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はじめに
成人の感覚性ポリニューロパチーとは、末梢神経障害のうち感覚症状が主体となる多発ニューロパチーを指します。多くは左右対称性で四肢の遠位部(足先や手先)から症状が出現し、いわゆる手袋靴下型のしびれや感覚低下を呈します[1]。代表的な例である糖尿病性ニューロパチーでは、初期に足先のしびれや灼熱痛が生じ、次第に膝下まで範囲が広がります。その後、手にも症状が現れるといった経過を辿り、感覚障害は末梢から中枢へ向かって進行します[2]。感覚優位とはいえ運動神経や自律神経の障害を合併する場合も多く、反射低下や筋力低下、自律神経症状(起立性低血圧や発汗異常など)を伴うこともあります。ポリニューロパチーの原因は非常に多岐にわたり、代謝性、栄養性、免疫性、薬剤性、遺伝性、感染性、傍腫瘍性など様々なカテゴリーの疾患が鑑別に挙がります[1]。実臨床で頻度が高いのは糖尿病によるもの(糖尿病性ニューロパチー)で、次いでアルコール多飲やビタミン欠乏症が原因となるものです[3]。
本記事では、成人の感覚性ポリニューロパチーについて、病態の分類、主な鑑別疾患とその特徴(カテゴリー別)、各カテゴリーの代表疾患とポイントを整理した表、そして診断アプローチ(病歴聴取、身体所見、検査の進め方、フローチャート)の順に、神経内科専門医向けに詳述します。適切な医学用語を用いつつ明快に解説し、鑑別診断の整理に役立つ包括的な内容を目指します。
病態分類:ニューロパチーの分類軸

感覚性ポリニューロパチーを鑑別するにあたり、いくつかの観点で病態を分類することが有用です。以下では軸索障害 vs 脱髄障害、長さ依存性 vs 非長さ依存性、経過の急性 vs 慢性、対称性 vs 非対称性の分類について説明します。
軸索性ニューロパチー vs 脱髄性ニューロパチー
末梢神経の一次的な障害部位による分類です。軸索障害性では神経軸索の変性が主体で、多くの代謝性・中毒性ニューロパチー(例:糖尿病性ニューロパチー、アルコール性ニューロパチー、重金属中毒)、血管炎性ニューロパチー、傍腫瘍性ニューロパチー、遺伝性ニューロパチーの一部(CMT2型 Charcot-Marie-Tooth病など)が該当します[4]。臨床的には感覚・運動とも遠位優位の障害となりやすく、神経伝導検査では振幅低下(軸索数の減少)を示します。
一方、脱髄性では髄鞘の障害が主体で、ギラン・バレー症候群(GBS)や慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)、免疫介在性ニューロパチー、遺伝性の脱髄性ニューロパチー(CMT1型など)が代表です[5]。脱髄性では伝導速度の著しい低下や伝導ブロックを認め、比較的近位筋の筋力低下が目立つこともあります。神経伝導の所見では、伝導ブロックや多焦性の伝導速度低下がある場合は後天性(CIDPなど)を示唆し、全般に伝導速度が均一に低下する場合は遺伝性を示唆する、といった鑑別にも役立ちます[5]。
長さ依存性 vs 非長さ依存性
長さ依存性(length-dependent)とは、神経の長さに応じて障害が強く現れるパターンで、典型的には軸索のdying-back変性により四肢末端から障害が出現するタイプです[6]。多発ニューロパチーの多くは長さ依存性であり、四肢末梢(足先→膝下→手先→前腕...)から徐々に範囲が広がります[2]。この場合、短い神経からなる頭部や体幹には症状が及びにくく、手袋靴下型の感覚障害が特徴です[7]。
非長さ依存性とは、神経の長さによらず不規則な分布で障害が出るタイプで、例えば左右非対称であったり、足より手の症状が強かったりする場合にはこの型を疑います[8]。非長さ依存性の感覚障害は、感覚神経細胞(後根神経節)自体の障害すなわち感覚ニューロン症(感覚性ニューロノパチー/ガングリオパチー)で典型的に見られます[8]。感覚ニューロン症では四肢の近位部や顔面を含む不規則な感覚障害、深部覚の高度障害による感覚失調(罹患肢を目で見ていないと位置が分からない、歩行時に足踏みが重く感じる等)が顕著です。代表的な原因疾患は傍腫瘍性神経節障害(小細胞肺癌に伴う抗Hu抗体症候群など)やSjögren症候群に伴う感覚ニューロパチーで、亜急性~慢性に進行する重篤な感覚失調性の経過を辿ります[9]。
急性 vs 亜急性 vs 慢性
症状進行の時間経過で分類します。発症から4週間以内にピークに達するものを「急性」とすれば、代表はGBS(急性炎症性脱髄性ポリニューロパチー)であり、他に急性血管炎性ニューロパチー(血管炎による多発単神経炎の急激増悪)や重金属中毒(大量のヒ素中毒など)があります[10]。
4~8週間程度で徐々に進行する「亜急性」では、傍腫瘍性ニューロパチー(亜急性感覚ニューロン症)、亜急性の血管炎、亜急性期のCIDP移行期、薬剤性ニューロパチー(例:抗がん剤タキサン系やHIV逆転写酵素阻害剤によるもの)などが鑑別に挙がります[11]。
