肢端紅痛症(Erythromelalgia)の臨床的特徴と治療法

スライド

疾患概要

肢端紅痛症(したんこうつうしょう、erythromelalgia)は、四肢末端に生じる発作性の激しい灼熱痛発赤(紅潮)および皮膚の温度上昇を三徴とする稀な疾患です[1]。典型的には、手足が熱感を伴って赤く腫れ上がり、耐え難い焼けつくような痛みが生じます。症状は両側対称に足に起こることが多く、手指やまれに耳介・顔面などが侵されることもあります[2]紅痛症の発作は主に温熱曝露や運動、長時間の立位などによって誘発され、患肢の冷却や挙上によって軽減します[3]。多くの患者は夜間に症状悪化を訴え、睡眠障害の原因ともなります。また、靴下や手袋の着用、軽い外力(靴の圧迫など)でも増悪しうるため、患者はしばしば素足で過ごしたり氷水に四肢を浸すなどの対処を行います。しかし氷水による凍傷や潰瘍形成のリスクもあり、注意が必要です。

図1:肢端紅痛症の発作による手の発赤(中央と右)。 左は発作前の手掌で、まだらな皮疹と冷感があります commons.wikimedia.org 。発作が生じると(中央)、手掌から指にかけて強い紅潮が現れ、手背(右)にも発赤が及びます commons.wikimedia.org 。患者は激しい灼熱痛を訴え、患肢は熱を帯びます。

図2:足の肢端紅痛症発作 足趾および足底部が発赤し、腫脹を伴っています。典型的な紅痛症発作ではこのように足が赤熱して疼痛が生じますが、寒冷暴露時には逆に皮膚温低下と一過性の虚血がみられる点でレイノー現象と表裏の関係にあります[2

原因(分類:遺伝性 vs 二次性)

肢端紅痛症原発性(一次性)続発性(二次性)に大別されます[4]原発性(特発性)肢端紅痛症の多くは原因不明ですが、一部に遺伝性の家族性症例があり、常染色体優性遺伝SCN9A遺伝子変異が原因となることが知られています[5][6]SCN9A遺伝子は電位依存性ナトリウムチャネルNav1.7のαサブユニットをコードする遺伝子であり、この変異により末梢の痛覚神経線維や交感神経が過剰に興奮しやすくなることが発症機序と考えられています[6]。実際、2004年に中国の家系でSCN9A変異が同定され、Nav1.7の機能亢進型変異家族性紅痛症家族性一次性肢端紅痛症)の原因であることが初めて示されました[7]。 その後の研究でNav1.7の変異が小胞性ニューロンの興奮性を高め、激痛を引き起こす機序も解明され[8]、現在までに20種類以上のSCN9A変異が報告されています。また同じ遺伝子の機能喪失型変異は先天性無痛症(CIP)を引き起こし、一切痛みを感じなくなることも知られています[9]

続発性肢端紅痛症

続発性肢端紅痛症二次性紅痛症)では、背景に他の疾患が存在します。代表的には骨髄増殖性疾患真性多血症本態性血小板血症)が有名で、これらでは紅痛症様症状がしばしば初発症状となります[4]。実際、紅痛症症状は血小板増多症の患者の約50%にみられるとの報告もあります。この機序は血小板血栓による細動脈の虚血と炎症が疼痛と発赤を招くためと考えられ、アスピリン投与が著効する特徴があります[10]。 他に紅痛症を来し得る疾患としては、末梢神経障害小線維ニューロパチー[4]自己免疫疾患SLEリウマチなど)[11]糖尿病糖尿病性ニューロパチー)や痛風感染症(まれにリン病帯状疱疹後など)、血管炎などが報告されています[12][13]。 また特定の薬剤(ボルモクリプチンカルシウム拮抗薬など)や重金属中毒ヒ素・水銀)、キノコ中毒でも二次性紅痛症様症状を呈することがあります[11][13]。中国では中学生に冬季集団発生する「流行性紅痛症」が報告されており、ウイルス感染との関連も指摘されています[14]。このように、二次性紅痛症では基礎疾患の治療が症状緩和に不可欠となります。

