脳梗塞急性期の血圧はどこまで下げるか|再灌流療法の有無で変わる降圧の判断【ガイドライン2025・AHA2026対応】

脳梗塞急性期の血圧はどこまで下げるか|再灌流療法の有無で変わる降圧の判断【ガイドライン2025・AHA2026対応】

脳梗塞急性期の血圧管理は、資料ごとに書いてあることが食い違って見えます。しかし実際に割れているのは推奨ではなく場面で、再灌流療法(血栓溶解療法・血栓回収療法)を行うのか、すでに行ったのかで目標値が入れ替わっているだけです。しかも近年の無作為化試験が示したのは、下げすぎるとかえって機能予後が悪くなるという反直感的な結果でした。本記事は入院中の急性期管理の解説であり、外来で降圧薬を自己判断で中止してよいという話ではありません。脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕AHA/ASA 2026の一次資料にあたり、220/120・185/110・180/105・140 という数字がそれぞれどの場面のものかを整理します。

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脳梗塞急性期の降圧判断フロー:再灌流療法の有無と時期で目標血圧が変わることを示す図

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キーメッセージ
①脳梗塞急性期の降圧は原則として行わない(推奨度D)。例外は再灌流療法を行う場合と、SBP 220/DBP 120 を超えて持続する場合などに限られます。②再灌流療法を行うなら数字は逆に厳しくなり、血栓溶解療法は 185/110 未満、投与後24時間は 180/105 未満、血栓回収後は速やかに SBP 180 以下へ。③そのうえでSBP 140 以下への積極的降圧は避ける。複数の無作為化試験で機能予後が悪化する方向の結果が出ています。

① 推奨が割れて見えるのは、場面が違うだけ

「脳梗塞急性期は下げない」と教わった一方で、「血栓溶解療法の前には下げる」「血栓回収のあとは 180 以下に」とも言われます。矛盾しているように見えますが、これらは同じ患者の同じ瞬間についての話ではありません。再灌流療法をしないのか、これからするのか、もう終わったのか ── この3つの場面で、目標が入れ替わります。

日本の指針は 2025年8月30日に刊行された『脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕』で更新されました。中核項目である「2-1 全身管理(2)血圧、脈、心電図モニター」は今回の改訂対象に含まれています1。改訂全体の見取り図は脳卒中治療ガイドライン2025改訂の全体像をまとめた記事で扱っています。

改訂版の血圧に関する推奨を、数値と推奨度で並べると次のようになります。

場面 要旨 数値 推奨度/エビデンスレベル
全例 血圧・脈・心電図を継続してモニターする A/高
再灌流療法なし 急性期の高血圧に対する降圧は勧められない D/高
同上・但書 著しい高血圧が持続する場合、または大動脈解離・急性心筋梗塞・心不全・腎不全を合併する場合に限り、慎重な降圧を考慮してもよい SBP>220 または DBP>120 C/低
血栓溶解療法 投与前に基準を超えていれば降圧し、投与後24時間以内も基準を超えれば降圧する 前 185/110/後24時間 180/105 A/低
血栓回収療法 回収前の降圧は必ずしも要しない。回収後は速やかに目標へ下げる 回収後 SBP 180 以下 B/中
同上 回収中・回収後の過度な血圧低下は避ける SBP 140 以下を避ける E/中
内服再開 神経症状が安定していれば、禁忌がない限り内服再開を考慮してもよい 発症24時間以降 C/低
低血圧 著しい低血圧(ショック)は輸液・昇圧薬で速やかに是正する A/低

推奨度・エビデンスレベルは『脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕改訂項目』1による。表中の「要旨」は推奨文の逐語ではなく要約です。

