夜中に大声で叫ぶ、隣で寝ている人を殴る・蹴る、ベッドから飛び出す――それはレム睡眠行動障害(RBD)かもしれません。見ている夢をそのまま体が行動に移してしまう睡眠の病気で、特に中高年の男性に多く、後年のパーキンソン病やレビー小体型認知症の前兆(前触れ)になることがあります。「寝ながら暴れる」のは単なる寝相の悪さではなく、神経の病気の最も早いサインのことがあるのです。この記事では、神経内科専門医監修のもと、夢遊病との見分け方、今夜からできる安全対策、そして睡眠外来・脳神経内科を受診するタイミングまでをやさしく解説します。
▶ 目次
レム睡眠行動障害(RBD)は「見ている夢を、体がそのまま行動に移してしまう」睡眠の病気です。金縛り(レム睡眠中に体が動かない)の"逆"で、本来かかっているはずの「体のロック」が外れ、殴る・蹴る・叫ぶ・走るといった動きが現実に出てしまいます。中高年の男性に多く、後年のパーキンソン病やレビー小体型認知症の早い前触れになることがありますが、「必ずそうなる」わけではありません。これは怖い話ではなく、早く気づける貴重なサインです。まず寝室を安全にし、睡眠外来や脳神経内科にご相談ください。
1. その「夜中に暴れる」、寝相では片づけられないかも
夜中、隣で眠っていた夫が突然大声で叫ぶ。腕を振り回し、こちらを殴ったり蹴ったりする。あるいは、何かから逃げるようにベッドから飛び出して、家具にぶつかってケガをする――。本人は朝になると「まったく覚えていない」と言うか、あるいは「誰かに追いかけられる夢を見ていた」と話す。こうした夜が繰り返されると、同じ部屋で眠る家族のほうが先に「これはおかしい」と気づくことが少なくありません。
多くの場合、最初は「寝相が悪いだけ」「寝ぼけているだけ」と受け流されてしまいます。しかし、夢の内容をそのまま体の動きに移してしまうこうした行動は、レム睡眠行動障害(REM sleep behaviour disorder、RBD)という、れっきとした睡眠の病気のサインのことがあります。そしてこの病気は、後年のパーキンソン病やレビー小体型認知症と深く関わっていることが分かってきました。「正体が分かっているもの」だと知ることが、適切に対処する第一歩になります。
2. レム睡眠行動障害(RBD)とは ― 夢を体が行動してしまう
レム睡眠行動障害(RBD)は、レム睡眠(REM睡眠=夢を見ている睡眠の段階)のあいだに、見ている夢の内容をそのまま体の動きとして行動に移してしまう睡眠の病気です1。専門的には「夢の行動化(dream enactment)」と呼ばれます。多くは追いかけられる・襲われるといった鮮明で不快な夢に対応して、殴る・蹴る・叫ぶ・走る・ベッドから飛び出すといった動きが出ます。
レム睡眠は明け方に近い後半夜(睡眠の後半)に多く現れるため、RBDの行動も夜更けから明け方にかけて起こりやすいのが特徴です。本人はぐっすり眠っているつもりで、朝には行動を覚えていないことも多く、自覚するのはむしろ隣で眠る同床者(家族)のほうです。つまり「症状に気づいているのは本人ではなく家族」という、この病気ならではの構図があります。
3. なぜ普通は夢で動かないの? ― 「体のロック」が外れる
そもそも、私たちは毎晩のように夢を見ていますが、ふだんは夢のとおりに体が動いてしまうことはありません。それは、レム睡眠中に筋肉の力が抜ける状態(筋アトニア、きんアトニア)になっているからです。いわば、夢を見ている間だけ脳が体に「ロック」をかけ、安全装置として体を一時的にOFFにしているのです。
もしこのロックがなければ、夢の中で走ったり戦ったりする動きが、そのまま現実の体に出てしまいます。RBDでは、まさにこの「体のロック」が外れてしまう(REM sleep without atonia=レム睡眠中の筋活動の出現)ことで、夢が行動になってしまうのです1。
同じ「レム睡眠と体の動き」をめぐる現象でも、金縛り(睡眠麻痺)はレム睡眠中の体のロックが目覚めに持ち越されて「体が動かない」状態です。それに対してRBDはレム睡眠中にロックが外れて「体が動きすぎる」状態。ちょうど正反対の関係にあります。
4. 誰に多い? どれくらいいる?