2か月以上かけて慢性的に進行する「慢性」では、CIDP(慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー)、CMT(Charcot-Marie-Tooth病)などの遺伝性ニューロパチー、糖尿病性ニューロパチー、アルコールなど中毒代謝性ニューロパチー、アミロイドニューロパチーといった疾患が典型です[12]。また寛解・再発を繰り返す再発性の経過をとるものもあり、CIDP(一部は再発寛解型)、遺伝性圧脆弱性ニューロパチー(HNPP)、間欠性ポルフィリン症、多巣性運動ニューロパチー(MMN)などが知られます[13]。
対称性 vs 非対称性
対称性の末梢神経障害は、いわゆる「多発ニューロパチー」像であり左右対称の遠位優位の症状が揃って出現します[1]。代謝性・栄養性・遺伝性など全身因子によるニューロパチーは基本的に対称性です。一方、左右差が大きい場合や限局性のニューロパチーは非対称性すなわち多発単ニューロパチー(mononeuritis multiplex)を示唆します。特に片側の特定の神経領域のみの障害や飛び石状に神経の障害領域が不規則に分布する場合は、多発血管炎性ニューロパチー(血管炎による虚血性神経障害)を強く疑います[14]。実際、発疹や皮膚潰瘍、レイノー現象を伴う非対称性のニューロパチーは自己免疫性または感染随伴性の血管炎による可能性が高いとされます[15]。また神経根障害や神経叢障害では上下肢の近位筋に強い筋力低下や領域性の感覚障害がみられ、末梢長さ非依存パターンを呈します[6]。以上のように、対称か非対称かは原因疾患を推定する手がかりになります。典型的な多発ニューロパチーは対称性ですが、初期には左右差がみられることもあり得るため経過観察も重要です。
感覚性ポリニューロパチーの特徴から原因診断のアプローチを立てるには、以下の分類軸を念頭に置くことが重要です:軸索性 vs 脱髄性、長さ依存性 vs 非長さ依存性、急性・亜急性・慢性、対称性 vs 非対称性
主な鑑別疾患とその特徴(カテゴリー別)
感覚優位の末梢神経障害をきたす主な疾患を、代謝性、栄養性、免疫性、薬剤性、遺伝性、感染性、腫瘍性・傍腫瘍性のカテゴリーに分けて解説します。それぞれ代表的な疾患と特徴的なポイントを挙げます。
代謝性ニューロパチー(クリックして展開)
糖尿病性ニューロパチー
もっとも頻度の高いポリニューロパチーで、長年の高血糖による末梢神経障害です[3]。典型的には左右対称の長さ依存性感覚優位ニューロパチーとして発症し、下肢遠位部のしびれ・疼痛、感覚鈍麻から始まります。進行すると上肢にも及び、振動覚・位置覚の低下やアキレス腱反射消失を認めます。自律神経障害(起立性低血圧、発汗障害、胃不全麻痺など)を伴うことも多く、痛みを伴う小径線維障害から感覚失調を来す大径線維障害まで幅広い病態を含みます[16]。糖尿病コントロール不良例では糖尿病性多発単神経炎(非対称に単一神経が複数障害されるタイプ)や糖尿病性胸腰部ニューロパチー(体幹部の知覚障害)など多彩なバリエーションも知られています[17]。治療は血糖コントロールの改善が基本です。
尿毒症性ニューロパチー
慢性腎不全でみられる代謝障害性ニューロパチーです。末期腎不全患者の約60%に手足のしびれ感・ピリピリ感、アロディニア(痛覚過敏)、軽度の遠位筋力低下を呈する長さ依存性の感覚優位ニューロパチーが出現します[18]。深部腱反射低下も伴います。透析導入や腎移植により症状の改善が期待できます[18]。
甲状腺機能低下症
代謝低下により末梢神経にも変性が生じ、手足のしびれや感覚鈍麻がゆっくり進行します。しばしば手根管症候群(正中神経の絞扼ニューロパチー)を合併し、手指のしびれが目立つことも特徴です。適切な甲状腺ホルモン補充で改善し得ます。
ポルフィリン症
急性間欠性ポルフィリアなどの急性ポルフィリン症発作で、四肢の脱力と感覚障害が急性~亜急性に進行することがあります[10]。特に運動麻痺が顕著になりやすいものの、感覚障害や自律神経症状も伴う混合型ニューロパチーです。発作の誘因除去とヘム製剤投与などの治療が行われます。
栄養性ニューロパチー(クリックして展開)
ビタミンB1欠乏症(脚気)
慢性的な栄養不良やアルコール依存症で発生します。多発ニューロパチーとしては四肢遠位の感覚鈍麻・しびれに加え、筋力低下や反射消失も出現する感覚運動混合型です。足のむくみや頻脈などの心不全症状を伴うウェルニッケ・コルサコフ症候群(中枢神経症状)に至る前段階として末梢神経症状が出現することもあります。治療は早期のB1補充で、症状が可逆的な場合もあります。
ビタミンB12欠乏症
