2024年度に改定・公開された主要な診療ガイドライン

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2024年度(2024年4月1日〜2025年3月31日)には、内科診療に関連する各専門領域で多数の診療ガイドラインが改訂・公表されました。以下、領域ごとに主なガイドライン改訂について整理します。

循環器領域

不整脈治療ガイドライン 2024年JCS/JHRSフォーカスアップデート版(日本循環器学会・日本不整脈心電学会)

改定日・学会名: 2024年3月8日、日本循環器学会・日本不整脈心電学会より学会総会初日に発表。2018年版「不整脈非薬物治療GL」と2020年版「不整脈薬物治療GL」を統合する形で改訂。ホームページ上で無料公開。

主な改定ポイント:

(1) ガイドラインの統合: 従来別冊だった薬物療法と非薬物療法のガイドラインを初めて一本化し、内容の重複排除と利便性向上を図りました。これにより不整脈治療の全体像を一貫した指針で提示しています。

(2) 最新エビデンスの反映: 新たに確立されたエビデンスに基づき改訂。例えば、生理的ペーシング(His束および左脚領域ペーシングを含む刺激伝導系ペーシング)が初めて取り上げられ、心不全合併不整脈への治療エビデンスも充実しました。また、日本人心房細動患者の脳卒中リスク評価としてHELT-E2S2スコアが新規に紹介されています(CHA2DS2-VAScに代わるリスク評価ツール)。

改定の背景: 心房細動に対する抗凝固療法の普及やアブレーション・デバイス治療の飛躍的進歩など、不整脈診療を取り巻く環境変化が改訂の原動力です。ガイドライン統合により治療選択の整合性を高め、急速な技術革新(例:刺激伝導系ペーシング)や2025年問題と称される心不全パンデミックに備えた内容強化が図られました。

実務的インパクト: 内科医・循環器医にとって、不整脈治療の標準的手順が一冊にまとまり参照しやすくなりました。とくに生理的ペーシング(His束・左脚区域ペーシング)の位置づけが明確化され、従来のペースメーカー療法に新たな選択肢が加わっています。また、心房細動患者の脳卒中予防策ではHELT-E2S2スコア導入により、日本人に適したリスク評価と抗凝固適応判断が可能となり、個々の症例に応じた治療戦略が精密化される期待があります。

公式出典URL: 日本循環器学会「2024年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療」

多様性に配慮した循環器診療ガイドライン 2024年改訂版(日本循環器学会 ほか合同)

改定日・学会名: 2024年3月8日、日本循環器学会・日本心臓病学会・日本心臓リハビリテーション学会・日本胸部外科学会合同で発行。2010年策定「循環器領域における性差医療GL」の約14年ぶりの改訂版。

主な改定ポイント: 本改訂では従来の「性差医療」の枠を拡大し、多様性(Diversity)・公平性(Equity)・包括性(Inclusion)の観点を循環器診療に組み込みました。具体的には、新たに性差だけでなく年齢差(ライフステージ)人種差の視点を設け、それぞれ疾患特性や治療への影響を解説しています。また健康の社会的決定要因(SDOH)にも着目し、職業・医療アクセス・教育環境など社会背景が循環器疾患に与える影響と対策を章立てで追加しました。さらに妊娠・出産と心疾患、高齢者や性的マイノリティへの配慮など、従来十分扱われなかったトピックも包含しています。

改定の背景: 我が国でも循環器領域における男女差・高齢患者の増加・社会格差による健康影響が無視できなくなり、2010年の旧ガイドライン以来蓄積されたエビデンスを反映する必要がありました。特に女性の心疾患マネジメント(妊娠出産との両立)、超高齢社会での心不全対策、人種による薬剤反応差、社会的弱者への医療アクセス改善など、多様な患者背景に応じた循環器診療が求められてきたことが改訂の原動力です。

