検査をしても異常がないのに体調不良を訴えて繰り返し受診する患者、いわゆる不定愁訴・身体症状症(MUS:medically unexplained symptoms)の患者への対応は、プライマリケア・総合内科・脳神経内科の外来で誰もが直面する難題です。ありふれた身体症状はプライマリケア受診のほぼ半数を占め、そのうち器質疾患が原因と判明するのは1年で約10〜15%にすぎません1。「丁寧に診て、検査で異常がないことを確認する」だけでは、患者の不安は消えず、かえって頻回受診が固定化してしまうことすらあります。
本記事は、不安が強い不定愁訴・頻回受診の患者への具体的な診療対応を、外来でそのまま使える7つのステップに落とし込みました。器質疾患の除外(safety netting)、検査の打ち切りと「異常なし」の伝え方、症状を肯定する説明モデル、悪化サインの手渡し、予定起点の定期受診、うつ・不安・孤独のスクリーニング、そして精神科・心療内科への紹介の言い回し(紹介状文例つき)まで――エビデンスをPubMedで一次照合し、声かけのフレーズ集とともに解説します。ゴールは不安をゼロにすることではなく、「重大疾患を見逃さず・医原性の害を作らず・治療的な関係を築く」誠実で持続可能な対応です。
監修:今村久司(脳神経内科専門医)
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本記事の解説動画は上部に埋め込みました。外来でそのまま使える声かけ例文・紹介状文例・safety netting のフレーズを収載しています。
1. 不定愁訴・MUS・身体症状症――用語と「外来の3〜4割」という現実
まず用語を整理します。臨床で言う「不定愁訴」は、英語圏のMUS(medically unexplained symptoms:医学的に説明できない身体症状)/MUPS(physical symptoms)にほぼ対応する記述的な呼び名で、診断名ではありません。一方、DSM-5-TRの「身体症状症(Somatic Symptom Disorder)」は、1つ以上の苦痛な身体症状に加えて「その症状に対する過度の思考・感情・行動」が6か月以上続くことを要件とし、「症状が医学的に説明できないこと」を要件としない点が以前の身体表現性障害と決定的に異なります。つまり、器質疾患があっても、それへの反応が過剰なら身体症状症になり得ます。重病への強い不安が主で身体症状が軽微/ない場合は病気不安症(Illness Anxiety Disorder)です13。
頻度は無視できません。ありふれた身体症状はプライマリケア受診の約半数を占め、器質的原因が見つかるのは1年で約10〜15%1、MUPS全体ではプライマリケア受診の10〜35%を占めると報告されています2。「外来の3〜4割は、検査で説明しきれない症状の相談」――この現実を前提に診療を組み立てることが出発点です。
2. 【ステップ1】まず器質疾患を除外する――「本当にMUSか?」
不定愁訴対応の大前提は、「MUSと決めつける前に、本当にMUSかを問う」ことです。差別化と安全性は両立します。初診では病歴・身体所見を軸に、症状とリスクに見合った検査でレッドフラッグ(危険サイン)を確認します。重要なのは、不安の強い患者ほど「またこの人か」とアンカリングが働き、新規の器質疾患を見逃すリスクが上がる点です。診断の不確実性は診断エラーの最大の寄与因子の一つで、未分化症状の多い外来でこそ起こりやすいことが知られています4。
見逃してはいけないレッドフラッグ(再評価のトリガー)
| 領域 | レッドフラッグの例 |
| 全身 | 意図しない体重減少、発熱の遷延、寝汗、急速な全身状態の悪化 |
| 神経 | 突然発症の激しい頭痛、片側の麻痺・構音障害・視野障害、進行性の局所神経症状、夜間/早朝に増悪する頭痛 |
| 循環・呼吸 | 労作性の胸痛、安静時/夜間の呼吸困難、失神 |
| 消化器 | 嚥下困難、吐血・下血、黄疸、新規発症の持続する腹痛 |
| その他 | 50歳以降の新規発症、夜間痛、炎症反応/血算の明らかな異常、悪性腫瘍・免疫不全の既往 |
3. 【ステップ2】検査の"打ち切り"と「異常なし」の伝え方(医原性回避)
ここが最も誤解されているポイントです。「不安が強いから、念のため検査して安心させよう」という戦略は、エビデンス上ほとんど機能しません。重篤疾患の事前確率が低い患者を対象とした14件のRCT・3,828例のメタアナリシスでは、診断検査は病気への心配(OR 0.87)・不安(SMD 0.06)・症状の持続(OR 0.99)をほとんど改善しませんでした3。安心効果は得られても短期的で、むしろ「検査されるほど重病かもしれない」という認知を強め、次の検査要求を生む悪循環になりかねません。
一方で同メタアナリシスは、検査がその後の受診回数を小幅に減らしうる(外れ値除外後 OR 0.77)ことも示しています3。つまり検査は「不安を消す道具」ではなく「事前確率に基づいて器質疾患を除外する道具」と割り切り、適応のある検査を初期にまとめて行い、陰性なら"引き際"を決めるのが合理的です。