悪性貧血(胃の内因子欠乏)や長期菜食主義、胃切除後などで生じ、末梢神経と中枢神経の両方に影響します。典型的には脊髄後索障害による深部覚低下(亜急性連合性脊髄変性症)が知られますが、手足のしびれや感覚減退など末梢神経障害も出現します。手袋靴下型の大径線維優位の感覚障害で、位置覚・振動覚の低下と感覚性失調が目立ちます。巨赤芽球性貧血を伴う場合は貧血症状もあります。ビタミンB12筋注で改善が期待できますが、重症例では後遺症が残ることもあります。
ビタミンB6欠乏・過剰
ビタミンB6(ピリドキシン)は欠乏しても過剰摂取でもニューロパチーを起こします[19]。欠乏はイソニアジド(INH)内服時に生じやすく、感覚障害や末梢神経炎をきたします(INH投与時には予防的にピリドキシン併用)。一方、過剰摂取(サプリメントの長期大量摂取など)は感覚ニューロン障害(感覚神経節への毒性)を引き起こし、深部覚障害による感覚失調を伴うポリニューロパチーを呈します[20][19]。原因除去で徐々に改善しますが、一部は不可逆的障害となり得ます。
その他のビタミン・栄養欠乏
ナイアシン(ビタミンB3)欠乏ではペラグラ(皮膚炎、下痢、認知症の三徴)の一部としてニューロパチーが出現します。葉酸欠乏でも巨赤芽球性貧血に伴い神経障害の報告があります。ビタミンE欠乏(脂肪吸収不良や胆道閉塞で生じる)は大径線維障害による失調性ニューロパチーをきたします。銅欠乏(胃バイパス手術後など)は亜急性連合性脊髄変性症に似た脊髄障害と末梢神経障害を招きます[19]。これら栄養性ニューロパチーはいずれも栄養補充治療が有効です。
免疫性ニューロパチー(炎症性ニューロパチー)(クリックして展開)
ギラン・バレー症候群(GBS)
感染やワクチン接種を契機に発症する急性の免疫性ポリニューロパチーです。1~2週で急速に四肢の運動麻痺が進行し、腱反射の低下・消失を伴いますが、感覚異常(手足のしびれ感)も初期症状として訴える例が少なくありません。感覚障害は軽微なことが多いものの、感覚神経伝導でも異常が検出されることがあります。亜急性感覚ニューロパチー(AMAN)やFisher症候群(眼球運動麻痺と失調を呈する亜型)など亜型によっては感覚症状が目立つ場合もあります。治療は血漿交換療法や免疫グロブリン静注(IVIg)が有効で、多くは数週間で停止し徐々に回復しますが、一部は重症化し呼吸管理を要します。
慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)
GBSに類似した病態が慢性に進行・再発する慢性炎症性ニューロパチーです。2か月以上かけて筋力低下や感覚障害が進行し、左右対称の四肢近位・遠位筋力低下と感覚障害、腱反射消失を呈します。感覚症状も比較的顕著で、振動覚・位置覚の低下による感覚失調性歩行を示す例もあります。神経伝導検査では脱髄所見が得られ、髄液検査では蛋白上昇(細胞数正常)がみられることが多いです(アルブミノサイトロジー解離)。治療はステロイドやIVIg、血漿交換が有効で、寛解導入後も再発予防のため維持療法が行われます。
多巣性炎症性ニューロパチー
CIDPのバリエーションとして多巣性運動ニューロパチー(MMN)やLewis-Sumner症候群(多巣性の脱髄性運動感覚ニューロパチー)が知られます。MMNは純粋運動障害ですが、Lewis-Sumner症候群は非対称に分布する運動・感覚障害を呈し、左右差が強いのが特徴です。上肢の単神経領域に障害が出るなど多発単ニューロパチー様の様相で始まり、神経伝導で伝導ブロックを認めます。CIDP同様の免疫療法に反応します。
血管炎性ニューロパチー
全身性血管炎に伴う虚血性の末梢神経炎で、多発単ニューロパチーとして突然の神経脱落症状を呈します。結節性多発動脈炎(PAN)、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)などのANCA関連血管炎に典型的です[21]。激しい神経痛に始まり、数日のうちに足の背屈不能(総腓骨神経麻痺)など明らかな運動麻痺・感覚麻痺が起こりえます。膠原病(関節リウマチやSLE)の一部でも血管炎性ニューロパチーが発生します[22]。診断には神経生検が有用で、組織で血管炎所見を検出します。治療は高用量ステロイドや免疫抑制剤の全身投与が必要です。
膠原病に伴うニューロパチー
上記血管炎以外にも、Sjögren症候群では感覚ニューロパチー(感覚神経節障害)をきたすことがあり、四肢の重度の感覚失調や難治性の痛みを呈します[23]。関節リウマチでは圧迫神経障害(手根管症候群など)が多いですが、血管炎性ニューロパチーも発生し得ます。全身性エリテマトーデス(SLE)や混合性結合組織病(MCTD)でも末梢神経障害が報告されています。自己免疫疾患の活動性コントロールと免疫療法が対処の基本です。
パラプロテイン血症関連ニューロパチー
