は、ひとつずつバラバラに現れるのではなく、重なって現れます。前回の記事(生活習慣病の重なりと認知症)で確認したとおりです。因子が重なるのは、それらが共通の土台を持っているからです。

だとすれば、対策も束ねればいいのではないか。食事だけ、運動だけ、脳トレだけ、ではなく、まとめて手を打つ。——これが「多因子介入(マルチドメイン介入)」という発想です。そしてこの発想は、思いつきのまま終わらず、実際に大規模な臨床試験で検証されてきました。

この記事は、その検証の結果を研究デザインごとに読み直すためのものです。確かめることは3つです。

この記事で確かめる3つのこと

  1. 束ねて手を打つ、という発想は世界中で試され、フィンランドの FINGER 試験が最初に成功しました。ただし効き目は小さいものでした
  2. 日本の J-MINT 試験は、主要な評価項目では差がつきませんでした。そして「認知症の発症そのもの」を減らせた試験は、いまのところ一つもありません
  3. それでも言えることは残っています。「多ければ多いほど良い」ではないこと、続けられる形にすることが効いている可能性、自己流でも点数は動いたこと、そして放置している数値がある人ほど、束ねる価値が大きかったこと

この記事で扱わないこと

  • 個別の危険因子(血圧・コレステロール・難聴・糖尿病・喫煙・肥満・飲酒・視力など)の深掘りは扱いません。それぞれ別の記事で扱っています。この記事は「束ね方」の話に徹します
  • 「週に何回、何分やればいい」という処方はしません。試験でどんなプログラムが行われたかは書きますが、それは読者への指示ではありません
  • 特定の脳トレアプリ・サプリメント・サービスは扱いません。試験で使われたプログラムは、市販品の効果を保証しません
  • 抗アミロイド薬などの治療薬と、生活習慣の介入を「どちらが良いか」で比べません。役割が違います

2. 束ねて手を打つ、という発想はどこから来たのか

食事、運動、認知活動、血管リスクの管理が重なり合う要因にまとめて取り組むという多因子介入の考え方を示す図
多因子介入は、生活の複数の領域を同時に扱う研究上の考え方です。個人の認知症予防効果を保証するものではありません。(クリックで拡大)

出発点は、認知症の危険因子のうち修正できるものがどれだけあるか、という推計です。2024年の Lancet 委員会報告は、修正可能な危険因子を14挙げ、それらの重み付き人口寄与割合の合計を約45%としました14。2020年版(12因子・40%)から、高LDLコレステロールと視力低下の2つが加わっての数字です。

この「45%」の読み方には、決まった注意書きがあります。これは集団についての人口寄与割合であって、「あなたが生活を変えれば45%減らせる」という個人の確率ではありません。また委員会自身が、因子は互いに重なり合うので単純な足し算にはできないと書いています。14因子そのものについては認知症の45%は予防できる? 介入可能な14の危険因子をやさしく解説で扱っています。

因子が重なり合っているのなら、ひとつだけ動かしても他が足を引っ張る。だから同時に複数へ手を打つ——多因子介入の設計思想は、ここから来ています。委員会も「始めるのに早すぎることも、遅すぎることもない」と書いています14

では、実際にやってみたらどうだったのか。ここからが本題です。

3. 最初にうまくいったのが、フィンランドの FINGER 試験

FINGER試験で組み合わせた食事、運動、認知トレーニング、血管リスクの確認を示す図
FINGER試験は、複数の生活領域を束ねたプログラムをランダム化比較試験で検証しました。(クリックで拡大)

2015年に報告された FINGER 試験は、この分野の出発点になった研究です1

60〜77歳で、認知症のリスクを示すスコアが一定以上あり、認知機能が年齢相応かやや低い人1,260人を、くじ引きで2つのグループに分けました。片方は2年間の多因子介入——食事の指導、運動、認知トレーニング、血管リスクのモニタリングを束ねたプログラム。もう片方は一般的な健康アドバイスだけです。

主要な評価項目は、神経心理検査バッテリーの総合スコアの変化でした。結果は、年あたりの群間差 0.022(95%信頼区間 0.002〜0.042、p=0.030)。介入群のほうが良い、という統計学的に有意な差が出ました1