「異常なし」を伝えるときのコツ
ポイントは3つ。①陰性結果を"成果"として位置づける(除外できたことの価値を言語化)、②症状の実在を明確に認める(「異常なし」=「症状なし」ではない)、③次のステップ(説明モデル)へ橋渡しする。これで「あしらわれた」感を避けられます。
4. 【ステップ3】「異常なし」で終わらせない――陽性の説明モデル
除外(ネガティブな説明)だけでは患者は納得しません。「なぜ症状が出るのか」を前向きに説明する陽性の説明モデルを提示します。ただし過大評価は禁物で、GP主導の reattribution(症状を心理的要因に帰属し直す手法)単独では有意な効果が示されなかったことも報告されています9。説明は「押しつける再解釈」ではなく、患者の解釈モデルを聞いたうえで橋渡しする対話として行うのが要点です。
そのまま使える説明モデル・比喩フレーズ集
5. 【ステップ4】safety netting――悪化サインを患者に手渡す
日本語の公開資料でほぼ語られていないのがsafety netting(安全網)です。これは「今は重大な病気を示す所見はないが、もしこういう変化が出たら、迷わず・早めに受診してください」という、不確実性を患者と共有しながら安全を担保する説明です4。器質疾患を100%否定できない外来で、見逃しの不安(医師側)と取り残される不安(患者側)の両方を下げます。
safety netting の声かけテンプレート
safety netting は「悪化したら来い」という突き放しではなく、"何がなければ落ち着いてよいか"という安心の線引きでもあります。これを明示することで、不安駆動の臨時受診を減らしつつ、本当に危険なときの受診遅れを防げます。
6. 【ステップ5】予定起点の定期受診プロトコル
頻回受診への最も実践的な対策が、「症状が出たら来る(symptom-triggered)」から「あらかじめ決めた日に来る(scheduled)」への転換です。症状起点の受診は「症状を訴える→受診できる」という随伴性を強め、新たな症状の産生・報告を促してしまいます。一方、短時間でも定期的な受診をあらかじめ設定すると、患者は「次に話せる場が確保されている」と安心し、臨時受診の必要性が下がります。
このアプローチを支えるのが、古典的なSmithらの精神科コンサルテーション研究です。身体化障害患者へのコンサルテーション(主治医への管理助言)により、四半期医療費が53%減少し、健康状態や満足度は損なわれませんでした6。完全な身体化障害に至らない閾値下の不定愁訴レベルでも、年間医療費が約33%減少し身体機能が改善しています7。同様の管理助言による医療費削減と機能改善は、別のRCTでも再現されています8。鍵は「来院頻度の管理」と「短時間でも継続するケア」でした。
7. 【ステップ6】背景のスクリーニング(うつ・不安・孤独)
不定愁訴・頻回受診の背景には、しばしば精神疾患と社会的要因が隠れています。持続的な頻回受診者を通常受診者と比較した症例対照研究では、頻回受診者でうつ・不安・身体表現性障害がいずれも有意に多く(P<0.001)、健康不安・痛み・QOL低下・未婚も多いと報告されています5。背景を診療フローに組み込みましょう。
外来で使えるスクリーニング
| 対象 | 尺度 | メモ |
| 身体症状の負荷 | SSS-8(8項目)/PHQ-15(15項目) | 両者は高相関(r=0.83)。時間制約の外来では短いSSS-8が実用的10 |
| うつ | PHQ-9 | 背景うつの拾い上げに。陽性なら治療・協働ケアを検討 |
| 不安 | GAD-7 | 全般性不安・病気不安の評価に |
| 社会的要因 | 独居・孤立の聴取 | 孤独感・社会的孤立・独居は死亡リスクを26〜32%上げる水準11。受診が社会的接点になっていないか |
8. 【ステップ7】精神科・心療内科への紹介の出し方
紹介は最後の砦ですが、出し方を誤ると「厄介払いされた」「気のせいだと言われた」と受け取られ、医療不信とドクターショッピングを招きます。鍵は「見捨てない協働の紹介」――完全な手放しではなく、自分も主治医として継続フォローする姿勢を示すことです。Smithらの研究で費用や機能を改善したのも、精神科が主治医を"置き換える"のではなく"助言で支える"コンサルテーションモデルでした6,7。
紹介の言い回し(OK / NG)
紹介状(診療情報提供書)の文例
9. 困った場面別Q&A・ドクターショッピングと主治医一本化
不定愁訴の患者が複数医療機関を渡り歩くと、検査の重複・多剤併用・情報分断が起こり、安全性もコストも悪化します。対策の核心は「主治医を一本化し、窓口を1人に集約する」ことです。頻回受診者は複雑な多疾患併存を抱えることが多く、GPが心理職と緊密に連携する"ブローカレッジ(窓口集約)"モデルが推奨されています5。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 不定愁訴と身体症状症はどう違いますか?
