「認知症は年をとれば避けられない」——そう思っていませんか。世界の専門家が集まったランセット委員会(Lancet 2024)は、認知症のおよそ45%が、生活習慣など14の「修正可能な危険因子」に対処することで予防または発症を遅らせられる可能性がある、と報告しました。2024年版では新たに「高LDLコレステロール」と「未矯正の視力低下」の2つが加わりました。この記事では、14の危険因子とその影響の大きさ(人口寄与割合)、年代ごとに今日からできること、そして数字を正しく読み解くための注意点を、神経内科・総合内科専門医がやさしく解説します。
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▶ 目次
認知症は「避けられない老化」ではありません。ランセット委員会(2024)は、認知症のおよそ45%が14の修正可能な危険因子への対処で予防または発症遅延が可能かもしれない、と報告しています1。因子は年代ごとに効き方が違い、何歳から始めても意味があります。難聴ケア・血圧やコレステロールの管理・運動・人とのつながり・視力の矯正など、できることは身近にあります。
1. 認知症の45%は予防できる? ランセット委員会の結論
世界的な医学誌『ランセット』に、各国の認知症の専門家が集まってまとめた委員会報告(Lancet Commission)があります。2020年の報告では12の危険因子で約40%、そして2024年の最新報告では新たに2つの因子が加わり、合計14の危険因子に取り組めば、世界の認知症のおよそ45%を予防、あるいは発症を遅らせられる可能性がある、と結論づけました1,2。
ここで大切なのは、これらが「修正可能(modifiable)」、つまり私たちの努力や治療で変えられる因子だということです。遺伝や加齢のように変えられないものではなく、生活習慣の見直しや適切な医療でリスクを下げられる——だからこそ「認知症は運命ではなく、予防できる部分がある」と言えるのです。
2. 「修正可能な危険因子」と「人口寄与割合」とは
14の因子にはそれぞれ「どれくらい認知症に影響しているか」を示す数字がついています。これを人口寄与割合(PAF)といいます。少し難しい言葉ですが、意味はシンプルです。
「もしこの危険因子が世の中から完全になくなったら、認知症全体を何%減らせるか」を表す数字です。たとえば難聴のPAFが7%なら、「世界中の難聴がすべて理想的に対処されれば、認知症の約7%が減らせるかもしれない」という集団(みんな全体)の話です。「あなた個人が認知症になる確率」ではない点に注意してください。
14因子のPAFを合計すると約45%になります1。残りの約55%は、現時点ではまだ「修正できると確認されていない要因」や加齢・遺伝などです。つまり「すべてを完璧にすれば認知症がゼロになる」のではなく、「社会全体で取り組めば、認知症のおよそ半分近くを減らせる余地がある」という、希望のあるメッセージなのです。
3. 14の危険因子の一覧 ― 年代別に見る
14の因子は、影響が出やすい時期によって「早年期・中年期・晩年期」の3つに分けられています。年代ごとに「効く対策」が違うのがポイントです。下の表は、各因子と人口寄与割合(PAF)の一覧です1。
| 時期 | 危険因子 | PAF |
|---|---|---|
| 早年期 (〜18歳ごろ) | 教育歴の短さ | 5% |
| 中年期 (18〜65歳ごろ) | 難聴(聴力の低下) | 7% |
| 高LDLコレステロール ★2024新規 | 7% | |
| うつ病 | 3% | |
| 頭部外傷(外傷性脳損傷) | 3% | |
| 運動不足 | 2% | |
| 糖尿病 | 2% | |
| 喫煙 | 2% | |
| 高血圧 | 2% | |
| 肥満 | 1% | |
| 過剰な飲酒 | 1% | |
| 晩年期 (65歳〜) | 社会的孤立(人とのつながりの少なさ) | 5% |
| 大気汚染 | 3% | |
| 視力低下(未矯正の視覚障害) ★2024新規 | 2% | |
| 合計 | 45% | |
影響が大きいのは、中年期の難聴(7%)と高LDLコレステロール(7%)、そして早年期の教育(5%)と晩年期の社会的孤立(5%)です。とくに難聴は「補聴器を使う」「大きすぎる音を避ける」といった対処がしやすく、対策の効果が期待される因子として注目されています1。
4. 2024年に加わった2つの新しい因子
2024年の報告で新しく加わったのが、高LDLコレステロールと未矯正の視力低下です。どちらも、検査や治療で対処しやすい因子であることが特徴です1。
LDLは「悪玉コレステロール」とも呼ばれ、動脈硬化に関わります。とくに中年期のLDLが高い状態が、後年の認知症リスクと関連すると報告されました。健診で指摘されたら放置せず、食事・運動、必要に応じて医師と相談のうえ薬で管理することが大切です。
「未矯正」とは、メガネ・治療などで本来なら見えるようにできるのに、放置されている視力低下のこと。白内障の手術など、適切に対処すれば視力を取り戻せるケースが多く含まれます。見えにくさを「年だから」とあきらめないことが、脳を守ることにもつながります。
新しい2因子がどちらも「治療・矯正が可能なもの」であることは重要です。健診を受ける・気になる症状を放置しないという当たり前の行動が、認知症予防にも役立つ可能性を示しています。
5. 年代別・今日からできること
因子は年代で効き方が違うので、対策も年代に合わせると効率的です。ただし「何歳から始めても意味がある」のが委員会の大切なメッセージです1。
☐ 健診の血圧・LDLコレステロール・血糖を放置しない(高血圧は中年期からの管理が特に重要)
☐ 難聴に早く気づく(聞き返しが増えたら受診、必要なら補聴器)
☐ 運動の習慣をつくる・禁煙・お酒は控えめに
☐ 頭部を守る(自転車・バイクのヘルメット、転倒予防)
☐ 気分の落ち込みが続くときはうつ病を一人で抱えず相談する
☐ 人とのつながりを保つ(社会的孤立を避ける ― 会話・地域活動・趣味の集まり)
☐ 視力・聴力を整える(白内障手術・メガネ・補聴器を遠慮なく使う)
☐ 大気汚染・受動喫煙を避ける(換気・空気の悪い日の外出を工夫)
☐ 中年期からの血圧・コレステロール・運動の習慣を続ける
6. 数字を誤解しないために ― 大切な3つの注意
PAFは「社会全体で何%減らせるか」の目安です。危険因子があっても認知症にならない人は大勢いますし、なくても発症することもあります。過度に不安にならず、できることから取り組むのが正しい受け止め方です。
たとえば肥満・糖尿病・運動不足は互いに関連します。委員会も、各因子のPAFは重なりを考慮した推定であり、机上の単純合計とは性質が違うと説明しています1。
早く始めるほど効果は大きいと考えられますが、晩年期の因子(社会的孤立・視力・大気汚染)は高齢になってからの対策でも意味があります。「もう年だから」とあきらめないでください1。
気になる物忘れがある、家族の認知症が心配、というときは、かかりつけ医やもの忘れ外来・脳神経内科に相談してください。生活習慣の見直しと早めの相談が、これからの脳を守る第一歩です。
参考文献
- Livingston G, Huntley J, Liu KY, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404(10452):572-628. doi:10.1016/S0140-6736(24)01296-0
- Livingston G, Huntley J, Sommerlad A, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. Lancet. 2020;396(10248):413-446. doi:10.1016/S0140-6736(20)30367-6

