かかりつけ医のためのBPSD対応向精神薬使用ガイドライン第3版ポイント解説

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BPSD対応向精神薬使用ガイドライン第3版 クイズ | Claude | Claude

 

作者コメント:新しいガイドラインが6月に出ていたようなので、勉強がてら知識をまとめてみました。今まで、経験でやっていたことが言語化された印象です。

 

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📋 記事のポイント
認知症の周辺症状(BPSD: Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)に対応する薬物療法のガイドライン第3版が公開されました。本記事では、認知症専門ではない医師にも分かりやすいように、このガイドラインの背景・目的から治療アルゴリズム、薬剤の特徴、副作用の注意点、改訂内容までを包括的に解説します。

ガイドライン作成の背景と目的

ガイドライン第3版は認知症の行動・心理症状(BPSD)に対する適切な薬物療法を支援する目的で作成されました。BPSDは認知症患者の60~90%に出現するとされ、その悪化は患者の尊厳の低下、介護負担や経済的負担の増大、施設入所の早期化、患者・介護者のQOL低下など深刻な影響を及ぼします。
📋 BPSD対応の基本方針
BPSD対応には多職種・多機関の連携が必要で、かかりつけ医や「認知症サポート医」の役割も大きいとされています。ガイドラインではまず非薬物療法が第一選択と強調されています。しかしそれでも症状が改善せずやむを得ず薬物治療を行う場合には、地域の認知症疾患医療センター等の専門医と連携して行うことが望ましいとされています。
第2版ガイドライン(2015年版)は多くの医師に利用されてきましたが、アンケート調査では「認知症の原因や診断別の対処法」に関する情報が求められていたことから、第3版では各認知症タイプに応じた対応も充実させています。 また、近年新たな向精神薬が上市されエビデンスが蓄積するとともに、既存薬の評価も変化している背景があり、例えばアルツハイマー型認知症に伴う易刺激性・興奮に対してブレクスピプラゾール(商品名レキサルティ)が新たに保険適用となりました。こうした最新の知見や専門家の経験(エキスパートコンセンサス)を反映し、現時点で最適と考えられる指針が本ガイドライン第3版です。

BPSD対応の基本原則と治療アルゴリズム

ガイドラインでは、BPSDに対処する基本的な考え方と治療の流れ(アルゴリズム)が示されています。ポイントをまとめると以下の通りです。

原因の精査と鑑別診断

まず原因を探る・鑑別する: 症状悪化の誘因や環境要因を調べ、家族や介護スタッフとともに環境調整やケア方法の見直しを行います。
身体的・神経学的要因の除外項目
  • 身体的要因: 発熱・感染症、脱水、疼痛、便秘など
  • 内科的異常: 甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏、低酸素など
  • 神経学的疾患: 脳卒中、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫など
  • 感覚器障害: 視覚・聴覚障害の影響
  • 従来からの精神疾患: うつ病など
  • 薬剤性要因: 抗コリン作用のある薬剤やベンゾジアゼピン系の影響
⚠️ レビー小体型認知症の見落としに注意
認知機能の変動やパーキンソン症状、幻視(幻覚)などがある場合はレビー小体型認知症(DLB)の可能性を検討します。DLBでは抗精神病薬に対する過敏性が高く副作用が出やすいため、安易な抗精神病薬の使用は避けるべきです。

治療アプローチの段階的進行

  • 非薬物的介入が第一選択: 環境調整やケア方法の工夫、心理的アプローチ、デイケアやリハビリの活用など、薬に頼らない介入をまず家族・介護者と協力して実施します。それでも症状が改善しない場合に初めて向精神薬の使用を検討します。
  • 専門医と連携しつつ慎重に薬物開始: 薬物療法を開始する際は、できれば認知症専門医がいる医療機関と連携しながら行うのが望ましいとされています。治療に入る前に、患者本人・家族に薬物療法のメリットとデメリットを説明し、十分な同意を得ます。患者の意思を確認できる場合は尊重し、難しい場合でも家族と話し合って本人の推定意思と最善の利益に沿うよう方針を決定するという共同意思決定(SDM: Shared Decision Making)のプロセスが推奨されています。
  • 処方の基本は「低量から開始・慎重な漸増」: どの薬剤でも添付文書上の最小用量から開始し、症状の様子を見ながら少しずつ増量します。高齢患者では体重や肝腎機能低下も考慮し、定められた最大用量を超えないように注意します。特に抗精神病薬は統合失調症向けの標準用量より はるかに低い量から開始するのが基本です。
  • 常に減量・中止を念頭に: 薬物療法中も定期的に有効性と安全性を評価し(例:NPIという評価尺度でBPSDの程度を定量評価する等)、漫然と使い続けないようにします。症状が落ち着いてきたら減量や中止が可能か常に検討し、長期連用は避けます。効果がなかったり、副作用が出現した場合は積極的に減量・休薬を試みましょう。