免疫性ニューロパチーの中でも、単クローン性免疫グロブリン(Mタンパク)を伴うものは特徴的です[24]。IgM型Mタンパクがある場合、抗MAG抗体による遠位対称性感覚優位脱髄性ニューロパチー(DADS)を呈することが多く、振動覚低下や歩行失調、振戦が見られます。Waldenströmマクログロブリン血症やMGUS(原因不明の単クローン血症)でこのタイプが知られます[24]。IgGやIgAパラプロテインではアミロイド沈着によるニューロパチーをきたす例もあります。基礎疾患(悪性リンパ腫や骨髄腫)の治療や免疫グロブリン療法を検討します。
薬剤性ニューロパチー(中毒性ニューロパチー)(クリックして展開)
抗がん剤によるニューロパチー
化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)は、がん治療の副作用として頻繁にみられます。とくに白金製剤(シスプラチン、オキサリプラチンなど)、タキサン系(パクリタキセル、ドセタキセル)、ビンクリスチンなどのビンカアルカロイド系、ボルテゾミブ(プロテアソーム阻害薬)、サリドマイド・レナリドミド(免疫調整薬)といった薬剤は感覚優位のニューロパチーを高頻度に引き起こします[25]。症状は四肢末端のしびれや疼痛が中心で、しばしば治療中止後もしばらく悪化が続く(coasting現象)ことが知られています[26]。例えばシスプラチンでは感覚神経細胞(後根神経節)への毒性が強く、四肢のしびれに加えて難聴や味覚障害など一部脳神経障害も生じうることが報告されています[27]。抗がん剤によるニューロパチーは累積投与量に依存し、用量調節や休薬で進行を抑えることが重要です。
抗結核薬・抗菌薬
イソニアジド(INH)の長期投与はピリドキシン(B6)欠乏を招き末梢神経障害を生じるため、予防的にビタミンB6を併用します[20]。ニトロフラントイン(尿路感染症の治療薬)も長期使用で感覚優位のニューロパチーが報告されています[28]。メトロニダゾール(抗原虫薬)は可逆性のニューロパチーを起こすことがあり、高用量や長期使用に注意が必要です。リネゾリド(抗MRSA薬)も視神経障害とともに末梢神経障害の副作用があります。
その他の薬剤
抗てんかん薬のフェニトイン、抗不整脈薬のアミオダロン、抗レトロウイルス薬(エイズ治療薬)のスタブジン・ジダノシンなど、多くの薬剤が末梢神経障害を起こし得ます[28]。スタチン(高脂血症薬)はまれにニューロパチーを誘発するとの報告があります。免疫チェックポイント阻害薬(がん免疫治療薬)も免疫関連副作用としてGBSやCIDP様のニューロパチーを稀に発症させます[29]。薬剤性ニューロパチーは原因薬剤の中止・変更で改善傾向を示すことが多いため、薬剤歴の聴取が極めて重要です[30]。
アルコールは慢性大量摂取によりビタミン欠乏と直接神経毒性の双方でニューロパチーを生じますが[31]、これは広義には中毒性(薬物性)ニューロパチーに含まれ、代謝性・栄養性ニューロパチーとも関連が深いため上記カテゴリーと重複します。
遺伝性ニューロパチー(クリックして展開)
Charcot-Marie-Tooth病(CMT)
遺伝性運動感覚ニューロパチーの総称で、多くは常染色体優性遺伝します。10代~20代に足の筋萎縮(総腓骨神経領域の萎縮による鶏歩歩行)と感覚障害がゆっくり進行し、アキレス腱反射消失、足変形(ハイアーチ変形など)を呈します。感覚障害は軽度ですが振動覚の低下など大径線維障害がみられます。遺伝子型により脱髄型(CMT1)と軸索型(CMT2)に分かれ、前者は伝導速度の均一低下を示し、後者は振幅低下が主体です[5]。成人以降に発症する軽症型もあり、原因不明の慢性対称性ニューロパチーの一部は遺伝子検査でCMTと診断される場合があります。治療法は確立していませんがリハビリや装具によるサポートが中心です。
遺伝性圧脆弱性ニューロパチー(HNPP)
PMP22遺伝子欠失による常染色体優性疾患で、軽微な外圧で末梢神経障害を起こしやすい体質です。若年から一過性の腕神経麻痺や腓骨神経麻痺を繰り返すことで発見されますが、よく調べると左右対称の軽度の多発ニューロパチー所見(伝導速度低下など)を伴うことがあります[13]。再発性に経過し、遺伝学的検査で確定します。対症療法以外に根本治療はありません。
家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)
トランスサイレチン(TTR)遺伝子変異による常染色体優性遺伝疾患で、我が国ではATTR Val30Met変異による神経障害が有名です。成人期(30~40代)に足先のしびれや痛みで発症し、進行すると体幹近くまで感覚障害が広がります。同時に自律神経症状(起立性低血圧、下痢・便秘、発汗異常、勃起不全など)を初期から呈するのが特徴です。腱反射は消失し、筋萎縮・筋力低下も後期には出現します。放置すれば心筋障害や全身衰弱により発症後10年程度で致死的となるため、早期診断が重要です。近年は肝移植やTTR安定化剤・遺伝子治療薬により予後が改善しています。散発例(変異なしのATTRwt=老年性全身性アミロイドーシス)でも同様のニューロパチーを呈することがあります。