RBDは、検査で確定した例(後述の睡眠ポリグラフ検査で診断されたもの)でみると、一般人口のおよそ1%弱に起こると報告されています。19の研究をまとめた解析では、検査確定のレム睡眠行動障害の有病率は約0.68%でした2。珍しすぎる病気ではなく、誰の身近にも起こりうる頻度です。
そして、はっきりした特徴が「中高年の男性に多い」ことです。国際的な多施設研究(後述)では患者の82.5%が男性、平均年齢は約66歳でした3。また、約3万人を対象にしたカナダの調査でも、質問紙でRBDが疑われる人は男性で有意に多い(女性に比べておよそ2倍)と報告されています4。「夜中に暴れる」のが中高年の男性であれば、いっそう注意が必要だということです。
5. 【最重要】パーキンソン病の"前触れ"になることがある
RBDで最も知っておいてほしいのが、この病気がパーキンソン病やレビー小体型認知症などの"最も早い前触れ"になることがあるという点です。ほかにきっかけのない特発性(とくはつせい)のRBDは、何年もたってから、これらの神経変性疾患へ移行することが分かっています1。
その移行のしやすさを、世界24施設・1,280人の特発性RBD患者を平均約5年追跡した国際研究が示しています。それによると、神経変性疾患へ移行する割合は年率およそ6%(6.3%/年)、12年追跡した時点で約7割超(73.5%)が、パーキンソン病やレビー小体型認知症などの病気を発症していました3。
この数字は決して小さくありませんが、「RBDなら必ずパーキンソン病になる」という意味ではありません。あくまで「リスクが高い」ということ、そして運動症状や物忘れが出るよりも何年も早く気づける、貴重な観察の窓でもあるということです。早く気づけたことは、むしろ前向きにとらえられます。
なぜ睡眠が先に壊れるの?
パーキンソン病やレビー小体型認知症は、脳の中にα-シヌクレイン(アルファ・シヌクレイン)という異常なたんぱく質がたまることが関わる病気のグループ(α-シヌクレイノパチー)です。この異常は、手のふるえや動きの遅さ、物忘れといった症状が出るより前に、まず睡眠を調節する脳の部分に現れることがあると考えられています1,3。だからこそ、運動や記憶の症状より何年も早く「睡眠のサイン」として表れうるのです。
6. 実は危険 ― ケガにつながる睡眠障害
「夜中に暴れるだけ」と軽く見てはいけません。RBDの行動は、実際にケガにつながります。RBDの患者を調べた研究では、回答した人のうち約半数(55%)が睡眠中の行動でケガを経験していました5。
さらに、約9人に1人(11.3%)は、医療を要する重大なケガを負っており、なかには頭の中に出血が起こる硬膜下血腫(こうまくかけっしゅ)の報告もありました5。ケガをするのは本人だけではなく、隣で眠る家族(同床者)が殴られたり蹴られたりして傷つくこともあります。
注意したいのは、こうした行動が「たまにしか起きない」場合でもケガをしうるという点です。研究では、夢の行動化が起こる頻度の多さは、ケガをするかどうかを予測しないと報告されています5。「めったに暴れないから大丈夫」ではなく、頻度が低くても早めに相談することが大切です。
7. 夢遊病との違い ― 似て非なる睡眠中の行動
睡眠中に動いたり声を出したりする現象は、RBDだけではありません。よく混同されるのが、子どもに多い夢遊病(睡眠時遊行症)や夜驚症(やきょうしょう)です。これらはノンレム(NREM)睡眠という、夢をあまり見ない深い眠りの段階から起こるもので、RBDとはタイプが異なります6。見分けるポイントを表にまとめます。
| レム睡眠行動障害(RBD) | 夢遊病・夜驚症(NREMパラソムニア) | |
|---|---|---|
| 起こる時間帯 | 後半夜(明け方に近い、レムが多い時間) | 前半夜(眠り始め、深い眠りの時間) |
| 夢の記憶 | 鮮明な夢を覚えていて、動きと一致する | 夢の記憶に乏しい・覚えていない |
| 多い年代 | 中高年(特に50歳以降)の男性 | 子ども・若年に多い |
このほか、大きないびきと一緒に呼吸が止まる睡眠時無呼吸や、睡眠中の発作である夜間てんかんとも見分けが必要です6。これらは見た目が似ていても治療法がまったく異なるため、自己判断せず、検査で正しく区別することが重要です。
8. 診断 ― 一晩の睡眠検査でわかる
RBDの確定診断には、睡眠ポリグラフ検査(PSG)が欠かせません1。これは一晩入院して、脳波・筋肉の動き・呼吸・眼球運動・心電図などを同時に記録し、さらにビデオで睡眠中の様子を撮影する検査です。「夢の行動化や複雑な動きがある」という臨床の経過に加えて、この検査で「レム睡眠中に本来抜けているはずの筋肉の力が残っている(REM睡眠中の筋活動)」ことを確認できれば、RBDと診断できます1。
逆に言えば、質問紙だけ・問診だけでは確定できません。前述のように、検査で確定したRBD(約1%弱)と、質問紙で疑われるだけの段階はきちんと区別する必要があります。だからこそ、睡眠検査ができる施設での評価が大切なのです。受診時には、家族が見た夜間の様子(できればスマホで撮った動画)があると、診断の大きな助けになります。
9. 今夜からできる安全対策と受診先
RBDで最優先で取り組むべきは、寝室の安全を確保することです。これは受診を待たずに今夜からできます。睡眠医療の診療ガイドラインでも、安全な睡眠環境の確保が最も重要だとされています7。
☐ 枕元から、投げたり振り回したりするとケガにつながる物(眼鏡・時計・刃物・固い物)を片づける