症状カテゴリー別の治療アルゴリズム

易刺激性・焦燥性の興奮(怒りっぽさ・落ち着きのなさが強い場合)
まず原因薬の有無をチェックします。とくにコリンエステラーゼ阻害薬(抗認知症薬)の副作用で怒りっぽさや興奮が出ていないか確認します。その上で必要ならメマンチン(抗認知症薬)の追加や、抑肝散(漢方薬)の使用を検討します。それでも難しければ抗精神病薬の使用を検討しますが、副作用に十分留意し、保険適用範囲内で慎重に使います。特にアルツハイマー型認知症の著しい興奮や攻撃的言動に対しては、プレクスピプラゾールが近年保険適用となっており有力な選択肢です。一方、興奮を伴わない徘徊行動については有効な薬物エビデンスが不十分なため、薬は使わず非薬物介入を継続することが推奨されています。
不安・抑うつ症状
不安感や抑うつが前景にある場合、まず上記の興奮症状(易刺激性・焦燥)を伴うか否かで対応が異なります。興奮を伴う場合は前述の興奮に準じて対応しつつ、不安や抑うつへの対処を行います。興奮がなければ、抗うつ薬(SSRIやSNRI、ミルタザピン等)の使用を検討します。またタンドスピロン(抗不安薬で非ベンゾジアゼピン系)や抑肝散、軽度の症状であれば少量のクエチアピン(抗精神病薬)といった選択肢も考慮されます。抗うつ薬は効果発現に数週間を要するため経過を丁寧に観察し、副作用にも注意します。
アパシー(意欲低下)
薬物療法より生活リズムの調整や刺激を増やす非薬物的アプローチが基本です。薬剤では根本的な改善は難しいものの、場合によってはコリンエステラーゼ阻害薬(抗認知症薬)が意欲面に効果を示すことがあります。ただし明確な適応があるわけではないため、あくまで様子を見ながらの試みになります。
睡眠障害
夜間不眠や昼夜逆転がある場合、まず睡眠衛生の指導(昼間の活動量確保、規則正しい生活リズム、就寝環境の工夫など)や生活リズムの環境調整を行います。それでも不眠が続く場合に薬物を検討しますが、オレキシン受容体拮抗薬(例:スボレキサント、レンボレキサント)やメラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)、また睡眠補助として抗うつ薬のトラゾドンなどが候補となります。ベンゾジアゼピン系の睡眠薬や抗不安薬は認知症には基本的に非推奨です。
幻覚・妄想
認知症では幻視や被害妄想などが現れることがあります。本人や他者に危害が及ぶリスクが高く緊急性が高い場合は、やむを得ず抗精神病薬の投与を検討します。しかしそれ以外の場合、また副作用リスクの観点からはまずメマンチン(抗認知症薬)や抑肝散の投与を試みることが推奨されています。これらで症状が十分改善せず危険が大きい場合に限り、抗精神病薬を用いるという順番です。特にレビー小体型認知症(DLB)に伴う幻視には、患者が抗精神病薬に過敏なことも踏まえまずコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル等)の使用を試みることが望ましいとされています。
📋 アルゴリズムの基本原則
まとめると、「非薬物療法を最優先し、原因を除外してから、必要最小限の薬物を慎重に使う」という大原則に沿った流れになっています。

向精神薬の種類ごとの特徴と使用ポイント

抗認知症薬(コリンエステラーゼ阻害薬・メマンチン)