遺伝性感覚自律神経ニューロパチー(HSAN)
痛覚消失や自律神経障害を特徴とする稀な遺伝性疾患群です。タイプI(常優)は成人発症で四肢末端の感覚消失と潰瘍形成、感覚性失調をきたします。タイプII以降(常劣やX連鎖)は小児発症が多く無痛無汗症など先天性疾患として知られます。成人の鑑別としては主にHSAN I型が念頭に置かれます[32]。
その他の遺伝性代謝疾患
Fabry病(X連鎖性ライソゾーム病)では小児期から四肢末端の激しい焼けるような痛み(アクロパレチア)発作があり、小径線維ニューロパチーとして位置づけられます[33]。思春期以降に角膜混濁や被角血管腫、腎障害などが出現し診断につながります。Refsum病(脂肪酸代謝異常)も慢性多発ニューロパチーと網膜色素変性、感音難聴を呈する疾患です。これらは酵素補充療法や食事療法など特殊な治療が試みられます。
感染性ニューロパチー(クリックして展開)
HIV関連ニューロパチー
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)そのものや、治療薬、副次的な免疫低下による感染症が末梢神経障害の原因となります。AIDS期の患者の多くで長さ依存性の感覚優位ニューロパチー(HIV関連遠位対称性ポリニューロパチー)がみられ、しびれや疼痛を訴えます[34]。またHIV初感染から早期の段階でGBS様あるいはCIDP様の経過をとる症例もあります。かつて用いられたスタブジン(d4T)やジダノシン(ddI)といった抗HIV薬は強いニューロパチーの副作用がありました[28]。HIV患者では真菌やサイトメガロなどの感染による多発根神経炎も鑑別となります。
ハンセン病(らい病)
Mycobacterium leprae感染による慢性感染症で、末梢神経を侵す代表的疾患です。皮膚の局所麻酔様の知覚低下と皮疹から始まり、進行すると非対称性の多発単ニューロパチーを呈します。尺骨神経や脛骨神経幹などの肥厚と支配領域の感覚消失・脱毛が特徴的です。早期から治療(多剤併用療法)すれば神経麻痺の進行を防げます。
ライム病
Borrelia属のスピロヘータ感染症で、関節炎や遊走性紅斑をきたす第III期に末梢神経障害が現れることがあります。多くは多発根神経炎(放射状の神経痛や感覚障害)や顔面神経麻痺などですが、稀に多発ニューロパチーの様相を呈することもあります。抗菌薬で治療します。
梅毒
Treponema pallidum感染による第三期梅毒(神経梅毒)では中枢神経が主に侵されますが、末梢神経障害として感覚ニューロパチーを呈することがあります。脊髄後索障害で深部覚が障害される脊髄癆が有名ですが、末梢神経の方も炎症性細胞浸潤による神経炎を生じうるため注意が必要です。梅毒血清反応検査で診断しペニシリン投与で治療します。
ジフテリア
細菌ジフテリア感染後、外毒素により末梢神経の脱髄障害が起こることがあります[34]。咽頭ジフテリア感染から数週間後に軟口蓋麻痺や眼球運動麻痺がまず出現し、さらに数週間遅れて四肢の多発ニューロパチー(脱力と感覚障害)が現れます。抗毒素血清や抗菌薬での治療が必要です(現在ワクチンにより稀な疾患となっています)。
その他の感染症
帯状疱疹(VZV)は通常片側性の皮疹と神経痛を伴う単ニューロパチーですが、まれに免疫不全患者で広範囲のニューロパチーを起こすことがあります[34]。C型肝炎はクリオグロブリン血症を介して血管炎性ニューロパチーの原因となり得ます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後にもGBSや小径線維ニューロパチーの報告があります。
腫瘍性・傍腫瘍性ニューロパチー(クリックして展開)
傍腫瘍性感覚ニューロン症(傍腫瘍性神経節障害)
小細胞肺癌や乳癌、リンパ腫などに随伴して起こる自己免疫性のニューロパチーです。腫瘍に対する免疫が神経系を誤攻撃する傍腫瘍性神経症候群の一種で、特に抗Hu抗体(ANNA-1)陽性例では脊髄後根神経節の神経細胞が選択的に障害され、数週~数か月の単位で急速に重度の感覚麻痺と失調を呈します[2]。左右非対称で上肢から始まることも多く、深部覚の消失により重篤な感覚失調性歩行となります。治療的介入(免疫療法)はしばしば無効で、原発腫瘍の制御が困難な場合は予後不良です。
腫瘍の神経浸潤
リンパ腫や白血病が神経組織に浸潤する神経リンパ腫症では、進行性の非対称ニューロパチーと激しい神経痛を示します[24]。MRIや神経生検で診断確定し、腫瘍への化学療法・放射線治療を行います。またがんの直接浸潤や腫瘍による圧迫で局所神経障害(単神経麻痺)を生じることもありますが、これは厳密にはポリニューロパチーではありません。
骨髄腫に伴うニューロパチー