この結果を読むときの3つの但し書き

  • 測ったのは「認知機能テストの点数」であって、「認知症になったかどうか」ではありません。認知症の発症はこの試験の主要な評価項目ではありませんでした
  • 効果量は小さいものでした。のちに日本の研究者が FINGER を振り返って、「小さな効果量(Cohen's d = 0.127)」と記述しています2。※この数値は FINGER の論文そのものではなく、J-MINT の論文が FINGER を評したものです
  • 有害事象は介入群のほうが多く出ました。介入群 46人(7%)に対し対照群 6人(1%)。最も多かったのは筋骨格系の痛み(介入群 32人、対照群 0人)です1。運動を増やせば、体は痛くなります

著者自身の結論も、控えめな言い方です。多因子介入は認知機能を「改善または維持できる可能性がある」——断定ではありません1

それでも、この結果は世界中を動かしました。同じ設計を各国で試そう、という動きが始まります。日本もそのひとつでした。

4. では、日本ではどうだったのか——J-MINT 試験

日本で行われたのが J-MINT 試験です2。国内5施設で、65〜85歳の軽度認知障害(MCI)のある531人を、18か月にわたって追跡しました。

介入の中身は本格的です。生活習慣病の管理に加えて、週1回90分のグループ運動を78回、栄養カウンセリング、タブレットを使った認知トレーニング。実際の出席は78回中平均64.9回(83%)と、参加率も高いものでした2

主要な評価項目は、認知機能検査の合成スコアの18か月間の変化です。結果は——

群間差 0.047(95%信頼区間 −0.029〜0.124)

——信頼区間が0をまたいでおり、差はつきませんでした2

論文の言葉はもっと直接的です。著者自身が「多因子介入は認知機能低下の予防に有効性を示さなかった」と書いています2

日本語で J-MINT を紹介した記事の多くは、このあとに出てくるサブ解析——よく通えた人では差が出た、という部分を先に伝えています。それは間違いではありませんが、順序が逆になると結果の印象が変わります。あらかじめ決めておいた主要な評価項目で差がつかなかった、というのが、この試験のいちばん大事な事実です。

ただし、「日本人には効かない」という話ではありません。そして「本当は効いていたのに測れなかっただけだ」という話でもありません。次の章で、著者自身が挙げている理由を見ます。

5. J-MINT が「無駄だった」わけではありません

J-MINT試験で主要な認知機能評価では明確な差が示されなかった一方、二次評価項目では生活の変化を確認したことを示す図
主要評価項目が陰性でも、二次評価項目に見られた変化まで含めて結果を読む必要があります。(クリックで拡大)

論文の考察で、著者たちは差がつかなかった理由として3つを挙げています2

  1. 新型コロナウイルス感染症の流行が、グループ運動の実施を妨げた。感染を恐れて参加を取りやめた人がいた。著者は「多因子介入の効果を見落とした、あるいは過小評価した可能性がある」と書いています
  2. 対照群にも介入が入っていた。両群とも糖尿病・高血圧・脂質異常症は日本の診療ガイドラインに従って治療され、対照群にも2か月ごとに健康情報が書面で提供されていました。著者は「この試験デザインは有意な効果を検出することを難しくした可能性がある」と書いています
  3. 日本の MCI のある高齢者が対象なので、他の集団への一般化には限界がある

そして、もうひとつ大事な事実があります。認知機能テストの点数以外では、はっきり効いていたのです。二次評価項目として測られた項目のうち、次のものが有意に改善しました2

  • 食の多様性
  • 参加している集まりの数
  • 難聴による生活のしづらさ
  • BMI と除脂肪量
  • 収縮期血圧

これらは二次評価項目であり、「認知症を防げた」ということとは別の話です。それでも——18か月のプログラムに通った人たちの生活は、確かに良い方向に変わっていました。認知機能テストの点数だけが、動かなかったのです。

6. 米国の U.S. POINTER が比べたのは「伴走つき」と「自己流」だった

2025年に報告された U.S. POINTER 試験は、この分野で最大の規模です3。米国5施設で 2,111人(平均68.2歳、女性68.9%)を2年間追跡しました。

ここで大事なのは、この試験には「何もしない群」が無いということです。比べられたのは次の2つでした3

  • 構造化された、強度の高いプログラム——中〜高強度の運動を定期的に、MIND食の遵守、頭を使う活動と社会参加、心血管の健康チェック。伴走と、やり切ることへの後押しがある
  • 自己流のプログラム——同じ領域を勧められるが、強度が低く、自分で進める形

