「両足のむくみですね。弾性ストッキングを試しましょうか」——その前に、外来で確かめておきたいことがあります。両下肢浮腫(両足のむくみ)の外来でつまずくのは、①両側だからと静脈のせいに決めつける ②薬剤性を見ずに利尿薬を足す ③足の脈も心臓も確認せずに圧迫を勧めるの3か所です。本記事は、日本循環器学会の4つのガイドライン(末梢動脈疾患2022・肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症2017・同2025・心不全2025)とPubMedで実在を確認したエビデンスだけを使って、片足か両足かの最初の振り分け・お薬手帳を先に見る手順・弾性ストッキングを勧める前に確認する禁忌(動脈だけではありません)を、そのまま使える外来トーク例と患者配布用ハンドアウトの形にまとめました。内科医・かかりつけ医向けです。
監修:今村久司(脳神経内科専門医・総合内科専門医)
目次
この記事の使い方——「むくみですね、様子を見ましょう」の先を担当する
両下肢浮腫は外来で毎日のように出会う訴えですが、つまずきどころは病態の解説ではありません。①その「両足のむくみ」は本当に良性か(心臓・肺の見落とし)②むくみを起こしている薬はないか③「むくみには弾性ストッキング」と言う前に何を確認するか——この3点です。本記事の中心は③で、結論を先に書くと、弾性ストッキングを勧める前に、両足の脈(足背動脈・後脛骨動脈)を触る。触れない・弱い・冷たいなら、ストッキングを出す前にABIを測る。そして、動脈だけでなく心不全・糖尿病の神経障害・急性炎症・材料アレルギーも確認する、です。
先に、正直に書いておくこと
このシリーズの方針は「守れない禁止事項を増やさない」「エビデンスが弱いところは弱いと書く」です。両下肢浮腫でそれに当たるのは次の点です。
- 足首の運動(下腿ポンプ運動)の効果は、証明されていない。非潰瘍性の慢性静脈不全に対する運動療法のCochraneレビューは2試験54人しか見つけられず、結論は「There is currently insufficient evidence available to assess the efficacy of physical exercise in people with CVI.」、エビデンスの質はvery lowです13。「やって害はない」水準で伝えます
- むくみに対する減塩の数値目標は、心不全ですら確立していない。2025年改訂版心不全診療ガイドラインは「塩分の過剰摂取は心不全増悪の誘因となりうるが,心不全患者における適切な塩分摂取量のエビデンスは確立していない.」と正直に書いています4。「むくみには塩分◯g」という数字は本記事にも書きません
- 弾性ストッキングが「効く」と言えるのは、主に静脈性潰瘍と飛行機。Cochraneレビューが示すのは静脈性潰瘍の治癒までの時間 HR 2.17[1.52–3.10](moderate-certainty)であって14、日常の「むくみ」ではありません。航空機搭乗者のレビューの浮腫の減少はlow-certainty evidenceで、著者自身が「The certainty of the evidence was limited by the way that oedema was measured.」と留保しています15
- 足の脈の触診は、万能ではない。測り方によって感度は大きく変わり、低い報告では6割程度しか拾えません16,17,18(詳細は⑤)。触診は「触れない人を拾ってABIに送る」ためのふるいであって、除外診断の決め手ではありません
- 両側性でもDVTは否定できない。2017年改訂版の肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症ガイドラインは「両側性の下肢腫脹は9.1~18.4%と少なく,DVTの確率は下がるが否定はできない」と書いています3
- 「赤い=蜂窩織炎」も決めつけられない。下腿蜂窩織炎で入院した259人のうち79人(30.5%)が誤診(pseudocellulitis)だったという報告があります19。ただし、片側の赤み・熱感・痛みが「受診すべきサイン」であることは変わりません(安全側に倒します)
【一覧】両下肢浮腫の外来テンプレート
| 項目 | 外来での要点 | 根拠 |
| ①片足か両足か | 片側の急な腫脹・疼痛・暗赤色はDVT、鮮紅色の発赤・熱感は蜂窩織炎を疑い当日評価。ただし両側でもDVTは否定できない | JCS 2017 p.573、JCS 2025 p.252 |
| ②心臓・肺の見落とし | 息切れ・起坐呼吸・発作性夜間呼吸困難・体重増加(>2 kg/週)を必ず聞く | 心不全GL2025 表124、Blankfield 19988 |
| ③薬剤性 | お薬手帳を先に見る(DHP系Ca拮抗薬・ガバペンチノイド・NSAIDs・ピオグリタゾンなど)。利尿薬を足す前に原因薬を止める・減らす・変える | Therapeutics Letter 162 (June 2026)5 |