抗認知症薬は本来、アルツハイマー型認知症などの中核症状(記憶障害など)の進行抑制を目的とする薬剤ですが、BPSDに影響を及ぼすこともあります。アルツハイマー型認知症ではコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)およびメマンチンが認知機能改善の標準治療です。またレビー小体型認知症(DLB)にはドネペジルの適用があります。

BPSDに対する効果

コリンエステラーゼ阻害薬は研究により抑うつ、アパシー、不安、幻覚、妄想、興奮、易刺激性などに有効だったとの報告がありますが、結果にはばらつきがあり症例ごとに評価が必要です。特に興奮や易刺激性に関しては、むしろ薬剤がこれらの症状を誘発・悪化させることもしばしばあり注意が必要です。 一方、メマンチン(NMDA受容体拮抗薬)は興奮、易刺激性、異常行動、妄想などに一定の有効性を示すことがあり、アルツハイマー型認知症のBPSD改善目的で使用を検討してよいとされています。 DLBではドネペジルが幻視や認知機能のゆらぎに有効であったとの国内臨床試験報告があり(幻覚・妄想、抑うつなどのスコア改善)、特に幻視症状に対する有効性については比較的高いエビデンスが示されています。そのため、DLBの幻視には抗精神病薬に頼る前にコリンエステラーゼ阻害薬を試すことが推奨されています。
⚠️ 注意点
全般的に抗認知症薬でBPSDが劇的に良くなるケースは多くないため、過度な期待は禁物です。逆に症状が悪化した場合には減量・中止も検討します。

副作用と注意点

コリンエステラーゼ阻害薬の副作用
副交感神経刺激作用があるため、副作用として以下に注意が必要です:
  • 循環器系: 徐脈や房室ブロックなどの心伝導障害、失神
  • 消化器系: 胃潰瘍悪化、嘔気・嘔吐、食欲不振、下痢
  • 神経系: 痙攣誘発、錐体外路症状の悪化、めまい
  • 皮膚: リバスチグミンの貼付剤では皮膚炎や発赤
メマンチンの副作用と薬物相互作用
メマンチンの副作用:
  • 一般的副作用: めまい、転倒、頭痛、便秘、食欲低下
  • 精神症状: まれに精神症状の悪化(攻撃性や妄想の増悪)
  • 腎機能: 重度の腎機能低下では減量(クレアチニンクリアランス30未満では1日10mgまで)
薬物相互作用:
  • コリンエステラーゼ阻害薬と抗コリン作用の強い薬剤(抗ヒスタミン薬、三環系抗うつ薬など)との併用は効果が打ち消し合う
  • メマンチンはドパミン作動薬の作用増強や、抗パーキンソン病薬アマンタジンとの相互作用に注意

投与上のポイント

抗認知症薬はいずれも少量から開始し、数週間かけて定められた常用量まで漸増します。副作用で増量が困難な場合は無理せず中間量で維持するか、別の薬剤への変更を検討します。高齢で体重が低い患者、肝腎機能が低下している患者では減量が必要な場合があります。 抗認知症薬を開始した結果、かえって活動性が増して介護負担が増大したような場合には減量・中止や他剤への切替えを検討します。効果・副作用バランスを見ながら、定期的に薬の継続是非を評価する姿勢が重要です。

抗精神病薬(非定型抗精神病薬・定型抗精神病薬)

抗精神病薬(抗精神失調薬)はBPSDの中でも特に攻撃的行動や高度の興奮状態、幻覚妄想による危険な行動が見られる場合に検討される薬剤です。他の手段で安全確保が難しい場合の最後の手段と言えます。

使用の前提と同意

BPSDに対して抗精神病薬を使う際には、薬剤使用の一般的な利益・不利益(メリット・リスク)を事前に家族や介護チームと共有し、患者本人の意向も可能な限り把握した上で、共同意思決定(SDM)により慎重に「使うか否か」を決める努力をします。使用後も定期的に有効性を評価し、常に減量・中止のタイミングを探り、長期投与は避ける姿勢が求められます。