結果はこうです。2年間で、構造化群は年あたり 0.243 標準偏差(95%信頼区間 0.227〜0.258)、自己流群は年あたり 0.213 標準偏差(0.198〜0.229)——どちらの群でも、点数は上がりました3

そのうえで、構造化群のほうが年あたり 0.029 標準偏差だけ良い(95%信頼区間 0.008〜0.050、P=.008)という差が出ました3。APOE ε4 という遺伝子型の有無で効果は変わらず(交互作用 P=.95)、もともとの認知機能が低い人のほうが恩恵が大きい傾向がありました(交互作用 P=.02)。

この試験を読むときの但し書き

  • 0.029 標準偏差という差が、日常生活で何を意味するのかは、著者も答えていません。論文には「機能的な指標やバイオマーカー、追跡の継続が、臨床的な意味づけの助けになるだろう」と書かれています3。「○年ぶん脳が若返る」といった換算は、どこにも根拠がありません
  • 「2年で認知機能が上がった」ことを、介入の効果と断定することもできません。同じ検査を繰り返せば点数は上がります(練習効果)。何もしない群が無い以上、これを切り分けることはできません

それでも、この試験の設計には別の読み方ができます。比べられたのは「やる」と「やらない」ではなく、「伴走つきでやる」と「自分でやる」でした。そして自分でやる側も、点数は上がっていました。

7. 「多ければ多いほど良い」ではありませんでした

取り組む領域の数を増やすことが自動的により大きな認知面の利益につながるわけではなく、続けられる組み合わせを選ぶことを示す図
領域の数を増やすこと自体が目的ではありません。続けられる組み合わせを考えることが大切です。(クリックで拡大)

ここまでは「束ねる」ことを前提にしてきました。では、束ねる数は多いほど良いのでしょうか。

2025年に報告されたネットワークメタ解析が、この問いを正面から扱っています8。認知機能が保たれている高齢者を対象にした109の試験・23,010人を統合し、食事・運動・認知トレーニング・社会活動・健康教育を単独または組み合わせで行った場合の効果を比較しました。

介入の組み合わせ(対 健康教育)全般認知機能への効果(標準化平均差)
運動+認知トレーニング0.26(95%信頼区間 0.10〜0.42、p=0.0011)
認知トレーニング単独0.21(0.08〜0.33、p=0.00092)
食事+運動+認知トレーニング+健康教育(4つ)0.14(0.02〜0.27、p=0.028)

いちばん強かったのは、「運動+認知トレーニング」という2つの組み合わせでした。4つ束ねたものは、それより小さい値です。著者の結論はこうです——「生活習慣の介入を組み合わせることで効果は高まりうるが、ドメインの数が増えることが、自動的により大きな認知面の恩恵につながるわけではない8

この解析にも但し書きがあります。著者は、109試験のうち44試験(40%)でバイアスのリスクが高かったこと、そして健康教育を対照にした比較では出版バイアスが示唆されたことを明記しています8。数値だけを取り出して使わないでください。また対象は認知機能が保たれている人で、MCI のある人(J-MINT の対象)とは集団が違います。

なお、運動については単独でも有意な効果が示されています。歩くことそのものについては脳神経内科医が教える「歩く」科学で扱っています。

8. そして、認知症の発症そのものは、まだ減らせていません

ここまで出てきた数値は、すべて認知機能テストの点数です。では、「認知症になる人が減ったか」を直接数えた試験はどうだったのでしょうか。

オランダの preDIVA 試験が、まさにそれを主要な評価項目にしました5。70〜78歳の地域住民 3,526人を診療所単位でくじ引きし、6年間にわたる看護師主導の多因子心血管介入と、通常診療とを比べています。追跡期間の中央値は6.7年でした。

評価項目結果
認知症の発症(主要評価項目)介入群 121/1,853人(7%)vs 対照群 112/1,601人(7%)
ハザード比 0.92(95%信頼区間 0.71〜1.19、p=0.54)
生活機能(主要評価項目)補正平均差 −0.02(−0.38〜0.42、p=0.93)
死亡ハザード比 0.98(0.80〜1.18、p=0.81)

差はつきませんでした。著者は理由として、もともとの心血管リスクがそれほど高くない集団だったことと、通常診療の水準が高かったことを挙げ、「今後の研究は対象を絞った集団で有効性を検証すべきだ」と結論しています5