| ④原因の当たり | 高齢者の慢性両側性はまず静脈不全。非圧痕性・ゴワつく皮膚はリンパ浮腫。急性(72時間未満)・呼吸困難はその場で評価 | Ely 20067、Trayes 201310 |
| ⑤圧迫の前の安全確認 | 足の脈を触る→触れない・弱いならABI。加えて心不全(NYHA IVには推奨しない・NYHA IIIはルーチン使用を推奨しない)・糖尿病性ニューロパチー・急性炎症・材料アレルギーを確認 | Rabe 2020 Rec 12/17/216、JCS 2017 p.653、JCS 2025 p.572 |
| ⑥共通の生活指導 | 挙上・長時間同姿勢の中断・体重の自己記録・スキンケア。足首の運動は「やって害はない」水準、塩分は個別化 | Ely 20067、Junge 202224、Araujo 201613、心不全GL20254 |
①まず、片足か両足か
最初の分かれ道は左右差です。DVT(深部静脈血栓症)について、2017年改訂版ガイドラインは次のように書いています。
腫脹は,わが国では片側下肢発現が81.6~90.9%(右29.8~33%,左48.6~60.1%)で,左側発現が約1.5~2倍多い.両側性の下肢腫脹は9.1~18.4%と少なく,DVTの確率は下がるが否定はできない.3
つまり「両足だから血栓ではありません」とは言えません。DVTの症状は、2025年改訂版では「片側肢の腫脹や浮腫,疼痛,色調変化,熱感,下腿の把握痛」とされます2。一方で、症状だけで確定はできません。
DVTの際にみられる症状の感度,特異度および精度の検討では,浮腫がそれぞれ97%,33%,70%,疼痛が86%,19%,58%,皮膚温上昇が72%,48%,62%であり,診断精度の高い症状はない.3
色調で当たりをつける
蜂窩織炎,リンパ管炎などの炎症性疾患では鮮紅色であるのに対して,DVTでは血栓性静脈炎がおもな場合は鮮紅色となることもあるが,静脈うっ滞がおもな場合は暗赤色となる.静脈うっ滞では下肢挙上で色調が薄くなり下垂で濃くなるが,炎症性疾患では挙上による変化はあまり認められない.3
「赤い脚」については、蜂窩織炎の誤診率の高さも知っておく価値があります。下腿蜂窩織炎で入院した259人のうち79人(30.5%)が誤診で、誤診で入院した52人の44人(84.6%)は本来入院不要、48人(92.3%)が不要な抗菌薬を受けていました19。総説も「studies have demonstrated a surprisingly high misdiagnosis rate: nearly one-third of cases are other conditions (ie, pseudocellulitis)」としており21、最大の擬態はうっ滞性皮膚炎です。蜂窩織炎の予測モデル(ALT-70)でも、項目のなかで最も重みが大きいのは「片側性(Asymmetry)」で、著者自身が「Prospective validation of this model is needed before widespread clinical use.」と断っています20。本記事から持ち帰るのは「片側性が最も重い手がかり」という一点で十分です。
②すぐ受診・精査すべきサイン——両足=静脈と決めつけない

「両足のむくみ=静脈のせい」と決めつけた結果、心臓や肺の問題が見落とされていた、という古典的な報告があります。プライマリケア(inner city family practiceの1施設)で両下肢浮腫の外来患者58人を登録し45人(78%)が完遂した研究では、初診時の臨床印象は静脈不全32人(71%)・うっ血性心不全8人(18%)だったのに対し、検査の結果はむくみの原因としての心疾患が15人(33%)、肺高血圧ありが19人(42%)、静脈不全は10人(22%)でした8。結論はこうです。
Utilizing clinical information only, many patients with cardiopulmonary pathology were incorrectly diagnosed as having more benign conditions, most commonly venous insufficiency.8
同じ著者は、別に登録した20人(2施設・両下肢浮腫+心エコーで推定肺動脈収縮期圧>30 mmHg)のうち15人(75%)が完遂し、その9人(60%)に閉塞性睡眠時無呼吸があったとも報告していますが、n=15のさらに小さい研究です9。「両足のむくみ=睡眠時無呼吸」とは言えませんが、いびき・日中の眠気を一度は聞く価値があります。
心不全のサインを、症状と身体所見に分けて確認する
2025年改訂版心不全診療ガイドラインの表12「心不全の症状と身体所見」から、本記事に関わる2行を原文の列構成のまま示します(症状と身体所見は別の列です。混ぜないでください)4。
| 病態 | 症状(典型的) | 症状(非典型的) | 身体所見(特異的) | 身体所見(非特異的) |