多発性骨髄腫ではMタンパクの産生やアミロイド沈着によってニューロパチーが起こりえます。ALアミロイドーシスによる場合、感覚優位の軸索性ニューロパチーに自律神経障害を高頻度に伴います[35]。骨髄腫そのものの治療(化学療法や造血幹細胞移植)に加え、疼痛や自律神経症状の対症療法を行います。
POEMS症候群
骨髄腫の一亜型であるPOEMS症候群(Polyneuropathy, Organomegaly, Endocrinopathy, M-protein, Skin changes)は、特異な皮膚症状や多臓器障害を伴いますが、その頭文字の通り多発ニューロパチーが主要症状です[24]。左右対称の脱力・感覚障害が進行し、腱反射消失と骨硬化性病変を特徴とします。治療は骨髄腫に準じます。
各カテゴリーの代表疾患と要点まとめ
| カテゴリー | 代表的な原因・疾患例 | 特徴的なポイント(症状や病態の要約) |
|---|---|---|
| 代謝性 | 糖尿病(糖尿病性ニューロパチー)、尿毒症(腎不全)、甲状腺機能低下症、ポルフィリン症 等 | 慢性進行する軸索障害性ニューロパチーが多い。左右対称の長さ依存性(手袋靴下型)に感覚障害が出現[2]。糖尿病では最も頻度が高く、自律神経障害を伴いやすい[1]。尿毒症では透析で改善する余地あり[18]。 |
| 栄養性 | ビタミンB1欠乏(脚気)、B12欠乏(悪性貧血)、B6欠乏(INH副作用)、B6過剰、ビタミンE欠乏、ナイアシン欠乏(ペラグラ)、銅欠乏 等 | 欠乏では主に感覚優位の軸索障害が生じる。B1欠乏は感覚・運動混合ニューロパチー(心不全症状も合併)。B12欠乏は後索障害による深部覚低下が顕著。B6過剰は感覚神経節障害をきたす[20]。栄養補充で改善しうるが重症例では不可逆的。 |
| 免疫性(炎症性) | GBS(急性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー)、CIDP(慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー)、血管炎性(ANCA関連血管炎、膠原病など)、膠原病関連(Sjögren症候群、RA、SLE等)、パラプロテイン関連(抗MAG抗体ニューロパチー) 等 | 脱髄性ニューロパチーが多く、近位筋力低下や蛋白細胞解離(髄液)を伴う。GBSは急性発症でIVIg反応性。CIDPは慢性再発性でステロイド有効。血管炎性は多発単ニューロパチーとして非対称に発症[15]し激痛を伴う。Sjögrenでは感覚ニューロン症(非長さ依存パターン)を呈する。抗MAG抗体例は遠位部の振動覚障害と振戦が特徴。 |
| 薬剤性(中毒性) | 抗がん剤(シスプラチン、オキサリプラチン、タキサン、ビンクリスチン、ボルテゾミブ 等)、抗結核薬(イソニアジド)、抗菌薬(ニトロフラントイン、メトロニダゾール、リネゾリド)、その他(アミオダロン、抗HIV薬、フェニトイン、免疫チェックポイント阻害薬 等) | 多くは感覚優位の軸索障害性ニューロパチーで、手足のしびれ・疼痛が主症状。抗がん剤では投与中止後も遷延することがあり注意[26]。INHはB6欠乏を介しニューロパチー誘発[20]。薬剤歴の確認と中止が重要[30]。 |
| 遺伝性 | CMT(シャルコマリートゥース病;1型脱髄、2型軸索)、HNPP(遺伝性圧脆弱性)、FAP(家族性アミロイドポリニューロパチー)、HSAN I(遺伝性感覚自律神経)、Fabry病 等 | 若年~中年期に発症。慢性進行性で反射消失を伴う。CMTは腓骨筋萎縮と足変形が手がかり。HNPPは単神経麻痺の反復で疑う。FAPは自律神経症状(起立性低血圧や発汗異常)が初期から顕著で家族歴が重要。遺伝子検査で確定診断。 |
| 感染性 | HIV/AIDS、ハンセン病(らい菌)、ライム病、梅毒、ジフテリア、(HBV/HCVによる血管炎性ニューロパチー 等) | 対称性長さ依存パターンと非対称性パターンの両方がありうる。HIVは遠位対称感覚ニューロパチーが多いがCIDP様の例も[34]。ハンセン病は皮疹と神経肥厚、限局した感覚麻痺が特徴。ライム病・梅毒は神経梅毒/神経ボレリア症として多彩。ジフテリアは亜急性の脱髄性ニューロパチー。基本は原因への抗菌療法。 |
| 腫瘍性・傍腫瘍性 | 傍腫瘍性感覚ニューロン症(抗Hu抗体症候群)、神経リンパ腫症(リンパ腫による浸潤)、多発性骨髄腫(ALアミロイドーシス含む)、POEMS症候群、MGUS(抗MAG抗体を伴うもの) 等 | 亜急性~慢性に進行する難治性ニューロパチーが多い。傍腫瘍性では感覚神経節の不可逆的破壊により重度の感覚失調[2]。リンパ腫浸潤は非対称の多発神経炎と激痛。骨髄腫ではM蛋白やアミロイド沈着により感覚優位の軸索障害+自律神経症状[35]。POEMSは末梢神経肥大と脱髄所見。悪性腫瘍の検索が重要[36]。 |
診断アプローチ:病歴・身体所見・検査

感覚性ポリニューロパチーが疑われる患者では、まず詳しい病歴聴取と神経学的身体診察を行い、末梢神経障害のパターンを明らかにします[37]。以下のポイントを系統的に評価します。