内科診療への影響: 本ガイドラインにより、循環器内科医は患者の背景に即した個別化医療を意識することが求められます。例えば女性患者の虚血性心疾患は症状やリスク因子が男性と異なる点に留意し、治療選択や二次予防を最適化する、といった実践が推奨されます。また高齢者ではフレイルや認知機能まで考慮した目標設定、社会的弱者に対する地域包括ケアや支援制度の活用など、単に疾患を診るだけでなく患者の全人格的なケアが重要であると強調されています。

公式出典URL: 日本循環器学会「2024年改訂版 多様性に配慮した循環器診療ガイドライン」

心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関するガイドライン 2024年改訂版(日本循環器学会 ほか合同)

改定日・学会名: 2024年5月1日発行、日本循環器学会・日本心臓病学会・日本小児循環器学会による合同ガイドライン(前回2011年改訂)。13年ぶりの改訂となりました。

主な改定ポイント:

(1) 総論の拡充: 遺伝学的検査の実施指針・目的、具体的方法や実施体制、さらに診療現場での遺伝カウンセリングの体制、妊娠前後の対応(周産期医療と遺伝)などが新たに総論に追加されました。とくにプレコンセプションケアや出生前検査への言及は前版になかった大きな変更点です。

(2) 関連指針・法令との整合: 日常診療での遺伝子検査実施にあたり、日本医学会の「遺伝学的検査・診断ガイドライン」および最新の研究倫理指針(2023年改訂)に則った記述に刷新されました。遺伝情報は極めて慎重な取り扱いを要することから、個人情報保護法の趣旨に沿った配慮事項も盛り込まれています。

(3) 対象疾患と適応の整理: 家族性心筋症、チャネル病、先天性心疾患関連症候群など各疾患ごとの遺伝子検査適応基準やフローチャートが最新エビデンスに基づき更新されました。遺伝子パネル検査や次世代シーケンス技術の進歩を踏まえ、診断精度や有用性に関する記述も改訂されています。

改定の背景: 2000年代から2010年代初頭は、心疾患に対する遺伝子解析の多くが研究段階でしたが、その後医療として行われる遺伝学的検査が大幅に増加しました。ことに他分野(がん等)で遺伝子診断が普及し、循環器領域でも臨床の場で遺伝子検査を活用する時代となったため、13年前の指針を現状に即して改訂する必要が生じました。また関連する倫理指針の統合・改訂(2021年・2023年)や、遺伝子情報の扱いに関する社会的要請も背景にあります。

実務的インパクト: 循環器内科医にとって、本ガイドラインは遺伝子診断が身近な検査ツールとなることを踏まえた実践指針が示されました。例えば肥大型心筋症やQT延長症候群の患者・家族に対し、「誰に・いつ遺伝子検査を行うか」「結果を如何に患者・血縁者に説明しフォローするか」といった具体策が明文化され、臨床で迷いやすいポイントが整理されています。また周産期の項目追加により、遺伝性心疾患をもつ妊婦への対応や、出生前診断で心疾患関連遺伝子変異が分かった場合の方針も得られるため、産科や小児科との連携も含めた包括的ケアがしやすくなるでしょう。

公式出典URL: 日本循環器学会「2024年改訂版 心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関するガイドライン」

代謝・内分泌領域

糖尿病診療ガイドライン2024(日本糖尿病学会)

改定日・学会名: 2024年5月30日発行(第7版)、日本糖尿病学会。前回2019年版から5年ぶりの改訂。学会より書籍出版後、2024年10月にMinds選定。

主な改定ポイント:

(1) 食事療法における新知見反映: 従来慎重姿勢だった低炭水化物食(糖質制限食)について、短期間でのHbA1c改善効果を示すエビデンスが蓄積されたことから、「6〜12か月以内の短期であれば糖尿病患者の血糖コントロール改善に有用」と初めて有効性を認めました(推奨グレードB)。ただし長期的な有効性・安全性には否定的報告もあるため、極端な糖質制限は推奨せず慎重な位置付けです。

