エビデンスのある漢方はどれ? ガイドラインが「強く推奨」した処方と「使うな」とされた処方

エビデンスのある漢方はどれ? ガイドラインが「強く推奨」した処方と「使うな」とされた処方

「漢方って、本当に効くんですか?」外来でとてもよく聞かれる質問です。答えは「漢方による」としか言えません。日本の診療ガイドラインを調べると、ある漢方には最上位の「強く推奨する」が付き、別の漢方には「投与しないことを提案する」とはっきり書かれています。この記事では、日本東洋医学会が毎年集計している一次資料をもとに、どの漢方が、どの病気に対して、どこまで評価されているのかを、推奨の強さとエビデンスレベルの実際の表記で整理します。

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診療ガイドラインにおける漢方の推奨度早見表(六君子湯・大建中湯・抑肝散・牛車腎気丸)

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キーメッセージ
①日本の診療ガイドライン1,955件のうち、漢方に触れているのは170件(8.6%)。エビデンスレベルと推奨の強さまで付いているのは47件だけです。②胃もたれ(機能性ディスペプシア)に対する六君子湯は「推奨の強さ:強・エビデンスレベルA」で、標準治療に近い位置づけまで来ています。③一方で牛車腎気丸は、抗がん剤の神経障害の予防について「投与しないことを提案する」と否定されています。

① そもそも「エビデンスのある漢方」はどれくらいあるのか

漢方の話は「効く」「効かない」の水掛け論になりがちです。そこで、印象ではなく日本の診療ガイドラインが実際に何と書いているかを数えた資料を見てみます。

この記事は「どの漢方が、どの病気に、どこまで評価されているか」に絞っています。証(しょう)や気血水(きけつすい)といった漢方そのものの考え方、医療用と市販薬の違い、保険適用、副作用の全体像については、はじめての漢方薬|科学的根拠と選び方、副作用の全知識で解説しています。先にそちらを読んでいただくと、この記事の話が入りやすいはずです。

日本東洋医学会のEBM委員会は、国内の診療ガイドラインを網羅的に調べ、漢方に関する記述を抜き出した「漢方製剤の記載を含む診療ガイドライン(KCPG)」を公開しています。最新版は2026年5月に発行された、2025年9月末までの調査分です1。

その集計によると、調査対象となった診療ガイドライン1,955件のうち、漢方の記載があったのは170件(8.6%)でした。そしてこの170件は、記載の質によって3つのタイプに分けられています1。

タイプ 記載の中身 件数
タイプA 根拠となる論文があり、エビデンスレベルと推奨の強さの両方が書かれている 47件
タイプB 根拠論文はあるが、レベルや推奨度は書かれていない 65件
タイプC 根拠論文もレベルも推奨度もない(言及のみ) 58件

つまり、「どのくらい確からしいか」「どのくらい勧められるか」まで示されているのは47件ということになります。「エビデンスのある漢方は少ない」という印象は、数字の上でも間違っていません。

なお、この170件・47件は「ガイドラインの件数」であって、漢方の処方数ではありません。1つのガイドラインに複数の漢方が登場することも、1つの漢方が複数のガイドラインに登場することもあります。

② 最も評価が高い漢方 ― 六君子湯と「胃もたれ」

この47件のなかで、推奨の強さもエビデンスレベルも最上位が付いているのが、機能性ディスペプシアに対する六君子湯(りっくんしとう)です。

機能性ディスペプシアとは、胃もたれ、食後の膨満感、みぞおちの痛みなどが続いているのに、胃カメラで潰瘍やがんなどの異常が見つからない状態のことです。原因となる病変が見当たらないという意味であって、症状があいまいだという意味ではありません。実際、生活の質を大きく下げる、れっきとした病気です。

日本消化器病学会の「機能性消化管疾患診療ガイドライン2021―機能性ディスペプシア(改訂第2版)」2は、「FDの治療薬として、漢方薬は有用か?」というクリニカルクエスチョンに対して、次のように書いています。

六君子湯は有用であり、使用することを推奨する
【推奨の強さ:強(合意率92%)、エビデンスレベル:A】
六君子湯以外の漢方薬は、有用である可能性があり、使用することを提案する
【推奨の強さ:弱(合意率10%)、エビデンスレベル:B】