フランスの MAPT 試験も、3年間・4群という設計で検証しましたが、3つの介入群はいずれも対照群と有意差がありませんでした6。オメガ3脂肪酸のサプリメント単独は、群間差 0.011(−0.081〜0.103、p=0.812)と完全な陰性です。※「多因子介入+オメガ3」の群は信頼区間が 0.001〜0.184 と0をまたいでいませんが、多重比較の補正後の p 値は 0.142 で有意ではありません。この行だけを取り出して「効いた」と読むことはできません。

そして2025年、この2つの試験の個別参加者データを統合し、最長12年まで追跡した解析が報告されました7。70歳超の 5,205人、追跡 37,782人年、486人が認知症を発症しています。年齢・性別・教育・APOE 遺伝子型・認知状態・心血管危険因子であらかじめ決めたサブグループを調べ、さらにデータ駆動のアルゴリズムでも「効く集団」を探しました。

結果——多因子介入は、全体でも、あらかじめ決めたどのサブグループでも、認知症の発症を減らしませんでした。アルゴリズムを使っても、効果の違うサブグループは検出されませんでした7

つまり、「認知症になる人を減らせた」と主要な評価項目で示した多因子介入の試験は、いまのところありません。——「存在しない」と断定はしません。私たちが確認できた範囲で、という意味です。

9. 脳の画像も、動きませんでした

U.S. POINTER には、脳画像を撮る付随研究がありました10。本体の参加者のうち 983人が MRI か PET を1回以上受けています。測られたのは、全脳のアミロイドβ蓄積、嗅内野のタウ蓄積海馬体積などです。

結果は明快でした。画像の縦断的な変化に、群間の差はありませんでした。アミロイドβの状態やその蓄積によって効果が変わることもありませんでした10。著者の結論は「高強度の多因子生活習慣介入は脳のバイオマーカーの軌跡に影響を与えなかった」です。

ただし、ひとつ興味深い所見があります。もともと海馬の体積が小さかった人では、構造化群の恩恵が大きい傾向がありました(0.077 標準偏差、95%信頼区間 0.022〜0.132、交互作用 P=.03)。海馬の体積が大きい人ではほぼ差がありません(0.002、−0.037〜0.041)10

この章から言えることははっきりしています。「生活習慣を変えればアミロイドが減る」「脳が若返る」という言い方は、この試験が直接否定しています。

10. それでも言えること——4つ

ここまで読んで、「では何をやっても意味がないのか」と感じた方がいるかもしれません。そうではありません。一次資料が支持する範囲で、言えることは4つあります。

① 「多いほど良い」ではない——まず、運動と、頭を使うこと

109試験のネットワークメタ解析で最も強かったのは、運動+認知トレーニングという2つの組み合わせ(標準化平均差 0.26)でした8。4つ束ねたもの(0.14)より大きい。全部やらないと意味がない、ということではありません。

② 続けられる形にすることが、内容を増やすことより効いている可能性がある

J-MINT で、運動教室に70%以上出席した人たちは、対照群より 0.080(95%信頼区間 0.001〜0.159、p=0.047)、出席の少なかった介入群より 0.233(0.079〜0.388、p=0.003)点数が良いという結果でした2ただしこれはサブ解析です。よく通える人はもともと元気だ、という交絡は残ります。「通えば効く」と証明されたわけではありません。

③ 自己流でも、点数は動いていた

U.S. POINTER では、伴走つきの構造化群だけでなく、自己流の群でも2年間で点数は上がっていました(年あたり 0.213 標準偏差)3。伴走がつくと、そこにさらに 0.029 が乗る、という構図です。

④ 血圧・血糖・コレステロールを「放置している人」ほど、恩恵が大きかった

J-MINT の追加解析で、未治療または管理不良の血管危険因子(血圧・HbA1c・HDL/非HDLコレステロール)を持つ298人では、認知面の恩恵が有意でした(Zスコア差 0.11、95%信頼区間 0.02〜0.20)。危険因子のない人では認められず、交互作用は有意でした(p=0.032)9これもサブグループ解析であり、J-MINT の主要評価項目は陰性のままです。それでも、preDIVA の著者が言った「対象を絞るべきだ」という指摘に対する、日本からのひとつの答えではあります。

付け加えると、遺伝的にリスクが高い人が恩恵を受けられない、という結果ではありませんでした。FINGER の探索的解析で、アルツハイマー病の遺伝リスクスコアが中央値より高い群での介入と対照の差は 0.032(95%信頼区間 0.002〜0.063)でした11。ただし遺伝リスクスコアと介入効果の関連は、全体としては有意ではありません(P>0.46)。あくまで探索的な所見で、著者自身が検証の必要を書いています。