(2) 薬物治療アルゴリズムの変更: 2型糖尿病治療の段階的薬物選択において、経口薬スルホニル尿素薬(SU薬)の優先度が下がり、GLP-1受容体作動薬がより上位に位置づけられました。具体的には、従来ステップ3(追加治療)の第一候補であった少量SU薬は「オプション」に格下げとなり、代わりにGLP-1受容体作動薬がステップ3推奨薬剤に昇格しています。さらに日本で承認された新クラスのGIP/GLP-1双重作動薬(チルゼパチド等)についても適正使用の注意事項が追記されました。

(3) 合併症管理指針の更新: 糖尿病性腎症の病期分類名称が国際標準に合わせ変更されるなど、微小血管・大血管合併症に関する推奨も新知見に合わせ改訂されています。例えば心血管リスクの高い患者へのSGLT2阻害薬やGLP-1作動薬の積極的な使用、フットケアや歯周病管理の重要性など、各論で実践的事項が強調されました。

改定の背景: 2019年以降、糖尿病治療を取り巻く環境は大きく変化しました。新薬の登場(国内でもGLP-1作動薬の普及やGIP/GLP-1双重作動薬の実用化)、エビデンスの集積(心腎保護効果を示す大規模臨床試験結果)、高齢者糖尿病や治療技術(CGMやインスリンポンプ)の進歩など、多方面でアップデートが必要となっていました。特に近年の薬物療法では「体重減少や心腎アウトカム改善を狙った新薬活用」が世界的トレンドであり、本邦でも治療アルゴリズムを見直す必要があったと言えます。また国民の関心が高い食事療法(糖質制限等)についてエビデンスに基づく見解を示すことで、患者指導の標準化を図る狙いもありました。

実務的インパクト: 内科医にとって本ガイドライン改訂は日常診療に直結する変更が多々あります。まず薬物選択では、GLP-1受容体作動薬の位置付け向上により、インスリン抵抗性や肥満を伴う2型糖尿病患者では早期からGLP-1製剤を検討することが標準的となります。逆に低血糖リスクのあるSU薬の優先度低下に伴い、これまで長期使用していた患者でも減量・中止を検討するケースが増えるでしょう。また生活指導面では、「短期的な緩やかな糖質制限」は選択肢として許容される旨が示されたため、患者の希望や病態に応じて食事療法のバリエーションを提案しやすくなりました。さらに心不全やCKDを合併する糖尿病患者へのSGLT2阻害薬活用など、他科と連携した包括的治療戦略が一層重視されます。

総じて、新ガイドラインは糖尿病治療のターゲットを「血糖値」だけでなく体重・臓器保護・生活の質まで含めた包括管理へシフトさせる内容であり、内科医の日々の処方や指導に変化をもたらすものです。

公式出典URL: 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」

小児・思春期糖尿病コンセンサス・ガイドライン2024(日本糖尿病学会・日本小児内分泌学会)

改定日・学会名: 2024年5月1日発行、日本糖尿病学会・日本小児内分泌学会。前版2015年版(2016年刊行)以来、約9年ぶりの改訂。Minds選定は2024年10月。

主な改定ポイント: 今版では国際小児思春期糖尿病学会(ISPAD)のガイドラインや先行する成人側の「糖尿病診療ガイドライン」と整合性を図りつつ、小児1型糖尿病を中心に最新知見を網羅しています。主な改訂点として、

(1) インスリン治療とデバイスの進歩: 超速攻型インスリンや持効型インスリンの新製剤登場を受けたレジメン最適化、持続グルコース測定(CGM)やインスリンポンプ療法の有用性に関する推奨が強化されました。

(2) 2型糖尿病・肥満症への対応: 若年発症2型糖尿病や肥満を有する思春期例が増加している現状を踏まえ、その診断基準や生活指導・薬物療法の項目を新設・拡充しました。特に生活習慣改善支援の重要性と、メトホルミンなど経口薬の適応条件が明記されています。

(3) 心理社会的サポートと移行期医療: 小児・思春期患者の治療アドヒアランス向上のため、患者本人および家族への心理的サポートや糖尿病教育の手法について章が設けられました。また成人科への移行期医療(トランジション)にも触れられ、円滑な主治医交代や妊娠出産に備えた指導内容が整理されています。