症状の経過
発症様式(急性・亜急性・慢性)や時間経過を確認します。数日~1週で急速に進行する場合はGBSや重金属中毒、血管炎を示唆し、数ヶ月以上の慢性進行であれば糖尿病や遺伝性、CIDP、特発性などを考えます[14]。
症状の分布
感覚障害が左右対称の手袋靴下型で遠位部優位か[2]、それとも特定の神経領域に限局/非対称か[15]を調べます。対称性なら全身性原因を、非対称なら多発単ニューロパチー(血管炎や局所病変)を考えます。上肢より下肢が先行する長さ依存パターンか、腕の症状が先行・優位で非長さ依存的かも要チェックです[8]。
随伴症状の有無
神経障害以外の全身症状が手がかりになります。発熱、体重減少、盗汗、リンパ節腫脹は腫瘍や膠原病を示唆します[36]。皮疹や色素沈着、潰瘍形成はハンセン病や血管炎を疑わせます[15]。筋肉の痛みや脱毛は栄養障害の手がかりになります。アルコール摂取量、糖尿病の症状(多尿・口渇)、家族歴(遺伝性疾患の有無)なども聞き取ります[37]。
神経学的診察
感覚検査でどの種類の感覚が障害されているか評価します。振動覚・位置覚の低下は大径線維障害を示し、深部腱反射の減弱と感覚失調の有無を確認します。一方、温痛覚の低下や異常疼痛・灼熱痛は小径線維障害を示唆します[38]。自律神経の評価として起立性血圧試験や発汗の状態もチェックします[32]。運動機能も見落とさず、軽度の遠位筋力低下や筋萎縮がないか触診・視診します。徒手筋力テストでの左右差、筋トーヌス、筋萎縮の分布も確認します。腱反射はアキレス腱反射の低下が典型ですが、汎反射低下ならポリニューロパチー全般を支持し、左右差や亢進があるなら他疾患(中枢病変や根病変)を考えます。
神経伝導検査(NCV)
電気生理検査は診断確定と病態把握に有用です[39][40]。感覚・運動神経伝導速度や振幅、F波潜時などを調べることで、脱髄性か軸索性かを鑑別できます。伝導ブロックや局所的な伝導遅延があればCIDPなどの後天性脱髄性を支持し、全ての神経で均一に伝導速度低下があれば遺伝性を示唆します[5]。感覚神経活動電位の消失は重度の軸索障害や感覚神経節障害を示します。なお小径線維ニューロパチーが疑われる場合は神経伝導は正常となるため、代わりに皮膚生検による有髄線維密度測定やQSART(発汗試験)などを検討します[41]。
血液検査
必須スクリーニングとして血糖・HbA1c(糖尿病)とビタミンB群(B1, B12など)は感覚障害主体なら必ず測定します[30]。加えて腎機能、甲状腺機能、肝機能(アルコール性肝障害含む)、炎症反応(CRP, 赤沈)を確認します。自己抗体(抗核抗体, 抗SS-A/B抗体, ANCAなど)や血清補体は膠原病・血管炎疑い時にチェックします。腫瘍マーカーは高リスク群で測定します。血清電気泳動(血清蛋白分画)と免疫固定でMタンパクの有無をスクリーニングし、陽性なら免疫グロブリンの型判定(IgMなら抗MAG抗体も測定)を行います。栄養状態では葉酸やVB6、VitE、銅など必要に応じ測定します。感染症スクリーニングも重要で、梅毒血清反応、HBV/HCV、HIV抗体など患者背景に応じて実施します。必要に応じて遺伝学的検査(CMT遺伝子パネルや特定疾患の遺伝子検査)も検討します。
髄液検査
脱髄性ニューロパチーを疑う場合や感染・炎症の関与を調べる目的で腰椎穿刺を行います。GBS/CIDPでは典型的には蛋白細胞解離(髄液蛋白上昇、細胞数正常)を認めます[5]。炎症性ニューロパチーでも軽度の細胞増多を伴うことがあります。髄液中の悪性細胞検査はリンパ腫の鑑別に有用です。
画像検査
神経系の画像としては神経超音波やMRI神経造影で神経肥厚や造影効果を見る検査がありますが、特殊なケースを除きルーチンではありません(CIDPで神経根造影、神経腫瘍や肥厚性ニューロパチーの評価など)。むしろ全身検索目的で胸腹部CT(潜在癌のスクリーニング)、必要ならFDG-PET、血管炎を疑えば超音波検査(腹部エコーで臓器肥大やリンパ節評価)や血管造影を行うこともあります[36]。また神経症状が非典型的な場合、脳MRIや脊髄MRIで中枢病変を除外することもあります。
神経生検
診断確定が困難な場合や血管炎性ニューロパチー、アミロイドーシス疑いの場合に神経生検が実施されます。一般に下肢の末梢神経(浅腓骨神経や腓腹神経)を選択し、筋生検と併せて行うこともあります。血管炎では血管周囲の炎症細胞浸潤やフィブリノイド壊死、アミロイドーシスならコンゴーレッド染色陽性沈着物の証明など、原因確定に寄与します。ただし侵襲的検査であり感覚障害の後遺が残る可能性もあるため、必要症例に絞って検討されます。
実臨床での進め方:鑑別診断フローチャートとまとめ

最後に、感覚性ポリニューロパチー患者における鑑別診断の進め方を、ステップごとにまとめます。
Step 1. 末梢神経障害の確認とパターン把握