| 肺うっ血/左房圧上昇 | 息切れ | 起坐呼吸/発作性夜間呼吸困難/前屈呼吸苦(Bendopnea)/夜間咳嗽 | 気道狭窄音/3音/ギャロップリズム/心尖拍動左側偏位 | Cheyne-Stokes呼吸/頻呼吸/肺ラ音 |
| 体うっ血/右房圧上昇 | 下腿浮腫/下腿以外の浮腫 | 前屈呼吸苦(Bendopnea)/腹部膨満感/食後満腹感/食欲低下 | 頸静脈怒張/末梢浮腫(下腿,臀部,陰嚢)/体重増加(>2 kg/週) | 下肺野の呼吸音減弱/打診濁音(胸水)/肝腫大/腹水 |
※原表の脚注:「表では,各症状・徴候を極力1つの代表的な病態にあてはめたが,別の病態や複数の病態により生じることもある」「上記身体所見のほか,頻脈・不整脈,心雑音は,いずれの病態もありうる」4
行動が変わる数値はひとつだけです。体うっ血の特異的な身体所見としての「体重増加(>2 kg/週)」——外来では「体重を週に1回、同じ条件で測ってください。1週間で2kgを超えて増えたら連絡してください」という指示に落とせます。もうひとつ、聞き方の工夫としてガイドラインはこう書いています。
前かがみになると息苦しさを感じる前屈呼吸苦(Bendopnea)は,頻度は多くはないが,体うっ血でも肺うっ血でもみられ,もともと心房圧が高い患者で,心房圧がさらに上昇するための症状で,30秒以内,多くは10秒前後で出現する.靴紐を結ぶときに苦しくならないかを聞いてみる.4
③お薬手帳を先に見る——薬が原因なら利尿薬は効かない

新しく出た両下肢浮腫では、検査より先にお薬手帳を開きます。Therapeutics Letter 162 (June 2026) は、薬剤性末梢浮腫を「よくある・見落とされる・可逆的な害」と位置づけ、アムロジピン/ニフェジピンを服用する高齢者の最大10%、ガバペンチン/プレガバリンの最大5%が開始1年以内に末梢浮腫を生じ、NSAIDsはナトリウム貯留により浮腫の頻度を倍にするとしています5。重要なのは次の一文です。
Because vasodilation-induced edema does not respond to diuretics, misdiagnosis may lead to prescribing cascades or unnecessary diagnostic investigations for conditions like heart failure.5
血管拡張によるむくみは利尿薬に反応しない——つまり、薬剤性を見ずに利尿薬を足すと、効かないうえに処方カスケードの入口になります。同Letterの対処は、第一が「Conduct a careful medication review targeting recent prescription changes and over-the-counter drugs such as NSAIDs.」(最近の処方変更と市販薬を含む服薬レビュー)、原因薬の候補はDHP系Ca拮抗薬・ガバペンチノイド・向精神薬・NSAIDs・ホルモン製剤、そして「If safe to do so, briefly stop, reduce, or switch the suspected culprit drug before considering new treatments.」(新しい治療を考える前に、安全なら原因薬を止める・減らす・変える)です。弾性ストッキングと下肢挙上は補助であって、原因対処の代わりではないともしています5。
薬剤別の押さえどころ
- アムロジピン(DHP系Ca拮抗薬):22試験7,226人のメタ解析で、浮腫はアムロジピン16.6% vs プラセボ6.2%(RR 2.9[2.50–3.36])。用量依存性があり、低〜中用量(2.5〜5 mg)RR 2.01[1.41–2.88]に対し高用量(10 mg)RR 3.08[2.62–3.60](交互作用 P=0.03)——中止の前に減量という選択肢があります11。ただし著者は「up to one-third of edema cases on amlodipine might not be induced by amlodipine」とも書いており、薬のせいと決めつけて他の原因の検索を止めないことも同じくらい大切です11
- ガバペンチノイド(プレガバリン・ガバペンチン):フランスのファーマコビジランス58報告(プレガバリン53・ガバペンチン5、女:男=4:1、年齢中央値77歳)では、発現までの中央値は非心原性浮腫23日[IQR 10–54]・急性心不全17日[3–30]で、60%(27/45)が増量後、中止後は中央値7日[5–13]で改善しています22。症例報告の集積であり発生率ではありませんが、「開始・増量から数週間で出て、やめれば1週間ほどで引く」という時間経過は問診に使えます