改定の背景: 小児糖尿病領域では、この10年でインスリン製剤・デバイスの革新や国際標準の治療指針(ISPADガイドライン更新)など大きな変化がありました。加えて、我が国でも思春期発症2型糖尿病の増加や、小児期発症1型糖尿病患者の成人期への移行支援の必要性が課題となってきました。前回ガイドライン(2015年版)は主に1型糖尿病に焦点を当てていましたが、昨今の状況を反映してより包括的な内容へアップデートする必要が生じたのです。また2019年に成人側の糖尿病診療ガイドラインが改訂されたため、小児科と整合した目標値・治療戦略を示す目的もありました。これらを受け、本改訂では国内外の最新エビデンスを踏まえ小児糖尿病診療の標準を再定義しています。

実務的インパクト: 小児科医や小児糖尿病専門医にとって、本ガイドラインは日常診療の強力な指針となります。インスリンポンプやCGMの有効活用法が示されたことで、小児患者に対するテクノロジー活用が促進され、厳密な血糖管理とQOL向上の両立が図りやすくなるでしょう。また思春期患者の心理的ケアや家族支援について具体策が示されたため、学校生活への配慮や思春期危機への対応など、単に血糖を管理するだけでない包括的ケアに役立ちます。さらに成人科への橋渡しに関する記述は、小児科・内科間の情報共有や継続治療計画の策定に資するもので、患者が成人期に治療中断しないようフォロー体制強化が期待されます。

総じて本改訂は、小児・思春期発症糖尿病患者のライフステージを見通したシームレスな医療を実現するうえで重要な指針となるでしょう。

公式出典URL: 日本糖尿病学会・日本小児内分泌学会「小児・思春期糖尿病コンセンサス・ガイドライン2024」

呼吸器・感染症領域

成人肺炎診療ガイドライン2024(日本呼吸器学会)

改定日・学会名: 2024年4月発行、日本呼吸器学会。「成人肺炎診療ガイドライン2017」以来7年ぶりの改訂版。会員には配布され、一般販売も実施。

主な改定ポイント:

(1) 章立て・項目の拡充: 新たに「ウイルス性肺炎」「微生物学的検査」「誤嚥性肺炎」の項目が新設されました。2017年版では詳細でなかったインフルエンザや新型コロナなどウイルス肺炎について独立項目で言及し、診断の流れや抗ウイルス治療の適応を示しています。また微生物検査(喀痰培養や尿中抗原、PCR検査)の有用性と限界、適切な検体採取法についても整理されました。誤嚥性肺炎は従来「肺炎の特殊型」として触れられる程度でしたが、本改訂で独立した章となり、疫学・起因菌・診療戦略が詳述されています。

(2) 予防策の強調: 肺炎予防の章で、定期接種推奨の肺炎球菌ワクチンに加え、新たに口腔ケアの徹底が明記されました。とくに誤嚥性肺炎予防として口腔内の清潔維持が強く推奨され、歯科医師等と連携した口腔ケアが重要であるとされています。またインフルエンザワクチンやCOVID-19ワクチン接種の意義も追記されています。

(3) 治療戦略・耐性菌対策の見直し: 抗菌薬治療においては抗菌薬適正使用(AMS)の理念が前面に出されました。具体的には市中肺炎では重症度に応じたempirical治療の推奨を更新し、非重症例ではマクロライド系の安易な併用を避ける選択肢を提示するなど、より狭域で効果的な処方を促しています。耐性菌リスク因子を精査した上で、MRSAやP. aeruginosaを想定した治療は必要な場合に限定する方針が示されました。