適応と薬剤選択

📋 保険適用の現状
現在、日本で保険適用となっているのはブレクスピプラゾールのみです(対象:アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感・易刺激性・興奮が原因の攻撃的行動)。したがって、アルツハイマー型認知症でこれらの症状が顕著な患者ではまずブレクスピプラゾールを検討します。
他の抗精神病薬(リスペリドン、ペロスピロン、クエチアピン、ハロペリドール等)については、アルツハイマー型以外の認知症やブレクスピプラゾール無効時に例外的に使用を考慮します。日本では2011年の通知で、リスペリドン、ペロスピロン、クエチアピン、ハロペリドールは「器質性疾患に伴うせん妄・精神運動興奮・易怒性」に使用した場合はレセプト審査上認めるとの取り扱いがあります(いわゆる審査上の特例)。
⚠️ ハロペリドールの禁忌
ハロペリドールは錐体外路症状の副作用が強く、パーキンソン病やDLBには禁忌ですので注意してください。
またチアプリドという薬は脳梗塞後遺症による興奮・徘徊・せん妄に適応があるため、血管性認知症で興奮が強い場合に使用を考慮してもよいです。

症状に応じた使い分け

認知症タイプ・症状 推奨薬剤 注意点
アルツハイマー型認知症
強い攻撃性を伴う興奮
プレクスピプラゾール(第一選択) 保険適用あり
睡眠障害が主たる問題 少量のクエチアピン 睡眠薬が無効時に考慮
レビー小体型認知症(DLB) クエチアピン パーキンソン症状への悪影響が少ない
興奮を伴わない「徘徊」のみ 使用推奨されない 有効性乏しく副作用リスク高

副作用とリスク

🚨 重大な副作用リスク
抗精神病薬の使用は高齢認知症患者において死亡リスクの上昇(脳卒中や肺炎など)や転倒・骨折リスクの増大と関連することが知られています。
重大な副作用一覧
  • 悪性症候群(高熱・筋強剛を伴う緊急状態)
  • 遅発性ジスキネジア(長期使用後の不随意運動)
  • 麻痺性イレウス
  • SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)
  • 肝機能障害
  • 横紋筋融解症
  • 不整脈
  • 糖尿病性昏睡やケトアシドーシス
  • けいれん
  • 無顆粒球症
  • 肺塞栓・深部静脈血栓
比較的よく見られる副作用:
  • 眠気、ふらつき、過度の鎮静
  • 認知機能の低下
  • パーキンソン症状(寡動・振戦など)
  • 歩行障害、起立性低血圧
  • 嚥下障害による誤嚥性肺炎
  • 食欲低下

使用上の留意点

抗精神病薬を使う場合は、まず症状と診断を見極め、可能な限り保険適用のある薬剤を優先し、それで不十分な場合に副作用の少ない非定型抗精神病薬(セロトニン・ドパミン拮抗薬や多元受容体標的薬)を検討するという順序が推奨されています。
  • 複数の抗精神病薬を併用することは避けます(効果よりも副作用リスクが高まります)
  • 投与後はおおむね2週間程度で効果判定を行い、症状をゼロにすることよりQOLの確保を重視
  • 非薬物療法と並行しながら必要最小限の維持量を検討
  • 症状が落ち着いたら4か月以内を目安に減薬・中止を試みる
  • 副作用が出現した場合は速やかに減量・中止を検討
  • 悪性症候群など重篤なものが出たときはただちに中止
⚠️ 禁忌
アドレナリン投与中の患者には抗精神病薬は禁忌(血圧変動の危険があるため)という点も覚えておきましょう。

抗うつ薬(SSRI・SNRI・四環系など)

認知症患者のBPSDの中には抑うつ症状不安症状が含まれることが多く、そうした症状に対して抗うつ薬の使用が検討されます。ただし、認知症患者の「うつ」に対する抗うつ薬全般の有効性は必ずしも確立されていないのが現状です。

適応と効果

抗うつ薬は基本的に大うつ病やうつ状態に対して保険適用がありますが、認知症の抑うつにも症状が重ければ適用範囲内で使用を検討します。推奨されるのはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、そしてNaSSA(ミルタザピン)などの新しいタイプの抗うつ薬です。
薬剤分類 代表薬剤 開始目安量
SSRI フルボキサミン
パロキセチン
セルトラリン
エスシタロプラム
25mg
10mg
25mg
5mg
SNRI ミルナシプラン
デュロキセチン
25mg
20mg
NaSSA ミルタザピン 7.5mg
古い三環系抗うつ薬は抗コリン作用による認知機能悪化など副作用が問題となるため原則使用しません
📋 特定の適応でのエビデンス
  • 前頭側頭型認知症(FTD)の脱抑制症状にSSRIが有効だったとの報告
  • 認知症の睡眠障害に低用量トラゾドン(四環系抗うつ薬)が有効だった報告
抑うつそのものへの効果は個人差が大きいため、導入後は定期的に気分評価を行い、有効かどうか見極めます。