他の原因(中枢神経や神経根障害など)で説明できないか鑑別し、末梢神経障害と確定します。その上で症状分布が左右対称の遠位優位か(ポリニューロパチー型)[2]、非対称で限局性か(多発単ニューロパチー型)[15]を判別します。非対称なら血管炎や圧迫・腫瘍性病変を念頭に局所の評価を進めます。一方、対称性なら以下のステップへ進みます。
Step 2. 発症時期と経過から鑑別を絞る
症状の出現から現在までの期間を把握し、急性(~4週)・亜急性(~8週)・慢性(2か月以上)に分類します。急性発症ならGBSや急性中毒(重金属)・急性炎症(ギラン・バレー症候群や急性血管炎)を考え緊急対応を検討します[14]。亜急性ではサブグループのCIDPや傍腫瘍性、亜急性の栄養障害(例:急激な減量後のビタミン欠乏)などが候補に上がります。慢性進行性なら糖尿病、特発性、遺伝性(CMT)等の頻度が高くなります[12]。また再発寛解を繰り返す場合はCIDPやHNPPなどを疑います[13]。
Step 3. 電気生理検査による病態の把握
神経伝導検査を行い、軸索障害か脱髄障害かを判定します[40]。明らかな脱髄所見があればCIDP等の免疫性、もしくはCMT等の遺伝性を念頭に置き、更に髄液検査(蛋白細胞解離の有無)や家族歴・遺伝子検査で肉付けします[5]。一方、軸索性障害の場合は代謝性(糖尿病・尿毒症)、栄養性(ビタミン欠乏)、薬剤性、中毒性(アルコール等)、傍腫瘍性、特発性といった広い鑑別になります[4]。また伝導検査が正常でも症状が強ければ小径線維ニューロパチーを疑い、別途QSARTや皮膚生検を検討します。
Step 4. 的確なスクリーニング検査の実施
上記Step 3までで得られた示唆に基づき、必要な血液検査を網羅的に行います。全例で血糖/HbA1c・ビタミンB12・B1はチェックし[30]、腎機能や甲状腺も確認します。臨床像から免疫性が疑われる場合は自己抗体・血清蛋白分画・免疫固定・髄液検査を行い、感染が疑わしければ感染症マーカーを追加します。腫瘍が示唆される所見(発熱、体重減少、リンパ節腫大など)があれば腫瘍精査として画像検査(CT/PET)や腫瘍マーカー測定も考慮します[36]。薬剤性の可能性があれば該当薬の血中濃度測定や中止試験も有用です。
Step 5. 追加の専門検査
スクリーニングで異常所見や疑いが強まった場合、さらなる検査に進みます。例えば、免疫性ニューロパチーであれば神経生検(血管炎の確定やアミロイド証明)を検討します。遺伝性を示唆する所見があれば遺伝学的検査を行います。傍腫瘍性が否定できなければFDG-PETなど全身検索を追加し、必要なら随伴抗体(抗Hu, CV2, amphiphysinなど特殊抗体)の測定も考えます[2]。
Step 6. 鑑別の確定と治療方針の決定
上記の結果を総合し、最も整合する診断に辿り着きます。残念ながら一定数は検査を尽くしても特発性(原因不明)と判断されますが、その際も経過観察を継続し新たな徴候の出現を見逃さないことが重要です。原因が判明した場合は、可能な限り原因の除去・治療(血糖是正、欠乏栄養補充、原因薬物中止、基礎疾患治療 等)を行います。同時にしびれや痛みなど神経障害性疼痛の対症療法も開始します(プレガバリンやデュロキセチン等が有効で、NSAIDsは無効です)[42]。
症状のパターン(長さ依存性か否か、対称性か否か)と時間経過(急性か慢性か)から鑑別の方向性を定め、適切な検査で原因を絞り込むことが重要です[14]。鑑別疾患が多岐にわたるため系統立ったアプローチが求められます。各カテゴリーの代表疾患を念頭に置きつつ、臨床では患者ごとの文脈(背景疾患や生活歴)を踏まえて柔軟に鑑別診断を進めてください。
📚 参考文献
https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_26789
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/
https://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse3508.pdf
https://www.igaku-shoin.co.jp/paperplus/archive/y2022/0025-3
https://ja.wikipedia.org/wiki/ニューロパチー
https://www.igaku-shoin.co.jp/paperplus/archive/y2022/0025-2
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/108/8/108_1530/_pdf
https://ortho-herb.com/chronicpain/
https://cidp-patients.csl-info.com/cure/about/diagnosis/