片側性舞踏病は、片側の四肢や顔面に出る不規則で流れるような不随意運動を指します。近位優位で大きく投げ出すような動きであるヘミバリスムを含め、hemichorea / hemiballismusのスペクトラムとして捉えるのが実用的です。大事なのは、これは病名ではなく症候であり、その背景に原因疾患があるという点です。
成人の片側性舞踏病、とくに急性〜亜急性発症では、まず後天性で可逆的な原因を優先して探します。片側性・非対称性の舞踏病は遺伝性よりも脳血管障害、高血糖、自己免疫、薬剤性などのacquired causeが多いことが、複数のレビューや後ろ向き研究で示されています1,2。

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ツール一覧:臨床鑑別診断ツール集
片側性舞踏病とは何か
舞踏運動(chorea)とは、予測しにくい、素早い、非律動的な不随意運動が体の部位を移るように現れるのが特徴です。一方、バリスム(ballism)はその激しい形で、特に近位筋優位の荒々しい投げ出すような運動になります2,7。現在では舞踏運動とバリスムは連続したスペクトラムと考えられており、hemichorea-hemiballismusとして一括して扱われることが多いです。
片側性舞踏病で臨床的に重要なのは、この所見が片側に限局または強く偏るため、対側の脳に構造病変や代謝異常をまず疑うのが基本であるという点です1,2。
片側性舞踏病の主な原因
成人発症の散発性舞踏病をまとめた単施設後ろ向き研究(Bovenzi R, et al. 2021)では、原因の68%が脳血管障害であり、診断への寄与は画像検査が76%と最も大きいことが示されました1。まず画像を急ぐべき病態です。
次に重要なのが高血糖関連の片側性舞踏病、すなわち糖尿病性線条体症(diabetic striatopathy)です。系統的レビューでは症例の多くが高齢女性で、97.2%がコントロール不良の糖代謝を伴い、22%では舞踏病が糖尿病の初発所見でした4,5。
そのほか、自己免疫性・炎症性の原因として抗リン脂質抗体症候群、Sydenham舞踏病、SLE関連などがあり、薬剤性も鑑別に入ります。非対称性舞踏病のレビューでは、構造病変以外の原因として高血糖、Sydenham病、抗リン脂質抗体症候群、薬剤性が代表的でした2。
| 原因カテゴリ | 代表的疾患 | 頻度・特徴 |
| 脳血管障害 | 脳梗塞、脳出血、皮質梗塞 | 最多(68%)。突然発症。対側基底核〜皮質病変 |
| 高血糖関連 | 糖尿病性線条体症(diabetic striatopathy) | 高齢女性に多い。HbA1c高値。T1高信号 |
| 薬剤性 | ドパミン遮断薬、レボドパ、抗てんかん薬など | 遅発性ジスキネジア含む。薬歴の精査が必要 |
| 自己免疫性 | 抗リン脂質抗体症候群、SLE、Sydenham舞踏病 | 比較的急速発症。血栓症既往に注意 |
| 変性・遺伝性 | ハンチントン病など | 高齢初発では優先度低い |
最初に見逃してはいけない原因
1. 脳血管障害
片側性舞踏病で最も見逃してはいけないのは脳血管障害です。特に突然発症なら、まずstrokeと考えるべきです。古典的には対側の視床下核、被殻、尾状核、視床などの病変が知られていますが、近年は基底核が保たれた皮質梗塞でもhemichoreaが起こることが示されています3。
Carbayoらの症例シリーズ・文献レビュー(2020)では、頭頂葉・島皮質・前頭葉の皮質病変のみでhemichoreaが発症した例が報告されました。つまり、MRIで基底核に異常がないからといって血管性を否定してはいけません3。
注意:「基底核に異常がない=血管性を否定」にはなりません。皮質梗塞でも片側性舞踏病は起こりえます。DWIを含めたMRIの再読影では、対側基底核だけでなく、頭頂葉・島皮質・centrum semiovaleまで丁寧に確認してください。