この表を一枚の判断軸に畳むと、次の一文になります。再灌流療法に関わらない血圧は下げない。再灌流療法に関わる血圧は下げる。ただし下げすぎない。

② 血栓溶解療法を行うなら 185/110 未満、投与後24時間は 180/105 未満

この場面だけは、日本のガイドライン、rt-PA適正治療指針、AHA/ASA の三者が同じ数字を示しており、判断に迷う余地がありません。

『rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法 適正治療指針 第三版』は、適応外項目として「収縮期血圧(降圧療法後も 185 mmHg 以上)」「拡張期血圧(降圧療法後も 110 mmHg 以上)」を挙げています2。つまり 185/110 は「下げてから投与する」ための閾値であり、下げられなければ投与しないという線です。投与後24時間は 180/105 以下を維持します1,2。適応・禁忌の全体像はrt-PA静注療法の適応と禁忌を整理した記事にまとめています。

モニタリングの密度も指針で決まっている

rt-PA投与後の血圧測定を同一縮尺で示し、0〜2時間は15分ごとに8回、2〜8時間は30分ごとに12回、8〜24時間は1時間ごとに16回配置した図
時間幅を2時間・6時間・16時間の同一縮尺で示しています。測定回数は順に8回、12回、16回です。(クリックで拡大)

指針は血圧測定の間隔まで規定しています。投与開始から2時間までは15分ごと、2〜8時間は30分ごと、8〜24時間は1時間ごと。神経学的評価は8時間までは30分ごと、8〜24時間は1時間ごとです2「180/105 以下」は目標値であると同時に、この頻度で測り続ける前提とセットになった数字だという点が重要です。

130〜140 まで下げても転帰は改善しない

では、基準を満たしたうえでさらに下げたらどうなるか。ENCHANTED 試験がこれを検証しました。血栓溶解療法を受ける患者 2,196例を、収縮期血圧 130〜140 mmHg を目標とする強化降圧群と、180 mmHg 未満とする従来群に割り付けています。24時間平均収縮期血圧は 144.3(SD 10.2)mmHg 対 149.8(SD 12.0)mmHg と有意に分離しました(p<0.0001)が、90日の機能転帰(modified Rankin Scale のシフト解析)はオッズ比 1.01(95%CI 0.87–1.17、p=0.8702)で差がありませんでした11

一方で頭蓋内出血は 160/1,081例(14.8%)対 209/1,115例(18.7%)、オッズ比 0.75(95%CI 0.60–0.94、p=0.0137)と強化降圧群で有意に少なくなりました11。出血は減るが機能予後は変わらない ── これが血栓溶解療法における下げすぎの評価です。害が明確に出るのは、次章の血栓回収療法後です。

降圧に用いる静注薬

適正治療指針が挙げる静注降圧薬と用量は次のとおりです2

薬剤 用量 留意点
ニカルジピン 0.5〜6 µg/kg/分 電子添文の警告欄に、脳出血急性期および脳卒中急性期で頭蓋内圧が亢進している患者へ投与する場合は、緊急対応が可能な施設で最新の関連ガイドラインを参照しつつ投与する旨の記載があります19
ジルチアゼム 5〜15 µg/kg/分 徐脈・房室ブロックに注意
ニトログリセリン 5〜100 µg/分 遮光が必要

指針には、頭蓋内圧亢進例では要注意である旨が付記されています2最終的な薬剤選択と投与法は、各施設のプロトコルと最新の電子添文に従ってください。

③ 血栓回収療法のあとは 180 以下へ、ただし 140 以下には下げない

ここが 2025年改訂で最も動いた部分です。rt-PA適正治療指針は「機械的血栓回収療法を行った後の血圧管理もアルテプラーゼ投与後の管理に準じる」としていました2。これに対して改訂2025は、血栓回収療法後を独立した推奨として切り出し、回収前の降圧は必ずしも要しないこと、回収後は速やかに収縮期血圧 180 mmHg 以下とすること(推奨度B/エビデンスレベル中)、そして回収中・回収後の収縮期血圧 140 mmHg 以下への過度な低下は避けること(推奨度E/エビデンスレベル中)を明記しました1