症状

肢端紅痛症の典型的三徴は前述のとおり灼熱性の疼痛患部の紅潮皮膚温上昇(発熱感)です[1]。患者は「手足が燃えるように熱く痛む」と表現し、見た目にも赤く腫れて熱を帯びています。疼痛発作発作性であり、数分から数時間持続して自然軽快することもあれば、慢性的に長引くこともあります[15]。 症状は下肢に強い傾向があり、足先から始まり次第に足全体、手指へと広がる例が多く報告されています[16]。左右差は乏しくほぼ対称性ですが、CRPSのような一肢性の例も稀にあります。また発作頻度は個人差が大きく、1日に何度も起こる患者もいれば、寒冷期には寛解し夏季に悪化する季節性がみられる場合もあります。
📋 症状の誘因と軽減因子
誘因:温かい環境への暴露(気温上昇、入浴、暖房)、運動や軽微な労作、長時間の立位・座位(患肢の下垂による鬱血)、ストレスや飲酒・カフェイン摂取などが挙げられます[17][18]

軽減因子:冷却や安静・挙上により軽快するため、患者は氷水への浸漬、扇風機による送風、寝る際に足を布団の外に出すといった行動で痛みを和らげようとします[19]
⚠️ 注意事項
極端な冷却は凍傷を招き、潰瘍や壊疽に至る危険があるため、適度な冷却と皮膚保護が重要です[20]。症状が長期持続する重症例では、自傷行為(患肢の氷水漬け込み過ぎによる組織障害や自らの趾切断など)の報告もあり、QOLは重篤に障害され得ます[21]

診断

肢端紅痛症の診断臨床症状に基づいて行われます[22]。すなわち、四肢末端の発作性の疼痛・発赤・発熱三主徴という臨床所見が診断の要です[22]。鑑別すべき他疾患が多く、特異的なバイオマーカーや確立された診断補助検査は存在しないため、紅痛症は除外診断として位置づけられます[23]。 したがって詳細な病歴聴取と身体診察が不可欠であり、特に基礎疾患の存在(続発性の可能性)や家族歴家族性原発性の可能性)を十分確認する必要があります[24]。原発性と考えられる場合でも、若年発症かつ明らかな家族歴がある症例ではSCN9A遺伝子変異検査が検討されます(ただし一般に遺伝子検査は必須ではありません)[25]
補助的検査の詳細

血液検査

全血球計算による血球増加の有無、炎症反応、糖尿病の評価など

神経学的検査

神経伝導検査はしばしば正常ですが、小繊維ニューロパチー疑い時には皮膚生検による神経線維密度測定や汗試験など[26]

画像検査

患肢の血流評価のためのサーモグラフィーや血管超音波、血管造影など ただしこれらは診断確定というより鑑別診断のための位置づけです[26]。紅痛症そのものに特徴的な検査所見は無く、皮膚生検では非特異的な真皮浅層のリンパ球浸潤浮腫性変化細動脈の内膜肥厚などが報告されています[27]。 重要なのは鑑別診断として後述するような疾患(特に治療可能な疾患)を見逃さないことであり、場合によっては関係各科(血液内科、膠原病科、神経内科、皮膚科など)との連携が必要です。

鑑別診断

肢端紅痛症と類似の症状を呈する疾患は多数あります。特に末梢神経障害血管炎複合性局所疼痛症候群(CRPS)との鑑別が重要とされています。以下に主要な鑑別診断を挙げます[28]

末梢神経障害(小線維ニューロパチーなど)

糖尿病ファブリー病などで見られる小径線維の障害は四肢末端の灼熱痛を生じえます[28]。紅痛症との違いは、神経障害では痛みとともに感覚鈍麻異常知覚がみられる点、発作性ではなく持続性の経過をとる点です。特にファブリー病はX連鎖遺伝のライソゾーム病で、小児期から四肢の灼熱痛発作(アクロパレシア)を呈しやすい疾患です[28]。皮膚所見(被角血管腫)や酵素活性測定(α-ガラクトシダーゼA活性低下)により鑑別します[28]

血管炎や膠原病

血管炎(特に小~中血管の血管炎)でも四肢の疼痛・発赤・腫脹が起こり得ますが、紅痛症では潰瘍形成や紫斑など炎症所見に乏しい点で異なります。全身性エリテマトーデス(SLE)シェーグレン症候群でも類似の末梢神経障害やレイノー現象を伴うことがあり、自己抗体検査などで鑑別します[29]

レイノー現象

四肢末端の皮膚色変化と疼痛という点で対極に位置する病態です。レイノー現象は寒冷刺激で発作性に指趾が蒼白〜チアノーゼとなり、血流再開時に発赤と疼痛を来します。一方、紅痛症は温熱刺激で発赤・熱感・疼痛が誘発されるため、誘因が正反対である点で鑑別可能です[2]。両者が同一患者に併存することは稀ですが、少数報告されています[30]