副作用と注意点

抗うつ薬全般の副作用
共通する副作用:
  • けいれん発作閾値の低下(発作が起きやすくなる)
  • 緑内障の悪化
  • 心疾患の悪化
  • SIADHによる低ナトリウム血症
高齢者で特に注意すべき副作用:
  • 低ナトリウム血症
  • 出血傾向
  • 転倒リスク
  • 消化管出血や脳出血のリスク
薬剤別の特徴的副作用
SSRI:
  • 比較的よく胃腸症状(吐き気・下痢など)が初期に見られる
  • 食後投与や徐々に増量することで軽減可能
  • NSAIDsや抗血小板薬と併用すると出血リスクがさらに増加
SNRI:
  • 排尿障害(前立腺肥大の悪化)に注意
  • 尿閉傾向のある男性では慎重投与または避ける
ミルタザピン(NaSSA):
  • 比較的鎮静作用と食欲増進が強い
  • 夜間の不眠や食欲不振がある高齢者には好都合な場合もある
  • 過度な鎮静や体重増加に留意

使用上のポイント

抗うつ薬も他の薬と同様に低用量から開始し、副作用に注意しながら必要に応じて常用量まで漸増します。効果判定まで少なくとも数週間はかかるため、焦らず十分な期間投与してみることも大切です。ただし効果が乏しければ漫然と続けず別の薬剤への切替えを検討します。
⚠️ 相互作用の注意
併存疾患の薬との相互作用にも注意が必要です。特にMAO阻害薬との併用禁忌や、SSRIではラメルテオン(睡眠薬)との併用禁忌(フルボキサミンの場合)など添付文書を確認しましょう。ベンラファキシンやデュロキセチンなどSNRIは高度の肝・腎障害では禁忌です。
高齢者は代謝が遅く副作用も出やすいため、若年者に比べ慎重な量調整が必要です。また定期的に血清ナトリウムや症状の変化をモニタリングし、不要になれば減量・中止を検討します。

睡眠薬(不眠症治療薬)

認知症患者の睡眠障害(不眠や昼夜逆転)はBPSDの中でも一般的な症状です。睡眠リズムが乱れると介護者の負担も増すため、適切な対応が求められます。ガイドライン第3版では、睡眠薬の使用は慎重にとの立場から、まず非薬物療法と新規薬剤の活用を推奨しています。

治療の基本アプローチ

まず生活リズムの調整: 日中の運動や明るい環境、夜間の静かな環境づくりなど睡眠衛生の指導を徹底します。それでも改善しない場合に薬物を検討します。

推奨される薬剤

📋 第一選択:オレキシン受容体拮抗薬
スボレキサントレンボレキサントといったオレキシン受容体拮抗薬は、軽度~中等度アルツハイマー型認知症の不眠に対し夜間睡眠時間の延長や中途覚醒時間の短縮効果が報告されています。認知症患者でも比較的副作用少なく使えるエビデンスがあるため、まず検討すべき薬剤とされています。
メラトニン受容体作動薬: ラメルテオン(メラトニン受容体作動薬)は体内時計に作用する睡眠薬です。認知症患者の不眠への有効性エビデンスは十分ではないものの、副作用が少ないため使用を考慮してよいとされています。
🚨 非推奨:ベンゾジアゼピン系・Z薬の安易な使用
ベンゾジアゼピン系睡眠薬および非ベンゾジアゼピン系(いわゆる「Z薬」)は、これまで認知症の不眠によく処方されてきましたが、実はランダム化比較試験で有効性が証明されておらず、しかもせん妄誘発、転倒、認知機能低下、依存などリスクが多いため基本的に使用は推奨されません
薬剤分類 代表薬剤 推奨度 備考
オレキシン受容体拮抗薬 スボレキサント
レンボレキサント
第一選択 エビデンスあり、副作用少
メラトニン受容体作動薬 ラメルテオン 考慮してよい 副作用少、体内時計調整
Z薬(非ベンゾ系) ゾルピデム
ゾピクロン
エスゾピクロン
最低限使用 最低用量で、転倒に注意
ベンゾジアゼピン系 非推奨 有効性証明されず、リスク高