- ピオグリタゾン:チアゾリジン薬は「thiazolidinediones induce fluid retention, edema, and sometimes precipitate or exacerbate heart failure in a subset of patients」とされます23。頻度を示す一次資料は取得できなかったため、本記事では「むくみが出ることがある薬」として定性的に挙げるにとどめます
- NSAIDs:市販薬を含めて確認します。心不全診療ガイドラインも増悪因子の医学的要因として「薬剤[非ステロイド系抗炎症薬,陰性変力作用のある薬剤,抗がん剤など]」を挙げています4,5
④原因の当たりをつける早見表
危険なもの(①②)と薬(③)を外したら、残りの当たりをつけます。原因不明の下肢浮腫への総合アプローチをまとめた2006年のナラティブレビュー(著者自身が「包括的な診療ガイドラインは見つけられなかった」と書いています)によれば、高齢者で最も多い原因は静脈不全、初経〜閉経の女性で最も多いのは特発性浮腫、見落とされやすい原因が肺高血圧(しばしば睡眠時無呼吸を伴う)です7。受診タイミングの目安も実務的で、急性(72時間未満)の腫脹や呼吸困難があればその場で評価、無症状の慢性両側性浮腫の精査は次回でよいとされます7。
| 当たり | 手がかり | 根拠 |
| 静脈不全 | 両下肢の慢性浮腫はまず静脈不全。特に下垂性浮腫とヘモジデリン沈着があれば | Trayes 201310、Ely 20067 |
| リンパ浮腫 | 非圧痕性でゴワつく皮膚 | Trayes 201310 |
| 心・腎・肝 | 息切れ・起坐呼吸・体重増加(心)、尿の泡立ち・顔のむくみ(腎)、腹水・黄疸(肝)。初期検査は血算・尿検査・電解質・クレアチニン・血糖・TSH・アルブミン | Ely 20067、心不全GL2025 表124 |
| 特発性浮腫 | 初経〜閉経の女性で最も多い | Ely 20067 |
| 睡眠時無呼吸 | 閉塞性睡眠時無呼吸は肺高血圧がなくても両下肢浮腫を起こしうる。いびき・日中の眠気を聞く | Trayes 201310、Blankfield 20009 |
| その他の鑑別 | 蜂窩織炎,リンパ浮腫,リンパ管炎,廃用性浮腫,筋断裂,筋内筋間出血,筋膜炎,外傷,関節炎による腫脹,滑液嚢胞の破裂,中枢性静脈圧迫,脂肪浮腫,静脈弁不全(2017年版GLの鑑別一覧より抜粋) | JCS 2017 p.573 |
原因別の系統的な鑑別(低アルブミン血症・甲状腺・内分泌・薬剤の網羅)は全身浮腫の鑑別診断——系統的アプローチに譲ります。本記事の役割は、その手前の振り分けと、このあとの安全確認です。
⑤弾性ストッキングの前に確認すること——動脈だけではない
本記事の中心です。「むくみには弾性ストッキング」と言う前に、確認することが5つあります。
(a) 動脈——足の脈を触る。触れない・弱いならABI

圧迫療法のリスクに関する国際コンセンサス(Rabe 2020)のRecommendation 12は、こう書いています。
We recommend checking the arterial circulation status before any kind of compression therapy is initiated. If foot pulse and/or ankle pulse is weak or not palpable, ABPI should be measured and calculated prior to initiating MC therapy.6
原文は「foot pulse and/or ankle pulse(足の脈・足関節の脈)」で、日本語の一次資料では2017年改訂版ガイドラインが同じ趣旨をこう書いています。
圧迫療法は比較的安全な治療であるが,動脈血行障害のある症例では圧迫により虚血を悪化させる危険があり,下肢脈拍,冷感の確認など動脈血行の評価を着用前に施行する.3
実際の手技としては足の脈(足背動脈・後脛骨動脈)を両足で触ることになります。2022年改訂版末梢動脈疾患ガイドラインも、「間歇性跛行や安静時痛といった病歴,足部動脈触知不良や難治性潰瘍・壊疽,血管雑音聴取といった理学所見からLEADが疑われる患者」がABI測定のきっかけになるとしています1。ABIの区分は同ガイドラインの記載どおりです。
安静時ABI(ankle-brachial[pressure]index)は異常低値(0.90以下),ボーダーライン(0.91~0.99),正常(1.00~1.40),異常高値(>1.40)に区分する.(p.14)1
0.90以下では主幹動脈の狭窄や閉塞,1.40より高値では動脈の高度石灰化の存在が疑われる.(p.14〜15)1
- ABI 0.90以下=主幹動脈の狭窄・閉塞を疑う水準(診断の入口)1
- ABI<0.9=禁忌ではなく「慎重に経過を見る」水準。国際コンセンサスは「In every patient with impaired perfusion of the lower limb (ABI <0.9), the clinical effect of the MCS on leg blood supply should be carefully monitored.」としています(Rec 14)6
