作者コメント
CJDのPSDは、少し経ってから出て、末期にはなくなることは知っていましたが、何週くらいでどうなのかという知識がなかったので、知識整理しました。
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脳波PSDの出現時期と病期
クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)患者では、病状の進行に伴い脳波所見が特徴的に変化します。典型的な孤発性CJDの病初期には脳波の徐波化(低周波化)や不規則化がみられ、特有の周期性同期性放電(Periodic Synchronous Discharge: PSD)はまだ出現しません1。病状が進行して四肢ミオクローヌス(不随意筋収縮)が出現する頃の中期になると、脳波上に約1Hz前後の周期で三相性の鋭波複合が繰り返し現れるPSDが明瞭に観察されるようになります12。

さらに病末期(無動性無言に至る終末期)では脳の電気活動自体が低下し、これまでみられていたPSDも次第に消失して脳波は平坦化していきます13。このように、CJDでは脳波所見が「初期の非特異的徐波」から「中期の特徴的PSD出現」を経て「末期のPSD消失・低電位化」へと推移することが知られています2。
発症からPSD出現までの期間
PSDはCJD発症直後には見られず、症状出現からある程度の期間を経てから出現することが多いです。報告によれば、典型的な孤発性CJD症例では発症後8~12週(約2~3か月)以内にほとんどの患者でPSDが脳波上に現れるとされています24。実際、1980年代の古典的研究では、病理診断例を含む典型的CJD患者の88%において臨床症状開始から12週以内にPSDが出現したことが示されています4。
日本における最近の検討でも、MM1型(古典型)孤発性CJD患者では発症後平均約3.25か月(2~4か月)の時点でPSDパターンへ移行したとの報告があります5。一方、病勢進行が緩やかで経過の長いタイプのCJD患者では、PSDの出現がさらに遅れたり最後まで出現しなかったりすることもあります。実際、経過が1年以上と通常より長い一部の症例(約10%)では、臨床経過中にPSDが確認されたのは約55%にとどまったとのデータもあります6。
典型的な古典型CJDでは発症後数か月以内にPSDが出現するのが一般的です。PSDの出現時期は病型や病勢によって異なります。
病初期・中期・末期におけるPSD出現頻度
病初期(発症から数週間程度)にはPSDの出現頻度は極めて低く、脳波所見はびまん性の徐波や一過性の鋭波など非特異的な変化に留まります7。病中期(発症後数か月以内)になるとPSD出現の頻度が飛躍的に高まり、この中期がPSDを最も高頻度かつ明瞭に捉えられる段階と言えます1。実際前述のように、典型例では発症後およそ2~3か月以内に大多数の患者でPSDが記録されます4。
病末期には脳波上のPSDは再び減少し、終末期にはPSDが消失して脳波が平坦化する例が多く報告されています1。したがって、PSDはCJDの中期に最も出現しやすく、初期には稀で末期には消失するという頻度分布が示唆されます。
| 病期 | 発症からの期間 | PSD出現頻度 | 脳波所見の特徴 |
|---|---|---|---|
| 病初期 | 数週間程度 | 極めて低い | 非特異的徐波、不規則化 |
| 病中期 | 2~3か月以内 | 最も高い(88%程度) | 典型的PSD(約1Hz)が明瞭に出現 |
| 病末期 | 無動性無言期 | 減少~消失 | PSD消失、脳波平坦化 |
診断におけるPSDの感度・特異度
脳波上のPSDはCJDに特徴的な所見であり、CJDの臨床診断基準(孤発性CJDの「ほぼ確実例」の基準など)にも組み込まれている重要なマーカーです8。診断における感度・特異度に関する報告では、孤発性CJD全体でPSDの検出感度は約67%、特異度は約86%とされています9。別の文献でも「EEG上の周期性放電の全体感度は40~70%程度」と報告されており7、約3割以上のCJD患者では経過中に典型PSDがみられないことになります。
その理由の一つは、非典型的な亜型(例:MM2型や緩徐進行型、変異型CJDなど)ではPSDを示さない症例が珍しくないためです8。一方、PSDの特異度(他疾患では見られない度合い)は比較的高いものの100%ではありません。亜急性硬化性全脳炎(SSPE)や代謝性脳症(肝性昏睡等)における三相波性周期性放電など、プリオン病以外でも稀に類似の周期性脳波が出現することが知られており、これがPSD特異度における主な制限要因です。
ただし急速進行性認知症+ミオクローヌスといったCJDの臨床像を背景に典型的PSD所見が得られた場合、その組み合わせの診断的価値は極めて高く、事実上CJDを強く示唆する所見と考えられます6。実際、PSDが典型所見として認められた症例では、臨床的にはほぼCJDと断定でき、確定診断のため脳生検を行わなくともよい場合が多いとも指摘されています10。
脳波検査の最適なタイミングと施行頻度
CJDが疑われる患者に対し脳波検査を行う際は、適切なタイミングで繰り返し検査することが重要です。PSDは病初期には現れにくく中期以降に出現するため、初回検査でPSDを認めなくても経過観察下で数週~1か月後(約4~6週後)に再度脳波を記録することが推奨されます4。特に強い疑いが残る場合には、病勢の進行に応じて複数回の脳波検査を施行し、PSD出現の有無を経時的に評価すべきです。
前述のように典型的なCJDであれば遅くとも発症後12週(3か月)程度までにはPSDが検出されるのが通常であり、発症後約3か月を過ぎても適切な条件下の脳波検査でPSDが全く確認できない場合には、典型的CJDの可能性は低いと考えられます11。そのような場合には診断の再評価を行い、他の補助診断(頭部MRIの拡散強調画像所見、脳脊髄液中の14-3-3蛋白やRT-QuIC法などプリオン検査)を組み合わせて総合的に判断することが望ましいでしょう。
脳波検査の実施戦略
必要に応じては脳生検で脳組織を病理学的に確認する選択も検討されます。実際の臨床現場でも、初回の脳波所見が陰性でも後にPSDが出現して診断に至った例や、逆に終末期にはPSDが消失した例が報告されており3、脳波検査は病期を通じて適切な間隔で繰り返すことがCJD診療上重要とされています。
- 初回検査でPSD陰性の場合:4~6週後に再検査
- 強い疑いが残る場合:複数回の経時的評価を実施
- 発症後3か月経過してもPSD陰性:他の補助診断法を追加
- 終末期にはPSDが消失することに注意
📚 参考文献
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_15.pdf
https://journals.lww.com/chri/fulltext/2024/11010/evolution_of_clinical,_electroencephalographic,.13.aspx
https://sapmed.repo.nii.ac.jp/record/12064/files/n0289277435139.pdf
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3512597/
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202011029A-buntan20_0.pdf
https://prion.umin.jp/guideline/pdf/guideline_temp_2023.pdf