特殊なケース

レビー小体型認知症に合併しやすいレム睡眠行動異常症(夢を見て体を動かす)には、例外的にクロナゼパム(抗てんかん薬)を就寝前に使うことが考慮されます。これはこの症状に対して古くからの標準的対応で、必要に応じ専門医と相談して用います。

副作用と注意点

オレキシン受容体拮抗薬やラメルテオンは、認知症患者においてプラセボと比べ有害事象が増えないとの報告がありますが、それでも眠気やふらつきが起こることがあるので注意します。とくに起床時や夜間トイレ時のふらつきには注意が必要です。 Z薬は筋弛緩作用もあるためふらつきやすく、転倒・骨折リスクが高まります。家族にはベッド周囲の環境整備(照明や手すり)も合わせて指導すると良いでしょう。

使用上のポイント

睡眠薬はいずれもできるだけ少量に留め、漫然と長期連用しないことが鉄則です。症状が落ち着いたら減量や中止を検討します。
ベンゾ系薬剤からの離脱方法
もしすでにベンゾ系薬を長期使用中の場合は、高齢者への有害性を踏まえ、可能であれば慎重に漸減あるいはオレキシン拮抗薬やラメルテオンへの置換を検討します。 減薬方法:
  • 漸減法: 1~2週間おきに少しずつ減量
  • 隔日法: 長時間作用型なら隔日投与に切り替えて徐々に休薬日を増やす
  • 離脱症状対応: 症状が出たら一時少し戻して、また減らすという工夫
患者・家族には「睡眠薬は症状が落ち着けば減らす予定」であることを伝え、安心感を与えつつ計画的な減薬を図ります。
📋 最新トピック
国内では第3のオレキシン体拮抗薬としてダリドレキサントが2024年12月に発売しています。今後選択肢がさらに広がる見込みです。

漢方薬(抑肝散)

BPSD対応で近年注目されているのが漢方薬の抑肝散です。抑肝散は古くから神経症や不眠症に対する鎮静作用を目的に処方されており、認知症の周辺症状にも用いられてきました。

効果とエビデンス

抑肝散(よくかんさん)はアルツハイマー型、レビー小体型、血管性認知症など各種認知症での幻覚、妄想、興奮に有効だったとの報告があります。特に日本では、興奮や攻撃性の緩和目的で抑肝散を併用することがしばしば行われます。
⚠️ エビデンスの限界
アルツハイマー型認知症のみを対象としたメタ解析では有効性が示されなかったとの結果もあり、科学的根拠は現時点では十分とは言えません。そのため、ガイドラインでは「必要な場合に考慮してもよい」という慎重な表現になっています。とはいえ高齢者の興奮症状に対しては副作用の少なさから抗精神病薬の前に検討する価値があるとも述べられています。
つまり、「劇的な効果は期待できないが、安全性が高いので試してみてもよい」という位置づけです。

用法

抑肝散は通常1日2.5g~7.5gの範囲で用います(エキス顆粒剤の場合、分包数に換算)。エビデンスは十分ではないものの、不眠や不安を改善する目的で夕方〜就寝前に投与するなど工夫されることもあります。 体力が低下して胃腸が弱い患者には、抑肝散に陳皮と半夏を加えた「抑肝散加陳皮半夏」が用いられることもあります。こちらは胃腸症状(食欲不振や吐き気)がある場合に適するとされています。

副作用と注意点

漢方薬は総じて高齢者にも忍容性が良好とされますが、抑肝散ではまれに低カリウム血症が報告されています。甘草を含む漢方処方で低カリウム血症や浮腫、高血圧が起こりうるため、定期的に血液検査で電解質チェックを行うことが望ましいです。 そのほか大きな副作用は少ないですが、漢方薬だからといって漫然と長期投与しないようにし、症状の改善に合わせて減量・中止を検討します。西洋薬との相互作用は少ないものの、患者が他にサプリメントや市販薬を服用していないか確認することも大切です。

