機能性発作(Functional Seizures:旧称 心因性非てんかん性発作 PNES / 解離性発作)は、大脳皮質の過剰なてんかん性電気発射を伴わずに、心理社会的ストレスや脳内ネットワーク機能異常(サリエンスネットワーク・感覚運動ループの変調)により発作性運動・感覚・意識変容をきたす機能性神経障害(FND)の代表的病態です。国際抗てんかん連盟(ILAE)および米国神経学会(AAN)の最新コンセンサスでは、不必要な抗てんかん薬の漸減・中止と、確定診断の共感的告知、認知行動療法(CODES試験に基づくCBT)を中心とする集学的アプローチが確立しています。本稿では専門医が完全解説します。

ガイドラインの概要と背景
2025年、米国神経学会(AAN)ガイドライン小委員会は、機能性発作(functional seizures)の管理に関する初のエビデンスに基づく実践指針を発表した1。本ガイドラインは、National Academy of Medicine準拠のプロセスに従い、多職種専門家パネルがシステマティックレビューを実施し、臨床経験を統合して策定されたものである。
システマティックレビューでは、2025年2月25日までに公表された文献から12件のClass II〜III研究が同定された1。本ガイドラインは、臨床医、患者、その他のステークホルダーに対し、機能性発作管理のためのエビデンスに基づく推奨事項を提供するものである。
1. 機能性発作患者において、心理学的介入は発作頻度および煩わしさに対してどの程度有効か?
2. 心理学的介入は健康関連QOL、心理社会的機能、精神科併存症に対してどの程度有効か?
3. 薬物療法は発作頻度および煩わしさに対してどの程度有効か?
4. 薬物療法は健康関連QOL、心理社会的機能、精神科併存症に対してどの程度有効か?
機能性発作とは
機能性発作は、てんかん発作や失神に類似した一過性の意識変容または不随意運動エピソードであり、エピソード性の解離またはその他の認知・感情メカニズムによって駆動されると概念化されている2。機能性発作は従来、解離性発作、心因性非てんかん発作(PNES)、心因性非てんかん性発作、または発作を伴う転換性障害などと呼ばれてきた3。
機能性発作障害は、しばしば高い生物心理社会的複雑性を特徴とし、素因となる脆弱性、急性の誘因、持続要因が関与する123。これには併存する精神疾患や逆境的ライフイベントが含まれる。逆境的ライフイベントには、過去または現在の身体的傷害、疾病、ネグレクト、または身体的・精神的・性的虐待が含まれる212。
機能性発作は意図的な症状のシミュレーションを含まず、詐病や虚偽性障害と混同してはならない。詐病や虚偽性障害ははるかにまれである3。併存する精神疾患や逆境的ライフイベントは普遍的に存在するわけではなく、診断基準として必須ではなく、小児集団では頻度が低い可能性がある1。
機能性発作は、DSM-5-TRに分類される機能性神経症状症の一般的でしばしば機能障害を伴うサブタイプである2。心理学的治療が機能性発作の治療に有効であり3、QOLの改善と医療費の削減につながるというエビデンスが増加している1。それにもかかわらず、機能性発作患者の多くは標的を絞ったエビデンスに基づく治療を受けておらず、発作と機能障害の持続につながっている23。
エビデンスの分析
研究の概要
システマティックレビューに含まれた12件の研究の参加者特性を以下に示す。対象患者の平均年齢は15〜50歳、女性の割合は25〜97%であった。多くの研究で高い失業率(55〜82.8%)と精神科併存症(39〜87%)が報告された1。
| 研究 | 対象数 | 平均年齢 | 女性% | VEEG診断% |
|---|---|---|---|---|
| Aboukasm et al., 1998 | 100 | 43.3 | 90 | 100 |
| Goldstein et al., 2010 | 66 | 37.4 | 76 | 92 |
| Goldstein et al., 2020 | 368 | 37.5 | 72 | 53 |
| LaFrance et al., 2010 | 38 | 34.4/38 | 76.3 | 100 |