- 使用を控える(禁忌)ラインは両論併記:日本の2025年改訂版は「重度の末梢動脈疾患症例(足関節上腕血圧比[ABI]<0.5 または足関節圧<60 mmHg)では使用を控える.」(※この数値はDVT急性期の圧迫療法の節にあるもので、日常のむくみに対する禁忌ラインを直接示した記述ではありません)2。国際コンセンサス(Rec 21)の禁忌はABPI<0.6/足関節圧<60 mmHg/足趾圧<30 mmHg/経皮酸素分圧<20 mmHgです6
なお境界の扱いも異なります(日本GLは「0.90以下」、国際コンセンサスは「0.9未満」)。ABI 0.90前後の症例をどちらか一方の数字だけで裁定しないでください。ABPIが圧迫療法の適否判断に使われるという運用自体は、看護文献でも「ABPI compares the arterial flow of the arms and the legs, providing a ratio used to determine the presence and severity of peripheral artery disease and assess whether a patient is suitable for compression therapy.」と整理されています12。
触診は「ふるい」であって、除外の決め手ではない
脈が触れたからといって動脈は大丈夫、とは言い切れません。触診の診断精度は測り方によって大きく変わります。
- プライマリケア158人・315肢の研究では、看護師が触診し、足背動脈または後脛骨動脈のどちらかが消失していれば陽性とした場合(参照基準はドプラABIで0.9以下または1.4以上)に感度86.8%・特異度82.7%と良好でした16。ただし同研究は「Age, diabetes, and calcification (ABI ≥ 1.4) influenced the rate of a false negative finding in pedal palpation.」=高齢・糖尿病・石灰化で触知の偽陰性が増えるとも報告しています16
- 一方、1,236人の研究では、医師が両足背・両後脛骨動脈を触診し大腿部血管雑音も聴診して、ABI≤0.90のみを陽性とした場合の感度は58.2%(特異度98.3%・NPV 94.9%)でした17
- さらに古い検討は「The degree of misdiagnosis was unacceptably high, with an underdiagnosis of more than 30%.」と書きつつ、「by carefully palpating both pedal arteries under good, nonhurried conditions the reproducibility and accuracy of pulse palpation can be tolerable」=急がず両足を丁寧に触れば使える、ともしています18
「隠れた動脈病変」がどのくらいあるかについて、「むくみ外来の患者の◯%」という一次資料はありません。書けるのは集団名つきの数字だけです。2022年改訂版末梢動脈疾患ガイドラインによれば、わが国の一般住民ではABI 0.90(未満/以下)の頻度は60歳以上1~3%,70歳以上2~5%、平均年齢61歳の糖尿病患者を対象とした検討ではABI 0.90未満の頻度は7.0%、65歳以上の患者では12.7%、高血圧患者では4.7%、透析患者では10~20%、喫煙のLEAD合併に対するオッズ比は3.8倍です1。つまり高齢・糖尿病・喫煙・透析の患者では珍しくない——弾性ストッキングを考える集団と重なります。
(b) 心臓——重症心不全では圧迫しない
動脈の確認だけで完結させてはいけません。②で見たとおり、両下肢浮腫の外来には心不全の患者が相当数含まれます。その集団に対して、国際コンセンサスのRecommendation 17はこう書いています。
We recommend against applying compression in severe cases of cardiac insufficiency (NYHA IV). We also suggest against routine application of MCS in NYHA III cases.6
NYHA IVには推奨しない(recommend against)/NYHA IIIではルーチン使用を推奨しない(suggest against routine application)——この2つは強度が違う勧告で、同じ文書は続けて、厳密な適応があり臨床的・血行動態的モニタリングを行うなら慎重な使用を考慮しうるとも書いています6。日本語の一次資料も方向は同じです。2025年改訂版は「重症うっ血性心不全の患者では,皮膚障害(医療機器関連圧迫褥瘡)や疼痛増悪,心不全増悪などのリスクを慎重に評価する必要がある」2、2017年改訂版は「うっ血性心不全では心不全を増悪させる可能性がある」としています3。外来の言葉にすると、「息切れが強い・急に体重が増えている(心不全が疑わしい)あいだは、脈が触れても弾性ストッキングを始めない。先に心不全の評価をする」です。