抗不安薬(抗不安剤・精神安定剤)

認知症患者の不安症状に対しては、先述の抗うつ薬や漢方の抑肝散のほかに、抗不安薬(トランキライザー)の使用が考えられます。ただし高齢認知症患者においてベンゾジアゼピン系の抗不安薬は副作用リスクが高く原則避けるべきとされています。

タンドスピロンの位置づけ

ガイドライン第3版では非ベンゾジアゼピン系のタンドスピロン(商品名セディール)に注目しています。 タンドスピロンはセロトニン5-HT1A受容体部分作動薬で、ベンゾジアゼピン系とは作用機序が異なる抗不安薬です。認知症患者に現れる不安や心気傾向(病気ではないかという訴え)に対して有効なことがあり、1日15~30mgでの使用を考慮してよいとされています。 作用発現が遅く(1~2週間)、ベンゾ系ほど即効性はありませんが、依存や著明な鎮静が少ないメリットがあります。開始後は眠気やめまいが出現しないか注意深く観察しつつ、効果を評価します。比較的安全な薬ですが、効果不十分な場合はSSRI等への変更も検討します。

ベンゾジアゼピン系のリスク

🚨 ベンゾジアゼピン系の副作用リスク
デパス(エチゾラム)やワイパックス(ロラゼパム)などのベンゾジアゼピン系抗不安薬は、高齢者や認知症患者では副作用が出やすく、具体的にはせん妄の誘発、過鎮静、ふらつき・運動失調、転倒、認知症の進行悪化、依存症状など多くのリスクがあります。そのため原則として認知症患者の不安には使用推奨されません
どうしても必要な場合もごく短期間に留めます。すでに長期間服用しているケースでは、患者の状態を見ながら減量・中止を検討します。

減薬の方法

ベンゾジアゼピン系薬剤の減薬方法
長くベンゾ系を服用していた患者で中止する際には離脱症状(不安・不眠の再燃、けいれんなど)に注意が必要です。 推奨される減薬方法:
  • 漸減法: 1~2週間ごとに用量を25%ずつゆっくり減らす
  • 隔日法: 長作用型の場合は一日おきにし、徐々に休薬日を増やす
離脱症状への対応: 途中で離脱症状が出た場合は、少し用量を戻して安定させ、再度ゆっくり減らすという方法も有効です。こうした工夫を凝らしながら、安全にベンゾ系薬剤から離脱できるよう支援します。

薬剤使用時のモニタリングと評価

BPSDに対する薬物療法では、開始後のモニタリングと効果評価が極めて重要です。以下のポイントを押さえておきましょう。

定量的な症状評価

投薬前の症状の程度を客観的な尺度で記録し、投薬後に比較することが望ましいです。例えばNPI(Neuropsychiatric Inventory)や簡易版のNPI-Qなどの質問票を用いると、どのようなBPSDがどの程度あるかを数値化できます。 難しければ介護者からの聞き取りで主要な症状の頻度・重症度を記録しておき、治療後に増悪か改善か判断できるようにします。

副作用のチェック

前述したように各薬剤ごとに注意すべき副作用があります。投与初期は特に注意深く観察し、毎日のバイタルサイン(脈拍や血圧)意識レベル、歩行の安定性などに変化がないか確認します。 ご家族にも服薬後の様子(眠りすぎていないか、ぼんやりしていないか、ふらつきはないか等)を観察してもらい報告いただくと良いでしょう。
📋 薬剤別モニタリングポイント
  • 抗精神病薬: 2~4週以内に効果判定、副作用(特に錐体外路症状や過鎮静)は早期から1か月以降まで幅広い時期に出る可能性
  • 抗認知症薬: 開始時は心電図確認、定期的な血液検査で肝機能・電解質をモニタ

リスク・ベネフィット評価の継続

常に「この薬をこのまま続けて患者のQOLにプラスかマイナスか」を考えます。もし薬を使ったためにかえって生活の質が下がっている(例:副作用で寝たきりがちになった、表情が乏しくなった 等)と判断される場合、減量や中止を躊躇しないでください。 BPSDそのものも時間経過やケア方法の工夫で改善・悪化しますので、症状の変化に応じて薬剤を調整していく柔軟性が大事です。