推奨度Eは「行わないよう勧められる」に相当します。単に「根拠がない」のではなく、下げること自体が害になりうるという位置づけに変わった、というのがこの改訂の意味です。

根拠となった4つの無作為化試験

試験 例数・目標 主要な結果
ENCHANTED2/MT5 821例。SBP<120 vs 140–180 安全性の懸念で早期中止。mRSシフト OR 1.37(95%CI 1.07–1.76)と強化群で不良。早期神経学的増悪 OR 1.53(1.18–1.97)、90日の重度障害 OR 2.07(1.47–2.93)
OPTIMAL-BP6 韓国19施設 306例。SBP<140(155例) vs 140–180(150例) mRS 0–2 が 39.4% 対 54.4%(リスク差 −15.1%、95%CI −26.2〜−3.9)、調整オッズ比 0.56(0.33–0.96)、P=.03。症候性頭蓋内出血は 9.0% 対 8.1% で有意差なし
BEST-II7 第2相・無益性試験。120例。SBP<140/<160/≦180 梗塞体積 32.4/50.7/46.4 mL、加重mRS 0.51/0.47/0.58。事前定義の無益性基準は満たさなかったが、第3相成功確率は <140 で25%、<160 で14%と算定された
BP-TARGET8 324例。SBP 100–129 vs 130–185 到達SBP 128(SD 11) 対 138(SD 17)と分離したが、脳実質内出血は 42%(65/154) 対 43%(68/157)、調整オッズ比 0.96(0.60–1.51)、p=0.84。出血すら減らせなかった

これら4試験を含むメタ解析(無作為化試験4件・1,571例)では、強化降圧により機能的自立の相対リスクが 0.81(95%CI 0.67–0.98)と有意に低下しました。90日死亡は相対リスク 1.18(0.92–1.52)、症候性頭蓋内出血は 1.12(0.75–1.67)、低血圧は 1.80(0.37–8.76)で、いずれも有意差はありませんでした10「出血が増えるから悪い」のではなく、出血は変わらないのに機能予後だけが悪くなるという結果である点に注意してください。

よくある2つの誤読

誤読1:BEST-II が「積極的降圧は無益だと証明した」。BEST-II は第2相の無益性試験であり、論文が報告しているのは事前に定義した無益性基準を満たさなかったという結果です7。同時に第3相試験の成功確率が低いと算定されたことが、後続の大規模試験を思いとどまらせる材料になりました。「無益性が証明された」と要約するのは誤りです。

誤読2:個別化すれば下げてよい。DETERMINE 試験は、初回平均動脈圧の10%以内という個別化目標と 140–180 mmHg の固定目標を 433例(215例/218例)で比較しました。mRS 0–2 は 44.2% 対 48.8%、調整オッズ比 0.82(95%CI 0.54–1.24)、p=0.34 で差はありません。ただしこの試験は両群で手技中の平均血圧と変動に有意差が出ておらず、介入が分離できていない点が限界です(Class II)9。「個別化しても駄目だった」と読むには、まず両群の血圧が実際に分かれていたのかを確認する必要があります。

AHA/ASA 2026 も同じ結論

2026年に改訂された AHA/ASA の急性期脳梗塞ガイドライン3も、完全再灌流が得られた場合であっても、収縮期血圧 140 mmHg 未満への積極的降圧は推奨されないとしています4。日本のガイドラインとは独立した推奨体系ですが、EVT後の下げすぎを避けるという結論は一致しています。改訂の全体像はAHA/ASA 2026ガイドラインの要点をまとめた記事を参照してください。

※ EVT後の積極的降圧について、本文中の推奨クラスと Take-Home 部分の表記に食い違いがあるため、本記事ではクラス・エビデンスレベルの数値表記は用いず、「推奨されない」という結論のみを記載しています4