11. では、何から始めるか

生活上の気になることを整理し、血圧、血糖、コレステロールの管理を含めて主治医と相談しながら続けられる一歩を選ぶ場面を示す図
量や回数を一律に決めず、持病や生活背景に合わせて医療者と相談し、続けられる一歩を選びます。(クリックで拡大)

ここまでの内容から、安全に言えることだけを書きます。「週に何回、何分」という処方はしません。それは一人ひとり違いますし、この記事が根拠にした試験は、あなたに合う量を決めるための研究ではないからです。

  1. 体を動かす習慣と、頭を使う習慣を、続けられる形で。数を増やすことより、続くことを優先してよさそうです(①②)
  2. 血圧・血糖・コレステロールを、放置したままにしない。数値を指摘されているのに何もしていないなら、そこはかかりつけの先生に相談してください(④)
  3. 痛くなったら休む。種目を変える。相談する。FINGER では介入群の有害事象が 7%(対照群 1%)で、最も多かったのは筋骨格系の痛みでした1。SMARRT という別の試験でも、治療に関連した有害事象は介入群 14人に対して対照群 0人です4運動を増やせば、体は痛くなります。無理をして続かなくなるのが、いちばん惜しい

「その人の危険因子に合わせて手を打つ」という設計そのものを検証した試験もあります。米国の SMARRT 試験は、70〜89歳であらかじめ決めた8つの危険因子のうち2つ以上を持つ172人を対象に、健康コーチと看護師が伴走しながら個別の目標を立てる2年間の介入を行いました4。認知合成スコアの平均治療効果は 0.14 標準偏差(95%信頼区間 0.03〜0.25、P=.02)、危険因子の合成スコアも改善(0.11、0.01〜0.20、P=.03)。ただし著者はこれを「modest(ささやかな)改善」と表現しており、規模も172人と小さいものです。

医療者の方向けには、Lancet 2024 の14因子を外来指導の形に翻訳した認知症予防の生活指導テンプレートを別に用意しています。

診察室でそのまま渡せる患者・家族向けハンドアウト(A4・1枚)を用意しました → まとめて取り組む、を考えるとき(A4・1枚)

12. 通えない人にどう届けるか(社会実装のいま)

ここまで出てきた介入は、どれも「通う」ことを前提にしています。週1回90分の教室に78回。現実には、通えない人のほうが多いかもしれません。

その課題に取り組んだのが HATICE 試験です13。オランダ・フィンランド・フランスで、65歳以上・心血管リスクの高い在宅高齢者 2,724人を対象に、コーチが伴走する双方向のインターネット介入を検証しました。18か月後、収縮期血圧・LDLコレステロール・BMI を合成した指標が、対照群より良好でした(平均差 −0.05、95%信頼区間 −0.08〜−0.01、p=0.008)。

ただし、この試験の主要な評価項目は認知機能ではありません。測られたのは血圧・LDL・BMI です13。著者の表現も「心血管リスクプロファイルのささやかな改善」です。「ネットで認知症が防げる」という話ではありません。

この分野の全体像をまとめた総説によれば、World-Wide FINGERS ネットワークが2017年に発足し、地域・文化・経済の違いに合わせて FINGER の設計を各国で翻案・最適化する動きが進んでいます12。今後の課題は社会実装——誰を対象にするか、どうやって届けるか、どこまで広げられるか、費用に見合うか。総説の著者は、将来、認知症が心血管疾患と同じように早期発見・早期介入で扱われるようになることを展望として書いています。

各国で進行中の試験の結果は、これからです

13. よくある質問

Q1. 健診でいくつも引っかかりました。まとめて何とかできませんか?
A. 「まとめて手を打つ」という方向自体は、世界中で検証されてきた考え方です。ただし現時点で確かめられているのは、認知機能テストの点数が少し良くなる、というところまでです(3章)。しかも J-MINT の追加解析では、血圧・血糖・コレステロールを未治療または管理不良のまま放置している人ほど、束ねて取り組む恩恵が大きいという結果でした(10章)。指摘された数値をそのままにしているなら、そこから相談してみてください。