改定の背景: 肺炎は日本人の死亡原因第5位(2022年)ですが、高齢化に伴い誤嚥性肺炎の占める割合が増大しています。さらに2019年以降のCOVID-19流行でウイルス性肺炎の脅威が再認識され、これらをガイドラインに反映させる必要がありました。また近年、誤嚥性肺炎の主因に口腔内細菌(嫌気性菌やレンサ球菌)が大きく関与することや、適切な口腔ケアが肺炎発症率を下げるエビデンスが蓄積されました。こうした知見を踏まえ、本改訂では高齢者肺炎対策感染管理(AMS)がキーワードとなっています。抗菌薬耐性(AMR)対策は国策としても推進されており、2017年以降の国内外データを反映して治療指針を更新する必要性も背景にありました。

実務的インパクト: プライマリケアから病院診療まで、肺炎診療に関わる医療者は本改訂による以下の変化に留意すべきです。

(1) 誤嚥性肺炎への対応強化: 誤嚥リスク評価や嚥下機能検査の実施、口腔衛生管理の介入など、内科医も歯科的アプローチを含めた包括的管理を検討する必要があります。実際、入院中の口腔ケアの介入や退院後の歯科受診連携が推奨事項に加わっており、高齢者肺炎の再発予防として重要です。

(2) 抗菌薬処方の最適化: ガイドラインの推奨に沿って、重症度評価(A-DROPなど)に基づき適切な抗菌薬と投与経路を選択することが求められます。特に非重症市中肺炎ではマクロライド併用を控え、ペニシリン系単剤で経過を見る選択肢も提示されたため、不必要な広域治療を避けやすくなりました。

(3) ウイルス肺炎の鑑別: COVID-19やインフルエンザ流行下ではウイルス検査を適宜施行し、陽性なら抗菌薬を減量・中止する判断も含めてプロトコルが示されています。

総じて本ガイドラインは「必要な患者に必要な治療を、不要な治療は控える」方針が色濃く、内科医の処方行動や多職種連携(歯科・リハビリ等)に変革を促す内容です。

公式出典URL: 日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン2024」

喘息とCOPDのオーバーラップ(ACO)診断と治療の手引き〔第2版〕2024(日本呼吸器学会)

改定日・学会名: 2024年発行(第2版)、日本呼吸器学会。初版2018年版からの改訂。非会員にも閲覧フリーで公開。

主な改定ポイント: 喘息とCOPDのオーバーラップ(ACO: Asthma COPD Overlap)は、両疾患の特徴を併せ持つ病態として近年注目されており、本手引き第2版では最新の知見に基づき診断基準と治療戦略が更新されました。

(1) 診断基準の明確化: 喘息とCOPDそれぞれの典型像から外れる症例への鑑別アプローチが詳述され、患者の既往歴・好酸球数・肺機能の可逆性などからACOを同定するフローチャートが改良されています。

(2) 治療の個別化: ACOでは吸入ステロイド(ICS)と気管支拡張薬の併用が基本ですが、第2版ではバイオマーカー(FeNO値や血中好酸球数)に応じたICS強化の判断や、COPD治療薬(LAMA/LABA)の位置付けを整理しています。重症度に応じた薬物治療ステップも提示され、ICS過剰投与によるリスク(肺炎発症など)にも触れバランスの取れた治療計画を示しました。

(3) 合併症・予後管理: 呼吸リハビリテーションや在宅酸素療法の適応、さらに併存症(肺癌や心血管疾患)のスクリーニングと管理についても追記され、ACO患者の包括的管理が強調されています。

改定の背景: ACOは高齢喫煙者を中心に一定数存在すると報告されており、前回ガイドライン以降、その臨床像や予後に関する研究が進みました。ICSを含む喘息治療薬が有効ながらもCOPD成分への配慮が必要である点が認識され、国内外の文献データを踏まえて診療手引きをアップデートする必要が生じました。また2019年にGINA(喘息国際GL)やGOLD(COPD国際GL)でもACOに相当する概念の整理がなされたため、本邦ガイドでもそれらを参照しつつ改訂が行われています。