| Fobian et al., 2020 | 29 | 15.1 | 57 | 100 |
| Tolchin et al., 2019 | 55 | 39.6/40.7 | 82.7 | 100 |
心理学的介入のエビデンス
研究された心理学的介入には、機能性発作特異的認知行動療法(CBT)123、神経行動療法(NBT)1、Retraining and Control Therapy(ReACT)2、行動療法3、動機づけ面接1、集団心理教育2、身体焦点型集団療法3、およびビデオ録画された機能性発作のプロトコル化されたレビューを伴う心理療法1が含まれた。心理学的介入は通常3〜12セッションで実施された。1年を超える長期アウトカムデータは利用できない。
機能性発作特異的CBTのエビデンス
複数の研究が存在する唯一の心理学的介入である機能性発作特異的CBTに限定した解析では、以下の結果が得られた123:
| アウトカム | 効果推定値 | 95%CI | 結論 |
|---|---|---|---|
| 発作消失確率 | RR 1.76 | 1.10-2.80 | CBT支持、増加の可能性あり |
| 発作頻度変化 | SMD -0.38 | -0.81〜0.04 | エビデンス不十分 |
| 心理社会的機能(WSAS) | SMD -0.40 | -0.61〜-0.19 | CBT支持、改善の可能性あり |
| 不安 | SMD -0.19 | -0.40〜0.02 | 変化なしの可能性あり |
薬物療法のエビデンス
薬物療法に関しては、セルトラリンを評価した2件の研究13とジアゼパムを評価した1件の研究2が同定された。
セルトラリンについて:プラセボまたは日常臨床ケアと比較して、発作消失確率を変化させるかどうかを判断するにはエビデンスが不十分である。1件のClass II研究3と1件のClass III研究1に基づき、RRプール推定値は2.34であるが、95%CIは0.34-16.09と広く、精度が不十分である。
健康関連QOL、心理社会的機能、不安、うつに対するセルトラリンの効果も、いずれもエビデンス不十分である3。
診断に関する推奨
歴史的に、機能性発作の診断には著しい遅れがあり、発症から平均7〜8年の遅延が報告されている12。迅速かつ正確な診断は、効果的な治療と誤診に基づく医原性合併症の回避に不可欠である。
1A. 臨床医は、発作様または失神様エピソードを呈する患者の初期評価において、迅速かつ正確な診断のために鑑別診断に機能性発作を含めるべきである。
1B. 発作様エピソードの評価では、患者と目撃者の両方から病歴および発作徴候学的情報を収集すべきである。
1C. 救急場面で遷延する発作様エピソードを急性評価する際は、発作時の簡潔な身体診察を実施すべきである。
1D. 病歴、発作徴候学、ビデオ・EEGデータのレビュー後も診断的曖昧性が残る場合、可能であれば典型的発作様エピソードのビデオEEG(VEEG)を取得してもよい。(Level C)
1E. 失神と機能性発作の鑑別が困難な場合、ECGモニタリングおよび/またはチルトテーブル検査を実施すべきである。
1F. VEEGが実施困難な場合、携帯型EEG、発作間欠期EEG、スマートフォンビデオ、病歴・発作徴候学を活用すべきである。
1G. 機能性発作の診断時には、他の機能性神経症状のスクリーニングと評価を行うべきである。
1H. 診断や管理が専門外の場合、適切な専門医に紹介すべきである。
VEEGは、臨床病歴と発作徴候学と組み合わせて、確定的または「documented」な機能性発作を診断し、てんかん発作や他の生理学的イベントと鑑別するためのゴールドスタンダードである3。スマートフォンで撮影され神経内科医がレビューした発作様エピソードのビデオは、発作徴候学の評価を容易にし、大多数の症例で正確な診断を可能にする1。
併存症の評価
精神科併存症
気分障害、不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を含む精神疾患の生涯歴は、機能性発作と高頻度で併存する12。物質使用障害も機能性発作患者で高率に併存しうる31。虐待、ネグレクト、その他の逆境的ライフイベントは、機能性神経障害患者では一般集団より3〜5倍多く、他の精神疾患患者より2倍多い2。