ここで使われている「エビデンスレベルA」は、このガイドラインの定義では「質の高いエビデンス。真の効果がその効果推定値に近似していると確信できる」という意味です。そして「強い推奨」は「実施することを推奨する」。同じ漢方でも、六君子湯だけが別格に扱われていることが読み取れます。

根拠になった試験は「全勝」ではない

六君子湯の二つのプラセボ対照試験で主要評価項目の結果が一致せず、ガイドラインは複数の試験を総合して判断することを示す図
六君子湯のプラセボ対照試験では主要評価項目の結果が一致していません。ガイドラインは一つの試験だけでなく、複数の結果を総合して判断します。(クリックで拡大)

ただし、ここは正直に書いておきたいところです。六君子湯のプラセボ対照試験は、結果が割れています。

2018年に報告されたDREAM試験3は、国内56施設で行われた二重盲検試験です。まず2週間、全員に偽薬を飲んでもらい、それでも症状が続いた患者さんだけを、六君子湯群とプラセボ群に振り分けて8週間投与しました。その結果、主要評価項目である全般的な治療効果は、8週の時点でプラセボより有意に良好でした(P=0.019)。食後の膨満感・早期満腹感、腹部の張りも改善し、不安の指標が改善した度合いと消化器症状の改善度に相関がみられた点も報告されています。

一方、2014年に報告された247人の多施設二重盲検試験4では、8週時点で症状が改善した人の割合は六君子湯33.6%、プラセボ23.8%で、統計学的な有意差はつきませんでした(p=0.09)。ただし、みぞおちの痛みについては有意に改善しています(p=0.04)。

つまり「RCTで効果が実証された」と一言で片づけられるほど単純ではなく、ガイドラインはこれら両方の結果を見たうえで、総合してAと強い推奨を付けているということです。都合のよい試験だけを並べて「証明済み」と言うのは、漢方を推す側にとってもフェアではありません。

③ 「強く推奨」と書いてあれば安心してよいのか

診療ガイドラインの推奨の強さはどれだけ勧めるかを、エビデンスの質は結果がどれだけ確からしいかを示し、両者は同じ指標ではないことを示す図
「推奨の強さ」と「エビデンスの質」は別の指標です。推奨は研究の確実性だけでなく、益と害、患者の希望、実行可能性なども含めて決まります。(クリックで拡大)

ここで、読み方の注意点をひとつ。「推奨の強さ」と「エビデンスの質」は別物です。強く推奨されていても、根拠が薄いことがあります。

例として、日本神経学会の「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018」5を挙げます。多系統萎縮症という難病に伴う便秘の対処法として、このガイドラインは大建中湯(だいけんちゅうとう)を含む薬物療法に「1: 強く推奨する」を付けています。推奨としては最上位です。

ところが、同じガイドラインの注意書きにはこう書かれています。

脊髄小脳変性症・多系統萎縮症の便秘に対するエビデンスの高い研究は少ない。少数例に対するオープン試験では、モサプリドクエン酸、大建中湯、ポリカルボフィルカルシウムにおいて、多系統萎縮症患者の便秘の改善が認められている。

実際に引用されている研究6は、パーキンソン病6例・多系統萎縮症4例・対照1例という少数例を検討したもので、専門誌に2ページで報告された短報です。エビデンスレベルは中等度(B)とされています。

これは大建中湯が悪い薬だという話ではありません。「ほかに有効な選択肢が乏しく、副作用も少ないので、まず試す価値がある」と判断されれば、根拠が限られていても推奨は強くなり得る、ということです。「強く推奨」という4文字を「よく効くと証明されている」と読み替えないでください。

④ よく聞く抑肝散はどう評価されているのか

認知症の介護の現場でよく登場する抑肝散(よくかんさん)はどうでしょうか。日本神経学会の「認知症疾患診療ガイドライン2017」7には確かに登場しますが、その扱いは六君子湯とはっきり違います。

焦燥・興奮や幻覚・妄想への対応を扱った項目で、抑肝散に付けられているのは推奨の強さ「2(弱い)=実施することを提案する」、エビデンスレベル「C(弱)」です。本文でも、抗精神病薬を挙げたうえで「抑肝散も検討してよい」という書き方にとどまっています。

試験結果も、この温度感と一致しています。認知症の行動・心理症状に対する抑肝散のランダム化比較試験5件・381人をまとめたメタ解析8では、症状の合計スコアは偽薬+通常ケアより有意に改善していました(標準化平均差 −0.32、95%信頼区間 −0.53〜−0.11)。ところがアルツハイマー病の患者さんだけに絞ると、合計スコアもすべての下位項目も有意差が消えます。