複数薬剤の影響に注意

認知症高齢者は多剤併用になりがちです。他科からの処方薬も含めて、相互作用や重複処方に注意します。例えば抗コリン作用の強い薬(頻尿治療薬、パーキンソン病薬、旧世代抗ヒスタミン薬など)があると、それだけでせん妄や認知機能低下を招きBPSDを悪化させます。 一方でコリンエステラーゼ阻害薬と抗コリン薬のように作用が打ち消し合う組み合わせもあります。定期的に薬剤リストを見直し、「減らせる薬はないか」「相互作用で問題を起こしていないか」を確認しましょう。

家族や介護者との情報共有

薬の効果や副作用については、ご家族・介護スタッフと密にコミュニケーションを取ります。日々の様子を教えてもらい、こちらからも薬の目的や注意点を説明しましょう。 特に抗精神病薬を使う場合などは、なぜこの薬が必要なのか、副作用リスクは何か、いつまで使う予定かを共有することが大切です。家族の不安も和らぎ、協力も得やすくなります。

第2版からの主な改訂ポイント

最後に、今回の第3版ガイドラインで特に重要な改訂点や新情報を整理します。第2版(2015年発行)からの変更点を押さえることで、最新ガイドラインの特徴がより明確になるでしょう。

アルゴリズムと治療方針の更新

BPSD対応アルゴリズムが見直され、非薬物療法を最優先する流れや各症状に応じた薬剤選択の優先順位が明確化されました。例えば興奮のない徘徊に薬は推奨しないことや、まずメマンチンや抑肝散を試し、それでも緊急時のみ抗精神病薬といった記載が新たに盛り込まれています。

新規薬剤の保険適用

第2版当時は存在しなかったか、保険適用外であった薬剤がガイドラインに組み込まれました。
薬剤分類 新規追加薬剤 適応・特徴
抗精神病薬 プレクスピプラゾール(レキサルティ) アルツハイマー型認知症の易刺激性・興奮に対する初の保険適用薬
睡眠薬 レンボレキサント(デエビゴ) オレキシン受容体拮抗薬(第2版当時は未発売)
抗うつ薬 ボルチオキセチン(トリンテリックス) 新規作用機序の抗うつ薬

各薬剤のエビデンスアップデート

この5~10年で蓄積した研究結果が反映されています。
主なエビデンス更新内容
  • ドネペジルのDLB幻視への有効性に関する国内外の試験結果
  • 抑肝散のメタ解析結果(アルツハイマー型への有効性は明確でない)
  • 抗うつ薬では認知症の抑うつに対する有効性は確立されていないとのエビデンス
  • FTDの脱抑制にSSRI有効不眠にトラゾドン有効など細かな知見
  • 睡眠薬に関してもスボレキサントの有効性試験や、ベンゾ系・Z系のエビデンス不足とリスクについて明確に言及

安全対策と連携の強調

第3版では患者・家族との合意形成(SDM)やACPの尊重専門医療機関との連携といった項目がより強調されています。これは、薬物治療のリスクを十分説明し同意を得るプロセスや、地域連携でサポート体制を構築する重要性が再確認されたためです。 高齢運転者の問題など社会背景もあり、ACP(事前ケア計画)の概念が広がった影響もあるでしょう。

減薬・中止の具体的指針

第2版でも「長期使用を避ける」旨は触れられていましたが、第3版では抗精神病薬で4か月以内に中止トライアルベンゾ系減薬の具体的方法など、より踏み込んだ記載がなされています。 多剤併用を避けることや定期評価の重要性も繰り返し強調され、「必要な時に必要な期間だけ使う」という原則が明文化されました。
📋 まとめ
ガイドライン第3版のポイントを網羅的に解説しました。読者の皆様が本記事を通じて、新ガイドラインのエッセンスを理解し日常診療に活かしていただければ幸いです。認知症のBPSD対応は簡単ではありませんが、基本原則に立ち返りつつ最新の知見を適切に取り入れることで、患者さん・ご家族の負担軽減につながるはずです。専門家の力も借りながら、チームで安全で効果的なBPSDマネジメントを目指していきましょう。

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