複合性局所疼痛症候群(CRPS)

外傷や手術を契機に発症し、四肢の灼熱痛発赤腫脹発汗異常関節拘縮を伴う難治性疼痛症候群です。限局性で片側性が多いこと、神経学的異常所見(運動障害感覚過敏など)を伴うこと、骨萎縮像(単純X線像での斑点状骨減少)を示すことなどで紅痛症と鑑別します。紅痛症は誘因なく自然に発症しうる点でもCRPSとは経過が異なります。ただし、紅痛症患者に交感神経ブロックが有効な例があることなどから、一部病態に共通項も示唆されています。
その他の鑑別疾患

感染症や炎症性疾患

蜂窩織炎丹毒などの感染症は局所の発赤熱感と疼痛を伴うため鑑別に挙がりますが、これらは通常発熱や白血球増多などの全身症状を伴い、進行性に増悪します(紅痛症は基本的に非炎症性であり、慢性経過)[31]。また痛風発作も足部の発赤腫脹・激痛を呈しますが、関節単位の限局した炎症所見があり血中尿酸値の上昇や関節液所見で診断可能です。

その他の疾患

凍傷(凍傷後に反応性の紅痛症状を呈することがある)、末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症による間欠的虚血と反応性充血)、静脈鬱滞(うっ滞性皮膚炎)など様々な疾患が鑑別に挙がります[32]。総じて紅痛症の診断では、これら鑑別疾患を丁寧に除外しつつ典型的所見の組合せを確認する作業が求められます。

治療

肢端紅痛症の治療難治性で、現在のところ確立した治療法はありません[2]。基本的には対症療法が中心で、原因となる基礎疾患がある場合はその治療が優先されます[32]。まず患者教育として、誘因の回避(高温環境を避ける、運動や長時間の立位を控える)と対処法(適度な冷却や患肢挙上による症状緩和)について指導します[33]環境整備も重要で、居室温度を低めに保つ、通気性のよい衣類・寝具を使用する、きつい靴を避ける、といった工夫が有用です[34]。これらの一般的処置にもかかわらず症状が強い場合は、薬物療法を検討します。

薬物療法

薬物療法は患者個々で効果にばらつきがあり、いまだ試行錯誤の段階ですが、以下のような薬剤が報告されています[35][36]

血管作動薬

二次性紅痛症の多くは血管作動性因子による症状があるため、アスピリン(抗血小板作用による血栓予防と抗炎症効果)は血栓血小板血症に伴う紅痛症で第一選択となります[10]。 またプロスタグランジンE1誘導体プロスタサイクリン製剤イロプロスト静注)やプロスタグランジンE1製剤ミソプロストール経口)による血流改善が有効との報告もあります[37][38]。一方、カルシウム拮抗薬ニフェジピン、ジルチアゼム等)や交感神経β遮断薬プロプラノロール)などの血管拡張ないし収縮薬についても症例報告があり、作用機序の異なる薬剤を少量から併用して症状改善を図る試みがなされています[39][40]

ナトリウムチャネル遮断薬

紅痛症がNav1.7チャネルの機能亢進により疼痛が生じる機序が示唆されて以来、局所麻酔薬や抗不整脈薬による痛みの軽減が検討されています[41]。代表的にはリドカインの静脈投与やリドカインの経皮パッチ、経口抗不整脈薬のメキシレチンが試みられます[42][43]。 ただしNav1.7変異の部位によってはリドカイン結合部位が変形し薬効が減弱する可能性があり[44]、実際リドカイン点滴が有効なのは半数程度との報告もあります[45]メキシレチンは若年発症例で有効だったとの報告や、特定変異(V872G)で長期奏功を示した例があります[46][47][48]。 抗てんかん薬でナトリウムチャネルに作用するカルバマゼピンオキシカルバゼピンも一部の家族性紅痛症で有効性が示されています[49]

鎮痛補助薬(神経障害性疼痛治療薬)

紅痛症の痛みは神経障害性疼痛の性質を持つため、抗てんかん薬のガバペンチンプレガバリン、抗うつ薬の三環系抗うつ薬(アミトリプチリン等)やSNRIデュロキセチン等)が疼痛緩和に使用されます[50]。特にデュロキセチンは痛覚過敏の改善に有用だったとの報告があります[51][50]。またトラムセット®トラマドール・アセトアミノフェン合剤)の併用なども症状に応じて検討されます[52]
その他の薬物療法