実務的インパクト: 内科医、とくに呼吸器専門医は、本手引き改訂によりACOを見逃れなく診断し、適切に治療する枠組みを得ることになります。例えば、長年喫煙歴があり70歳で初発した喘息様症状を示す患者ではACOを疑って治療計画を立てる、といった判断がしやすくなります。治療面では、ACO患者に対しICS/LABAにLAMAを加えるアプローチや、炎症マーカーに応じた治療強度調節など具体的な指針が示されているため、過不足のない薬物療法が期待できます。さらに本手引きは「喘息とCOPD、どちらで治療すべきか」と迷いがちなケースでの道標となるため、プライマリケアにおいてもCOPD単独と異なる管理(例:ステロイド内服の是非など)を検討する助けとなるでしょう。

公式出典URL: 日本呼吸器学会「喘息とCOPDのオーバーラップ診断と治療の手引き 第2版(2024)」

H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2024年改訂版(日本ヘリコバクター学会)

改定日・学会名: 2024年11月15日発行、日本ヘリコバクター学会。前回2016年版以来、8年ぶりの改訂。

主な改定ポイント:

(1) 除菌適応の再確認: ピロリ菌感染症の除菌適応について、新たなエビデンスに基づき更新。2013年以降、日本ではピロリ菌感染者全員が除菌保険適用となっていますが、本改訂でも原則すべての感染者に除菌治療を行う方針を再確認しました。そのうえで胃癌既往や胃粘膜萎縮の程度に応じたリスク層別化とフォローアップの推奨が追加されています。

(2) 診断法のアップデート: 尿素呼気試験や便中抗原法、内視鏡下迅速ウレアーゼ試験など各種検査法の感度・特異度に関する最新データを反映し、検査選択アルゴリズムを改訂しました。例えばPPI服用中は尿素呼気試験の偽陰性に注意するなど、実践的な留意点が追記されています。

(3) 治療レジメンの変更: ピロリ除菌療法について、近年の耐性菌動向を踏まえ推奨レジメンが見直されました。一線除菌ではこれまでの「PPI+アモキシシリン+クラリスロマイシン(PAC)7日間」から、ボノプラザン(P-CAB)を用いた14日間療法が標準選択として位置付けられました。クラリスロマイシン耐性が疑われる場合は初回からメトロニダゾール併用療法(PAM)を選択可能とし、培養感受性検査の活用も推奨しています。

改定の背景: ヘリコバクター・ピロリ感染症は胃癌の最大の危険因子であり、2010年代以降「ピロリ感染胃炎」の概念確立と全感染者除菌の流れが進んできました。2016年版ガイドラインから年月が経ち、この間に抗菌薬耐性率の上昇(特にクラリスロマイシン耐性ピロリ菌の増加)や新薬ボノプラザンの普及といった大きな変化がありました。また除菌治療による胃癌予防効果のエビデンスも蓄積し、除菌後の長期フォローの重要性が示されています。さらに、小児への除菌治療適応が議論され始めたことや、検査法の精度改善もあり、総合的にガイドラインのアップデートが必要となりました。

実務的インパクト: 本改訂により、消化器内科医はピロリ除菌治療の標準手順を見直すことになります。特に一次除菌の処方は、従来主流だったPPI+PAC療法からボノプラザン併用療法の採用へとシフトしつつあります。これにより除菌成功率向上が期待されますが、一方で高価なP-CAB使用や14日間療法への延長による患者アドヒアランス確保など、新たな課題も実臨床で対処する必要があります。また耐性菌対策として、培養検査や遺伝子検査での薬剤感受性調査を適宜考慮するなど、個別化医療の要素が強まりました。さらに除菌後も胃癌発生リスクが残存するため、内視鏡フォローを継続すべきことが明記されており、患者への長期的なフォローアップ指導がより重視されます。

総じて、改訂ガイドラインはピロリ感染症診療の質向上と胃癌抑制に直結するものであり、内科医は最新の推奨に沿った診療へアップデートすることが求められます。

公式出典URL: 日本ヘリコバクター学会「H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2024年版」

膠原病・リウマチ領域

関節リウマチ診療ガイドライン2024改訂版(日本リウマチ学会)

改定日・学会名: 2024年5月1日発行、日本リウマチ学会。前回の2020年版から約3年ぶりの改訂で、今回は若年性特発性関節炎(JIA)に関するガイドラインも統合されています。