2. 高血糖・糖尿病性線条体症
高齢者の片側性舞踏病では、高血糖は必ず外せません。Chuaらの大規模レビュー(Sci Rep, 2020)では、176例中88.1%がhemichorea/hemiballismusで、平均血糖は414 mg/dL、平均HbA1cは13.1%でした4。
さらに2024年の系統的レビュー(Hoffmeisterら)では、MRI正常例が5.2%あり、インスリン単独と他剤併用で回復差が明確でなかったことが報告されています5。
ポイント:糖尿病の既往がなくても、22%では舞踏病が糖尿病の初発所見です4。病歴に糖尿病がなくても血糖・HbA1cは必ず確認してください。
3. 薬剤性・自己免疫性
画像や血糖で説明できないときは、薬剤性と自己免疫性を考えます。
確認すべき薬剤:
- 抗精神病薬(遅発性ジスキネジア)
- メトクロプラミド、ドンペリドンなどの制吐薬
- レボドパ、ドパミンアゴニスト
- 抗てんかん薬(フェニトインなど)
- 抗うつ薬
- 認知症治療薬の変更
- 最近の中止薬も含める
自己免疫性を疑うヒント:
- 脳梗塞歴・血栓症既往
- livedo reticularis、自己免疫疾患既往
- 認知機能変動、精神症状
検査としては、抗核抗体、抗カルジオリピン抗体、抗β2GPI抗体、ループスアンチコアグラントを検討します。ただし高齢者で他の自己免疫所見が乏しければ、血管性・高血糖性・薬剤性の後の優先順位になります2。
鑑別の進め方
実際の鑑別は、「本当に舞踏病か」→「時間経過」→「脳血管障害か高血糖か」→「残れば自己免疫・薬剤性」の順が実用的です1,2。
ステップ1:本当に舞踏病か再確認
下肢だけの「不随意運動」は、実は舞踏病でないことがあります。以下との鑑別を意識してください。
| 不随意運動 | 特徴 | 舞踏病との違い |
| ジストニア | 同じ姿勢・同じ方向に捻れる | 舞踏病は不規則・流動的 |
| ミオクローヌス | 一瞬のピクつき | 舞踏病はやや持続的で移動する |
| アカシジア | じっとしていられない内的焦燥感 | 舞踏病は無意識に起こる |
| てんかん性(focal motor seizure / EPC) | 反復的・常同性が強い | 舞踏病は非常同的 |
| painful legs and moving toes | 下肢痛を伴う緩徐な趾の動き | 舞踏病は痛みを伴わない |
| pseudoathetosis | 深部感覚障害に伴う | 閉眼で増悪するのが特徴 |
判断に迷うときは動画記録が非常に有用です。睡眠で消えるか、歩行で悪化するかも診察のポイントです。
ステップ2:時間経過と原因の優先順位
急性・亜急性発症ならacquired cause(後天性原因)を優先します1,2。
第1段階(まず可逆的原因を外す):
- 血糖、HbA1c
- 電解質、Ca、Mg
- 腎機能、肝機能
- 甲状腺機能
- 薬歴の総点検
- 頭部MRI(DWI含む)再読影、必要ならCT追加
- MRA
第2段階(血管性の詰め):
- 脳梗塞リスク評価(心房細動検索、頸動脈エコー、心エコー)
- 既往のラクナ梗塞、多発白質病変の確認
第3段階(残れば免疫・腫瘍随伴):
- 抗核抗体、抗リン脂質抗体系
- 全身症状があれば悪性腫瘍検索
- 必要時に自己抗体パネル、髄液検査
MRI・CTで見るべきポイント
片側性舞踏病の画像で最初に見るのは、対側基底核の虚血・出血・信号異常です。ただし、「基底核に異常がないから否定」にはなりません3。
血管性のポイント
- DWIで対側基底核(被殻・尾状核)、視床下核をチェック
- 皮質梗塞だけで発症する例がある(頭頂葉・島皮質・前頭葉)3