Q2. フィンランドの研究で効いたと聞きましたが、本当ですか?
A. 本当です。ただし、測られたのは認知機能テストの点数で、認知症になったかどうかではありません。FINGER 試験では年あたりの群間差が 0.022(95%信頼区間 0.002〜0.042、p=0.030)で有意でした(3章)。ただし効果量は小さく、のちに日本の研究者が「小さな効果量(Cohen's d = 0.127)」と記述しています。著者自身の結論も「改善または維持できる可能性がある」という控えめな言い方です。

Q3. 全部やらないとダメですか?
A. いいえ。109試験・23,010人をまとめたネットワークメタ解析では、最も効いたのは「運動+認知トレーニング」という2つの組み合わせで、4つ束ねたものより大きい値でした(7章)。著者は「ドメインの数が増えることが、自動的により大きな恩恵につながるわけではない」と結論しています。全部を完璧にやろうとして続かなくなるより、続く形を選ぶほうが理にかないます。

Q4. 認知症の発症を減らせていないなら、やっても意味がないのでは?
A. そうは言えません。確かに、認知症の発症を主要な評価項目にした試験では、いまのところ差が出ていません(8章)。ただし、それは「無効だと証明された」ということではなく、「まだ確かめられていない」ということです。そして J-MINT では、認知機能テストの点数は動かなかった一方で、食の多様性・参加している集まりの数・難聴による生活のしづらさ・BMI・除脂肪量・収縮期血圧が有意に改善しています5章)。認知症の予防という一点だけで測ると見落としますが、18か月通った人たちの生活は、確かに良い方向に変わっていました。

まとめ

この記事の冒頭で、確かめることを3つ挙げました。3つとも回収します。

1. 束ねて手を打つ発想は世界中で試され、FINGER が最初に成功した。ただし効き目は小さい

1,260人・2年で、年あたりの群間差 0.022(95%信頼区間 0.002〜0.042、p=0.030)1。ただし測ったのは認知機能テストの点数で、効果量は小さい(Cohen's d = 0.127)2。有害事象は介入群 7% 対 対照群 1%、最多は筋骨格系の痛みでした1

2. 日本の J-MINT は主要評価項目で差がつかず、認知症の発症を減らせた試験もいまのところ無い

J-MINT は群間差 0.047(95%信頼区間 −0.029〜0.124)で、著者自身が「有効性を示さなかった」と書いています2。認知症の発症を数えた preDIVA はハザード比 0.92(0.71〜1.19)5、MAPT も3群とも有意差なし6、両者を統合した 5,205人・最長12年の解析でも全体でもどのサブグループでも差はありませんでした7。脳のアミロイド・タウ・海馬体積も動きませんでした10

3. それでも言えることは残っている

①「多いほど良い」ではない——最も強かったのは運動+認知トレーニングの2つ(標準化平均差 0.26)8②続けられる形にすること——J-MINT で出席率70%以上の人は対照群より 0.080 良かった(⚠️サブ解析)2③自己流でも点数は動いた——U.S. POINTER の自己流群も年あたり 0.213 標準偏差の上昇3④放置している数値がある人ほど恩恵が大きい——未治療・管理不良の血管危険因子がある人で Zスコア差 0.11(交互作用 p=0.032、⚠️サブグループ解析)9

「まとめて取り組むことで、認知症を防げると証明されたわけではない。だが、やる価値がないという意味でもない」——それが2026年時点の正確な位置です。「未証明」と「無効」は、違います。数を増やすことより、続く形を選ぶこと。そして、指摘されたまま放置している数値があるなら、そこから相談すること。この記事から持ち帰っていただきたいのは、その2つです。

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参考文献

  1. Ngandu T, Lehtisalo J, Solomon A, et al. A 2 year multidomain intervention of diet, exercise, cognitive training, and vascular risk monitoring versus control to prevent cognitive decline in at-risk elderly people (FINGER): a randomised controlled trial. Lancet. 2015;385(9984):2255-63. doi:10.1016/S0140-6736(15)60461-5(PMID: 25771249)
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※ 本記事は一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。本記事は、運動や食事の具体的な量・回数を指示するものではありません。持病がある方、関節や心臓に不安のある方が運動量を増やすときは、必ず主治医にご相談ください。また、本記事はいま飲んでいる薬をやめたり減らしたりする根拠にはなりません。血圧・血糖・コレステロールの治療方針は、主治医が一人ひとりについて判断するものです。物忘れが気になるとき、生活習慣の指摘を受けたときは、自己判断せず医療機関にご相談ください。