その他の薬物

症例報告レベルですが、抗ヒスタミン薬副腎皮質ステロイド(紅痛症の明らかな誘因があり急性〜亜急性経過の場合に早期導入すると奏功しうるとの報告[53])、静注免疫グロブリン療法(自己免疫性を考慮し試みられることあり[54])、高用量静脈投与ビタミンC高用量経口マグネシウム(カルシウム拮抗作用を期待)等、様々な薬剤が試みられています[39][40]。 また局所療法としてリドカイン軟膏カプサイシンクリーム、複合軟膏(アミトリプチリン+ケタミン配合クリーム)などの外用が有効だった例も報告されています[55]

神経ブロック療法

神経ブロック療法も肢端紅痛症の難治例に対する選択肢です[56]交感神経の関与が示唆されることから星状神経節ブロック腰部交感神経節ブロックが施行され、疼痛緩和に有効だったとの報告があります[57]。一部の症例ではブロック後に付随症状(味覚異常など)の改善もみられたと報告されています[57]。効果が一過性の場合は交感神経節の破壊や胸腰部交感神経節切除術(交感神経切除術)を検討することもあります[33]。 ただし外科的交感神経切除の効果は症例によりまちまちであり、侵襲とリスクも考慮して慎重に適応を検討します[58]。近年では脊髄刺激療法(spinal cord stimulation)や経皮的電気刺激による痛み緩和の試みも報告されています。

続発性紅痛症の治療

続発性紅痛症では基礎疾患の治療が最重要です。例えば骨髄増殖性疾患ではサイトレダクション療法(瀉血やハイドロキシウレア投与など)による血球数管理が紅痛症状を改善することが多いです[32][59]糖尿病性ニューロパチーに伴う症例では血糖コントロールの是正、自己免疫疾患が疑われる例では免疫抑制療法や血漿交換など、原因に応じた対応を行います。薬剤性が疑われる場合は原因薬の中止で症状軽快が期待できます。また痛風発作感染症による炎症が誘因となっている場合、抗炎症治療(NSAIDsやコルヒチン、抗菌薬など)が奏効することもあります。

最近の研究動向

肢端紅痛症の病態解明と治療開発において、SCN9A遺伝子Nav1.7チャネルは重要な鍵となっています。SCN9A変異によるNav1.7チャネル機能獲得が紅痛症の原因であることが明らかになったことで[7]、このチャネルを標的とした新規鎮痛薬の開発が精力的に進められています。 Nav1.7は末梢感覚ニューロンに選択的に発現し、Nav1.7を先天的に欠損した人CIP患者)は痛覚を全く感じない一方でその他の神経機能は保たれていることから[9]Nav1.7阻害理想的な鎮痛戦略になり得ると期待されています[60]。 現在、選択的Nav1.7阻害薬として経口薬のPF-05089771Nav1.7モジュレーター)は第II相試験まで完了し、有望な結果が報告されました[61]。また局所用のTV-45070(=XEN402)は紅痛症に対しオーファンドラッグ指定を受け、臨床試験が進行中です[61]。さらにクモ毒由来ペプチドプロテックス誘導体)は他のナトリウムチャネルとは異なる機序でNav1.7の活性化を抑制し、動物モデルで有望な結果が示されています[62]。 これら新規鎮痛薬の登場は、紅痛症のみならず広く難治性疼痛疾患の治療に波及効果をもたらす可能性があります。 一方、遺伝学的研究も進展しています。SCN9A変異のない原発性紅痛症例も存在することから、他の遺伝子要因や多因子遺伝的素因の解明が進められています[63]Nav1.7以外のナトリウムチャネルNav1.8/1.9など)の関与や、痛覚伝導路における修飾遺伝子の探索も行われています。またiPS細胞を用いた患者由来ニューロンモデルの作製により、紅痛症の病態を細胞レベルで再現し創薬に結びつける試みも始まっています。これらの最新研究は、本疾患の理解を深めるだけでなく、新たな治療法開発への道を切り拓くものとして注目されています。

参考文献

総引用箇所数: 66箇所 | 参考文献数: 66件
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1 2 6 50 51 52 56 57 [要出典] 松本博之.肢端紅痛症の臨床特徴と治療.Brain and Nerve 脳と神経 45巻11号 (1993): 1013-1017.
12 13 17 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 31 33 41 44 45 46 47 48 49 60 61 62 65 Cox JJ, et al. An SCN9A channelopathy causes congenital inability to experience pain. Nature. 2006;444(7121):894-898.