実際、アルツハイマー病を対象に22施設・145人で行われた二重盲検試験9では、主要評価項目である4週間の症状スコアの変化に、偽薬との差はありませんでした(12週の変化や認知機能の指標でも差はなし)。認知機能がより低下していた一部の患者さんで「焦燥・興奮」の改善が大きかった、という所見にとどまっています。

「自然だから安全」ではない

抑肝散の服用中に力が入らない、足がつる、むくむといった症状があれば低カリウム血症などの可能性を考え、早めに相談して採血で確認する流れ
抑肝散にも低カリウム血症や浮腫などの副作用があります。脱力、筋けいれん、むくみに気づいたら早めに相談し、血清カリウム値などを確認します。(クリックで拡大)

そしてもう一点、必ず知っておいてほしいことがあります。ガイドラインは抑肝散について、「ときに低カリウム血症が発現することがあるので注意する」と明記しています7。むくみについても、抑肝散をむくみの原因になり得る薬の側に挙げ、原因薬剤の中止や減量を検討するよう書いています。

低カリウム血症は、甘草(かんぞう)という生薬を含む漢方で起こり得るもので、進むと力が入らない、だるい、足がつる、むくむといった症状が出ます。漢方を長く飲んでいる方は、こうした症状に気づいたら早めに相談し、定期的な採血を受けてください。

⑤ ガイドラインが「使わないこと」を提案した漢方

最後は、はっきり否定された例です。牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)は、抗がん剤による手足のしびれ(末梢神経障害)を予防する目的で、長く期待されてきた漢方でした。

しかし「がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン 2023年版」10の推奨文はこうです。

CIPN症状(白金製剤由来に限る)の予防として、牛車腎気丸を投与しないことを提案する。

根拠となったのが、GENIUS試験という第III相試験です11。大腸がんの術後にオキサリプラチンを含む化学療法を受ける患者さんを、牛車腎気丸群と偽薬群に二重盲検で振り分けました。ところが予定310人のうち142人が登録された時点の中間解析で、安全性評価委員会が試験の中止を勧告します。

評価可能だった182人でみると、日常生活に支障が出るレベル(グレード2以上)の神経障害が起きた割合は、牛車腎気丸群50.6%に対して偽薬群31.2%。解析では、牛車腎気丸の使用が神経障害の発症と有意に関連していました(ハザード比1.908、p=0.007)。効かなかっただけでなく、飲んだ群のほうが神経障害が多かったのです。

複数の試験をまとめたメタ解析12でも、標準的な評価基準ではグレード2以上の神経障害を減らす効果は確認されませんでした(リスク比0.94、95%信頼区間0.57〜1.57)。

「体にやさしそうだから、念のため足しておこう」という発想が、この領域では通用しないことを示す例です。抗がん剤治療中の方は、しびれ予防を目的に漢方を自己判断で追加しないでください。

⑥ この記事から持ち帰ってほしい3つのこと

  1. 胃もたれで六君子湯が出たなら、それはガイドラインの推奨に沿った処方です。「気休めを出された」と思う必要はありません。効果判定には時間がかかるため、数週間続けて様子をみる前提の薬です。
  2. 抑肝散を飲んでいるなら、力が入らない・だるい・足がつる・むくむといった症状に注意してください。低カリウム血症のサインのことがあります。定期的な採血を受けましょう。
  3. 抗がん剤のしびれ予防に、牛車腎気丸を自己判断で足さないでください。試験では、飲んだ群のほうが神経障害が多く出ています。

漢方は「効く/効かない」でひとくくりにできる存在ではありません。処方と病気の組み合わせごとに、評価は大きく違います。気になる漢方があるときは、「その漢方は、私のこの症状に対して、どのくらい根拠があるのですか」と主治医に聞いてみてください。それが一番確実です。

よくある質問

Q. ガイドラインに載っていれば、その病気で保険が使えるのですか?

いいえ、別の話です。たとえば夜間頻尿の診療ガイドラインには、漢方について記載があった一方で、「これらの薬剤は夜間頻尿や過活動膀胱に対して保険適用になっていない」とはっきり書かれています1。ガイドラインでの言及と保険適用は一致しないことがあります。