(c) 糖尿病——足の感覚が鈍い人に自己判断で履かせない
国際コンセンサスのRecommendation 21は、禁忌の一覧に「Severe diabetic neuropathy with sensory loss or microangiopathy with the risk of skin necrosis (this may not apply to inelastic compression exerting low levels of sustained compression pressure (modified compression)).」(知覚脱失を伴う重度糖尿病性ニューロパチー/皮膚壊死リスクのある細小血管症。ただし持続圧が低い非弾性の圧迫=modified compressionにはこの限りではない)を挙げています6。締めつけすぎや圧迫創が起きても本人が気づけないためです。日本語GLも認知・知覚機能の低下を要注意としています2,3。糖尿病足病変のリスク評価とフットケアの実務は本シリーズ第19弾の領域なので、本記事では「足の感覚が鈍い糖尿病の人には、自己判断の圧迫をさせない」の一点だけ持ち帰ってください。
(d) 皮膚と急性炎症——赤く腫れて熱いあいだは始めない
2025年改訂版は「認知,知覚機能の低下,皮膚の脆弱性,急性炎症(蜂窩織炎など)を併発した患者や重症うっ血性心不全の患者では,皮膚障害(医療機器関連圧迫褥瘡)や疼痛増悪,心不全増悪などのリスクを慎重に評価する必要がある」2、2017年改訂版は「認知・知覚機能の低下した患者,皮膚の脆弱な患者,浮腫の強い患者は圧迫による皮膚障害(医療機器関連圧迫創)をストッキングの辺縁,関節部,骨突出部に起こしやすい」とし、蜂窩織炎・血栓性静脈炎などの急性炎症の併発症例では疼痛を増悪させる可能性があるとしています3。
(e) 材料アレルギー
Recommendation 21は「Confirmed allergy to compression material」(圧迫材への確認されたアレルギー)も禁忌に挙げています6。「以前、着圧のソックスやサポーターでかぶれたことはありますか」と一言聞くだけです。
圧(mmHg)を聞かれたら——数値の出どころと限界
圧の数値として書けるのは、2025年改訂版(DVT・PTS・静脈性潰瘍の文脈)の記載だけです。急性期は「圧迫圧は25 mmHgと35 mmHgで効果に有意差がないとされるため,装着の容易さやアドヒアランスを考慮し,25 mmHgが選ばれる傾向にある」、慢性期も「着脱の容易な20~30 mmHgのものが推奨される.浮腫や疼痛などの症状改善に関しては,足関節での圧迫圧18 mmHg以上から開始することが通常である.潰瘍治療では足関節部で40 mmHg以上を目標にするが,40 mmHgより低圧でも有効性が示されている」、タイプは「大腿部に浮腫がなければ膝上より膝下タイプが適する」とされています2。これらはいずれもDVT・血栓後症候群・静脈性潰瘍の文脈の数値であり、「日常のむくみに何mmHgが最適か」を示した一次資料はありません。なお、慢性静脈疾患については欧州血管外科学会(ESVS)の2022年ガイドライン25、下肢の末梢動脈疾患については米国ACC/AHAの2024年ガイドライン26も出ていますが、本記事の数値はいずれも本文を一次取得できた日本のガイドラインと国際コンセンサス文書から採っています。
⑥共通の生活指導——効果が未証明のものは未証明と言う
- 下肢挙上:静脈不全の治療の基本は下肢挙上・弾性ストッキング・時に利尿薬とされます7(ストッキングは⑤の確認を通ってから)。座って足を台に上げる時間を1日のどこかに作る、という言い方で十分です
- 長時間の同じ姿勢を中断する:静脈が健常な被験者でも、15分間の立位で下腿容積が平均63 mL増加(p<0.001)し、不快感も増えました24。非ランダム化・15人・立位15分の小研究なので言えるのは「静脈が正常な人でも立ちっぱなしは脚が張る」までですが、「1時間に1回は姿勢を変える・数歩あるく」という指導の説明には十分です
- 足首の運動:効果は証明されていません(2試験54人・very low13)。「やって害はない」水準で勧め、「これで治る」とは言いません
- 塩分:数値目標は書きません。心不全診療ガイドライン2025でさえ「心不全患者における適切な塩分摂取量のエビデンスは確立していない」「個々の症例で食事摂取量などを考慮し,個別化した塩分管理を行うことが重要である」としています4。「摂りすぎは避ける。目標は個別に決める」でとどめます