「不定愁訴」は検査で説明しきれない身体症状の記述的な呼び名(≒MUS)で診断名ではありません。DSM-5-TRの「身体症状症」は、苦痛な身体症状に対する過度の思考・感情・行動が6か月以上続くもので、症状が医学的に説明できるか否かは問いません13。
Q2. 不安が強い患者を「念のため検査」で安心させるのは有効ですか?
低リスク患者では、検査は不安・症状の持続をほとんど改善しないことがメタアナリシスで示されています3。検査は「安心させる道具」ではなく「適応に基づき除外する道具」と割り切り、陰性なら引き際を決めるのが合理的です。
Q3. 「気のせい」と言わずに説明するには?
陰性結果を成果として位置づけ、症状の実在を明確に認めたうえで、自律神経・感作などの陽性の説明モデルへ橋渡しします。手法そのものより患者-医療者の関係性が効果を左右します9。
Q4. 頻回受診を減らすにはどうすればよいですか?
症状起点の受診を、あらかじめ決めた予定起点の定期受診へ転換します。コンサルテーションを介した管理で医療費が約33〜53%減少した報告があります6,7。safety netting の併用が前提です。
Q5. 精神科紹介を嫌がる患者にはどう伝えますか?
「心と体はつながっている」「私も体の面は診続ける」という協働フレーミングで、見捨てない紹介として提示します。「異常なし」「気のせい」「うちでは診られない」はNGワードです。
Q6. 独居高齢者の頻回受診で背景に何を疑いますか?
うつ・不安・身体症状症に加え、孤独・社会的孤立を必ず評価します。孤独感・社会的孤立・独居は死亡リスクを26〜32%高める水準であり11、受診が唯一の社会的接点になっていないか確認します。
参考文献
※文献情報は PubMed で逆引き照合済み(According to PubMed)。各DOIは原著へのリンクです。
- Katon WJ, Walker EA. Medically unexplained symptoms in primary care. J Clin Psychiatry. 1998;59 Suppl 20:15-21. PMID: 9881537. PubMed
- Hoedeman R, et al. Consultation letters for medically unexplained physical symptoms in primary care. Cochrane Database Syst Rev. 2010;(12):CD006524. DOI
- Rolfe A, Burton C. Reassurance after diagnostic testing with a low pretest probability of serious disease: systematic review and meta-analysis. JAMA Intern Med. 2013;173(6):407-16. DOI
- Alam R, et al. Managing diagnostic uncertainty in primary care: a systematic critical review. BMC Fam Pract. 2017;18(1):79. DOI
- Patel S, et al. Clinical characteristics of persistent frequent attenders in primary care: case-control study. Fam Pract. 2015;32(6):624-30. DOI
- Smith GR, Monson RA, Ray DC. Psychiatric consultation in somatization disorder. A randomized controlled study. N Engl J Med. 1986;314(22):1407-13. DOI
- Smith GR, Rost K, Kashner TM. A trial of the effect of a standardized psychiatric consultation on health outcomes and costs in somatizing patients. Arch Gen Psychiatry. 1995;52(3):238-43. DOI
- Rost K, Kashner TM, Smith RG. Effectiveness of psychiatric intervention with somatization disorder patients: improved outcomes at reduced costs. Gen Hosp Psychiatry. 1994;16(6):381-7. DOI
- Leaviss J, et al. Behavioural modification interventions for medically unexplained symptoms in primary care: systematic reviews and economic evaluation. Health Technol Assess. 2020;24(46):1-490. DOI
- Gierk B, et al. Assessing somatic symptom burden: a psychometric comparison of the PHQ-15 and the SSS-8. J Psychosom Res. 2014;78(4):352-5. DOI
- Holt-Lunstad J, et al. Loneliness and social isolation as risk factors for mortality: a meta-analytic review. Perspect Psychol Sci. 2015;10(2):227-37. DOI
- Simon GE, Moise N, Mohr DC. Management of Depression in Adults: A Review. JAMA. 2024;332(2):141-152. DOI
- Tuttle MC, et al. The Evaluation and Treatment of Somatic Symptom Disorder in Primary Care Practices. Prim Care Companion CNS Disord. 2024;26(1). DOI
※本記事は医療従事者向けの情報提供であり、個々の患者の診断・治療を保証するものではありません。検査・紹介・薬物療法の適応は、最新のガイドラインと各施設の体制に応じてご判断ください。