主な改定ポイント:

(1) 治療体系の最新化: 2020年以降に承認・発売された新規薬剤や新剤形(例:JAK阻害薬の追加承認、生物学的製剤のバイオシミラー拡充など)を反映し、第一選択から生物学的製剤までの推奨が見直されました。メトトレキサート(MTX)は依然第一選択ですが、効果不十分時のステップアップとしてIL-6受容体阻害薬JAK阻害薬の位置付けが強化され、それぞれ推奨事項が新設されています。

(2) 小児リウマチの包含: 新たにJIA(少関節炎型・多関節炎型)の診療指針がガイドラインに含まれました。小児発症関節炎の治療目標や薬物選択(NSAIDsやMTX、小児での生物学的製剤適応)について記載され、ライフステージを通じた一貫した治療戦略が示されています。

(3) 推奨グレードの更新: クリニカルクエスチョンと推奨項目が再整理され、一部は新規推奨として追加されました。例えばリツキシマブ(抗CD20抗体)や各種JAK阻害薬に関する推奨項目が2024年版で初めて設けられています。これに伴い、2020年版の推奨内容も最新エビデンスで再評価され、推奨強度や推奨文が更新されています。

改定の背景: 関節リウマチ治療は近年めざましい進歩を遂げており、2010年代後半から2020年代前半にかけて分子標的薬の新規承認が相次ぎました。2020年版GL策定後も、バリシチニブやペフィシチニブなどJAK阻害薬の適応拡大、新規の生物学的製剤(例えば生物学的製剤の皮下投与製剤化)などがあり、これらを反映させ治療アルゴリズムを最新化する必要がありました。また、小児のリウマチ(JIA)はこれまで別立ての指針でしたが、成人RAとの連続性を考慮し統合した方が実臨床で有用と判断されました。欧米のACRやEULARのガイドライン更新も踏まえ、日本版も推奨の見直しが行われた形です。

実務的インパクト: リウマチ専門医のみならず一般内科医にとっても、本改訂はRA治療の日常をアップデートするものです。

(1) 治療選択肢の拡大: 新ガイドラインではJAK阻害薬が明確に位置付けられたため、MTX抵抗性の患者に対し生物学的製剤だけでなくJAK阻害薬を積極的に検討する流れが標準化されます。実際、ガイドライン中の推奨を見るとJAK阻害薬関連の項目が多数新設されており、適応患者への適切な使用とリスク管理(感染予防策など)を行うことが重要です。

(2) 治療目標の再確認: 治療戦略自体は「寛解もしくは低疾患活動性を目指すTreat-to-Target」が維持されていますが、新薬を用いることでより早期の寛解導入が可能となったことから、より短期スパンで治療効果を評価し治療強化を行うアプローチが示唆されています。

(3) 小児リウマチへの対応: 小児科から成人科への移行期の患者を診る際に、本ガイドラインでJIAの項目も把握できるため、成人科医も小児発症例の治療歴・背景を理解した上でケアしやすくなります。

公式出典URL: 日本リウマチ学会「関節リウマチ診療ガイドライン2024改訂」

参考文献

  1. [要出典] 日本循環器学会/日本不整脈心電学会「2024年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療」
  2. [要出典] 日本循環器学会ほか「2024年改訂版 多様性に配慮した循環器診療ガイドライン」
  3. [要出典] 日本循環器学会ほか「2024年改訂版 心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関するガイドライン」
  4. [要出典] 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
  5. [要出典] 日本糖尿病学会・日本小児内分泌学会「小児・思春期糖尿病コンセンサス・ガイドライン2024」
  6. [要出典] 日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン2024」
  7. [要出典] 日本呼吸器学会「喘息とCOPDのオーバーラップ診断と治療の手引き 第2版(2024)」
  8. [要出典] 日本ヘリコバクター学会「H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2024年版」
  9. [要出典] 日本リウマチ学会「関節リウマチ診療ガイドライン2024改訂」