- 慢性虚血性変化が強くても、新鮮梗塞を見逃さない
高血糖性のポイント
- 典型像:CT線条体高吸収、MRI T1高信号(対側線条体)
- CTとMRIの所見が一致しないことが約6分の14
- 症状と画像異常が同時に出ない例が約1割4
- MRI正常例が5.2%ある5
画像の落とし穴:高血糖性舞踏病では、CTとMRIの不一致(CTのみ陽性/MRIのみ陽性)や、MRI偽陰性例が一定数あります。画像が非典型でも、臨床的に高血糖性舞踏病は除外しきれません4,5。
高齢者で特に意識すること
2022年のChenらの6例報告では、平均年齢80.5歳、平均HbA1c 13.65%で、全例が片側優位の不随意運動を呈し、5例でMRI T1高信号、全例で治療後に症状・画像改善がみられました6。高齢者の片側性舞踏病ではCTも併用すると情報量が増えます。
治療の考え方
治療の原則は原因治療が先、対症療法は必要に応じて追加です。
原因別の治療
- 脳血管障害:脳卒中として対応(抗血栓療法、リスク管理)
- 高血糖性:厳格な血糖是正(インスリン、補液)。血糖コントロールのみで改善する例が多い4,5
- 薬剤性:原因薬剤の中止・変更
- 自己免疫性:免疫抑制療法
対症療法
症状が強く転倒やADL障害がある場合には、対症療法を検討します。
| 薬剤 | 用量(報告例) | 注意点 |
| ハロペリドール | 0.375〜0.75 mg/日 | 錐体外路症状、QT延長 |
| クロナゼパム | 0.5〜1 mg/日 | 傾眠、転倒リスク |
白岩らの日本からの後ろ向き研究では、上記の用量でhemichorea-hemiballismの症状コントロールが得られました7。高血糖性舞踏病の大規模レビューでは、最も多く使われた抗舞踏病薬はハロペリドールでした4。
高齢者での注意:傾眠、嚥下低下、薬剤性パーキンソニズム、QT延長、認知機能悪化、誤嚥リスクに注意。実臨床では少量のハロペリドールまたはクロナゼパムから慎重に開始するのが一般的です。
予後
予後は原因に左右されますが、全体としては可逆的原因が多く、改善余地が大きい病態です。
成人発症散発性舞踏病の研究では、82%が自然軽快または軽微な後遺症でした1。糖尿病性線条体症でも厳格な血糖コントロールと必要時の対症療法で改善する例が多い一方、Chuaらのレビューでは約28%で再発が報告されています4。
血管性の場合は脳卒中の二次予防が長期予後を左右します。薬剤性では原因薬の中止で改善が期待されますが、遅発性ジスキネジアは不可逆的なこともあります。
まとめ:片側性舞踏病は「MRIで特異所見がないから原因不明」ではなく、まず血管性か高血糖性を執拗に疑うのが実践的です。可逆的原因が多いため、迅速な原因検索が予後を左右します。
よくある質問(FAQ)
はい、十分ありえます。成人発症では脳血管障害の比重が高く、しかも基底核病変だけでなく皮質梗塞でも起こりえます。突然発症なら急性脳卒中として扱う発想が重要です1,3。
いいえ。高血糖性舞踏病ではCTとMRIの不一致やMRI正常例があり、脳梗塞でも基底核が保たれた皮質病変で起こることがあります3,4,5。
脳血管障害と高血糖関連を最優先に考えるのが合理的です。高齢女性、急性〜亜急性発症、片側性、HbA1c高値、基底核T1高信号やCT高吸収がそろえば糖尿病性線条体症を強く疑います1,4,5,6。
舞踏運動の中で、特に近位筋優位で投げ出すような激しい動きをバリスムと呼びます。現在では両者は連続したスペクトラムと考えられており、hemichorea-hemiballismusとして一括して扱われることが多いです2,7。
舞踏運動は不規則で、予測不能で、流れるように別部位へ移るのが特徴です。同じ姿勢に捻れるならジストニア、一瞬のピクつきならミオクローヌス、反復的・常同的ならてんかん性を考えます。判断に迷うときは動画記録が有用です。