- 体重の自己記録:週1回・同じ条件。1週間で2kgを超える増加は連絡のライン(体うっ血の特異的な身体所見「体重増加(>2 kg/週)」に基づく)4
- スキンケア:スキンケアは潰瘍予防に重要で、うっ滞性皮膚炎は保湿とステロイド外用が基本です10。乾燥とかき壊しは蜂窩織炎の入口にもなります
生活指導の枠を超えるサイン——紹介の目安
- 片足だけ急に腫れて痛む・暗赤色——DVTを疑い当日〜翌日に評価2,3
- 片足の鮮紅色の発赤・熱感・痛み(+発熱)——蜂窩織炎を疑い受診(ただし約3割は非感染性の擬態19)
- 息切れ・起坐呼吸・発作性夜間呼吸困難/1週間で2kgを超える体重増加——心不全を疑い評価4
- 足の脈が触れない・冷たい・間欠性跛行——弾性ストッキングを渡す前にABI測定1,3,6
- 心不全が疑わしい(息切れ・急な体重増加/NYHA III–IV)——弾性ストッキングを始めない。心不全の評価を先に(NYHA IVには推奨しない/NYHA IIIはルーチン使用を推奨しない)2,3,6
- 足の感覚が鈍い糖尿病(知覚脱失を伴うニューロパチー・細小血管症)——自己判断で圧迫しない。皮膚壊死のリスクがあるため医療者の判断で2,6
- 片足が赤く腫れて熱い(急性炎症の疑い)——その足に圧迫を始めず、まず感染の評価2,3
- 圧迫材(ゴム・繊維)で以前かぶれた——材料アレルギーは禁忌。別素材の可否を相談6
- 足関節を強く締めた跡・水疱・皮膚のただれ——ストッキングを中止して評価(医療機器関連圧迫創)3
- 尿の泡立ち・顔のむくみ・急激な全身性の浮腫——腎・肝の精査へ(初期検査:血算・尿検査・電解質・クレアチニン・血糖・TSH・アルブミン)7
DVTを疑ったあとのリスク評価と予防の体系は静脈血栓塞栓症(VTE)リスク評価2025改訂GLにまとめています。
そのまま使える外来指導トーク例
シンプル版(診察の締め・約40秒)
両足のむくみですね。いくつか確認させてください。——最近、新しく始めたお薬や、市販の痛み止めはありますか。夜、横になると息苦しくなったり、体重が急に増えたりしていませんか。
(足を診ながら)足の甲と内くるぶしの後ろの脈も、両足とも触らせてください。
むくみ対策として弾性ストッキングという選択肢はありますが、始めるとしても、足の血流と心臓の状態を確認してからにしましょう。ご自分の判断で市販の着圧ソックスを買って履き始めるのは、待ってください。それから、体重を週に1回、同じ条件で測ってください。1週間で2kgを超えて増えたら、予約を待たずに連絡してください。
くわしい版(質問が出たとき)
「両足だから、血栓ではないですよね」——両足のむくみだと血栓の可能性は下がりますが、ゼロにはなりません。片足だけ急に腫れて痛む、色が濃い紫っぽくなる、といったときは、その日のうちに連絡してください。
「弾性ストッキングを買ってきて履けばいいですか」——その前に確認したいことが4つあります。足の血流(脈が触れるか)、心臓(息切れや急な体重増加がないか)、糖尿病で足の感覚が鈍くなっていないか、皮膚の状態やかぶれの経験です。どれかに引っかかると、履くことでかえって悪くなることがあります。確認できたら、合う圧と長さを一緒に選びましょう。
「むくみの薬(利尿薬)をください」——むくみの原因がお薬(血圧の薬や痛み止めなど)の場合、利尿薬は効きません。先にお薬の見直しをさせてください。原因になっているお薬を止める・減らす・変えるほうが先です。
「塩分はどこまで減らせばいいですか」——実は「むくみには1日◯グラム」という確立した数字はありません。摂りすぎは避けつつ、あなたの食事の量や他の病気に合わせて個別に決めましょう。
「運動すれば治りますか」——足首を動かす運動が「むくみに効く」という証明は、まだありません。やって害になるものではないので続けて構いませんが、それより確実なのは、立ちっぱなし・座りっぱなしを1時間に1回は中断することと、足を上げる時間を作ることです。
患者配布用A4ハンドアウト
本記事の内容を、そのまま外来で配布できるA4資料にまとめました。すぐ受診すべきサイン・お薬の見直し・弾性ストッキングを自己判断で始めない理由・体重の測り方(週1回・2kgのライン)を、数値や専門用語を最小限にした患者さん向けの言葉で整理しています。
スマートフォンで見る患者さん向けにQRコードを載せてあります。ハンドアウト一覧には、本シリーズの他の資料も掲載しています。
※本記事は外来患者指導テンプレート・シリーズ第30弾です。直前の第29弾は緊張型頭痛の外来指導テンプレートで公開中です。あわせてご覧いただくと、外来生活指導の型が見えてきます。
まとめ
- 最初の分かれ道は片足か両足か。片側の急な腫脹・疼痛・暗赤色はDVT、鮮紅色の発赤・熱感は蜂窩織炎を疑います。ただし両側性でもDVTは9.1〜18.4%あり、否定はできません3
- 「両足=静脈のせい」と決めつけない。臨床印象だけでは心臓・肺の問題が良性の病名に誤診されていた、という古典的な報告があります(n=45・単施設・1998年)8。息切れ・起坐呼吸・体重増加(>2 kg/週)を必ず聞きます4