2A. 臨床医は、機能性発作と診断された患者について、併存する精神疾患(感情障害、トラウマ関連障害、パーソナリティ障害、物質使用障害を含む)を評価すべきである。
2B. 機能性発作と活動性の併存精神疾患を有し、まだメンタルヘルスケアを受けていない患者には、精神科専門医への紹介を提案すべきである。
てんかんの併存
機能性発作はてんかん患者の最大12%に併存し、てんかんは成人機能性発作患者の最大20%、小児患者の30〜40%、知的障害を伴う患者の最大50%に併存する2。
3A. 臨床医は、機能性発作患者について併存するてんかんを評価すべきである。
3B. 機能性発作とてんかんが併存する患者では、病歴、発作徴候学、可能であればVEEGを用いて、異なる発作タイプを正確に識別・区別できるよう支援すべきである。
3C. 機能性発作とてんかんが併存する患者には、てんかん発作治療における抗てんかん薬のリスクとベネフィット、および機能性発作に対する有効性の欠如についてカウンセリングすべきである。
3D. てんかん併存患者には、てんかん発作に対する適切な抗てんかん治療を処方すべきである。
管理の一般原則
機能性発作および他の機能性神経障害は、病歴、身体診察、発作徴候学、および臨床的に必要な代替診断と併存症の評価に基づいて診断される3。
一部の一般的な臨床慣行は、スティグマ化、屈辱、または痛みを与えることにより機能性発作患者に害を及ぼすことが示されている。機能性発作患者は、尊厳、明確で敬意ある対話、害からの保護を含む他の患者と同等の権利を有する。
4A. 神経内科医とメンタルヘルス臨床医は、機能性発作の評価と治療において協力すべきである。
4B. 臨床医は、敬意を持って話し、不必要な害を与えず、スティグマ化行動を避けるなど、普遍的なケア基準を遵守すべきである。
4C. 臨床医は、患者の文化的背景を考慮し、明確で共感的かつ支持的な方法で、具体的な診断名と診断根拠を提供すべきである。
4D. 臨床医は、治療計画に関して患者の診断理解を考慮した共有意思決定を行うべきである。
4E. 臨床医は、急性機能性発作エピソードの管理方法を患者と介護者にカウンセリングすべきである。
4F. 臨床医は、運転年齢の患者に運転について尋ね、地域の規制に適切なアドバイスを提供すべきである。
4G. 臨床医は、機能性発作が職業的・社会的機能に与える影響について尋ねるべきである。
4H. 臨床医は、患者と介護者を学習・支援リソース(患者・専門家アドボカシー団体など)に案内すべきである。
4I. 臨床医は、機能性発作と診断された患者に継続的なケアを提供すべきである。
心理学的介入
心理学的介入は一般に、機能性発作患者において発作消失の達成、発作頻度の減少、不安の軽減、健康関連QOLと心理社会的機能の改善に有用である可能性がある。心理学的介入は一般に安全で忍容性が良好である31。
5A. 機能性発作治療のための心理学的介入が適応かつアクセス可能な場合、臨床医は共有意思決定を促進するために潜在的なベネフィットとリスクについてカウンセリングすべきである。
5B. 心理学的介入に関するカウンセリングが専門外の臨床医は、心理学的治療モダリティに精通した臨床医に紹介すべきである。
5C. 臨床医は、機能性発作の治療のために、関心があり適切な患者を心理学的介入に紹介すべきである。
5D. 臨床医は、患者の許可を得て、成人機能性発作患者の心理学的治療に家族、介護者、その他の社会的支援ネットワークを関与させるべきである。
5E. 臨床医は、小児機能性発作患者の心理学的治療に家族を関与させるべきである。
薬物療法
多くの機能性発作患者は、正しい診断が下される前に最初にてんかんと誤診され抗てんかん薬で治療される1。機能性発作の診断後も、多くの患者はベネフィットのエビデンスが不十分であるにもかかわらず、抗てんかん薬および/またはベンゾジアゼピンを含む向精神薬を処方されている2。