ただし、症候性頭蓋内出血を起こしたときは例外

虚血が主体の間は収縮期血圧140以下を避け、症候性頭蓋内出血が起きたら140程度を目標にする判断の反転を示す図
同じ「140」でも意味は逆です。虚血が主体の間は避ける下限ですが、症候性頭蓋内出血では目指す値へ切り替わります。(クリックで拡大)

ここまでの「140 以下には下げない」には、明確な例外がひとつあります。rt-PA適正治療指針は、症候性頭蓋内出血が生じた場合には正常範囲(収縮期 140 mmHg 程度)まで血圧を下降させるとしています2

虚血が主たる問題である間は 140 は下限として避けるべき値ですが、出血が起きた瞬間から 140 は目指すべき値に反転します。この2つを混同すると、いちばん危険な場面で判断を誤ります。

④ 再灌流療法をしないなら 220/120 までは下げない

再灌流療法の適応がない、あるいは行わない患者では、話が逆になります。改訂2025は、脳梗塞急性期の高血圧に対する降圧を推奨度D(エビデンスレベル高)で「勧められない」としています1。降圧を考慮してよいのは、収縮期血圧 220 mmHg 超または拡張期血圧 120 mmHg 超が持続する場合、あるいは大動脈解離・急性心筋梗塞・心不全・腎不全を合併している場合に限られ、その場合でも推奨度Cにとどまります1

この「許容性高血圧(permissive hypertension)」の考え方は、虚血周辺領域の灌流が血圧に依存している以上、下げれば penumbra が失われうる、という生理学に基づいています。そして推奨度が「高」のエビデンスレベルを伴っているのは、大規模試験がそろって中立ないし有害方向の結果を出しているからです。

試験・解析 規模 結果
CATIS12 4,071例 24時間で 166.7→144.7 mmHg(−12.7%) 対 165.6→152.9 mmHg(−7.2%)と分離(差 −9.1、95%CI −10.2〜−8.1、P<.001)。14日/退院時の死亡+高度障害は 683例 対 681例、オッズ比 1.00(0.88–1.14)、P=.98。3か月でもオッズ比 0.99(0.86–1.15)、P=.93
SCAST13 2,029例 7日目 147/82 対 152/84 mmHg(p<0.0001)。複合血管イベントは補正ハザード比 1.09(0.84–1.41)、p=0.52。機能転帰は補正common OR 1.17(1.00–1.38)、p=0.048 だが事前設定の有意水準 p≦0.025 に届かず有意ではない。論文は、有益性を示す所見はなく、むしろ有害の可能性を示唆すると記載
Lee らのメタ解析14 13試験・12,703例 発症3日以内に降圧を開始した試験を統合。3か月の不良転帰は相対リスク 1.04(0.96–1.13)、P=0.35。血管イベント再発・障害/死亡・全死亡・脳卒中再発・重篤有害事象のいずれも中立
Zhao らのメタ解析15 22試験 急性期の降圧は短期・長期いずれの依存度も死亡率も改善しない

つまり 1万例を超える規模で「下げても良くならない」ことが繰り返し示されているのが、この領域の実情です。降圧しない判断は消極的な様子見ではなく、エビデンスに基づく積極的な選択だと理解してください。

なお反対方向の話として、非心原性脳塞栓症において昇圧薬による意図的高血圧が転帰を改善しうると報告した研究があります16。ただしこれはルーチンに推奨される治療ではなく、灌流画像などで救済可能な領域が確認できる症例に限った、集中治療下での個別判断です。

抗血栓療法をどう組み合わせるかについては、脳梗塞急性期のヘパリン使用を整理した記事で扱っています。

⑤ もともとの降圧薬はいつ再開するか ― 24時間以降が目安

脳卒中発症前の降圧薬を再開する前に、発症24時間以降、神経症状の安定、禁忌がないことを順に確認する図
発症前の降圧薬は機械的に再開せず、24時間以降に神経症状の安定と禁忌の有無を確認して再開を考慮します。(クリックで拡大)