☐ ナイトスタンドなど鋭い角のある家具をベッドから遠ざける/角にパッドを当てる
☐ ベッドから転落しても大ケガをしないよう、ベッド脇に柔らかいマットやカーペットを敷く
☐ 症状が強い・コントロールできないうちは、同床者と別室で寝る(難しければ間に枕を置く)
治療と受診先
RBDは治療で多くが改善します。診療ガイドラインでは、薬としてメラトニン(即放性)やクロナゼパムなどが挙げられています7。特発性RBDの患者をクロナゼパムで治療・追跡した研究では、約3分の2(66.7%)でケガや危険な行動が消失したと報告されています8。ただし症状が完全に消えるとは限らず、薬の選択は専門医と相談して決めます。
受診先としては、まず確定診断に必要な睡眠ポリグラフ検査ができる睡眠外来(睡眠医療センター)が第一の相談先です。あわせて、前触れとしての側面(パーキンソニズム・認知機能・自律神経などの経過観察)のために脳神経内科が併走します。睡眠外来が近くにない場合は、まずかかりつけ医に相談し、睡眠外来や脳神経内科を紹介してもらう流れでもよいでしょう。
☐ 中高年(特に50歳以降)で、夢の内容を行動に移す夜(殴る・蹴る・叫ぶ・走る)が繰り返しある
☐ 睡眠中の行動で、自分または同床者がケガをした(あざ・出血・転落)
☐ 鮮明で暴力的・不快な夢を見て、その内容と動きが一致している
☐ 上に加えて、日中に動作が遅い・手のふるえ・歩きにくい・においが分かりにくい・便秘・物忘れなどが出てきた
参考文献
- Dauvilliers Y, Schenck CH, Postuma RB, et al. REM sleep behaviour disorder. Nat Rev Dis Primers. 2018;4(1):19. doi:10.1038/s41572-018-0016-5
- Cicero CE, Giuliano L, Luna J, et al. Prevalence of idiopathic REM behavior disorder: a systematic review and meta-analysis. Sleep. 2021;44(6):zsaa294. doi:10.1093/sleep/zsaa294
- Postuma RB, Iranzo A, Hu M, et al. Risk and predictors of dementia and parkinsonism in idiopathic REM sleep behaviour disorder: a multicentre study. Brain. 2019;142(3):744-759. doi:10.1093/brain/awz030
- Yao C, Fereshtehnejad SM, Keezer MR, Wolfson C, Pelletier A, Postuma RB. Risk factors for possible REM sleep behavior disorder: A CLSA population-based cohort study. Neurology. 2019;92(5):e475-e485. doi:10.1212/WNL.0000000000006849
- McCarter SJ, St Louis EK, Boswell CL, et al. Factors associated with injury in REM sleep behavior disorder. Sleep Med. 2014;15(11):1332-1338. doi:10.1016/j.sleep.2014.06.002
- Ekambaram V, Maski K. Non-Rapid Eye Movement Arousal Parasomnias in Children. Pediatr Ann. 2017;46(9):e327-e331. doi:10.3928/19382359-20170814-01
- Howell M, Avidan AY, Foldvary-Schaefer N, et al. Management of REM sleep behavior disorder: an American Academy of Sleep Medicine clinical practice guideline. J Clin Sleep Med. 2023;19(4):759-768. doi:10.5664/jcsm.10424
- Li SX, Lam SP, Zhang J, et al. A prospective, naturalistic follow-up study of treatment outcomes with clonazepam in rapid eye movement sleep behavior disorder. Sleep Med. 2016;21:114-120. doi:10.1016/j.sleep.2015.12.020
今村久司(京都大学医学部卒・京都大学医学博士・神経内科専門医指導医・総合内科専門医指導医・てんかん学会専門医指導医)
※ 本記事は教育・情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療の代替となるものではありません。気になる症状があるときは医療機関にご相談ください。
