認知症と脳梗塞|予防できる危険因子はどこまで重なる? PAFで比べるLancet Commissionと日本のJPHC研究

認知症の予防でよく引用されるLancet Commissionの「修正可能な14因子で45%」という推計。では、脳梗塞にも似た形で危険因子の大きさを示すデータはあるのでしょうか。日本の前向きコホート研究では、解析対象とした修正可能因子を合わせたPAFは脳梗塞で44.5%と推定されました。ただし、両方の数字を同じ意味の「予防できる割合」として比べることはできません。この記事では、数字の読み方と、両者に共通する予防の入口を整理します。

先に結論
認知症の45%(世界の14因子)と脳梗塞の44.5%(日本のJPHC研究で解析した複数因子)は、対象集団・因子・推定方法が異なるため単純な優劣比較ではありません。それでも、血圧、喫煙、糖代謝、体重・脂質、不整脈の確認は、脳と血管の両方を守る重要な入口です。

PAFとは何を表す数値か

PAF(population attributable fraction:集団寄与割合)は、ある集団で危険因子と病気の関連をモデル化したとき、その因子に統計学的に帰属しうる発症の割合を推定する指標です。仮にその因子が基準の状態まで減ったとする反実仮想に基づくため、個人について「この割合だけ必ず発症を防げる」と示す数値ではありません。

危険因子は重なり合います。高血圧、糖尿病、肥満、喫煙は同じ人に併存しうるので、因子ごとのPAFを単純に足し算することはできません。複数因子をまとめたPAFも、研究で扱った因子と集団、推定方法の範囲内で読む必要があります。

認知症45%と脳梗塞44.5%を並べる図

認知症と脳梗塞の修正可能な危険因子をPAFで比較する図。認知症はLancet Commission 2024の14因子で45%、脳梗塞はJPHC Study Cohort IIの複数因子で44.5%と示し、血圧、喫煙、糖尿病、体重・代謝異常、脂質管理を共通の標的として表示している。
図1 認知症と脳梗塞のPAF比較。認知症は世界の14修正可能因子、脳梗塞は日本のJPHC Study Cohort IIで解析された複数因子による推定です。対象因子・集団・推定法が異なるため、45%と44.5%は単純比較できません。図は利用者提供画像を、本文の文献と照合して掲載しています。

認知症:世界の14修正可能因子で約45%

Lancet Commission 2024は、教育、難聴、高LDLコレステロール、うつ、頭部外傷、運動不足、糖尿病、喫煙、高血圧、肥満、過量飲酒、社会的孤立、大気汚染、未治療の視力障害という14因子を取り上げ、全体で約45%の認知症がこれらの修正可能因子と関連すると推定しました。これは世界の研究知見を統合した集団レベルの推計であり、各因子への介入で同じ割合だけ認知症を確実に減らせることを意味するものではありません。1

脳梗塞:日本のJPHC研究で44.5%

YatsuyaらのJPHC Study Cohort IIは、心血管疾患・がんの既往がない日本の一般住民を追跡した前向き研究です。初期対象14,797人のうち、最終解析は14,658人で、1993年から2012年まで追跡されました。脳梗塞は572例でした。2

この研究で、脳梗塞に対する複数の修正可能因子を合わせたPAFは44.5%でした。個別には、高血圧24.5%、現在喫煙8.8%、BMI 25以上6.8%、糖尿病6.7%、不整脈既往4.3%などが推定されています。ここでの「不整脈」は自己申告の不整脈既往であり、心房細動を心電図で確定した値ではありません。2

JPHC研究での因子脳梗塞のPAF
高血圧24.5%
現在喫煙8.8%
BMI 25以上6.8%
糖尿病6.7%
不整脈既往(自己申告)4.3%

病型別に複数因子を合わせたPAFを見ると、ラクナ梗塞34.6%、塞栓性脳梗塞41.8%、大血管閉塞性脳梗塞61.5%でした。病型で関与する因子の組み合わせが異なることは、脳梗塞を一つの病気として単純化しすぎない大切さを示しています。2

二つの数字を比べるときの3つの注意

  1. 対象が異なります。認知症の推計は世界の複数研究を統合したもの、脳梗塞の推計は日本の一コホートです。
  2. 含めた因子が異なります。認知症では教育、難聴、社会的孤立、視力なども含みます。JPHC研究では血圧・代謝・喫煙・脂質・尿蛋白・不整脈既往などを解析しています。
  3. PAFは治療効果そのものではありません。観察研究での関連と頻度から求めた集団推計であり、個別の予防効果や治療計画は別に判断します。

共通して優先したいのは「一度に一つ」ではなく、重なりを見つけること

図から実践的に受け取れるのは、認知症と脳梗塞の両方で、血圧、喫煙、糖代謝、体重・脂質の管理が重要な入り口だという点です。健診で一つの異常だけを見るのではなく、複数の危険因子が重なっていないかを確認し、続けられる方法を主治医と選ぶことが現実的です。

動悸、脈の乱れ、片側の手足や顔の突然のしびれ・脱力、言葉の出にくさなどがある場合は、「予防」の記事だけで判断せず、早めに医療機関へ相談してください。突然の神経症状は救急対応が必要なことがあります。

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よくある質問

PAFが44.5%なら、脳梗塞の44.5%を必ず防げますか?

いいえ。PAFはその研究集団・因子・統計モデルにおける集団寄与の推計です。個人に起きる脳梗塞をその割合だけ確実に防げるという意味ではありません。

高血圧だけを治せば十分ですか?

高血圧はJPHC研究で最も大きいPAFでしたが、喫煙、糖尿病、体重、脂質、不整脈なども重なります。治療内容や目標は、既往症や薬、年齢などを踏まえて個別に決めます。

不整脈の4.3%は心房細動の割合ですか?

この研究では自己申告の不整脈既往を用いており、心房細動だけを確定診断した値ではありません。脈の乱れや動悸がある場合は、心電図などで評価できる医療機関へ相談してください。

参考文献

  1. Livingston G, Huntley J, Liu KY, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404(10452):572-628. doi: 10.1016/S0140-6736(24)01296-0. PMID: 39096926.
  2. Yatsuya H, Yamagishi K, Li Y, et al. Risk and Population Attributable Fraction of Stroke Subtypes in Japan. J Epidemiol. 2024;34(5):211-217. doi: 10.2188/jea.JE20220364. PMID: 37460296.

この記事は一般的な医学情報です。個別の診断・治療・薬の変更を目的とするものではありません。症状や治療については主治医・医療機関へ相談してください。