入院前から降圧薬を内服していた患者では、「いったん止めるのか、続けるのか」が必ず問題になります。改訂2025は、神経症状が安定している例では、禁忌がない限り発症24時間以降に内服を再開することを考慮してもよい(推奨度C/エビデンスレベル低)としています1

この「24時間以降」という線の背景には、2つの無作為化試験があります。

COSSACS は、脳卒中発症48時間以内かつ最終服用から48時間以内の患者 763例(継続 379例/中止 384例)を、降圧薬の継続群と中止群に割り付けた英国49施設の試験です。2週間の血圧差は収縮期 13 mmHg(95%CI 10–17)、拡張期 8 mmHg(6–10)、p<0.0001 と明確に分離しましたが、2週間の死亡または依存(mRS 3超)は 72/379例 対 82/384例、相対リスク 0.86(95%CI 0.65–1.14)、p=0.3 で差はありませんでした18ただし本試験は早期に中止されており、検出力が不足しています。

ENOS は 4,011例を対象とした部分要因デザインの試験で、脳梗塞と脳出血の両方を含み、発症48時間以内・収縮期血圧 140–220 mmHg の患者を登録しました(発症からの中央値26時間、ベースライン 167(SD 19)/90(SD 13)mmHg)。降圧薬の継続群と中止群では7日目に −9.5 mmHg(95%CI −11.8〜−7.2)/ −5.0 mmHg の差が付きましたが(p<0.0001)、90日の機能転帰はオッズ比 1.05(0.90–1.22、p=0.55)で差がありません。論文は、急性期の最初の数日間に発症前の降圧薬を継続することを支持する根拠はないと結論しています17

整理すると、急いで再開する利益は示されていないが、24時間を過ぎて神経症状が安定したなら再開して差し支えない、という位置づけです。嚥下機能の評価が済んでいるか、脱水がないか、起立性低血圧を起こさないかを確認したうえで判断してください。退院後の管理と二次予防については、脳梗塞の二次予防をまとめた記事が参考になります。

補足:1日1回投与の降圧薬について、服用時刻を朝にするか夜にするかで転帰に差はないとされています1。これは退院後の内服設計に関わる話で、急性期の判断とは切り分けて考えてください。

⑥ この記事から持ち帰ってほしい3つのこと

1. 数字を覚える前に、場面を特定する。再灌流療法をしないのか、これからするのか、もう終わったのか。220/120・185/110・180/105・180・140 はすべて別の場面の数字で、混ぜると判断を誤ります。

2. 下げすぎは、出血ではなく機能予後で害が出る。血栓回収後の SBP 140 以下への降圧は、出血を減らさないまま機能的自立を減らします(相対リスク 0.81)。改訂2025が推奨度Eを与えたのはこの構造によります。

3. 例外は「症候性頭蓋内出血」ひとつ。出血が起きた時点で 140 は避けるべき下限から目指すべき目標へ反転します。この切り替えを事前に決めておいてください。

脚注:血糖については、改訂2025が急性期に 180 mg/dL 未満を目標とすること(推奨度C/エビデンスレベル低)を示しています1。一方 AHA/ASA 2026 は、80〜130 mg/dL への厳格な血糖管理は重症低血糖のリスクを高めるため推奨されないとしています4。血圧と同じく、下げれば良いという構造にはなっていません。

続編について:本記事は脳梗塞の急性期に限った内容です。脳出血急性期では収縮期血圧 140 mmHg 未満が目標とされ、同じ「140」という数字が、本記事では避けるべき下限、脳出血では目指すべき上限として真逆の意味を持ちます。脳出血急性期の血圧管理は別途取り上げる予定です。

よくある質問

Q1. 再灌流療法をしない患者で収縮期血圧が 210 mmHg です。下げるべきですか?