Q. 漢方は副作用がないのではありませんか?

ありません、ということはありません。この記事で挙げただけでも、抑肝散の低カリウム血症とむくみ、牛車腎気丸の神経障害の増加がガイドラインや試験に記載されています。甘草を含む漢方では、血圧上昇やむくみ、力が入らないといった症状が出ることがあります。

Q. 今飲んでいる漢方が「弱い推奨」でした。やめるべきですか?

自己判断でやめないでください。推奨が弱いことは「効かない」という意味ではなく、「確実だと言い切れるだけの研究がまだない」という意味であることがほとんどです。実際に効いている実感があるかどうかも含めて、処方した医師と相談して決めてください。

Q. 市販の漢方薬でも同じように考えてよいですか?

成分や量が医療用と異なることがあり、そのまま同じとは考えられません。また、ほかの薬との飲み合わせの問題もあります。ほかに薬を飲んでいる方は、購入前に薬剤師に相談してください。

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参考文献・出典

  1. 日本東洋医学会EBM委員会 診療ガイドライン・タスクフォース. 漢方製剤の記載を含む診療ガイドライン(KCPG2025 H1). 調査期間〜2025年9月30日. 2026年5月15日発行.(本文中の1,955件・170件・47件、および夜間頻尿ガイドラインの引用はこの資料および同資料の漢方CPG Tableによる)
  2. 日本消化器病学会 編. 機能性消化管疾患診療ガイドライン2021―機能性ディスペプシア(FD)(改訂第2版). 南江堂, 2021年4月30日発行.
  3. Tominaga K, Sakata Y, Kusunoki H, et al. Rikkunshito simultaneously improves dyspepsia correlated with anxiety in patients with functional dyspepsia: A randomized clinical trial (the DREAM study). Neurogastroenterol Motil. 2018;30(7):e13319.
  4. Suzuki H, Matsuzaki J, Fukushima Y, et al. Randomized clinical trial: rikkunshito in the treatment of functional dyspepsia--a multicenter, double-blind, randomized, placebo-controlled study. Neurogastroenterol Motil. 2014;26(7):950-61.
  5. 日本神経学会 監修, 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン作成委員会 編. 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018. 南江堂, 2018年6月5日発行.
  6. Sakakibara R, Odaka T, Lui Z, et al. Dietary herb extract dai-kenchu-to ameliorates constipation in parkinsonian patients (Parkinson's disease and multiple system atrophy). Mov Disord. 2005;20(2):261-2.
  7. 日本神経学会 監修, 認知症疾患診療ガイドライン作成委員会 編. 認知症疾患診療ガイドライン2017. 医学書院, 2017年8月1日発行.
  8. Matsunaga S, Kishi T, Iwata N. Yokukansan in the Treatment of Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia: An Updated Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. J Alzheimers Dis. 2016;54(2):635-43.
  9. Furukawa K, Tomita N, Uematsu D, et al. Randomized double-blind placebo-controlled multicenter trial of Yokukansan for neuropsychiatric symptoms in Alzheimer's disease. Geriatr Gerontol Int. 2017;17(2):211-218.
  10. 日本がんサポーティブケア学会 編. がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン 2023年版. 金原出版, 2023年6月20日発行.(推奨文の引用は日本東洋医学会EBM委員会「漢方CPG Table(KCPG2025 H1)」による)
  11. Oki E, Emi Y, Kojima H, et al. Preventive effect of Goshajinkigan on peripheral neurotoxicity of FOLFOX therapy (GENIUS trial): a placebo-controlled, double-blind, randomized phase III study. Int J Clin Oncol. 2015;20(4):767-75.
  12. Hoshino N, Ganeko R, Hida K, Sakai Y. Goshajinkigan for reducing chemotherapy-induced peripheral neuropathy: a systematic review and meta-analysis. Int J Clin Oncol. 2018;23(3):434-442.

※ 本記事は一般的な医学情報の解説であり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。処方されている漢方を自己判断で中止・変更しないでください。疑問がある場合は処方医・薬剤師にご相談ください。漢方にも副作用があります(甘草を含む処方による低カリウム血症・血圧上昇・むくみなど)。
監修:今村久司(京都大学医学部卒・医学博士/脳神経内科専門医・指導医/総合内科専門医・指導医/てんかん学会専門医・指導医)