ベンゾジアゼピンは抗不安作用を提供し3、短期的には遷延する機能性発作を中断することがあるが、習慣性があり1、認知障害を引き起こし2、長期的には自動車事故リスクを増加させる3。急性期における遷延性機能性発作治療のためのベンゾジアゼピン投与は、挿管と医原性害をもたらす可能性がある12。
抗てんかん薬は、倦怠感やめまいなどの軽度で一般的な副作用から、Stevens-Johnson症候群、再生不良性貧血、肝不全などの重篤で生命を脅かす副作用まで様々な有害事象を引き起こす3。
てんかん併存がない機能性発作患者で、以前に抗てんかん薬で治療されていた場合、即時の抗てんかん薬漸減は遅延離脱と比較してアウトカムの改善につながる1。
6A. 臨床医は、てんかんや他のベンゾジアゼピン適応がない機能性発作患者に対し、機能性発作に対する潜在的リスクとベネフィットのエビデンス欠如についてカウンセリングすべきである。
6B. 臨床医は、てんかん、不安障害、または他の適応がない機能性発作患者に対し、急性発作中止治療としてベンゾジアゼピンを処方すべきではない。
6C. 臨床医は、てんかんや他の抗てんかん薬適応がない機能性発作患者に対し、機能性発作治療におけるベネフィットの欠如と潜在的リスクについてカウンセリングすべきである。
6D. 臨床医は、てんかんや他の適応がない機能性発作患者に抗てんかん薬を処方すべきではない。
6E. 臨床医は、他の抗てんかん薬適応がない機能性発作患者の抗てんかん薬を漸減すべきである。
今後の研究課題
本システマティックレビューでは、臨床的に重要であるがエビデンスが限定的または欠如している複数の領域が特定された。完全版ガイドラインには、以下に関する今後の研究の提案が含まれている:
| 研究領域 | 具体的課題 |
|---|---|
| 診断 | 診断精度向上のための新規バイオマーカー、AIによる発作分類 |
| 病態生理 | 解離メカニズムの神経生物学的基盤の解明 |
| 心理学的介入 | 長期(1年超)アウトカム、介入の比較効果研究 |
| 特殊集団 | 小児、高齢者、知的障害患者における治療効果 |
| 薬物療法 | より大規模なRCT、併存症に対する薬物療法の効果 |
| 神経刺激療法 | TMSなどの神経調節療法の有効性 |
| 実装科学 | エビデンスに基づく治療へのアクセス改善方策 |
❓ よくある質問(FAQ)
Q. 機能性発作(PNES)の確定診断におけるゴールドスタンダードは?
A. 長時間ビデオ脳波モニタリング(VEM)において、臨床発作の出現中に発作時てんかん性脳波放電が認められず、覚醒時背景活動が保たれていることを確認することです。
Q. 患者への診断告知(Communicating the Diagnosis)で最も重要なポイントは?
A. 「仮病や詐病ではなく、脳のソフトウェア的な機能異常によって引き起こされる本物の発作である」ことを丁寧に説明し、抗てんかん薬依存からの脱却と心理療法の導入を合意することです。
📚 参考文献・主要エビデンス
- LaFrance WC Jr, et al. Minimum requirements for the diagnosis of psychogenic nonepileptic seizures: a consensus glossary of the International League Against Epilepsy. Epilepsia. 2013;54(11):2005-2018. [DOI/Link / PubMed: 24111860]
- Goldstein LH, et al. Cognitive behavioural therapy for adults with dissociative seizures (CODES): a pragmatic, multicentre, randomised controlled trial. Lancet Psychiatry. 2020;7(6):491-505. [DOI/Link / PubMed: 32445688]
- 日本てんかん学会. 心因性非てんかん性発作(PNES)診療の手引き. [DOI/Link]
👨⚕️ 記事監修・文責
今村久司(京都大学医学部卒・医学博士/脳神経内科専門医・指導医/総合内科専門医・指導医/てんかん学会専門医・指導医)