ガイドライン上、降圧を考慮してよい閾値は収縮期血圧 220 mmHg 超または拡張期血圧 120 mmHg 超が持続する場合です。210 mmHg はこの閾値に達していないため、大動脈解離・急性心筋梗塞・心不全・腎不全といった合併症がなければ、降圧は勧められません。急性期の降圧を検証した試験は 1万例を超える規模で中立ないし有害方向の結果を示しています。

Q2. 血栓回収で完全再開通が得られました。血圧を下げてもよいのでは?

完全再開通が得られた場合であっても、収縮期血圧 140 mmHg 未満への積極的降圧は推奨されていません。これは日本のガイドライン改訂2025(推奨度E)と AHA/ASA 2026 の双方が示す結論です。回収後は速やかに収縮期血圧 180 mmHg 以下へ下げますが、そこから先へは踏み込まない、というのが現在の立ち位置です。

Q3. BEST-II は積極的降圧が無益であることを証明したのですか?

いいえ。BEST-II は第2相の無益性試験で、報告されているのは事前に定義した無益性基準を満たさなかったという結果です。同時に、第3相試験の成功確率が収縮期血圧 140 mmHg 未満で 25%、160 mmHg 未満で 14% と算定されました。「無益性が証明された」と要約するのは誤りで、正しくは「無益性を宣言する基準は満たさなかったが、後続試験に期待しにくい結果だった」となります。

Q4. 血栓溶解療法後に症候性頭蓋内出血が起きました。この場合も 140 mmHg 以下は避けるのですか?

いいえ、この場面では逆になります。rt-PA適正治療指針は、症候性頭蓋内出血が生じた場合には正常範囲(収縮期 140 mmHg 程度)まで血圧を下降させるとしています。「140 以下を避ける」は虚血が主たる問題である間の原則であり、出血が起きた時点で 140 は目標値に反転します。

Q5. 入院前から飲んでいた降圧薬は、いつ再開すればよいですか?

神経症状が安定していれば、禁忌がない限り発症24時間以降の再開を考慮してよいとされています(推奨度C)。COSSACS と ENOS のいずれも、急性期に降圧薬を継続することの利益を示していません。24時間を過ぎて症状が安定し、嚥下機能が確認できていれば再開して差し支えない、という順序で考えてください。

参考文献・出典

  1. 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会. 脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕改訂項目. 2025年8月30日刊行.(該当箇所:「2-1 全身管理(2)血圧、脈、心電図モニター」印刷版 p.28–29。本記事の推奨度・エビデンスレベル・数値はすべて本資料による。推奨文の逐語転載は行っていません)
  2. 日本脳卒中学会 脳卒中医療向上・社会保険委員会 rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法指針改訂部会. rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法 適正治療指針 第三版. 2019年3月.追補 2023年9月。血圧基準 185/110・180/105、モニタリング間隔、静注降圧薬の用量、症候性頭蓋内出血時の目標はいずれも本指針による)
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  18. Robinson TG, Potter JF, Ford GA, et al. Effects of antihypertensive treatment after acute stroke in the Continue or Stop Post-Stroke Antihypertensives Collaborative Study (COSSACS): a prospective, randomised, open, blinded-endpoint trial. Lancet Neurol. 2010;9(8):767-75.(PMID: 20621562)
  19. ニカルジピン塩酸塩注射液 電子添文(2024年3月改訂・第1版). KEGG MEDICUS 医療用医薬品添付文書情報.(警告欄・9.1.1・9.1.2 の記載を確認。本記事は現行版の記載のみを引用しており、過去の改訂経緯には言及していません)

※ 本記事は医療従事者向けの一般的な医学情報の解説であり、個別の患者に対する診断・治療方針を示すものではありません。実際の診療判断は、患者の状態・施設の体制・関係各科との協議、および最新の電子添文に基づいて行ってください。患者・ご家族の方は、処方されている降圧薬を自己判断で中止・変更しないでください。本記事は入院中の急性期管理についての解説です。
監修:今村久司(京都大学医学部卒・医学博士/脳神経内科専門医・指導医/総合内科専門医・指導医/てんかん学会専門医・指導医)