- お薬手帳を先に見る。Ca拮抗薬・ガバペンチノイド・NSAIDs・ピオグリタゾンなどが候補で、血管拡張によるむくみは利尿薬に反応しません。薬を足す前に、原因薬を止める・減らす・変える5
- 弾性ストッキングを勧める前に、両足の脈を触る。触れない・弱い・冷たいならABIを先に測ります3,6。触診は万能ではなく、低い報告では感度6割程度——「触れたから大丈夫」の根拠にはしません16,17,18
- ABIの数値は3段階。0.90以下=狭窄・閉塞を疑う1/<0.9=慎重に経過を見る(禁忌ではない)6/禁忌ラインは日本GL=ABI<0.5または足関節圧<60 mmHg(DVT急性期の文脈)2と国際コンセンサス=ABPI<0.66の両論併記
- 確認するのは動脈だけではない。重症心不全(NYHA IVには推奨しない/NYHA IIIはルーチン使用を推奨しない)6、知覚脱失を伴う重度糖尿病性ニューロパチー6、急性炎症(蜂窩織炎など・ただし国際コンセンサスは抗菌薬併用下の圧迫をsuggestしており両論あり)2,3,6、材料アレルギー6——ここを飛ばすと危険な指導になります
- 生活指導は正直に。足首の運動は効果未証明(やって害はない)13、塩分の数値目標は確立していない(個別化)4、ストッキングが「効く」と言えるのは主に静脈性潰瘍14と航空機搭乗15の文脈です
よくある患者さんの質問(FAQ)
両足ともむくんでいるなら、血栓の心配はないですよね?
血栓(深部静脈血栓症)は片足に出ることが多いので可能性は下がりますが、ゼロにはなりません。両足のむくみでも血栓のことはあります。特に、片足だけ急に腫れて痛む、色が濃い紫っぽくなる、といった変化が出たときは、その日のうちに受診してください。
市販の着圧ソックスを自分で買って履いてもいいですか?
自己判断で始める前に、一度診察を受けてください。足の血流(脈が触れるか)、心臓の状態、糖尿病で足の感覚が鈍くなっていないか、皮膚の状態やかぶれの経験——このどれかに引っかかると、履くことでかえって悪くなることがあります。確認がすめば、合う圧と長さを一緒に選べます。
弾性ストッキングは、どのくらいの強さ(圧)を選べばいいですか?
目的(血栓のあと、潰瘍の治療、症状の緩和など)によって適した圧が違い、「日常のむくみにはこの圧が最適」と決めた研究はありません。強い圧ほど効くわけではなく、きつすぎると続けられなかったり皮膚を傷めたりします。医師・看護師と相談して、続けられる圧と長さ(多くはひざ下タイプ)を選んでください。
むくみに利尿薬(水を出す薬)をもらえますか?
むくみの原因によります。特に、血圧の薬(アムロジピンなど)や痛み止め、一部の神経の薬が原因のむくみには、利尿薬は効きません。その場合は、原因になっているお薬を止める・減らす・変えるほうが先です。まずお薬手帳を持って相談してください。
塩分は1日何グラムまでにすればいいですか?
「むくみには1日◯グラム」という確立した数字は、実はありません。塩分の摂りすぎがむくみや心臓の負担につながることは確かなので、摂りすぎは避けつつ、食事の量や他の病気に合わせて主治医と個別に決めるのが現実的です。
ふくらはぎの運動をすれば、むくみは取れますか?
足首やふくらはぎの運動が「むくみに効く」という証明は、まだありません。やって害になるものではないので続けて構いません。あわせて、立ちっぱなし・座りっぱなしを1時間に1回は中断すること、足を上げる時間を作ること、体重を週1回測ることをおすすめします。1週間で2kgを超えて増えたときは受診してください。
参考文献
- 日本循環器学会/日本血管外科学会 合同ガイドライン. 2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン. 全文PDF(日本循環器学会)(2025年3月発行のフォーカスアップデート版あり。本記事のABI区分は2022年改訂版による)
- 日本循環器学会/日本肺高血圧・肺循環学会 合同ガイドライン. 2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン. 全文PDF(日本循環器学会)
- 日本循環器学会ほか. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版). 全文PDF(日本静脈学会)
- 日本循環器学会/日本心不全学会 合同ガイドライン. 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン. 全文PDF(日本循環器学会)
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※本記事は医療従事者向けの一般的な情報提供です。診断・治療方針は、必ず個々の患者さんの病歴・診察所見に基づいて主治医が判断してください。ガイドラインの推奨は改訂される可能性があるため、実臨床では最新の一次資料をご確認ください。
